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自分の選択を正解にする覚悟 『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』 #112

川越の活版印刷所「三日月堂」を舞台にした物語の第3弾。 物語の最初のころ、運送店のハルさんがハブとなっていた印刷依頼は、徐々に、制作した印刷物がきっかけになっていきます。今回は、いまの境遇がコンプレックスという男性から始まって、弓子の母の友人、そして盛岡の印刷所との出会いのお話です。 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 収録されているのは4編。 ・チケットと昆布巻き ・カナコの歌 ・庭のアルバム ・川の合流する場所で 「チケットと昆布巻き」は、小さな出版社で旅行雑誌を作っている竹野が主人公。同級生の結婚式に出席して、大企業の会社員である友人と自分を比較して落ち込む……という、あるあるな悩みを抱えています。 2巻の最終話「我らの西部劇 」で制作された本をきっかけに、「三日月堂」と弓子を知ることに。活版印刷の味わいや、それに引かれる人たちの気持ちは分かると言いつつ、なんだかもやもやしちゃうわけです。 現実にも、活版印刷はちょっとしたブームになっていますが、ビジネスとして成り立つのかは別の問題ですよね。オフセット印刷よりも手間も値も張るので、ショップカードや結婚式の招待状など、「特別な逸品」に使われているという状況を踏まえて、「もっと儲けたい」という思いはないのかと悩むのです。 竹野の実家はかまぼこ屋さんで、兄が継いでいます。結婚のお祝いに渡したのも、実家で作っている昆布巻き。こんな古くさいものを作り続けるなんて……という、兄への不満、友人への嫉妬、コンプレックスでぐちゃぐちゃ。 そんなこともあって、弓子の“活版印刷への”熱意に違和感をもってしまうのです。そこに、先輩がひと言。 「全然もがかない人は嘘っぽいよね。そんなんでおもしろいのか、って思う。けど、一生自分の人生を受け入れられなかったら、それはそれで貧しいと思うんだ」 自分の生き方はこれでいいのか。 この選択は間違っていないのか。 ふとした瞬間に自分を飲み込もうとする黒い塊は、わたしの中にもあります。もがいて、あがいて、迷って、悩んで、いまの自分の役目を受け入れるしかないとも思う。でも。 わたしは、こちらでよかったのかな、と悩むより、「自分の選択を正解にする」生き方をしたいと思うのです。 それを選んだ時の自分を否定したくはないから。 この巻では、学校生活になじめないイラスト

自分の人生を生きよう 『活版印刷三日月堂: 海からの手紙』 #111

むかーしの本、活版印刷で刷られていた本をみると、活字がちょっとななめを向いていたり、行間がそろっていなかったりということがよくあります。 その点、いまのオフセット印刷はきれいですよね。何かがずれている時は、自分が何かをやらかした時だというのも、すぐ分かって。笑 川越にある小さな活版印刷所「三日月堂」の店主・弓子は、こんな風に語っています。 “オフセット印刷はほんとにきれいで、透明です。でも、文字がほんとうにすべて均一になってしまうと、なんだか物足りなくなる。” いま、活版印刷に新鮮さを感じ、見直されているのは、「写ルンです」と同じ、こんな理由なのかもしれません。 昨日に引き続き、「活版印刷三日月堂」シリーズの2冊目『海からの手紙』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂: 海からの手紙』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 1巻と同じく、連作の短編集で4編が収められています。 ・ちょうちょうの朗読会 ・あわゆきのあと ・海からの手紙 ・我らの西部劇 「ちょうちょうの朗読会」は、カルチャーセンターの朗読教室に通う女性たちが初めて朗読会に出演することになり、そのプログラムを制作するお話です。 小さな子どもでも飽きずに聞いてもらえるようにと、選ばれた本は、あまんきみこの 『車のいろは空のいろ』。 (画像リンクです) 空いろのタクシーに乗った松井さんとお客さんが、いろんな失くしものを探しながら不思議な冒険をする、というお話。「活版印刷三日月堂」シリーズとテーマが同じなんですよね。 この他の短編にも、詩や俳句、和歌が紹介されていて、自然とそちらも読みたくなってしまいました。 第2巻の話はどれもおすすめなのですが、涙なしには読めないのが「あわゆきのあと」と「我らの西部劇」です。 「我らの西部劇」は、病のために、会社を退職せざるを得なくなったおじさんが主人公。彼は、新美南吉の詩「貝殻」が銅版画と並んで刷られた豆本が、「三日月堂」で製作されたことを知り、お店を訪ねることにします。実は前店主である弓子のおじいさんと、自分の父親が懇意だったのです。 わだかまりを残したまま亡くなってしまった父の職業は、映画を専門としたフリーライターでした。父が寄稿していた雑誌「ウェスタン」の、創刊15周年記念号の版を組んでたいたはずということを思い出し、父の最後の原稿を探すことにします。 思いがけな

偶然性が生むエモさが主役 『活版印刷三日月堂』 #110

校閲の仕事では、「文字サイズ」のことを「Q数」、もしくは「Qサイズ」と呼んでいます。WordをはじめとするPCの表示は「ポイント数」ですよね。ですが、印刷現場では昔ながらの呼び方なんです。 これは、写植で使用されていた単位「1Q= 0.25mm」を「Qサイズ」と呼んでいたことの名残りだそうです。校正の7つ道具である「級数表」は、文字のサイズを確認するためのものですが、この「級」という漢字も「Q=キュー」の当て字です。 といっても、いまでは「写植」さえ、知らない人の方が多いと思います。写植=写真植字とは、文字などを印画紙やフィルムに印字して、版下(印刷用の原稿)を作るためのもの。テレビのテロップやマンガのセリフなどにも使われていました。 写植は1個の文字を使いまわすことができますが、1文字:1個の活字を組み合わせて印刷するのが「活版印刷」です。ひらがな、カタカナ、数字、ローマ字、膨大な数の漢字。それを各サイズ取り揃えるので、活版印刷には大量の「活字」が必要になります。 (出典:Wikipedia) 昔の本は、この活字を一文字ずつ組んで印刷していたのです。そのため校正赤字を修正する際は、行がずれないように文字数を変えない工夫をしてくれた作家もいたそうです(行がずれると、活字を組み直さないといけなくなるので)。 活字は写植に押され、写植はDTPに押されて、いまではコンピューターソフトでページが組まれることが多くなりました。 「活版印刷」は“趣味”のものになりつつあるのでしょうか……。 めっちゃ前置きが長くなってしまいましたが、今日からご紹介しようと思っている小説が、活版印刷所「三日月堂」を舞台としたシリーズなんです。川越の小さな印刷所を継いだ弓子と、活版印刷がつなぐご縁の物語です。 全4巻のシリーズで、順番はこちら。 第1巻:星たちの栞 第2巻:海からの手紙 第3巻:庭のアルバム 第4巻:雲の日記帳 今日は物語の導入にあたる「第1巻:星たちの栞」を紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『活版印刷三日月堂』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 話は、まもなく高校を卒業し、独立しようとしている息子の母である運送店スタッフ・ハルさんの話から始まります。女手一つで息子を育ててきて、大学生になる息子が誇らしくもあり、淋しくもあり。 なにか、“ぴったり”な贈り物をしたいと思いつつ、何がいいのか思いつ

緊張の連続が歴史の悲劇を映し出す 映画「暗殺」 #106

韓国の映画を観ていると、「日本人役は、日本人の役者に!!」と思うことがあります。まぁ、せっかく日本人をキャスティングしているのに、棒読みすぎてほとんど聞き取れないということもありましたが。 なかなか「共同制作」は難しそうですが、2002年にはウォンビンと深田恭子主演の恋愛ドラマ「friends」が両国で放送されています。 このドラマは現代劇でしたが、日本統治時代の韓国を舞台にした映画だと、当然、日本人も日本語を話す韓国人も登場することになります。この辺りのキャスティングは難しそう……。 そう感じてしまった映画がチェ・ドンフン監督の「暗殺」でした。「猟奇的な彼女」で一世を風靡したチョン・ジヒョン、「神と共に」シリーズのイ・ジョンジェ、ハ・ジョンウ主演の歴史サスペンス映画です。 ☆☆☆☆☆ 映画「暗殺」 DVD ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 独立運動に身を投じた青年ヨム・ソクチンは、要人の暗殺に失敗。かくまってもらった夫人と双子の姉妹と共に、満州へ逃れます。そして1933年、韓国臨時政府は、日本政府の要人と親日派を暗殺するため、独立軍最高のスナイパーを含むメンバーを京城(ソウル)へと送ることに。 暗殺団を招集したのは、かつての熱血青年ヨム隊長。しかし彼は、日本政府の密偵でもありました。ヨム隊長に疑いの目を向ける臨時政府のメンバー、「ハワイ・ピストル」と呼ばれる殺し屋、そして暗殺団が上海から京城へと集まり……。 まずもって、脚本が複雑すぎるので歴史を知らないとついていけないかもしれません。簡単に人物関係をまとめてみました。 <人物関係> ・独立運動軍 狙撃手 アン・オギュン:チョン・ジヒョン 速射砲 チュ・サンオク:チョ・ジヌン 爆弾職人 ファン・ドクサム:チェ・ドクムン 運動家 キム・ウォンボン:チョ・スンウ アネモネカフェ マダム:キム・ヘスク ・韓国臨時政府 隊長 ヨム・ソクチン:イ・ジョンジェ ・暗殺請負人 ハワイ・ピストル:ハ・ジョンウ 爺や:オ・ダルス ・実業家 カン・イングク:イ・ギョンヨン 主要な登場人物だけでも十分多いですね。笑 ですが、「10人の泥棒たち」など、娯楽性映画を作り続けてきたチェ・ドンフン監督なので、ちょっとした遊び心も隠れています。出演者のギャグやトリビアを探る“まとめ映画”として観るのがいいかも。 「オーシャンズ」好きな

驚異のキムチ・ウェスタン 映画「グッド・バッド・ウィアード」 #100

ひとり「ヒョンビン」祭りに一区切りつけて、今日は「キムチ・ウェスタン」をご紹介したいと思います。 「マカロニ」じゃないですよ。「キムチ・ウェスタン」です。 タランティーノ監督の最新作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」をご覧になった人ならお分かりになるかもしれません。「マカロニ・ウェスタン」と呼ばれる映画の評価は業界内では高くなかったようなんですよね。でも、観客からは支持された映画も多いんです。 そんなマカロニ・ウェスタンの中でも名作と呼ばれる映画「続・夕陽のガンマン」をベースにした韓国製西部劇が「グッド・バッド・ウィアード」です。監督のキム・ジウンは、この映画をきっかけにハリウッド進出を果たしました。 ☆☆☆☆☆ 映画「グッド・バッド・ウィアード」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 日本による朝鮮統治が行われていた1930年代。満州を走る汽車が強盗に襲われます。日本軍が保有する「宝の地図」を奪うためのこの襲撃は予定されていたものだったのですが、地図をゲットしたのはそこに居合わせたコソ泥。 そこから、コソ泥とギャングのボス、凄腕の賞金稼ぎの追いかけっこが始まります。果たして地図を手に入れるのは誰なのか? そもそも地図に示された「お宝」とは? マヌケだけど銃の腕はいいコソ泥を演じるのは、ソン・ガンホ。冷酷なギャングのボスは、イ・ビョンホン。そして西部劇の衣装に身を包んだ凄腕の賞金稼ぎは、チョン・ウソンが演じています。 ソン・ガンホとキム・ジウン監督のタッグは、「クワイエット・ファミリー」「反則王」に続く3回目。イ・ビョンホンとのタッグは「甘い人生」以来。そしてソン・ガンホとイ・ビョンホンの共演は「JSA」以来ですね。 韓国映画を代表する俳優陣と監督。この組み合わせだけでも、豪華さが分かります。で、キャスティングの狙いどおり、3人の争いから目が離せないんです。 ロープを使ったアクロバットな銃撃、飛び散る木っ端、騙し合いに裏切りと、派手な演出と計算された脚本で飽きさせません。 実はイ・ビョンホンは、この映画で初めて馬に乗ったのだとか。CGなし、スタントマンなしの、ほぼ100%のリアルアクションで撮影されたと聞くと、荒野を走るバイクとの追いかけっこに「マッドマックス 怒りのデス・ロード」を重ねてし

強烈アクション+コメディのバランス感 「コンフィデンシャル 共助」 #99

ひとり「ヒョンビン祭り」の3本目は、「心に傷を持つイケメン御曹司」役の多かったヒョンビンが、アクション俳優へと飛躍するきっかけとなった映画「コンフィデンシャル 共助」 です。 冷静で有能な北朝鮮の刑事(ヒョンビン)と、熱血漢で人情派な韓国の刑事(ユ・ヘジン)との、「南北共助捜査」を描いたアクションエンタテインメント。 ☆☆☆☆☆ 映画「コンフィデンシャル 共助」 DVD Amazonプライム ☆☆☆☆☆ ・韓国で2017年上半期No.1の興行成績。 ・カナダで開催された第21回ファンタジア国際映画祭で最優秀アクション賞を受賞。 ・北朝鮮大佐役のキム・ジュヒョクが第1回THE SEOUL AWARDSで助演男優賞を受賞。 こんな華々しい成績からも、人気のほどが分かりますよね。今年9月に日本で公開された「王宮の夜鬼」と同じ、キム・ソンフン監督作品です。 チャラ男王子の成長物語 映画「王宮の夜鬼」 #98   「コンフィデンシャル 共助」の格闘シーンには、ロシア特殊部隊の格闘術“システマ”を取り入れたそうで、トイレットペーパーが武器になったり、車にハコ乗りしてカーバトルしたりと、とにかく派手なアクションが見どころ。 キム・ソンフン監督はきっと格闘技ファンだと思います。おまけに北朝鮮のパソコンのOSは「赤い星=北朝鮮の国旗」と、芸が細かい! <あらすじ> 南北の高官級会談が急きょソウルで開催されることに。実は、北朝鮮の犯罪者がソウルに逃げ込んだとの情報があり、歴史上初となる南北共助捜査がおこなわれることになったのです。 国家情報院の依頼を受けて、北朝鮮刑事を見張ることになったカン・ジンテ。やってきた北朝鮮の刑事イム・チョルリョンは、腕っぷしは強いけれど無口な男で、単独行動したがる上に、スマホを盗聴していることが分かり、対立姿勢を深めてしまいます。 チョルリョンの真の目的は、北朝鮮で印刷されていたアメリカドルの偽札の銅版を取り戻すことと、銅版を持ち出す際に妻を殺した上司チャ・ギソンへの復讐でした。相性最悪のふたりは、協力できるのか!? ポスターを見てお分かりのとおり、ヒョンビンのバディとなるのはおっちゃん(演じているユ・ヘジン韓国の実力派俳優)です。対立相手は北朝鮮の元大佐であるキム・ジュヒョクで、こちらもおっちゃん。 家に帰れば鬼嫁はいますが、ここはあくまで物語の傍線。メイ

チャラ男王子の成長物語 映画「王宮の夜鬼」 #98

ドラマ「私の名前はキム・サムスン」で、「心に傷を持つ御曹司」を演じ、人気俳優となったヒョンビン。今年は主演映画が2本、日本で公開されています。 ひとり「ヒョンビン祭り」と称して対照的な映画を続けて観てみたら、ヒョンビンが魅力的に見える条件がなんなのか分かったんです(ような気がするんです)。 キーワードは “強い女” です。 昨日の記事では「ザ・ネゴシエーション」でヒョンビンが演じている犯罪組織のリーダーと、女性ネゴシエーター(ソン・イェジン)との対決において、“強い女”がヒョンビンの演技力を高めているという話をしました。 映画「ザ・ネゴシエーション」 https://note.com/33_33/n/nd13ccb08e6d1 2作目は「王宮の夜鬼」です。韓国では2018年に公開され、日本ではこの9月に公開が始まりました。 原題の「창궐(チョンゴル」は、”荒れ狂う”ことを意味します。韓国版ゾンビ“夜鬼(やき)”が荒れ狂う中、“人間vs.ゾンビ”、そして“人間vs.人間”の戦いを描いたパニックアクション映画です。 ☆☆☆☆☆ 映画「王宮の夜鬼」 DVD(画像リンクです) Amazonプライム配信 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 物語の舞台は朝鮮時代。謎の疫病が発生し、病に感染した「夜鬼(やき)」が暴れまわる世界です。清から帰国した王子イ・チョン(ヒョンビン)は、武官らと協力しながら王宮に向かいます。 一方、国王の側近キム・ジャジュン(チャン・ドンゴン)が、夜鬼を利用してクーデターを企んでいることが発覚。イ・チョン王子はキム・ジャジュンの暴走を止められるのか!? 王子様のヒョンビンと対立し、王位を狙うキム・ジャジュンを演じたのは、韓流四天王のひとり、チャン・ドンゴンです。濃い~顔立ちが印象的な俳優で、これまでに5回、青龍映画賞を受賞しています。韓流映画ブームの火付け役となった「友へ チング」や、「ブラザーフッド」など、多くの映画で主演を務めています。 ☆☆☆☆☆ 映画「ブラザーフッド」 DVD(画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「王宮の夜鬼」も「インサイダーズ/内部者たち」や「神と共に」シリーズ同様、韓国のウェブ漫画が原作です。 「王になんて、なりなくない。女と一緒に清に戻りた~い」って言ってるナイーブな王子様が、民と協力してゾンビに立ち向かう過程を通して王としての自分

大人は分かってくれない 映画「犬どろぼう完全計画」 #95

小型犬の中でも人気のジャックラッセルテリアは、思考能力が抜群にいいそうです。「テリア」は気性が強いものの、勇気と忠誠心に富んだ犬種。ジム・キャリー主演のコメディ「マスク」や、第84回アカデミー賞で作品賞・監督賞を受賞した「アーティスト」など、主人公の相棒として映画にもよく登場しています。 愛らしい外見と頭の良さがフルに発揮された映画がキム・ソンホ監督の「犬どろぼう完全計画」です。 映画『犬どろぼう完全計画』公式サイト 映画『犬どろぼう完全計画』公式サイト。7月18日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開   事業に失敗した父が失踪し、母と弟と共に車中生活を送る小学生のジソ。母の生活能力のなさにうんざりしたり、友だちの裕福マウンティングにウソをついたり。なんとか家族で暮らせる家を手に入れたいと願っていた時、街で犬の捜索願のチラシを見かけます。これにヒントを得て、クラスメイトと弟と一緒に「犬どろぼう完全計画」を練り上げるのです。レストランオーナーのマダムがかわいがっている愛犬を盗み出し、見つけたフリをして謝礼500万ウォンをいただいちゃおう!というお話。 原作は、アメリカでペアレンツチョイス賞などを受賞したバーバラ・オコナーのベストセラー小説。韓国で欧米の小説が実写映画化されるのは、これが初めてだそうです。 この映画で盗みのターゲットにされる愛犬「ウォーリー」が、2歳のジャックラッセルテリアなのですが、まー頭がいい! CGを使わずにすべての撮影をこなしたのだとか。とにかくこの子がかわいくて、観ていてとても楽しい映画です。 プランを記したノートや車での生活の様子など、背景がとてもていねいに作り込まれていて、ちょっとマネしたくなりました。 映画は、イソップ童話の『ウサギとカエル』の話から始まります。 ある日のウサギたちの集会。 人間や犬に常に狙われて、自分たちはいつもビクビクして暮らしている。毎日こんなに恐ろしい思いをするくらいなら、死んじゃったほうがいいんじゃないか。 そんな話し合いを経て、池に向かって走って行くウサギたち。その足音を聞いて、池のそばにいたカエルたちは一斉に逃げ出しました。 「おや? 俺たちよりももっと弱虫がいるじゃん」と気づいて、池に飛び込むのをやめちゃった。 不幸な人は、自分よりも不幸な人を見ると安心するものだという教えだそうです。

基礎の反復で壁を越える『少年の名はジルベール』 #83

かつての少女マンガといえば、フリフリでブリブリでクルクルな感じでした。そこに男同士の友情やBLを持ち込んだのが、竹宮惠子をはじめとする「大泉サロン」の漫画家たちです。 今日は少女マンガ界に革命を起こした漫画家・竹宮惠子さんの半生を綴った本『少年の名はジルベール』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『少年の名はジルベール』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 石ノ森章太郎先生に憧れ、徳島から上京した竹宮惠子と、福岡からやってきた萩尾望都、そしてふたりのブレーンとなる増山さん。練馬区大泉のアパートで始まった同居生活は、後に「大泉サロン」と呼ばれるようになります。 漫画家仲間はもちろん、漫画家になりたい人、マンガが好きな人が集まり、夜な夜な繰り広げられる議論と、ラブリーな少女マンガを描いてほしいだけの編集者とのギャップは大きくて、「僕の前に道はない 僕の後ろに道は出來る」という高村光太郎の詩を思い出してしまいます。 そしてこの時期に議論されていたことは、今もまだあちこちで解決されていないのです。世の歩みのなんと鈍いこと! 普通でも共同生活は難しいのに、漫画家が二人+サロンに集う漫画家志望の女の子たち。互いに刺激しあえるうちはいいですが、誰かに圧倒的な才能を感じてしまうと厳しくなりますよね。 たった2年でサロンは解散、ようやく読者の目を意識できた竹宮さんも迷路を脱出。本当に描きたかった、ずっと温めていた漫画を描けるようになります。 やったことは、基礎の反復です。型があってこそ「型やぶり」ができる。感性だけで描いていた表現から、基礎をやり直し、自分の表現を手に入れていく辺りは、読んでいてゾクゾクしました。 往年のマンガファンだけでなく、表現に関わる仕事をしたいと思っている方におすすめ。

字幕文化へのプライドを感じる『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』 #82

高村光太郎の詩「道程」には、一篇の詩と、第一詩集に収められているもの、ふたつのバージョンがあるそうです。どちらかというと、わたしは詩集版の長い詩の方が好きです。 “どこかに通じてる大道を僕は步いてゐるのぢやない 僕の前に道はない 僕の後ろに道は出來る 道は僕のふみしだいて來た足あとだ だから 道の最端にいつでも僕は立つてゐる 何といふ曲りくねり 迷ひまよつた道だらう 自墮落に消え滅びかけたあの道 絶望に閉ぢ込められたあの道 幼い苦惱にもみつぶされたあの道 ふり返つてみると 自分の道は戰慄に値ひする (略)” 今日は引き続き、字幕翻訳家の太田直子さんの本を紹介しようとしているのですが、字幕翻訳家は、「これをやれば必ずなれます。稼げます」という道がありません。 いまでこそ、専門学校や講座なんかがありますが、卒業してしまえば、再びワナビー。デビューの糸口をつかむことほど、難しいことはありません。高村の詩は、そんな先人たちの気負いと嘆きが詰まっているように感じます。 ロシア文学にほれ込んだ太田さんの道も、平坦ではありませんでした。エピローグに収録されている、「字幕屋Nが出来るまで」はおすすめ。 夢破れても、なんかある。その辺の土でもつかんでこい!(安藤百福の言葉)といわんばかりの気迫に、うっかりウルッとしてしまいました。 ☆☆☆☆☆ 『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』 https://amzn.to/3vKgPBU ☆☆☆☆☆ そもそもこの本を読もうと思ったのは、字幕制作の過程が細かく紹介されているからです。 ハコ書き ↓ スポッティング ↓ 翻訳 ↓ 推敲 ↓ 初号試写 こうした字幕付き映画制作の一連の流れがよく分かる構成です。縦書き・横書き原稿の写真もあり、リアルな現場が見えます。 日本の映画字幕は、世界一と言われているそう。翻訳のクオリティ、タイミングの妙、どれもがすばらしく練り上げられているんですね。 ところが、こうした技は、人間の職人が積み上げてきた、非常に繊細な技術なんです。それが、ソフトで再現できるのだろうか?と、疑問を呈されています。 わたしが仕事をしていた翻訳事務所は、まさにそのソフトを使って制作していました。笑 このソフト、めちゃくちゃ高いんです。なので、翻訳会社のトライアルを受けようとすると、「ソフト所有の有無」を聞かれることが多いです。 ソフト持っている

映画を2倍3倍楽しむ裏技『字幕屋に「、」はない』 #81

外国映画を観るとき、吹き替え版と字幕版のどちらを選びますか? わたしは字幕で観ることが多いんですよね。俳優さんの声を聞きたいという思いがあるのと、字幕の仕事の背景をちょっと知っているからです。 ビジネス翻訳、文芸翻訳、それぞれに難しさはありますが、映像翻訳の難しさは、なんといっても「文字数」です。1秒に3~4文字が基本なので、早口で話しているのか、タメがあるか、などなどで「文字通り」に訳すことができないことが多々あるのです。 「それを、誤訳って言われちゃうとツライのよね~」 という、字幕翻訳の裏側(というか嘆き)を綴った本が太田直子さんの『字幕屋に「、」はない (字幕はウラがおもしろい)』です。 ☆☆☆☆☆ 『字幕屋に「、」はない』 https://amzn.to/3qbMbjN ☆☆☆☆☆ 1本の映画には、だいたい1000個のセリフがあるそう。セリフのタイミングに合わせて字幕を入れる枠を決める作業を「ハコ割り」と呼びます。以前、わたしも字幕制作の現場で仕事をしていました。そこでは、この「ハコ割り」作業をする人と、翻訳をする人、それをチェックする人で分業し、完成させていました。 で、この「ハコ割り」が下手な人と組むと、本当に訳が入らないんです。笑 この本でも「ハコ割り」と秒数を測るプロの話が出てきますが、こういう職人技の話は、ふだん表に出てこないことだらけなので、読んでいて本当におもしろいです。 “多少いいわけがましいのですが、字幕屋は、その映画を気軽に1回だけ観るふつうのお客様を想定して字幕をつくっています。細部にとらわれすぎて字幕が技巧的になると、物語の流れがわからなくなるので、あえてさらっと流すこともあります。” アニメやファンタジーでは、熱烈なファンから「このセリフのウラの意味が伝わらない!」というクレームが入ることもあるそうです。でも、映画を観に来る人は、熱烈なファンよりも、1回だけの方が多いのです。当然、多い方に合わせることになっちゃう。 こういう、字幕制作のことを知っていると、「ああ、ここ、すごく工夫してある!」と気づくこともできます。 たとえば、こんなセリフです。 I'm not lying. 嘘じゃないわ 直訳ですが、ピッタリですよね。でも、セリフの長さが1秒以下であれば、6文字を4文字以下にしなければならないのです。 字幕翻訳家になったつ