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映画「2階の悪党」#980

韓国に留学していたころ、とても驚いたことがありました。 なんで韓国で売っている「ブラジャー」は、こんなに小さいの!? 当時、日本では「上げて、寄せる」タイプが主流だったと思いますが、韓国で売っているのは「小胸」に見せるタイプばかり。「上げて、寄せる」希望がないわたしにはちょうどよかったのですが、考え方の違いが気になって友人に聞いてみました。 「もともと身体のラインを強調するような服は、あんまりないかもねー」 テレビでは、オム・ジョンファが身体のラインをめっちゃ強調しながら歌い踊っておりましたが、普通の市民はそういう発想をもっていない時期だったのかもしれません。 そして、むかしのドラマにもグラマラスな俳優は、あんまりいなかったような気がします。 いまでは韓国にも「盛る」タイプの下着が出ていて、身体のラインを見せつける演出も出てきましたね。 中でもキム・ヘスには圧倒されます。 映画「10人の泥棒たち」では、“大人のオンナ”を強調した姿を見せていました。 「オーシャンズ」好きならこれ! 映画「10人の泥棒たち」 #139   ハン・ソッキュと共演した「2階の悪党」では、夫を亡くして茫然自失……のはずが、やけに色っぽいママを演じています。 ☆☆☆☆☆ 映画「2階の悪党」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 夫が急に亡くなり、経済的に困窮したヨンジュ。2階の空き部屋を「作家」と名乗る男チャンインに貸し出すことにする。しかし、ことあるごとに1階をのぞき込もうとするチャンインに不信感を抱くように。ある日、執筆のためにヨンジュにインタビューしたいと言いだして……。 サスペンスとドタバタコメディの掛け合わせを狙っていたのでしょうけれど、正直に言ってどちらにも振り切れずに終わった……感はあります。 韓国で公開された時にも、興行が振るわなかった模様。ただ、後になって評価する声が上がるようになったのだとか。 監督は「シークレット・ジョブ」のソン・ジェゴン監督。こちらがひたすらコミカルに振り切った脚本だったので、やはり「2階の悪党」から一皮むけた感じはしますね。 映画「シークレット・ジョブ」#842   わたしとしては、とにかくキム・ヘス姐さんのズレっぷりに笑いました。 夫に先立たれ、娘は反抗期真っ最中。周囲の男たちは、みんな自分に「説教」しようとしているように感じているんです。

ドラマ「未成年裁判」#979

少し前に「韓国ドラマのような恋がしたい」という内容のキャンペーンが行われていました。 ……ってマジですか!? と思ったんですよね。 もれなく「初恋の思い出」とか「毒親」とか「ワケアリ家族」がついてきますよ? 時には恋した相手が「オバケ」だったりもしますよ? なーんてね。 韓国ドラマのドラマチックに煽るスキルはラブコメに強く発揮されますが、最近は心臓をヒンヤリさせる社会派ドラマをかぶりつきで観てしまいます。 韓国のサスペンスドラマに、実話を基にした作品が多いのは、視聴者も当時を思い出して観てしまうからかもしれません。 制作にあたっては、被害者の家族に事前説明をして、同意をいただくそうですが、映画などでは裁判になったりもしていました。 たしかに、忖度なしに思い切った表現で切り込む姿勢は、韓国ドラマならではだなと思います。 最近配信されたドラマの中では、「未成年裁判」がダントツにしびれました。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「未成年裁判」 Netflixサイト: https://www.netflix.com/title/81312802 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> ヨンファ地裁の判事に赴任したシム・ウンソク。13歳の少年ソンウが9歳の少年を殺してバラバラにした事件を担当することになるが、ソンウの証言が嘘だと気づく。世間の注目を集める裁判に対し、政界への転身を狙うカン部長判事はよけいなことをするなと詰め寄るが……。 「少年刑事合意部」に所属している判事はふたり。キム・ヘス演じるシム判事、キム・ムヨル演じるチャ判事です。ふたりの上司が、イ・ソンミン演じるカン部長判事。 「未成年の犯罪を憎んでいます」 そうハッキリと口にし、嫌悪感をあらわにするシム判事。 不良行為を働く少年少女たちに同情的なチャ判事。 20年勤めた裁判所から、次のステップに移ろうとしているカン判事。 3人の思惑と対決が、前半の見どころ。 後半はここに、イ・ジョンウン演じるナ判事が加わります。 (画像はNetflixより) キム・ヘス vs. イ・ソンミンが蛇とマングースな闘いだとすると、キム・ヘス vs. イ・ジョンウンは、ツキノワグマ同士の対決って感じ。 巨大名優の火花が飛び散る演技の中を、自制的で内省的なチャ判事がアワアワ動き回る構図になっていて、キム・ムヨルの穏やかさが一服の清涼剤みたいに効いてきます。 「パラサイト

『鹿の王』#948

いま、とても観たい映画があります。 小説の映画化あるあるな悩みなんですが、わたしが読んで感じていたお話と違うような気がして、観るのが怖くてなりません。観たいけど、観たくない。 アニメ映画化された、上橋菜穂子さんの小説『鹿の王』です。 映画「鹿の王 ユナと約束の旅」 公式サイト: https://shikanoou-movie.jp/ もともとの違和感は、映画館で予告編をみたときに起きました。 (こんな話だっけ……!?) 発刊は2014年。2015年の本屋大賞を受賞した小説です。8年も前に読んだ本だから記憶があやふやなのかもしれない。 わたしの中では、「故郷を失った男」の再生の物語でした。 ☆☆☆☆☆ 『鹿の王』上巻 (画像リンクです) 『鹿の王』下巻 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 強大な帝国から故郷を守るため、死兵となった戦士団<独角>。その頭であったヴァンは、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、犬たちが岩塩鉱を襲い、犬に噛まれた者たちの間で謎の病が発生する。高熱を出すも生き延びたヴァンは、幼い少女ユナを拾い、脱出する。 一方、岩塩鉱を調査した若き医術師ホッサルは、伝説の病「黒狼熱」ではないかと考え、治療法を探すことに。唯一の生き残りである、ヴァンを探そうとするが……。 飛鹿(ピュイカ)や火馬などの空想の動物と、現実にも存在するトナカイや狼など、たくさんの動物が登場しますが、宗教や食べ物は上橋さん独自の世界。これは文化人類学者としてアボリジニの研究をされた成果といえるかもしれません。 「もののけ姫」のアニメーター安藤雅司さんの監督デビュー作。制作は「攻殻機動隊」のPRODUCTION I.Gと、映画化にあたっての華やかな宣伝に触れる度、興味と不安だけがつのっていきました。 あの、壮大で膨大で繊細な物語が、どんな映画になっているのか。 いま、書きながら気が付きました。 副題が違うんです!!! 小説版の上巻は「生き残った者」、下巻には「還って行く者」の副題が付いています。一方、映画の方は「ユナと約束の旅」。 違う物語として観ればいいのかも!? 先に書いたように、この小説が発表されたのは2014年で、まだまだ東日本大震災と原発事故の痛みが残っている時でした。だからこそ、「生き残った者」という副題の重みに、ウッと刺さるような想いを抱いたこ

映画「ハウス・オブ・グッチ」#936

やってくれるぜ、リドリー・スコット監督! 映画「ハウス・オブ・グッチ」を観て、思わずそう言いたくなりました。 高級ブランド「GUCCI」の創業者一族を描いた物語。キャストはレディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レトという豪華さです。 まだ劇場で上映しているところも多いので、大きなスクリーンでぜひ。 ☆☆☆☆☆ 映画「ハウス・オブ・グッチ」 公式サイト: https://house-of-gucci.jp/ ☆☆☆☆☆ 序盤は、パトリツィア・レッジャーニと、グッチ創業者の孫であるマウリツィオ・グッチのロマンスがメインに進みます。 パトリツィアはお父さんの運送業を手伝っているワーキングウーマンで、決して貧しい家庭の女性ではありません。 でも、巨大な金ぴかの肖像画=<アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像>を見て、「……ピカソ?」と言ってしまうところから、教養がないことがバレてしまう。 正解は、クリムトです。 【作品解説】グスタフ・クリムト「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I   ガッチガチにボディラインを強調したファッションから、全身「GUCCI」でまとめ、ゴージャスな女性へと変身していくパトリツィア。 (画像は映画.comより) そのマウリツィオを演じる、アダム・ドライバー。やっぱりオドオドしていて、育ちの良さと、女性経験のなさがダダ漏れの青年です。 従兄のパオロ・グッチを演じるジャレッド・レトの芸達者ぶりも見逃せない。そして、実の父に結婚を反対され、一族の中で孤立したふたりを支援したのが、伯父のアルド・グッチ。アル・パチーノの「オラオラおっさん」感が最高によかった。なんてったって、「GUCCI」を「家族割引」で売ってくれるんですよ。 (画像は映画.comより) かわいがってきたふたりに裏切られたことを知り、涙を見せるアル・パチーノ。「パパー!!」と叫びたくなってしまった。 実際、原作はあるものの、“王国の継承”という点で「ゴッドファーザー」を思わせる筋書きでもあるんですよね。 人生とは操り、操られるものであり、相手に「ノー」とは言わせず、欲しいものを手に入れる。 そして、受け継がれる「血」。 残念ながら、3代目にはデザインセンスも、経営センスもなかったようで、王国が崩壊していくのです。 そのきっかけとなったのがパトリツィアの存在、とされてい

映画「声もなく」#933

善と悪の境界線が溶けていく。 デジタルの世界は「0」と「1」の二元論でできていて、いまわたしの生活は、そんなデジタルに支えられているけれど、すっぱりきっぱりと切り分けられないものだってあります。 なにかの事件が起きるたび、テレビのワイドショーでは「悪人」を探し出して断じるわけですが、自らの立つ「善人」の位置は、誰が決めてくれたものなのか。 韓国の新人監督ホン・ウィジョンの映画「声もなく」を観て、そんなことを考えていました。 ユ・アインとユ・ジェミョンが“犯罪者”コンビを演じています。 ☆☆☆☆☆ 映画「声もなく」 公式サイト: https://koemonaku.com/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> テインとチャンボクは、普段は鶏卵販売をしながら、犯罪組織から死体処理などを請け負って生計を立てていた。ある日、犯罪組織のヨンソクに命じられ、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを1日だけ預かることに。しかしヨンソクが組織に始末されてしまったことから、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が始まり……。 ※ネタバレありです。ご注意ください※ 青年テインを演じるのは、ユ・アイン。この役のために15kgも体重を増やして臨んでいます。猫背でぽっちゃりしたお腹が、新鮮でした。パンフレットの監督インタビューによると、太ったり痩せたりしてイメージを固め、依頼通りに「だらしなく」太ってくれたんだそう。 (画像は映画.comより) 理由は明らかにされていませんが、テインは言葉を発することができないという設定。99分間、本当にひと言も発しません。 代わりに、仕草や表情で感情を伝えています。 そんなテインを幼い頃に引き取り、いまは「裏稼業」も手伝わせている相棒が、チャンボク。ユ・ジェミョンがおしゃべりで、腰が低くて、人のいいおっちゃん感満載で演じています。「梨泰院クラス」の会長とは正反対の空気感でした。 チャンボクが謙虚に、ていねいに話せば話すほど、笑いを誘うという不思議な役柄です。 (画像は映画.comより) ユ・ジェミョンのおしゃべりがブラックなユーモアに包まれているので、思わず「フフッ」となってしまうのですが、この映画の登場人物は、ド底辺もド底辺な生活を強いられている人たちです。 おそらくは障害があること、学がないことで社会から落ちこぼれ、救済システムも届かないところで、ただ生き

映画「キングスマン ファースト・エージェント」#931

「マナーが紳士をつくる」 スパイ映画は数多くあるけれど、「キングスマン」シリーズは異色かもしれません。なにしろ「国家」の後ろ盾はない「民間」の組織なんですから。モットー(?)は、上に書いた「マナーが紳士をつくる」なので、“貴族的”な言動が求められる。そして、ユニフォーム(?)は、オーダーメイドのスーツ! これまでに公開されたのは、コリン・ファースとタロン・エガートンがコンビを組んだ「キングスマン」。おバカ加減が倍加した「キングスマン ゴールデン・サークル」。 Amazonプライム配信中 (画像リンクです) Amazonプライム配信中 (画像リンクです) このシリーズ2本のプリクエルにあたるのが、「キングスマン ファースト・エージェント」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「キングスマン ファースト・エージェント」 公式サイト: https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kingsman_fa ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 1914年、ヨーロッパに戦争の気配が広がる中、キッチナーの訪問を受けたオックスフォード公と息子コンラッドは、オーストリアのフェルディナント大公の護衛を依頼される。しかし、サラエボで大公夫妻は死亡。世界大戦が始まったことで、コンラッドは軍隊に志願しようとするが……。 このシリーズの舞台は、なんといっても、ロンドンのサヴィル・ロウにある高級テーラー“キングスマン”です。高級なショップの“裏の顔”がスパイ組織なわけですが、1914年時点では、本当の“高級テーラー”です。 安全な密会の場所として選ばれたのが、“キングスマン”だったのです。 なぜ、組織のアジトが“高級テーラー”なのか。なぜ、貴族的な行動が求められるのか。といった組織の誕生秘話が明らかにされていきます。 “キングスマン”で仕立てられたスーツは、大人の証。セーターを着た青年が、変身する姿は感動的です。 (画像は映画.comより) 従軍して、国家の役に立ちたい息子と、亡くなった妻との約束のために、息子を戦争から遠ざけたい父。 主軸はこれなんですが、この映画の「ヴィラン」が実在の、歴史上の人物たちのため、歴史のおさらいみたいな話でもありました。この時代の歴史を勉強してから行けば、より楽しめるかも。 一番の見どころは、“怪僧”と呼ばれたラスプーチン。ロシア皇帝に仕えた祈祷師で、

『暗幕のゲルニカ』#917

なんとなく、芸術家は政治に無関心なのだと思っていました。 原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』を読むまでは。 崇高な精神を表すアートと、世知辛い世の中を映す政治にギャップがあったせいかもしれません。 でも。 芸術家こそ、自分の想いを形にして、政治にもの申すことができるんですよね。 『暗幕のゲルニカ』は、ピカソの名画「ゲルニカ」を巡り、過去と現在が交差するミステリーで、一気読み必至。そして、あらためて芸術の影響力を感じました。 ☆☆☆☆☆ 『暗幕のゲルニカ』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 物語の主人公は、MoMAのキュレーター八神瑶子。ということは、原田さん自身の経歴とも重なります。エスカレーターの描写や、コーヒーショップのエピソードなど、「ニューヨーカー」のリアリティを感じました。 もうひとりの主人公は、1937年のパリで暮らす、ピカソの恋人で写真家のドラ・マール。ピカソの愛情をひとり占めしていることへの自信と、傲慢さが見え隠れするような人物です。 ふたりの住む世界が交互に描かれ、物語は進行していきます。 内戦に苦しむ母国・スペインを支援したいと悩むピカソと、ゲルニカへの空爆。 そして、ニューヨークで起きた同時多発テロと、イラクへの空爆。 いくつもの戦争と恋の結末が、「ゲルニカ」の絵へとつながっていく。 「ゲルニカは私たちのものだ」 何度も登場するこの言葉は、ラストシーンの強烈さに結びついていて、忘れられない。 アートに詳しくなくても楽しめるのが、原田さんの小説のよいところかも。 実は「ゲルニカ」のレプリカが、東京にあります。丸の内のオアゾ1階にある広場の壁に展示されているんです。セラミックとはいえ、原寸大。迫力あります。 本の表紙にも描かれてはいますが、この大きさにピカソの絶望を感じてしまう。

映画「ただ悪より救いたまえ」#905

ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェという“大きいもの”対決が注目された、映画「ただ悪より救いたまえ」。 ふたりのアクションはもちろん大満足なんですけど、わたし的No.1はパク・ジョンミンでした。 「チェイサー」や「哀しき獣」などの脚本を手がけたホン・ウォンチャンの、監督2作目作品です。 ☆☆☆☆☆ 映画「ただ悪より救いたまえ」 オフィシャルサイト https://tadaaku.com/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 元工作員で、凄腕の暗殺者インナムは引退前の最後の仕事として、日本のヤクザ・コレエダを殺害する。コレエダの義兄弟だった殺し屋レイは、復讐のためインナムを追い、関わった者たちを次々と手にかけていく。一方、インナムの元恋人は彼と別れた後にひそかに娘を産み、タイで暮らしていたが、誘拐された娘を救う過程で殺されてしまう。初めて娘の存在を知ったインナムは、彼女を救うためタイへ急行。そしてインナムを追うレイもまた、タイへとやって来て……。 娘が誘拐されて、追跡劇が始まる……というストーリーから、ウォンビンが主演した「アジョシ」を思い浮かべてしまいます。 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) でも、「レオン」とはちょっと違う。どちらかというと、「ジョン・ウィック」の“大運動会”の方が近いかも。 これはナイフアクションの壮絶さがなせる技でしょう。 ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの共演は 「新しき世界」 以来、7年ぶり。この時は、素っ頓狂な衣装にファン・ジョンミンがドギマギしたそう。 今作ではイ・ジョンジェのファッションにもご注目。なんでこんな、一目見て「チンピラ感」のある服を選ぶんでしょうね、チンピラって。 (画像はKMDbより) 娘を助けるために、日本→韓国→タイへと駆け抜けるファン・ジョンミンを支援するのは、パク・ジョンミン演じる「ユイ」。性転換手術の費用欲しさに仕事を請け負い、引っ張り回されてしまいます。 (画像は映画.comより) パク・ジョンミンの出演は秘密にされていたそうで、ポスターやティザー映像にも出てきません。 それでも、映画の中のかわいくて、臆病で、情にもろい姿は、強烈に印象に残りました。 「ユイ」には、韓国に残してきた子どもがいます。会いたいけれど、「こんな格好」の父を見たら、なんと言うか分からない。 その葛藤がと

ドラマ「静かなる海」#904

お月さまにいたのは、お餅をついているウサギじゃなかった。 水不足で危機に瀕した近未来の地球。未知の「サンプル」を回収するというミッションを受けて、選ばれし者たちが向かったのは、月にある廃墟と化した研究基地です。 そこで隊員たちを待ち受けていたものとは……。 Netflixから5億ドルの出資を受けて製作されたドラマ「静かなる海」。原作は2014年にチェ・ハンヨンが監督した、同名の短編映画で、SFサスペンスの意欲作です。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「静かなる海」 https://www.netflix.com/title/81098012 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 大干ばつによって砂漠化した地球。宇宙生物学者のソン・ジアンは、政府から月面にあるパレ基地でのミッションに参加するよう、依頼を受ける。5年前、放射能事故により廃棄された基地で、ジアンの姉であるソン・ウォンギョンが亡くなっていた。隊長ハン・ユンジェに止められるも、参加を決めたジアン。しかし、月面着陸の直前に、シャトルにトラブルが発生し……。 ペ・ドゥナとコン・ユという、K-ゾンビの名作を生み出したふたりを主演に迎え、チョン・ウソンがプロデューサー、脚本が「母なる証明」のパク・ウンギョと、前情報はかなり期待の高まるものでした。 もう、とにかく映像が美しい! そして、出だしの緊迫感と深まる謎には、ググンと引き込まれていきました。ただ、せっかく舞台が「月」なんだから、そこをもっと活かしてほしかったなーというのが、正直な感想です。 産業スパイの暗躍、家族との約束、家族との確執。舞台がどこであれ、「ザ・韓国ドラマ」なんですよね。良くも悪くも。 特に、主演のふたりがふたりなだけに、何かある度に、「来るぞー来るぞー」と身構えてしまう。 「何が」来るのかは見てのお楽しみとして、公開3日でNetflixTVショー部門3位にランキングされた本作。VFX技術の高さを感じさせるビジュアルで、月の荒涼感が伝わってきました。 コン・ユは、いつも何かを守ってきた役だったので、隊長役もホントに安心感があります。突発事態に対して、文句しか言わない人、ネガティブな人、狂信的に任務に邁進する人と、さまざまな反応を見せる隊員たちをまとめあげています。 (画像はNetflixより) 水資源がなくなり、階級によって水の配給量も変わるという世界設定は、近い将来を予感

映画「弁護人」#892

韓国の映画も食べ物もドラマも音楽も好きな分、もっと政治が洗練されればいいのになと感じることがあります。 大統領経験者が退任後に向かう先。それが刑務所、という事態が続いたからです。 逮捕はされなかったけれど、自ら命を絶ってしまったのが盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領。第16代大統領として、2003年2月から2008年2月まで務めました。 貧しい家庭の出身で、勉強はできたものの進学することができず、高卒で就職。日雇い労働をしながら司法試験を受けて、弁護士になり、その後、政界に進出しました。 苦労した若かりし頃から、ビジネスセンスに長けた金満弁護士時代、そして人権派弁護士と呼ばれるまでの姿は、ソン・ガンホ主演で映画化されています。 ☆☆☆☆☆ 映画「弁護人」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 1980年代初頭、軍事政権下の韓国。税務弁護士として多忙な毎日を送っていたソン・ウソクは、若い頃に世話になったクッパ店の息子ジヌが、国家保安法違反容疑で逮捕されたことを知る。拘置所へ面会に行ったウソクは、ジヌの信じられない姿に衝撃を受け、弁護を引き受けることにするが……。 ヤン・ウソク監督の長編デビュー作となった「弁護人」。国民的人気の高かった大統領の、若き頃の奮闘といったテーマから、実は敬遠していたのでした。 ヨイショされたストーリーだったら残念だなと思っていたのですよね。 ラストシーンで、ボロボロ泣きました……。 ソン・ガンホ演じるソン・ウソクは、苦労して弁護士資格をとって活動を始めますが、一流大学出身の弁護士先生たちからはバカにされるばかり。司法書士がやっていたような仕事を始めて、ビジネスとして成功します。 その後もローファームを作ろうとしたりと、ビジネスセンスに優れていた人物として描かれています。 そんなソン・ウソクを「人権派」へと変えたのが、「プリム事件」と呼ばれるえん罪事件でした。 読書会を開催していただけの大学生が「アカ」として検挙され、拷問される。イム・シワンの脅えた様子が真に迫っていて、ホントに怖かった。 (画像は映画.comより) お世話になった方の息子だからと弁護を引き受けたソン・ウソク弁護士。彼の裏をかき、学生たちを暴行し、証言者を陥れる刑事を演じるのは、クァク・ドウォン。キターーーーって感じがし

映画「鋼鉄の雨」#891

ヤン・ウソク監督自身が描いたウェブトゥーン作品「鋼鉄の雨」。映画化第2弾の「スティール・レイン」が、現在日本でも公開されています。 映画「スティール・レイン」#890   第1弾の「鋼鉄の雨」は、Netflixで配信中。シリーズとはいえ、ストーリーに関連性はないので、どちらから観ても大丈夫です。ただ、主要なキャラクターは同じ俳優が立場を変えて演じているので、「スティール・レイン」から観た方が混乱しなくていいかもしれません。 ☆☆☆☆☆ 映画「鋼鉄の雨」 https://www.netflix.com/title/80226234 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 北朝鮮でクーデターが起こり、最高指導者が瀕死の重傷を負った。その場に居合わせた元エリート工作員オム・チョルウは、意識不明の最高指導者を連れて韓国へ脱出する。北朝鮮の宣戦布告により緊張が走る中、偶然にも韓国の外交安保首席クァク・チョルウと出会ったオムは、最悪のシナリオを回避するべく奔走するが……。 元エリート工作員オム・チョルウを演じるのは、チョン・ウソン。上官の命令を受けて行動していたものの、予想外の事態に接して、やむなく南へと38度線を越えてしまう。 この設定は、「愛の不時着」を思い出させますね。実際、ヒョンビンたちが使った地下トンネルが、この映画にも登場します。 韓流ドラマの法則を押さえた韓国版ロミジュリ ドラマ「愛の不時着」 #335   南側で待ち受けていたのは、クァク・ドウォン演じる韓国政府高官のクァク・チョルウ。なにかと衝突しながら、同じ「チョルウ」という名前をもつふたりがバディを組んで、北の指導者を治療し、送り返すというムリゲーなミッションに挑むんです。 オム・チョルウの漢字名は、厳鐵友。 クァク・チョルウの漢字名は、郭哲宇。 映画タイトルの「(鋼)鉄の雨」も、韓国語読みすると「チョルウ」となります。この「チョルウ」というワードは、「スティール・レイン」にも登場します。邦画タイトルも英語表記にしただけですしね。 で、南のチョルウが、北のチョルウに言うんです。 こんな言葉がある。 「分断国家の国民は、分断の事実よりも、分断を政治的に利用して利益を得る者のために苦しめられる」 この悲劇性が、「スティール・レイン」に引き継がれた一番大きなものだったかもしれません。 マンガが連載されていたのは2011年。映画

映画「スティール・レイン」#890

ババ抜きは、残りふたりになってからがおもしろいゲームです。 最初の頃は、誰が「ババ」を持っているか分からないから、余裕がありますよね。そこから、ひとり抜け、ふたり抜けしていって、最後にふたり残ったとき。 あいつが「ババ」を持っている。 そのことがハッキリ分かっている中で、ポーカーフェイスでカードを取るときの気分。 天国か。地獄か。 ゲームでさえこれだけ緊迫するんだもん。「ババ」が兵器ならば、どれだけ冷や汗をかくでしょうか。 ヤン・ウソク監督の新作「スティール・レイン」は、核兵器を巡って、韓国・北朝鮮・アメリカのトップたちが拉致されるという物語です。 北朝鮮の反乱軍によって、原子力潜水艦に監禁された3人の首脳。事件の裏でうごめく中国と日本の情報戦。 魚雷が飛び交う中で交わされる、トップの対話が見応えありました。 ☆☆☆☆☆ 映画「スティール・レイン」 https://www.hark3.com/steelrain/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 冷戦状態の続く朝鮮半島の平和協定を目指し、韓国、北朝鮮、アメリカの首脳会議が開催された。しかし米朝間で意見は割れ、北朝鮮では国交正常化に反対する軍事クーデターが発生し、3人の首脳は弾道ミサイルを積んだ、原子力潜水艦に閉じ込められてしまう……。 ヤン・ウソク監督自身のウェブトゥーン作品「鋼鉄の雨」シリーズの、映画化第2弾になります。 「鋼鉄の雨」の方は、現在Netflixで配信中。 映画「鋼鉄の雨」 https://www.netflix.com/title/80226234 ただ、主要キャストが反転しているので、劇場公開されている第2弾を観てから、「鋼鉄の雨」を観た方が、混乱しなくていいかも……と思います。 キリッと凜々しく、家庭ではやさしい父の顔も持つ韓国大統領を演じたチョン・ウソン。「鋼鉄の雨」では、北朝鮮の情報員なんです。 (画像は映画.comより) 反乱を起こす北朝鮮の高官を演じるクァク・ドウォンは、「鋼鉄の雨」では韓国側の政府高官役。長年の怒りを募らせた狂気は、迫力ありました。 (画像は映画.comより) そして、アメリカの大統領を演じたアンガス・マクファーデン。無邪気で、でかくて、愛嬌があって、すごく好きになりました。でも、イメージしてるのは、前大統領でしょうね……。 やっと出てきた食事は譲るのに、脱出のチャンスでは一