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『言葉を育てる―米原万里対談集』#982

文章を書き始めたころ、強く勧められて読んでみて大ファンになった方が、ふたりいました。 ひとりは、読売新聞で「編集手帳」を担当された竹内政明さん。「起承転結」の鮮やかな、コラムのお手本のような文章。ずっと仰ぎ見ている方です。 『竹内政明の「編集手帳」傑作選』#981   そしてもうひとりが、ロシア語通訳から作家へと転身された米原万里さんです。 ロシアをはじめとする、さまざまなお国の民族性と食を巡るエッセイ『旅行者の朝食』は、以前紹介していました。「米原万里といえば大食漢」と言われるほど、食いしん坊だったそうです。 いま見たら、ちょうど2年前に書いたのでした。 ブラックユーモアと生きるための知恵 『旅行者の朝食』 #255   2006年に亡くなられ、もう新作が読めないなんて、信じられない……と、ずっと感じています。ロシアのウクライナ侵攻を、彼女はどう評しただろうと思ってしまいますね。 おそらく、毒いっぱいのユーモアを入れつつ、剛速球のど真ん中へボールを投げ込んだんじゃないでしょうか。 傍若無人なヒューマニストと呼ばれた米原万里さん。最初で最後の対談集『言葉を育てる―米原万里対談集』でも、小森陽一さんや、林真理子さん、辻元清美さんに、糸井重里さんら、錚々たるお相手に、豪快な球を投げ込んでいました。 ☆☆☆☆☆ 『言葉を育てる―米原万里対談集』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 米原さんはご両親の仕事の都合により、小学生のころ、プラハにあるソビエト学校に通うことになります。多国籍で、多彩・多才な同級生に囲まれた日々。米原さんの鋭い分析力と俯瞰力、観察力、そして女王様力は、こうした環境に身をおいたことでついたものなのでしょう。 日本に戻って、ロシア語通訳として活躍。エッセイストとなってからは、プラハでの日々を綴った『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』で、第33回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。 こちらは米原さんの好奇心と包容力、負けん気と追求心が感じられるエッセイです。 『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』 (画像リンクです) すでに確立された実績があるのに、新しいことを始め、奇想天外なアイディアを生み出し、猫と犬と暮らす。 奔放にも、豪快にも思える生き方は、これぞ他者に評価されることを潔しとせず、自分の価値観で自分の人生を生きるってことなんだなーと思います。 タイトルにある「言葉

尻込みしないで飛び込もう『スクリーンの向こう側』 #79

映画字幕の第一人者である戸田奈津子さんは、「映画は好きだけれど、映画を見てあれこれ評論する客観性がわたしにはない」と語っています。 映画会社でアルバイトの翻訳・通訳をしていたときに「地獄の黙示録」のロケに参加。コッポラ監督の推薦で日本語字幕をつけることになったそう。 トム・クルーズが来日するときは、必ず彼女を指名することは有名ですよね。 そんなハリウッドスタートの素顔や、字幕制作時の裏話を綴った『スクリーンの向こう側』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『スクリーンの向こう側』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「恋におちて」のロバート・デ・ニーロ、「プリティ・ウーマン」の成功とリチャード・ギアの悪癖など、読んでいて楽しい話がいっぱいです。「未来世紀ブラジル」のテリー・ギリアム監督や、「シザーハンズ」のティム・バートン監督の話は、とてもかわいらしくておすすめ。あらたな目でもう一度、映画が観たくなってしまいます。 “わたしはどうしてもドラマの一端を担うセリフづくりに興味があり、性格的にも社交性を要求されない「一匹狼」の翻訳に向いているという自己分析があったのだ。” こうした自分の向き不向きを冷静に見極めた結果、「映画は好きだけど、映画ライターや評論家の仕事はできない」と割り切ったのだそうです。 英語力がなかったというコンプレックスをバネに字幕の修行を続けて、降って湧いたようなチャンスにもひるまなかった戸田さん。 わたしも以前、韓国語字幕をつける仕事をいただいたときに、全然能力は足りないものの、彼女のことを思い出してチャレンジしたことがあります。いや、できないレベルが全然違ったんだけど。笑 映像字幕は基本的に、1秒4文字が原則です。横書きの字幕なら、1行に表示できるのは13~14字。「文字数」が絶対なので、かなり工夫しないと入らないことが多いんですよね。 おかげで日本語を、裏から表から、ひっくり返したり肯定したり否定したり、あらゆる形で考えられるようになったかなと思います。 「できない」とひるまず、やってみることで得るものは大きい。 時に「なっちゃん語」と揶揄されながらも、第一線を走ってきた戸田さんの軽やかな言葉にクスリとしてしまう一冊。飛び込む勇気が感じられるエッセイです。

失敗上等!人生無計画でもなんとかなるよ『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』#49

将来どんな風になりたいか。キャリア設計は。そのために必要なスキルは。 人生近道を求めすぎなんじゃないだろうかと感じるくらい、現代では「夢から逆算して人生を設計」することが求められているようです。 でも。 「人生無計画」と呼べそうな半生を歩んだ方もいるんですよね。今日の「#1000日チャレンジ」の書評は、『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』 https://amzn.to/3yEFA4Z ☆☆☆☆☆ 著者の田中さんは、高校時代に不登校となり、役者を目指して上京。でも。 「やっぱ、これじゃなかったわ~」 と自宅へ舞い戻ります。あれこれあった後、一念発起してアメリカに留学。超低レベルの大学に進学するも。 「やっぱ、これじゃなかったわ~」 と転校。とにかく計画性のなさと、忍耐力のなさが特徴といえそうな方です。それでも、英語のおもしろさ、というより、コミュニケーションのおもしろさに目覚めてから、メキメキと力をつけていきます。 とはいえ、フリーランス通訳者となってからも失敗ばかり。大汗かいてやり終えた通訳なのに、信頼され、リピートを獲得。今ではダライ・ラマからご指名を受けるほどになったそうです。 思えば、わたしも10代のころはなんも考えてなかった気がします。いっぱい失敗して、絶望して、逃げながら今に至ります。笑 だから、「失敗しても、やり直しはできるよ」という田中さんのメッセージはとても力強く響きました。この本は、単純なサクセスストーリーではありません。 生きづらさを抱えて逃げるしかなかった著者が、自分の居場所をみつけるために右往左往する話です。がむしゃらに努力したから今があるという話ではなく、あたふた、オロオロ、じたばたするわけです。 こういう本こそ、将来の目標が見つけられないという人に読んでほしい。 好きを仕事に。 と言われても、そんなにカンタンに「好き」が見つからない人もいるでしょう。「天職」が見つからなくてもいいし、「違った!」と思ったら逃げてもいい。 息苦しいと感じる場所から逃げることは、「失敗」じゃないんですよ。