ババ抜きは、残りふたりになってからがおもしろいゲームです。
最初の頃は、誰が「ババ」を持っているか分からないから、余裕がありますよね。そこから、ひとり抜け、ふたり抜けしていって、最後にふたり残ったとき。
あいつが「ババ」を持っている。
そのことがハッキリ分かっている中で、ポーカーフェイスでカードを取るときの気分。
天国か。地獄か。
ゲームでさえこれだけ緊迫するんだもん。「ババ」が兵器ならば、どれだけ冷や汗をかくでしょうか。
ヤン・ウソク監督の新作「スティール・レイン」は、核兵器を巡って、韓国・北朝鮮・アメリカのトップたちが拉致されるという物語です。
北朝鮮の反乱軍によって、原子力潜水艦に監禁された3人の首脳。事件の裏でうごめく中国と日本の情報戦。
魚雷が飛び交う中で交わされる、トップの対話が見応えありました。
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映画「スティール・レイン」
https://www.hark3.com/steelrain/
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冷戦状態の続く朝鮮半島の平和協定を目指し、韓国、北朝鮮、アメリカの首脳会議が開催された。しかし米朝間で意見は割れ、北朝鮮では国交正常化に反対する軍事クーデターが発生し、3人の首脳は弾道ミサイルを積んだ、原子力潜水艦に閉じ込められてしまう……。
ヤン・ウソク監督自身のウェブトゥーン作品「鋼鉄の雨」シリーズの、映画化第2弾になります。
「鋼鉄の雨」の方は、現在Netflixで配信中。
映画「鋼鉄の雨」
https://www.netflix.com/title/80226234
ただ、主要キャストが反転しているので、劇場公開されている第2弾を観てから、「鋼鉄の雨」を観た方が、混乱しなくていいかも……と思います。
キリッと凜々しく、家庭ではやさしい父の顔も持つ韓国大統領を演じたチョン・ウソン。「鋼鉄の雨」では、北朝鮮の情報員なんです。
(画像は映画.comより)
反乱を起こす北朝鮮の高官を演じるクァク・ドウォンは、「鋼鉄の雨」では韓国側の政府高官役。長年の怒りを募らせた狂気は、迫力ありました。
(画像は映画.comより)
そして、アメリカの大統領を演じたアンガス・マクファーデン。無邪気で、でかくて、愛嬌があって、すごく好きになりました。でも、イメージしてるのは、前大統領でしょうね……。
やっと出てきた食事は譲るのに、脱出のチャンスでは一番に逃げようとするところ。アメリカ・ファーストを無邪気に体現していました。
北朝鮮のクーデターによって拉致されたのは、韓国とアメリカのトップだけじゃなく、北朝鮮の最年少指導者まで入っているところがユニークな設定です。演じるユ・ヨンソクは、「賢い医師生活」のアン先生とは正反対な姿です。
(画像は映画.comより)
主要メンバー以外の、アメリカの補佐官や中国大使などは、「鋼鉄の雨」の俳優がそのまま演じているので、「スティール・レイン」は続編というより、同じ設定の中の違う話、と考えた方がよさそうです。
ゴリッと政治的なネタを正面に据え、原子力潜水艦が舞台となるハードなストーリー。なのに、このトップ3人の対話では笑いが起こります。
韓国大統領は英語が苦手なので、なんと北朝鮮の指導者が通訳するんです。だけど、とことん対立していて、「お前の母ちゃん、でべそー」並みのケンカまでやってます。
(画像は映画.comより)
各国の思惑が入り乱れる中、これでもかと強調される、韓国の存在感の薄さ。
だからこそ、最後のメッセージには考えさせられました。
これまで南北関係を描いた映画は、分断の悲劇や統一への希望を描いたものが多かったけれど。
いまや思いは反転しているのでしょうか。
来年には大統領選挙を控えている韓国。この先どうなっていくのか気になる。
映画「スティール・レイン」132分(2020年)
監督:ヤン・ウソク
脚本:ヤン・ウソク
原作:ヤン・ウソク
出演:チョン・ウソン、クァク・ドウォン、ユ・ヨンソク、アンガス・マクファーデン
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