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『ココ・シャネルの言葉』#902

「醜さは許せるけどだらしなさは許せない」 リモートワークで通勤がなくなって以来、ぷーくぷーくとフワフワしてきた自分に一番グサリときたココ・シャネルの言葉です。 本名はガブリエル・シャネル。「ココ」という愛称で知られ、窮屈なコルセットから女性を解放し、古い決まり事を切り捨て、新しい時代を切り開いていきました。 その信念に裏打ちされた言葉が、『ココ・シャネルの言葉』としてまとめられています。 ☆☆☆☆☆ 『ココ・シャネルの言葉』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ CHAPTER 1:美 醜さは許せるけど、だらしなさは絶対許せない CHAPTER 2:恋愛 私の愛する人は、私の意欲にけっして水をさしたりしない人だった。 CHAPTER 3:ファッション シンプルで、着心地が良く、無駄がない。 CHAPTER 4:仕事 誰も私に何ひとつ教えてくれなかった。 CHAPTER 5:人生 私はこうなりたいと思い、その道を選び、そしてその想いを遂げた。 目次の言葉を並べただけで、熱くて強い姿が浮かびますね。 ココ・シャネルは、貧しい子ども時代を経て、富と成功を手に入れますが、お仕着せの枠組みや常識を嫌い、常に挑戦していたことが分かります。 驚いたのが、一度引退した後、復帰した年齢。なんと、71歳でモードの世界に戻ってきたんですね。 わたし、まだまだやれるわ……と思った……。 他にも、怒りや自由を求める姿勢などから、持っていた「強い女」のイメージ。だけど、男性と対等であることとは「男性のようになること」とイコールではない。愛されてこそなんぼと語るシャネル。 こうした哲学に、しなやかな強さを感じました。 2021年も最後の一日になりました。 大晦日にはいつも一年の振り返りをしています。今年一年、どんなことにチャレンジをして、どんなことを積み残したのか。ひとつひとつ石を積み上げるように歩いてきた一年。 ココ・シャネルは人生について、こう語っています。 「私は、私の人生を作り上げた。なぜなら、私の人生が気に入らなかったからだ」 自分の気に入るように、人生をクリエイトできるのは、自分だけ。 さぁ、2022年を迎える準備をしなきゃ!

『新庄のやり方50―人生・仕事に役立つ「SHINJO流」哲学』#901

来年のプロ野球は、かなりおもしろくなるのではないかと期待しています。 なんてったって、ショーマンの新庄さんが帰ってきたんだから! 監督就任会見で放った「ビッグボス」という呼び名。当然、流行語大賞に入っているんだと思ったら、ノミネート発表の日と重なっていたので対象外だったのだそう。 流行語大賞「ビッグボス」なし 時間的に間に合わず…選考委員やくみつる氏「繰り越しで判断いただければ」   選手時代から、その言動で注目を集めていた「ビッグボス」。やっぱり「持ってる」人は、なんか違うのかも。 そんな「ビッグボス」の野球人生の記録集『新庄のやり方50―人生・仕事に役立つ「SHINJO流」哲学』を読んでみました。 ☆☆☆☆☆ 『新庄のやり方50―人生・仕事に役立つ「SHINJO流」哲学』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「目立ってもいいが、嫌われてはいけない」 「初心にこだわり、形にして持ち続ける」 「本音で生きると真実が見える」 などなど、新庄選手のスタンスは、ビジネスの世界でもマネしたくなるようなものがたくさんありました。 新庄選手というと、目立ちたがりの野球バカというイメージもあったように思います。上下関係の厳しい体育会系のど真ん中を、信念を持って歩くには実力も必要。 やるときはやる。そして、どこまでもポジティブに慣習を打ち破っていく姿は、テレビで見る以上のものがありました。 以前、友人から聞いた話があります。 投手以外の選手で重視されるのは守備・バッティング・走塁の力で、イチロー選手はどれも一級レベル。だから大リーグでも活躍できたわけです。では、新庄選手はというと、守備が特級レベルに高い。そこを見込まれた、という話でした。 仕事においても、あれもこれもと、いろんなスキルが求められるけど、どれもA級にするのは大変なこと。どれかひとつでも飛び抜けていれば、そこに活路があるのかもしれません。 やさしくて、ポジティブで、野球に対して純粋な「ビッグボス」。 学ぶところの多い話が満載でした。

『敬語の疑問が全て解ける本』#900

敬語の調べ物をしていて、何気なく開いた本が、狂気の本だった……。いい意味で、です。 わたしの「4月」は新人研修の日々でした。メールの書き方や、パワーポイントの使い方を教えるのは楽しいのですが、ひとつ、とても気が重い講義があります。 敬語のおけいこの時間です。 いまの時代、フラットな関係が支持されているのだから、いまさら敬語なんていらないんじゃないだろうか。 そんな思いを抱えつつ、それでも「必要な時の方が多いから」という要望を受けて研修を続けてきました。 「謙譲語」とか「尊敬語」とか、そんな分類はどうでもいい。自分の言動に使うのか、相手の言動に使うのかだけ覚えて!と、よく使うワードで練習します。 まぁ、研修ならこれでいいけど。 校正の場合は、指摘を出す際に「根拠」がいるため、いま四苦八苦しています……。 ずいぶん前に買ってあった北舘誠一郎さんの『敬語の疑問が全て解ける本』を開いてみたら、著者の経歴に、「公認会計士」とありました。 公認会計士さんが、敬語の本!? なんでも30歳にして会計士試験に挑戦し、合格。会計ソフトの開発会社に勤務していたのに、今度は50歳で日本語研究の道に進まれたそう。 年中無休、一日平均10時間以上を研究にあて、完成させた本が『敬語の疑問が全て解ける本』なのです。狂気や……。 ☆☆☆☆☆ 『敬語の疑問が全て解ける本』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「これって正しい敬語の使い方なんだっけ?」 それを確認したいとき。一番やってはいけないことは、ネット検索です。 ホントーーーーーーーーーーに、ダメ。ぜったい。 そう言いたくなるくらい、ネットの情報、特に就職関連サイトの「敬語指南」記事は当てにならなかったです。 「○○という言い方は間違っています。△△と言い換えましょう」 とある記事の、「△△」が間違ってるよ……ということが多々あります。こういうサイトを見て面接の準備をした人たちが、過剰な敬語を使っているんだな、と感じることも。 ある意味、とても残念な「広告置き場」としての記事にだまされはいけません、と言いたい。珍しく、こんなネガティブなことを言ってしまうくらい、今回の調べ物が大変だったのです……。 北舘さんの『敬語の疑問が全て解ける本』はというと、大量の関連本や国語審議会の文献を参考に、「敬語」の用法がまとめてあります。とくに、敬意の表し方に注目して

『なぞりがき 般若心経』#899

「漢字を覚えるのが苦手だったので、小学生の時は写経をしていました」 今年の新人ちゃんから「ええ!?」という経験を聞いて、わたしもやってみました。何もない用紙に書くのは難しいので、ユーキャンのおうち時間シリーズの一冊『なぞりがき 般若心経』を手に入れてチャレンジ。 これが意外にもすごくよかったです。 ☆☆☆☆☆ 『なぞりがき 般若心経』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 般若心経の真髄は、白川密成さんの『坊さん、ぼーっとする。』でも紹介されていました。 『坊さん、ぼーっとする。 娘たち・仏典・先人と対話したり、しなかったり』#852   とはいえ、一度読んだくらいで理解できるようなものでもないんですよね、当然だけど。 『なぞりがき 般若心経』には経典の解説が載っているので、意味を確認しながらトライすることができます。鈴木啓水さんのお手本も美しい。 (画像はAmazonより) わたしは万年筆が好きなので、万年筆で書いたり、筆ペンで書いたり、その違いも味わいながらやっています。 書いている時、スーーーーッと集中モードに入ることがあるんです。意味を完全に理解する、というより、「いま、ここ」にいる自分を感じる。よく分からないけど、これが「無」であり、「空」である自分を体験する、ということなのかもしれません。 小学生から写経していたという新人ちゃん。「落ち着くんですよー」という言葉の意味が、やっと分かってきました。 専用用紙に写経して、本の監修をされた林慶仁さんのいらっしゃる大慈寺に郵送すると、納経していただけるそうですよ。

『書いて覚えるハングル名言』#898

「ハングルってパズルみたいだよね」 韓国語を勉強していると言うと、よくそんな風に言われます。 ハングルは朝鮮第4代国王の世宗大王が「人工的に」つくった表音文字で、1443年に公布されました。官僚たちの反対を振り切って制作に邁進する様子は、情熱大陸風にドラマ化されています。 ハン・ソッキュ版世宗大王のドラマ「根の深い木」 ハングル創製をめぐるミステリー ドラマ「根の深い木」 #424   そして、ソン・ガンホ版世宗大王の映画「王の願い ハングルの始まり」 映画「王の願い ハングルの始まり」#723   音と文字を一致させているので、分かってしまえば意味が分からなくても「読む」ことができる。そこが表音文字のおもしろいところ。 ただ、ローマ字や漢字のように見慣れたものではないため、一から文字を覚えるのは簡単なことではないんですよね。 でも、たった24文字だから!!! そんな励ましを送りながら、会社でも有志を集めて「韓国語教室」を開催していました。 李泰文さんの『書いて覚えるハングル名言』は、韓国の著名人の言葉や文学作品、詩などから名言を集めた本です。なんと書き取り練習も付いているという、ありがたさ。 ☆☆☆☆☆ 『書いて覚えるハングル名言』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 日本の本屋さんで「詩」のコーナーはちょびっとしかありませんが、韓国の書店は違います。ドドーンとかなりのスペースを占めていて、日常的に詩の言葉を引用する人もいるくらいです。 編著者の李泰文さん自身、詩人としても活動しておられるそう。 滋味に満ちた言葉を味わいながら、パズルのような文字の組み合わせを楽しむ。なんと音声のダウンロードもできます。 もうすぐ長いお休みがやってきます。来年はひとつ、新しいことを始めてみませんか? 韓国語学習はいいぞー。ドラマを観まくる言い訳ができます!

『ネイティブ表現が身につく!クイズで学ぶ韓国語』#897

こんな本が20年前にあったらよかったのに!! 『ネイティブ表現が身につく!クイズで学ぶ韓国語』の著者・金玄謹(キム・ヒョングン)先生は、東京で「ミリネ韓国語教室」を運営されている方です。 「ミリネ韓国語教室」 https://www.mirinae.jp/index.html 以前は日暮里にあったように思いますが、いつの間にか新宿御苑の前にお引っ越しされてた……。 10年くらい前、しばらく「ミリネ韓国語教室」に通って、金玄謹先生の講義を受けていたのです。たまに授業料を払い忘れていると、先生が冗談で「ミリ(先に)ネ(払って)!」と仰る、楽しい教室でした。 先生の本が出たことを知り、さっそく購入。あぁ、なつかしいと思わず読みふけりました。 ☆☆☆☆☆ 『ネイティブ表現が身につく!クイズで学ぶ韓国語』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 韓国語は日本語と文法が似ているため、日本語スピーカーは「日本語で考えて、単語をあてはめて韓国語にする」形で覚えます。初心者のころは、これで文章が出来上がるので、とてもラクなんですよね。 でも、実は「自然な」韓国語ではないこともある。 特に単語の使い分けが分からなくて困りました。「ミリネ韓国語教室」の上級クラスでは、大量の作文が宿題にでます。その中から、日本語スピーカーが間違えやすいポイントを先生が解説してくれる、という内容でした。 『クイズで学ぶ韓国語』は、 授業の中で多かった間違いをクイズ形式でツイート ↓ 正解率によって間違いやすいポイントを精査 という過程を経てつくられた本です。だから、「あぁ、そこです……!!!」という感動がある。かゆいところに手が届くんです。 本自体は初心者から上級者までが対象とありますが、どちらかというと、中級以上の方が読むのにちょうどいいかもしれません。 わたしが本格的に勉強を始めた20年前は、中級以上の学習本がほとんどなかったんですよね。あの時、こういう本があればなーと思わずにいられない。 韓国語と日本語は、似ているとはいえ、違うところもいっぱいあります。そんな違いを押さえることで、逆に日本語の感度も高くなっていくからです。 金先生は、語学上達の秘訣をこう語っておられます。 “直訳や単語の置き換えだけでは正確な意図やニュアンスを区別するのが難しく、場合によっては違う意味になってしまうことも。より自然な韓国語を使

『韓国人はアンニョンハセヨとは言わない!?』#896

K-POPや韓国ドラマの流行で、またもや韓国語学習熱は高まっているのかな……と思いきや。友人が申し込んだ初心者クラスは、定員割れで開講しなくなったそうです。 いまどきは、教室に「通う」人が減っているのでしょうか。 YouTubeや書籍など、外国語を学ぶ手段は飛躍的に増えました。ホント、むかしのことを考えたらウソみたいに幸せな環境だと思います……。 韓国語は日本語と文法が似ているため、英語や中国語よりもとっつきやすい言語だといわれています。 ただ、悩ましいのが単語の「使い分け」。 日本語の通りに考えていると、ちょっと違和感のある表現になってしまったり、失礼になってしまったり。 その辺りは背景となっている文化を知ることが大切なのだと思います。 そんな韓国語の学習者におすすめなのが、鄭玄実(ちょん・ひょんしる)さんの『韓国人はアンニョンハセヨとは言わない!?』です。 ☆☆☆☆☆ 『韓国人はアンニョンハセヨとは言わない!?』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 韓国ドラマ好きの先輩は、韓国語は分からないけど「オッパ(お兄さん)」や、「ヨボセヨ(もしもし)」といった単語はよく知っていました。 たしかに韓国語の学習本には、 こんにちは=アンニョンハセヨ と載っています。そして、これは時間に関係なく使えます。「おはよう」も、「こんばんは」も、全部「アンニョンハセヨ」。 だけど、朝会った人に、「アンニョンハセヨ」とは言わないんです……。 なんやそれ!?ですよね。 「アンニョンハセヨ」は、漢字で書くと、「安寧ですか」となります。つまりニュアンスとしては「お元気ですよね」に近い。一昨日会って、昨日会って、今日も会った人に「お元気ですよね」と問いかけるのは、ちょっとヘン。 「いや、毎日会ってるやん!!」というわけです。 じゃあ、代わりになんと言うかというと、最近のドラマでは「チョウン アッチム~」と言っていることが多いです。これは「いい朝ですね=good morning」という意味。10年ほど前のドラマでは、姑に「よくお休みになれましたか?」とあいさつしていました。 本には、特に家族には使わないとありましたが、ビジネスシーンでもあまり見なくなった気がします。他にも、社員の呼称などに社会の変化を感じています。 そこからもう一歩進んで、言葉のニュアンスを支える文化と変化を知ることのできる一冊です

『民話で知る韓国』#895

「トッケビ」って……、「河童」のイメージだったのか!!! 韓国生まれの鄭玄実さん(ちょん・ひょんしる)が、子どものころに聞いた民話を集めた著書『民話で知る韓国』に、そう記されていて衝撃でした。 ☆☆☆☆☆ 『民話で知る韓国』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「トッケビ」は、韓国の昔話によく登場するもので、オバケと訳されていることもあります。とはいえ、日本の「幽霊」のようなおどろおどろしい存在というよりも、イタズラ好きの妖怪のような、小鬼のような感じ。 わたしにとって、 「トッケビ」 といえば、武将からトッケビとなり、1000年生きてきたコン・ユです。 (画像はAmazonより) それが、鄭玄実さんにとっては「河童」のような存在に思えたとのこと。 (画像はいらすとやさんより) 衝撃的すぎるやろ……。 兄弟対決、隣人対決といった構図は日本の昔話と似ています。そしてこのフォーマットは現代のドラマにも生かされているのだとか。 韓国の昔話はお決まりの言葉から始まります。 「むかしむかし、虎がタバコを吸っていたころ……」 現実的にはあり得ないことだけど、それくらいむかしのこと、ということでしょうか。『民話で知る韓国』に掲載されているお話は、「イェンナレ イェンナレ……(むかしむかし……)」で始まっているので、地域によるのかもしれません。 韓国社会といえば儒教の影響が挙がることが多いですが、実は民話にはあまり感じられないことが多いのだそう。 理由としては、民話は儒教が定着するよりも前の、土着の昔話として語り継がれてきたものだからではないか、と語っておられます。 鄭玄実さんは現在、NPO法人ふくかんねっとの理事長を務め、キムチ教室や農業によって交流を図っておられます。いつか訪ねてみたい。 <インタビュー>福島で韓国文化伝える 鄭玄実さん「相互理解が大切」│韓国政治・外交│wowKora(ワウコリア)   感動的な「トッケビ」を演じたコン・ユと、ペ・ドゥナ主演のSF「静かなる海」が今日からNetflixで配信されますね。制作はチョン・ウソン。 https://www.netflix.com/title/81098012 Kゾンビ・コンビが描く月と宇宙の物語。月で虎はタバコを吸っているかな?

『言の葉の森——日本の恋の歌』#894

日本古来の詩である「和歌」を韓国語に翻訳し、歌にまつわるエッセイを再び日本語に翻訳する。 なんだかややこしい、ふたつの言葉の行ったり来たりが、こんなに美しい世界になるなんて。 韓国で日本語翻訳家として活動されているチョン・スユンさんのエッセイ『言の葉の森——日本の恋の歌』は、限りなく素直な透明感にあふれた一冊でした。 ☆☆☆☆☆ 『言の葉の森——日本の恋の歌』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 韓国留学中に、友人たちと韓国語の詩を読んでみようと挑戦したことがありました。でも、あまりに難しくて挫折しました。 「詩」の中で扱われる言葉は、意味の広さと深さ、音の響きやつらなりが、教科書に載っている文章とはぜんぜん違うんですもん。 「難しさを味わえただけでも、よかったよね」 みたいな感じで会は終わりました……。 当たり前ですが、「詩」よりも「和歌」の方が文字数が少ないわけです。「五七五七七」という決まりごともある。 それを外国語に訳すのは、想像するだけでも絶句するような難しさだと思います。おまけにチョン・スユンさんの韓国語訳は、できるかぎり「五七五七七」に近づけてあるんです。 下の画像がそれ。韓国語は分かち書きをするので、一見そう見えないかもしれませんが、単語としては和歌の型になっています。すごいしかない。 (画像はAmazonより) 取り上げられているのは、『古今和歌集』や『拾遺和歌集』などの和歌です。 もちろん、外国語になることで、さらに情景がクリアになったり、情感がハッキリしたりするんだなーと感じるところも。 それにしても、「翻訳家」という職業についておられる方の、言葉の豊かさよ……。 おだやかでやさしい言葉の森を歩いたような、すがすがしさがあふれていますよ。

『世界でいちばん弱い妖怪』#893

この小説はヤバい。久しぶりに興奮するくらいヤバい小説に出会ってしまった。 「2021年のベスト○○」が話題になる時期ですが、わたしの中でキム・ドンシクさんの『世界でいちばん弱い妖怪』は、間違いなく「2021年の神7」に入れたい。 小説を読んだことがないという、“無学”の小説家によるショートショート集です。 ☆☆☆☆☆ 『世界でいちばん弱い妖怪』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ あとがきによると、1985年生まれのキム・ドンシクさんは、中学をドロップアウトした後、鋳物工場に勤務。偶然のぞいたネット掲示版の投稿を見て、自分にもできるんでは、と小説を投稿するようになったとのこと。 これがおもしろいと話題になり、出版されることになるのですが。 もともとのキム・ドンシクさんの文章は、綴りなどの間違いがたくさんあったのだそうです。 これを有志が集まって修正し、そのフィードバックを受けてキム・ドンシクさん自身も学習。どんどん上達したというんだから、「集合知」のパワーを感じさせますね。 『世界でいちばん弱い妖怪』に収録されているのは、18編のショートショートです。 表題作のように、「ぼく、ほんとに弱いの。殺したりしないでね」という妖怪や、「人間でとった出汁が人気だからお鍋に入ってくれる人、募集!」という妖怪なんかが登場します。 クスッと笑える展開もありつつ、韓国の社会が抱える暗部もみえるオチが待っています。 家長の重責。 外見至上主義。 自分の先入観を映し出すような小説に、ちょっとしんみりもしました。 星新一さんのショートショートが好きな方は、この魅力が分かるかも。 韓国では全10巻の作品集が刊行されているそうですが、日本ではこれが初めての邦訳。もっと読みたい!というか、わたしが訳したい!と思ったけど。 吉川凪さんの自然な翻訳文がステキだったので、おとなしく待つことにします……。

映画「弁護人」#892

韓国の映画も食べ物もドラマも音楽も好きな分、もっと政治が洗練されればいいのになと感じることがあります。 大統領経験者が退任後に向かう先。それが刑務所、という事態が続いたからです。 逮捕はされなかったけれど、自ら命を絶ってしまったのが盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領。第16代大統領として、2003年2月から2008年2月まで務めました。 貧しい家庭の出身で、勉強はできたものの進学することができず、高卒で就職。日雇い労働をしながら司法試験を受けて、弁護士になり、その後、政界に進出しました。 苦労した若かりし頃から、ビジネスセンスに長けた金満弁護士時代、そして人権派弁護士と呼ばれるまでの姿は、ソン・ガンホ主演で映画化されています。 ☆☆☆☆☆ 映画「弁護人」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 1980年代初頭、軍事政権下の韓国。税務弁護士として多忙な毎日を送っていたソン・ウソクは、若い頃に世話になったクッパ店の息子ジヌが、国家保安法違反容疑で逮捕されたことを知る。拘置所へ面会に行ったウソクは、ジヌの信じられない姿に衝撃を受け、弁護を引き受けることにするが……。 ヤン・ウソク監督の長編デビュー作となった「弁護人」。国民的人気の高かった大統領の、若き頃の奮闘といったテーマから、実は敬遠していたのでした。 ヨイショされたストーリーだったら残念だなと思っていたのですよね。 ラストシーンで、ボロボロ泣きました……。 ソン・ガンホ演じるソン・ウソクは、苦労して弁護士資格をとって活動を始めますが、一流大学出身の弁護士先生たちからはバカにされるばかり。司法書士がやっていたような仕事を始めて、ビジネスとして成功します。 その後もローファームを作ろうとしたりと、ビジネスセンスに優れていた人物として描かれています。 そんなソン・ウソクを「人権派」へと変えたのが、「プリム事件」と呼ばれるえん罪事件でした。 読書会を開催していただけの大学生が「アカ」として検挙され、拷問される。イム・シワンの脅えた様子が真に迫っていて、ホントに怖かった。 (画像は映画.comより) お世話になった方の息子だからと弁護を引き受けたソン・ウソク弁護士。彼の裏をかき、学生たちを暴行し、証言者を陥れる刑事を演じるのは、クァク・ドウォン。キターーーーって感じがし

映画「鋼鉄の雨」#891

ヤン・ウソク監督自身が描いたウェブトゥーン作品「鋼鉄の雨」。映画化第2弾の「スティール・レイン」が、現在日本でも公開されています。 映画「スティール・レイン」#890   第1弾の「鋼鉄の雨」は、Netflixで配信中。シリーズとはいえ、ストーリーに関連性はないので、どちらから観ても大丈夫です。ただ、主要なキャラクターは同じ俳優が立場を変えて演じているので、「スティール・レイン」から観た方が混乱しなくていいかもしれません。 ☆☆☆☆☆ 映画「鋼鉄の雨」 https://www.netflix.com/title/80226234 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 北朝鮮でクーデターが起こり、最高指導者が瀕死の重傷を負った。その場に居合わせた元エリート工作員オム・チョルウは、意識不明の最高指導者を連れて韓国へ脱出する。北朝鮮の宣戦布告により緊張が走る中、偶然にも韓国の外交安保首席クァク・チョルウと出会ったオムは、最悪のシナリオを回避するべく奔走するが……。 元エリート工作員オム・チョルウを演じるのは、チョン・ウソン。上官の命令を受けて行動していたものの、予想外の事態に接して、やむなく南へと38度線を越えてしまう。 この設定は、「愛の不時着」を思い出させますね。実際、ヒョンビンたちが使った地下トンネルが、この映画にも登場します。 韓流ドラマの法則を押さえた韓国版ロミジュリ ドラマ「愛の不時着」 #335   南側で待ち受けていたのは、クァク・ドウォン演じる韓国政府高官のクァク・チョルウ。なにかと衝突しながら、同じ「チョルウ」という名前をもつふたりがバディを組んで、北の指導者を治療し、送り返すというムリゲーなミッションに挑むんです。 オム・チョルウの漢字名は、厳鐵友。 クァク・チョルウの漢字名は、郭哲宇。 映画タイトルの「(鋼)鉄の雨」も、韓国語読みすると「チョルウ」となります。この「チョルウ」というワードは、「スティール・レイン」にも登場します。邦画タイトルも英語表記にしただけですしね。 で、南のチョルウが、北のチョルウに言うんです。 こんな言葉がある。 「分断国家の国民は、分断の事実よりも、分断を政治的に利用して利益を得る者のために苦しめられる」 この悲劇性が、「スティール・レイン」に引き継がれた一番大きなものだったかもしれません。 マンガが連載されていたのは2011年。映画

映画「スティール・レイン」#890

ババ抜きは、残りふたりになってからがおもしろいゲームです。 最初の頃は、誰が「ババ」を持っているか分からないから、余裕がありますよね。そこから、ひとり抜け、ふたり抜けしていって、最後にふたり残ったとき。 あいつが「ババ」を持っている。 そのことがハッキリ分かっている中で、ポーカーフェイスでカードを取るときの気分。 天国か。地獄か。 ゲームでさえこれだけ緊迫するんだもん。「ババ」が兵器ならば、どれだけ冷や汗をかくでしょうか。 ヤン・ウソク監督の新作「スティール・レイン」は、核兵器を巡って、韓国・北朝鮮・アメリカのトップたちが拉致されるという物語です。 北朝鮮の反乱軍によって、原子力潜水艦に監禁された3人の首脳。事件の裏でうごめく中国と日本の情報戦。 魚雷が飛び交う中で交わされる、トップの対話が見応えありました。 ☆☆☆☆☆ 映画「スティール・レイン」 https://www.hark3.com/steelrain/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 冷戦状態の続く朝鮮半島の平和協定を目指し、韓国、北朝鮮、アメリカの首脳会議が開催された。しかし米朝間で意見は割れ、北朝鮮では国交正常化に反対する軍事クーデターが発生し、3人の首脳は弾道ミサイルを積んだ、原子力潜水艦に閉じ込められてしまう……。 ヤン・ウソク監督自身のウェブトゥーン作品「鋼鉄の雨」シリーズの、映画化第2弾になります。 「鋼鉄の雨」の方は、現在Netflixで配信中。 映画「鋼鉄の雨」 https://www.netflix.com/title/80226234 ただ、主要キャストが反転しているので、劇場公開されている第2弾を観てから、「鋼鉄の雨」を観た方が、混乱しなくていいかも……と思います。 キリッと凜々しく、家庭ではやさしい父の顔も持つ韓国大統領を演じたチョン・ウソン。「鋼鉄の雨」では、北朝鮮の情報員なんです。 (画像は映画.comより) 反乱を起こす北朝鮮の高官を演じるクァク・ドウォンは、「鋼鉄の雨」では韓国側の政府高官役。長年の怒りを募らせた狂気は、迫力ありました。 (画像は映画.comより) そして、アメリカの大統領を演じたアンガス・マクファーデン。無邪気で、でかくて、愛嬌があって、すごく好きになりました。でも、イメージしてるのは、前大統領でしょうね……。 やっと出てきた食事は譲るのに、脱出のチャンスでは一

ドラマ「あなたに似た人」#889

怒りを暴走させても、誰も幸せになれない。 分かっていても止められないのが暴走状態なわけで、一番苦しいのは「自分」なんですよね。 誰もが「幸せになりたい」と思いながら生きているのに、なぜ世の中はこんなにもやさしくないんだろう。 「やり直す」ことを選ぶのは、なんて難しいことなんだろう。 なんてことを、コ・ヒョンジョンとシン・ヒョンビン主演のドラマ「あなたに似た人」を観ながら、ずっと考えていました。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「あなたに似た人」 https://www.netflix.com/title/81473219 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> チョン・ヒジュは、娘が学校で教師から暴力を受けたという連絡を受け取る。そこで出会ったのは、かつての友人で、自分に絵を教えてくれたヘウォンだった。彼女が意図的に近づいてきたのではないかと疑うが……。 ミス・コリアで第2位となり、俳優としてデビューしたコ・ヒョンジョン。 常に勝ち気で、凜として、傲慢なほどゴージャスな役を演じてきました。わたしは 「善徳女王」 のミシル役ですっかりファンになりました。「レディプレジデント〜大物」の大統領姿も好き。 そんなコ・ヒョンジョン演じるチョン・ヒジュは、貧乏なDV家庭で苦労して育ち、お金持ちの夫と結婚して、いまでは画家として活躍しているという“成り上がり”な役柄です。 (画像はNetflixより) ヒジュを不幸にするのが目的、と語る、かつての友人ク・ヘウォンを演じるのはシン・ヒョンビン。 「賢い医師生活」 のギョウル先生は、空気は読めないけど一所懸命でかわいかったのに。 あのキョトン顔で毒を吐きまくるのです。 (画像はNetflixより) ヘウォンの夫ソ・ウジェは長く行方不明になっていて、ようやく発見した時には、むかしの記憶を失っていました。 いったい彼に何があったのか。 年齢差はありつつも、仲良しだったヒジュとヘウォンは、なぜ対立するようになったのか。 過去が明らかになった時、久しぶりに「マクチャンドラマ」の面影を見たように思いました……。 「マクチャンドラマ」とは、非現実的なことが頻発して、展開に行き詰ったようなドラマのことです。韓国ドラマあるあるの「記憶喪失・交通事故死・出生の秘密・不治の病」なんかが、それですね。 ヘウォンに追い詰められ、やつれていくヒジュ。コ・ヒョンジョンは美しく、気高い姿が特