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1月, 2022の投稿を表示しています

映画「声もなく」#933

善と悪の境界線が溶けていく。 デジタルの世界は「0」と「1」の二元論でできていて、いまわたしの生活は、そんなデジタルに支えられているけれど、すっぱりきっぱりと切り分けられないものだってあります。 なにかの事件が起きるたび、テレビのワイドショーでは「悪人」を探し出して断じるわけですが、自らの立つ「善人」の位置は、誰が決めてくれたものなのか。 韓国の新人監督ホン・ウィジョンの映画「声もなく」を観て、そんなことを考えていました。 ユ・アインとユ・ジェミョンが“犯罪者”コンビを演じています。 ☆☆☆☆☆ 映画「声もなく」 公式サイト: https://koemonaku.com/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> テインとチャンボクは、普段は鶏卵販売をしながら、犯罪組織から死体処理などを請け負って生計を立てていた。ある日、犯罪組織のヨンソクに命じられ、身代金目的で誘拐された11歳の少女チョヒを1日だけ預かることに。しかしヨンソクが組織に始末されてしまったことから、テインとチョヒの疑似家族のような奇妙な生活が始まり……。 ※ネタバレありです。ご注意ください※ 青年テインを演じるのは、ユ・アイン。この役のために15kgも体重を増やして臨んでいます。猫背でぽっちゃりしたお腹が、新鮮でした。パンフレットの監督インタビューによると、太ったり痩せたりしてイメージを固め、依頼通りに「だらしなく」太ってくれたんだそう。 (画像は映画.comより) 理由は明らかにされていませんが、テインは言葉を発することができないという設定。99分間、本当にひと言も発しません。 代わりに、仕草や表情で感情を伝えています。 そんなテインを幼い頃に引き取り、いまは「裏稼業」も手伝わせている相棒が、チャンボク。ユ・ジェミョンがおしゃべりで、腰が低くて、人のいいおっちゃん感満載で演じています。「梨泰院クラス」の会長とは正反対の空気感でした。 チャンボクが謙虚に、ていねいに話せば話すほど、笑いを誘うという不思議な役柄です。 (画像は映画.comより) ユ・ジェミョンのおしゃべりがブラックなユーモアに包まれているので、思わず「フフッ」となってしまうのですが、この映画の登場人物は、ド底辺もド底辺な生活を強いられている人たちです。 おそらくは障害があること、学がないことで社会から落ちこぼれ、救済システムも届かないところで、ただ生き

映画「コレクターズ ソウルに眠る宝刀を盗み出せ」#932

韓国版「インディ・ジョーンズ」は、痛快・爽快だった! イ・ジェフンやチョ・ウジンといった芸達者な俳優たちが、“盗掘”のスペシャリストを演じた映画「コレクターズ ソウルに眠る宝刀を盗み出せ」。 だまし合いとリベンジが、軽~いノリで展開されるので、気持ちよく笑える映画です。 ☆☆☆☆☆ 映画「コレクターズ ソウルに眠る宝刀を盗み出せ」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 天才盗掘師のカン・ドングは、ある盗みをきっかけに古美術家でエリートキュレーターのユン室長に目をつけられる。彼女のボスの命令により、ドングは「韓国のインディアナ・ジョーンズ」と自称する古墳壁画盗掘専門家のジョーンズ博士とタッグを組み、高句麗の古墳壁画を盗むことに成功。ユン室長の信頼を得たドングは、韓国のど真ん中・宣陵に眠る「李成桂の刀」を盗む危険な取引を提案するが……。 カン・ドングを演じるのは、イ・ジェフン。 「金子文子と朴烈」 や 「シグナル」 とはまた違う、知恵も、熱さもモリモリな青年です。 その相方となる古墳の壁画盗掘専門家を演じるのは、チョ・ウジン。なんと、自称「韓国のインディアナ・ジョーンズ」。当然、帽子もかぶってます。そしてこれが上手いオチに使われています。 (画像は映画.comより) ドングの抱える過去は、わりと早い段階で明かされるので、あとはどうやってリベンジを果たすのかを楽しみに観ることができます。 お仲間もクセのある人ばかりなんですが、イム・ウォニが合流したところで、「キタキタキターーーッ!!」となりました。 画像の中、車の横を歩いているおっちゃんです。 (画像は映画.comより) ドラマ 「ムーブ・トゥ・ヘブン: 私は遺品整理士です」 では、義理堅く、懐の深い弁護士を演じていましたが、「神と共に」シリーズや 「補佐官」 シリーズでみせた、コミカルな演技も大好き。 (いつ、泣き真似をしてくれるんだろう……) と期待して待っていたら、期待通りの展開が待っていました。 悪を持って悪を制す部分はありつつ、最後は「みんないい人」で終わるところも、韓国映画らしさが漂っています。 韓国版・ジョーンズ博士の機知とキュートさが、最高に楽しめる映画。日本ではブルーレイが発売されているくらいで、シネマートの「のむコレ」で上映されていました。 アジア作品を中心とした選りすぐりのラインナップ!劇場

映画「キングスマン ファースト・エージェント」#931

「マナーが紳士をつくる」 スパイ映画は数多くあるけれど、「キングスマン」シリーズは異色かもしれません。なにしろ「国家」の後ろ盾はない「民間」の組織なんですから。モットー(?)は、上に書いた「マナーが紳士をつくる」なので、“貴族的”な言動が求められる。そして、ユニフォーム(?)は、オーダーメイドのスーツ! これまでに公開されたのは、コリン・ファースとタロン・エガートンがコンビを組んだ「キングスマン」。おバカ加減が倍加した「キングスマン ゴールデン・サークル」。 Amazonプライム配信中 (画像リンクです) Amazonプライム配信中 (画像リンクです) このシリーズ2本のプリクエルにあたるのが、「キングスマン ファースト・エージェント」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「キングスマン ファースト・エージェント」 公式サイト: https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kingsman_fa ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 1914年、ヨーロッパに戦争の気配が広がる中、キッチナーの訪問を受けたオックスフォード公と息子コンラッドは、オーストリアのフェルディナント大公の護衛を依頼される。しかし、サラエボで大公夫妻は死亡。世界大戦が始まったことで、コンラッドは軍隊に志願しようとするが……。 このシリーズの舞台は、なんといっても、ロンドンのサヴィル・ロウにある高級テーラー“キングスマン”です。高級なショップの“裏の顔”がスパイ組織なわけですが、1914年時点では、本当の“高級テーラー”です。 安全な密会の場所として選ばれたのが、“キングスマン”だったのです。 なぜ、組織のアジトが“高級テーラー”なのか。なぜ、貴族的な行動が求められるのか。といった組織の誕生秘話が明らかにされていきます。 “キングスマン”で仕立てられたスーツは、大人の証。セーターを着た青年が、変身する姿は感動的です。 (画像は映画.comより) 従軍して、国家の役に立ちたい息子と、亡くなった妻との約束のために、息子を戦争から遠ざけたい父。 主軸はこれなんですが、この映画の「ヴィラン」が実在の、歴史上の人物たちのため、歴史のおさらいみたいな話でもありました。この時代の歴史を勉強してから行けば、より楽しめるかも。 一番の見どころは、“怪僧”と呼ばれたラスプーチン。ロシア皇帝に仕えた祈祷師で、

映画「中島みゆき 劇場版 ライヴ・ヒストリー 2007-2016 歌旅~縁会~一会」#930

わたしには、こんなにも「恩人」と呼べる人がいたんだ……。 この方たちに、もっともっと、ちゃんと感謝を届けたい。 中島みゆきさんのライブツアーを集めた「劇場版 ライヴ・ヒストリー 2007-2016 歌旅~縁会~一会」を観ながら、ずっとそんなことを考えていました。 現在、劇場公開されています。 ☆☆☆☆☆ 映画「中島みゆき 劇場版 ライヴ・ヒストリー 2007-2016 歌旅~縁会~一会」 公式サイト: https://miyukimovie.jp/ ☆☆☆☆☆ 10年間のライブ映像を再構成した劇場版。「空と君のあいだに」や「地上の星」など、テレビ番組の主題歌になった曲、「糸」や「時代」といった懐かしい曲まで、名曲15曲を5.1chサラウンドで味わうという贅沢な時間でした。 もー、初っ端からボロボロ泣きっぱなし。 その曲に初めて会った時のこと、“打ちのめされて”いた時にラジオから歌が流れてきた時のこと、“くじけないで”と言われた時のこと、などなどが思い出され、そして感じたのです。 わたしはこれまで、周囲の人にとても恵まれていた、と。 そんな「恩人」たちに、どれだけ感謝を伝えてきただろう。 セットリストを見ていても、今回の劇場版は「人とのつながりと感謝」がテーマだったのではと思えてきます。それは、いまの時代に一番求められているものなのかもしれません。 <セットリスト> 糸 宙船(そらふね) ファイト! 誕生 地上の星 空と君のあいだに 時代 倒木の敗者復活戦 世情 ヘッドライト・テールライト 旅人のうた 命の別名 麦の唄 浅い眠り ジョークにしないか 変わりゆく社会を定点観測するように、時代時代を歌詞にしてきた、みゆきさん。「夜会」の劇場版が公開された時は、「街角のクリエイティブ」でコラムを書かせてもらいました。 「夜会工場」言葉の魔術師・中島みゆきの声に心が震える   このコラムにも書きましたが、わたしは10代のころから、みゆきさんのファンです。ツアーの時は京都会館や大阪城ホールに通い、高校生の時は学校をサボって東京まで来たこともありました。 “東には東の正しさ”があると知った、上京したてのころのわたし。 “世の中はいつも臆病”だから、人生は自分の“手で漕いで”生きていくしかないと悟ったころのわたし。 “どこへ帰るのかも”分からなくなって、“伝えない言葉”を選ぶように

『頭の中がカユいんだ』#929

「無頼漢にあこがれてるんです」 新人ライター用の研修を実施した際、慣用句の間違いを指摘したわたしに、こう言った方がいました。 日本語の間違いを修正することと、無頼漢への憧れがどうつながるのか分からず、思わず無言になってしまったことを覚えています。 当の本人は数年後、「あのころは、無頼漢がどんなものなのか分かってなかったみたいっすね~」と言っておりました。 無頼漢ね……と思わずにいられない。 戦前くらいなら、太宰治や坂口安吾が“お手本”なのかな。たしか、伊集院静さんは”最後の無頼派”と呼ばれていたはず。 わたしの中では、天才的「無頼漢」はダントツで中島らもさんでした。 広告プランナーからコピーライターへ、バンドマンをやり、劇団を主宰し、小説も書く。その一方で、鬱に悩まされながら、クスリと酒で身を滅ぼした……という多才な方です。 『頭の中がカユいんだ』は、最初の小説といわれていますが、読んでいる間ずっとエッセイだと思っていました。なんでも泥酔状態で書いたのだとか。 最強の無頼派ここにあり、です。 ☆☆☆☆☆ 『頭の中がカユいんだ』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 妻子を残して家出した僕。現実と妄想の間で、つむじのように過ぎていく日々を綴った小説です。けど、体裁は「日記」になっています。 笑いと渋みの強さが強烈で、えぐみとして残るのは、社会の不条理。徹底的に突きつけられるのは、誰かが決めた尺度としての理論。 生きるって、大変だな……と思ってしまいます。久しぶりに読んだら、ダリの美術展に行った後、同じことを考えたのを思い出しました。 むかーしのこと。わかぎえふさんのファンだった友人に連れられ、「リリパットアーミー」の舞台を見に行ったことがあるのですが、帰り道、ふたりで「凡人でよかったね……」と語り合ったものでした。 なんというか、世界の見え方がこんだけ違うと、「苦しい」なんてもんじゃない。文庫版の解説でモブ・ノリオさんが書いておられる言葉が、一番ピッタリくるかもしれません。 “詩に呪われた者が、詩をドブに捨て、開き直って恥をかく営業マンへと生まれ変わった果てに獲得された、語り手<僕>の声の朗らかさ、いさぎよさは、ニヒリズムとロマンティシズムを千鳥足で掠めつつも、双方に砂をかけて立ち去るおっさんの頼もしい脚力に運ばれている。” 「無頼漢」に憧れるなんて、人生を大火傷して生きる

『さるのこしかけ』#928

天才の頭の中は、こうなっていたのか!!! 『ちびまる子ちゃん』の作者・さくらももこさんのエッセイは、これまた“電車で読んではいけない”系の本。 『もものかんづめ』『さるのこしかけ』『たいのおかしら』が、三部作として知られています。今日はここから『さるのこしかけ』を紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『さるのこしかけ』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 『ちびまる子ちゃん』や『コジコジ』で人気マンガ家となったさくらももこさん。2018年に亡くなられましたが、その後もさくらさんの残したものは広がり続けています。 アシスタントさんが新作マンガを描かれたり、オーディオブックが発売されたり。朗読はもちろん、まる子役のTARAKOさんです。 さくらももこ「もものかんづめ」がオーディオブック化、TARAKOが全編朗読(コメントあり)   どのエッセイを読んでいても、まるちゃんの「ぐふふふ」という笑いが聞こえてきそうな、ポップさとイケズ感がありました。 『さるのこしかけ』の巻末には、周防正行監督との対談が収録されています。 ここで出た話によると……。 マンガ家になりたいけど、絵が上手くないから難しいかも ↓ じゃあエッセイストを目指そうか ↓ エッセイを書いてるのは俳優とか小説家とかマンガ家だな ↓ じゃあやっぱりマンガ家になっとこうか という流れで、マンガ家になったのだとか。 (!!!!!!!!!!) インド旅行や痔、骨折に離婚と、人生のすべてを「ネタ」にするためには、目の前に起きている事象と自分の心の間に「距離」が必要なわけで、さくらさんは「観察の天才」だったのですね。 自分のことも、周囲のことも、すべてを笑いに転換する力。見習いたい。

『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』#927

世界に誇れる日本のコンテンツといえばアニメですが、「制作スタジオ」の名前でアニメを選ぶようになったのは、スタジオジブリのおかげかもしれません。 高畑勲さんと宮崎駿さんという、ふたりの天才を支えたプロデューサー鈴木敏夫さんの『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』には、スタジオ運営の苦労が綴られています。 タイトルは『天才の思考』だけど、どちらかというと「猛獣使いの記録」と呼びたい内容でした。 ☆☆☆☆☆ 『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ いまではビッグネームとなった「スタジオジブリ」。でも、裏側は当然、苦労がいっぱいです。 会社としてのスタジオ運営はもちろん、日程も予算も度外視した制作進行、天才クリエイターの嫉妬とライバル意識。 とくに宮崎駿さんの大暴走に伴走しつつ、手綱をとらなければならない「プロデューサー」という立場の難しさは、並みのサスペンスドラマよりエキサイティングです。 たとえば、1988年に公開された高畑勲監督の代表作「火垂るの墓」と、宮崎駿監督の「となりのトトロ」は、二本立てで上映されたのですが、これには裏話がありました。 スタジオジブリ作品の第二弾として企画された「となりのトトロ」に、徳間書店の上層部が難色を示す。 ↓ 鈴木さんが高畑勲監督の「火垂るの墓」とセット上映を提案 ↓ 「オバケだけならまだしも、さらに“墓”とはなんだ!!!」 怒られた……。 いまなら「名作」といわれている2本も、企画段階ではどちらに転ぶか分からないものですもんね。そう考えると、興行ってギャンブルなんだなーとも感じます。 宮崎駿さんの企画・他の方が監督する場合、みんなつぶれてしまう……という話は、身につまされました。 天才クリエイターだからこそ、「任せる」ことが難しいのでしょう。 アニメ制作における、ぜーーーーったいに妥協しない作家の熱量がビンビンに伝わってくるお話。 ジブリ好きの方は、ぜひ読んでみてください。

『ご冗談でしょう、ファインマンさん』#926

子どもの好奇心をそのまま伸ばしていたら……。 いまではベストセラー作家になっていたかもしれないし、ハリウッド映画に出演していたかもしれない。なんて思うことがあります。 子育てにも、勉強にも、大事だといわれているのに、なぜ「将来に役立つ」ものばかり優先するようになってしまうのでしょう。 大人になっても子どものまんまの好奇心を活かし、ノーベル物理学賞を受賞したリチャード P. ファインマン氏は、子ども時代、「なぜなに坊や」だったことがエッセイに綴られています。 著者初のエッセイ『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は、型にはまらない発想の原点が垣間見える一冊です。 ☆☆☆☆☆ 『ご冗談でしょう、ファインマンさん』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ リチャード P. ファインマン氏は、アメリカ出身の物理学者で、1965年にシュウィンガー氏や朝永振一郎氏とともにノーベル物理学賞を共同受賞されました。 量子力学で偉大な功績を残し、近代物理学への功績が大……だそうですが、そういう難しい知識がなくても十分楽しめます。ウィットに富んでいるというか、ユーモアにあふれているというか。 聡明で、いたずら好き。絵を描き、太鼓を叩き、人生を大いに楽しむ物理学者。 「物理学者」というと、眉間にしわを寄せて、実験室で計算に没頭しているような姿を思い浮かべてしまいますが、たぶん正反対の極にいます。 続編として出ている『困ります、ファインマンさん』も、大笑いしながら読みました。『ご冗談でしょう、ファインマンさん』は上下巻あるので、長い文章を読むのが苦手な方は、こちらの方が読みやすいかも。 (画像リンクです) 息子を科学者にしたいと考えていた父の影響も大きかったようですが、子どもの素直な好奇心に応え続けたご両親がすばらしいと思います。あれだけ、「なんで?」を連呼されたら、イラッとしちゃいそうですけど……。 エジソンは、「私は失敗したことがない。ただ、1万通りの、うまく行かない方法を見つけただけだ」と語ったそうですが、ファインマンさんも、言い訳とあきらめに対する厳しい言葉を残しています。 「僕たちは「できるけどやらないだけのことさ」といつも自分に言いきかせているわけだが、これは「できない」というのを別な言葉で言っているだけのことなのだ」 『困ります、ファインマンさん』より こうした言葉で、自分を鼓舞し続けて

『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』#925

ただのお笑い本と侮るなかれ。 福井県立図書館をはじめ、各地の図書館のレファレンスカウンターに寄せられた相談=覚え違いタイトルの実例を集めた『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』。 電車で読んではいけない系の愉快な本ですが、これはプロのお仕事の集大成でした。 ☆☆☆☆☆ 『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ タイトルにある『100万回死んだねこ』くらいなら、なんとなく想像がつきますよね。でも、中には、 「ブラッディーなんとかの、3色の本」 なんて相談もあるそう。 いろいろとヒントをもらって探った結果、正しいタイトルは『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でした……。おまけに、ブレイディみかこさんが「ブラッディー」って、血まみれ男爵かいな。 (画像リンクです) そんな、“読者”の立場で読むからフフフと笑えますが、相談を受ける司書さんは、決して笑うことはないのだそうです。 「あるかもしれない」 という前提で本を探すから。 古典などの場合は、新訳がでたときにタイトルも改訂されることがありますし、映画の原作本の場合はタイトル自体が変わっていることもある。 だから、ただの「おもしろい勘違い」とは言い切れないんですね。 本の編集を担当された福井県立図書館の宮川陽子さんが、 好書好日のPodcast で裏話を語っておられます。 うろ覚えトークはわたしもよくやってしまうけれど、それもすべて拾ってくれるのは、さすがプロのお仕事だなーと感激しながら読みました。 地図のない宝探しであり、未開の地を探検するような世界。 正しいタイトルの本の紹介も付いているので、せっかくだから読んでみたいな……となること請け合いです。 くれぐれも、電車の中で読んじゃいけませんよ。 福井県立図書館サイトの「覚え違いタイトル集」はこちら。 http://www.library-archives.pref.fukui.lg.jp/tosyo/category/shiraberu/368.html

『こころの対話 25のルール』#924

質問は「投げない」でください。 コミュニケーションは、キャッチボールであって、ぶつけ合いのドッジボールじゃないから。 社内の勉強会を開催するたび、メンバーにそう話していました。何気ない言葉遣いでも、そこに想いはのってしまうから、もっとひとつひとつの「対話」を大事にしてほしい。 そんなことをずっと考えていて、わたし自身は、いま「聴く」トレーニングをしています。 「聴く」スキルは、コーチングの中でも大きなウエイトを占めています。ので、これができないと「いいコーチ」にはなれないといえるくらい重要なものです。 「コーチング」という名前を聞いたことがある人は増えたようですが、具体的にどんなことをするものなのか、知らない人も多いかもしれません。 わたしは、「自分が応援したい人を、応援するためのコミュニケーションスキル」と呼んでいます(コーチの受け売り)。 「聴く」ことや、「対話」に関心があるなら、伊藤守さんの『こころの対話 25のルール』がおすすめです。 ☆☆☆☆☆ 『こころの対話 25のルール』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 伊藤守さんは、日本で初めてコーチングプログラムを開始した方です。略歴がnoteにまとまっていました。 コーチ・経営者「伊藤守さん」年表|佐藤 譲|note   本には、わたしたちが驚くほどに「聞かれていない」ことが描かれています。誰かと会話していても、 (次に何を話そうかな……) と思ったり、 (あ、その話ならわたしの方がよく知ってる……) と考えていたりして、「順番に」話しているだけ。ひとつずつのコミュニケーションは、「未完了」として、こころの中に積み残され、痛みや苦しみを引き起こす元になっているのです。 こうした「コミュニケーションの未完了」が、ぶつけ合いのドッジボールにたとえられています。 ユン・ガウン監督の映画「わたしたち」は、ドッジボールのシーンで始まり、ドッジボールのシーンで終わります。これが、まさに「コミュニケーションの未完了」を表していて、印象的でした。 映画「わたしたち」#923   「聴く」スキルには、いま注目が集まっているようで、書店に行ってもたくさんの本が並んでいます。その中でも、基本を知るなら、この本がおすすめです。 まずは、「自分は聞くのが得意だし」と思っている方の誤解を解きたい。「聴く」って、ぜんぜん受け身な行為じゃないで

映画「わたしたち」#923

ストップ!!! そんな風に自分の感情に声をかけられたらいいのに。 なにかイヤなことがあった時や、ムッとすることがあった時、感情的に反応するのではなく、物事と少し距離をとって、自分の反応を選ぶことができます。というか、できるはずなんです。 でも、一度スイッチが入ってしまうと止められない。 言うつもりではなかったことまで、口から飛び出してしまうことだってあります。 仲良しだった友だちとのケンカシーンが印象的な、映画「わたしたち」には、取り返しのつかないひと言を口走ったために、決定的に亀裂が入ってしまう子どもたちが出てきます。 ユン・ガウン監督は、自身の子ども時代をテーマにシナリオを練ったのだそう。 小学生の「スクールカースト」の残酷さ、子どもの心のやわらかさを存分に感じられる映画です。 ☆☆☆☆☆ 映画「わたしたち」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 学校でいつもひとりぼっちだった11歳の小学生の少女ソンは、転校生のジアと親しくなり、友情を築いていくが、新学期になると2人の関係に変化が訪れる。また、共働きの両親を持つソンと、裕福だが問題を抱えるジアの家庭の事情の違いからも、2人は次第に疎遠になってしまう。ソンはジアとの関係を回復しようと努めるが、些細なことからジアの秘密をばらしてしまい……。 “オトナ”になると、なかなか「友だち」といえる関係をつくるのが難しいなと感じます。仲のいい人は、友だちというより「仕事仲間」だったりしませんか? 「友だち」って、どうやってなるんだっけ……。 「優しい嘘」と「わたしたち」を続けて観て、すっかり考え込んでしまいました。 映画「優しい嘘」#922   「わたしたち」の方は、はっきりとスクールカーストが描かれています。勉強ができて、かわいくて、ハキハキしていて、家が裕福。そんなカースト上位のグループから嫌われてしまうと、居場所をなくしてしまうんです。 標的は次から次へと変わるし、グループに入れてもらえたら、他の人を排除するために攻撃に加わるしかない。 子どもの社会って、残酷やな……。 (画像は映画.comより) 映画の企画には、名匠イ・チャンドン監督が参加されていて、シナリオへのアドバイスもあったそうです。 『わたしたち』ユン・ガウン監督インタビュー   出演している少女たちは、すべてオーディションで

映画「優しい嘘」#922

「謝るつもりなら、止めてください。言葉でする謝罪は……、許しを得られる時にするものです」 娘を失った母が、いじめを放置していた同級生の母に浴びせた、強烈な一発。静かに、でも強い口調で放たれた矢は、わたしの心にもグサリと刺さりました。 「天才子役」と呼ばれた少女たちが大集合し、母親役にキム・ヒエ、隣の就職浪人生役にユ・アインという豪華なキャスティングの映画「優しい嘘」。 起きてしまった出来事を、精一杯の力で受け止めようとする母と娘の姿に、涙を誘われました。 ☆☆☆☆☆ 映画「優しい嘘」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> スーパーマーケットで働くヒョンスクは、クールな長女マンジと明るく優しい次女チョンジを女手ひとつで育てていた。ところがある日、チョンジが自ら命を絶ってしまう。残された母と姉は、悲しみに暮れながらも2人きりの生活に慣れようと努める。そんな折、チョンジの友人たちに会ったマンジは、妹が家族に隠し続けてきた学校での出来事や、親友だったファヨンの存在を知る。 監督のイ・ハンは、ユ・アインが不良高校生を演じた「ワンドゥギ」も演出しています。どちらも原作はキム・リョリョンさんの小説です。 映画「ワンドゥギ」#791   「ワンドゥギ」にも、「優しい嘘」にも、どうにもならない現実が描かれます。その中で、人はもがきながら光を見つけようとする。 特に「優しい嘘」は、学校という閉ざされた空間でのイジメがテーマなので、とても胸が痛みます。 この映画で、第50回百想芸術大賞の女性新人演技賞を受賞したキム・ヒャンギちゃんのいじらしさなんて、ハンパない。 (画像は映画.comより) ちなみに、お姉ちゃん役のコ・アソンちゃんは、ポン・ジュノ監督の「グエムル-漢江の怪物-」で、グエムルに連れ去られてしまった女の子です。 (画像はKMDbより) 最近では「サムジンカンパニー1995」にも主演して、めざましい活躍をしていますね。 映画「サムジンカンパニー1995」#745   イジメていた方の同級生ファヨンを演じるのは、キム・ユジョンちゃん。でも、彼女には「いじめていた」という感覚がないんです。 (画像はKMDbより) 「友だちのなり方が分からない」というのは、深刻な問題かも。支配でもなく、搾取でもなく、パシリでもなく、嘲りの

ドラマ「密会」#921

恋はするものじゃなく、落ちるものだ。 「若手実力派俳優」と呼ばれていたユ・アインが、20歳も年上の女性と恋に落ちる役ということで注目を集めたドラマ「密会」。 ユ・アインの相手役ヘウォンを務めたのが、キム・ヒエでした。 美しくて、謙虚で、でも内に野心を秘めている。 ユ・アイン演じるピアニストのソンジェの才能に惚れ、いつしか自分も恋してしまう。成功と豊かな生活を求めていたヘウォンが、見つけたものとは? ☆☆☆☆☆ ドラマ「密会」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> バイク便のアルバイトをしているイ・ソンジェは、蝶ネクタイを届けに音楽祭の会場へ向かう。舞台に置かれたピアノを目にし、衝動的に演奏してしまう。演奏を耳にしたカン教授に呼び出されたソンジェは、カン教授の妻であるヘウォンの指導を受けることになり……。 原作は、江國香織さんの小説『東京タワー』です。 (画像リンクです) 年齢差のあるふたりの恋愛ということで、生臭くなりそうなんだけれど、キム・ヒエの上品さが抑えになっていたように思います。 キム・ヒエが演じたヘウォンの夫役は、パク・ヒョックォン。もうこの人、気の毒なくらいに「妻」に悩まされる役ばかりなんですけど、イヤミな感じを出すのが本当にうまいんです。 (画像はJTBCより) 主人公のふたりがピアニストということもあって、バッハの重いメロディ、モーツァルトの軽やかなメロディなどなどが、効果的に使われています。パク・ジョンフンやシン・ジホら、本物のピアニストも出演。OSTがめちゃくちゃ豪華です。 (画像リンクです) オトナの事情に反発する青年と、ずっと内に秘めてきた野心と恋を天秤にかける女。 おまけに財団の不正経理といった裏事情まで出てきて、ドロッとしていきそうな展開ですが、「純愛」と呼びたくなるほど、しっとりしたストーリーです。 2014年に開催された各アワードで、脚本賞や演技賞を受賞。JTBCの歴代ドラマで最高視聴率を記録と、ユ・アインにとっても、キム・ヒエにとっても、大当たりのドラマでした。 このドラマのユ・アインは、一直線な青年でしたね。 ドラマ「密会」 JTBC  全16話(2014年) 監督:アン・パンソク 脚本:チョン・ソンジュ 出演:キム・ヒエ、ユ・アイン、パク・ヒョックォン、パク・ダミ