むかーしの本、活版印刷で刷られていた本をみると、活字がちょっとななめを向いていたり、行間がそろっていなかったりということがよくあります。
その点、いまのオフセット印刷はきれいですよね。何かがずれている時は、自分が何かをやらかした時だというのも、すぐ分かって。笑
川越にある小さな活版印刷所「三日月堂」の店主・弓子は、こんな風に語っています。
いま、活版印刷に新鮮さを感じ、見直されているのは、「写ルンです」と同じ、こんな理由なのかもしれません。
昨日に引き続き、「活版印刷三日月堂」シリーズの2冊目『海からの手紙』をご紹介します。
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『活版印刷三日月堂: 海からの手紙』
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1巻と同じく、連作の短編集で4編が収められています。
・ちょうちょうの朗読会
・あわゆきのあと
・海からの手紙
・我らの西部劇
「ちょうちょうの朗読会」は、カルチャーセンターの朗読教室に通う女性たちが初めて朗読会に出演することになり、そのプログラムを制作するお話です。
小さな子どもでも飽きずに聞いてもらえるようにと、選ばれた本は、あまんきみこの 『車のいろは空のいろ』。
空いろのタクシーに乗った松井さんとお客さんが、いろんな失くしものを探しながら不思議な冒険をする、というお話。「活版印刷三日月堂」シリーズとテーマが同じなんですよね。
この他の短編にも、詩や俳句、和歌が紹介されていて、自然とそちらも読みたくなってしまいました。
第2巻の話はどれもおすすめなのですが、涙なしには読めないのが「あわゆきのあと」と「我らの西部劇」です。
「我らの西部劇」は、病のために、会社を退職せざるを得なくなったおじさんが主人公。彼は、新美南吉の詩「貝殻」が銅版画と並んで刷られた豆本が、「三日月堂」で製作されたことを知り、お店を訪ねることにします。実は前店主である弓子のおじいさんと、自分の父親が懇意だったのです。
わだかまりを残したまま亡くなってしまった父の職業は、映画を専門としたフリーライターでした。父が寄稿していた雑誌「ウェスタン」の、創刊15周年記念号の版を組んでたいたはずということを思い出し、父の最後の原稿を探すことにします。
思いがけないところから原稿は見つかるのですが、そこに書かれていたのは「スター・ウォーズ」を初めて見た時の感動と、その気持ちを息子と分かち合いたいという父の声でした。
たぶん、誰しもいろんな後悔と共に生きていて、忘れていた記憶や、言えなかった想いを抱えています。面と向かっては言えなかった父の想いが、時を経てつながる。しかも、その映画が「スター・ウォーズ」というところがにくいじゃないですか!
わたしも映画コラムを書かせてもらっていますが、いつも書きながら迷うことばかりです。
この言葉は誰かに届くのだろうか?
そもそもわたしは、届ける必要のある言葉を綴っているのだろうか?
そんな想いを抱えていた時に再読して、思わず涙していました。
お父さんの最後の原稿を読んで、主人公は自分の息子にこう言います。
「お前はお前のやりたいことをやれ。自分の人生をちゃんと生きろ」
自分の人生を生きることが一番の親孝行なんですよね。きっと。
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