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映画「ただ悪より救いたまえ」#905

ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェという“大きいもの”対決が注目された、映画「ただ悪より救いたまえ」。 ふたりのアクションはもちろん大満足なんですけど、わたし的No.1はパク・ジョンミンでした。 「チェイサー」や「哀しき獣」などの脚本を手がけたホン・ウォンチャンの、監督2作目作品です。 ☆☆☆☆☆ 映画「ただ悪より救いたまえ」 オフィシャルサイト https://tadaaku.com/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 元工作員で、凄腕の暗殺者インナムは引退前の最後の仕事として、日本のヤクザ・コレエダを殺害する。コレエダの義兄弟だった殺し屋レイは、復讐のためインナムを追い、関わった者たちを次々と手にかけていく。一方、インナムの元恋人は彼と別れた後にひそかに娘を産み、タイで暮らしていたが、誘拐された娘を救う過程で殺されてしまう。初めて娘の存在を知ったインナムは、彼女を救うためタイへ急行。そしてインナムを追うレイもまた、タイへとやって来て……。 娘が誘拐されて、追跡劇が始まる……というストーリーから、ウォンビンが主演した「アジョシ」を思い浮かべてしまいます。 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) でも、「レオン」とはちょっと違う。どちらかというと、「ジョン・ウィック」の“大運動会”の方が近いかも。 これはナイフアクションの壮絶さがなせる技でしょう。 ファン・ジョンミンとイ・ジョンジェの共演は 「新しき世界」 以来、7年ぶり。この時は、素っ頓狂な衣装にファン・ジョンミンがドギマギしたそう。 今作ではイ・ジョンジェのファッションにもご注目。なんでこんな、一目見て「チンピラ感」のある服を選ぶんでしょうね、チンピラって。 (画像はKMDbより) 娘を助けるために、日本→韓国→タイへと駆け抜けるファン・ジョンミンを支援するのは、パク・ジョンミン演じる「ユイ」。性転換手術の費用欲しさに仕事を請け負い、引っ張り回されてしまいます。 (画像は映画.comより) パク・ジョンミンの出演は秘密にされていたそうで、ポスターやティザー映像にも出てきません。 それでも、映画の中のかわいくて、臆病で、情にもろい姿は、強烈に印象に残りました。 「ユイ」には、韓国に残してきた子どもがいます。会いたいけれど、「こんな格好」の父を見たら、なんと言うか分からない。 その葛藤がと

ドラマ「D.P.―脱走兵追跡官―」#788

「韓国の男性に、サッカーと兵役時代の話は聞かない方がいいよ」 友人にそう忠告されたことがあります。どちらも、聞くとめんどくさくなるからだそう。 兵役は、韓国の成人男性に課されている“義務”ですが、20代の溌剌とした時間を閉鎖的な組織で過ごすことになるのですから、そりゃー言いたいこともあるでしょう。 スポーツ選手や芸能人にとっては、どのタイミングで入隊するかだって重要です。 ドラマ「青春の記録」で、パク・ボゴム演じる売れない俳優は、兵役について「やり残した宿題みたいなものだ」と語っていました。 “N放世代”の夢の叶え方 ドラマ「青春の記録」 #489   そんな青春を捧げなくてはいけない兵役生活をリアルに描いているのが、「D.P.―脱走兵追跡官―」です。現在、Netflixで配信されています。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「D.P.―脱走兵追跡官―」 https://www.netflix.com/title/81280917 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 兵役義務により入隊したアン・ジュンホ。壮絶なイジメを行う先輩もいれば、かばってくれる先輩もいる中で、「D.P.」と呼ばれる軍部離脱者逮捕部隊に配属されることに。最初の任務に派遣されるが、先輩はクラブで酒を飲むばかり。追っていた脱走者が自殺してしまい……。 原作は、2015年にWeb出版されたキム・ボトンの漫画『D.P.犬の日 』です。 (全編韓国語です) D.P 개의 날 - 김보통 - 드라마 - 웹툰 - 레진코믹스   「D.P.」とは、“義務”である兵役から逃げ出した人を追う係のこと。韓国のお笑い芸人であるユン・ヒョンビンは、実際に兵役時代D.P.をしていたそうで、ドラマの考証がうまいと語っています。動画は韓国語ですが、日本語の字幕が設定できます。 常に誠実で“キレイ”な役を演じることの多かったチョン・へインが、この脱走兵を追跡する係を演じています。 「どうして彼らは脱走兵になったのか」とドラマは問うのですが、痛みを持って迫ってくるのが“傍観者”であったことの罪と罰。特に、チョ・ソクポン一等兵のエピソードは、涙なしに観られない。 演じるチョ・ヒョンチョルは、「自分にできるだろうか?」と不安を感じたそう。ドラマを演出したハン・ジュニ監督は、映画「コインロッカーの女」でも難しい役柄にチョ・ヒョンチョルを起用していて、信頼も厚

ドラマ「ボイス~112の奇跡~」#737

財閥と公権力の癒着は、韓国ドラマの定番テーマといえます。 呆れるほどの手口が披露?されたり、スルリスルリと法の網をすり抜けたり。 そんな悪党どもに対して、法律ではなく私的に復讐するドラマや映画を韓国では「サイダー」と呼ぶそうです。プッハーとスカッとするってことですね。 それくらい、闇が深いのだともいえますし、庶民の権力への絶望感が強いともいえそう。 ソン・ジュンギ主演のドラマ「ヴィンチェンツォ」の最終回なんて、サイダー感特盛でしたもんね。自分で「オレは悪党だから」と言わなきゃいけないのって、どうよ?とは思いましたが……。 ドラマ「ヴィンチェンツォ」#667   数あるサイダードラマの中でも、歴代最高に残酷なエンディングと呼ばれたドラマが、韓国では2017年に放送された「ボイス~112の奇跡~」だそう。現在、Netflixなどで配信されています。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「ボイス~112の奇跡~」 https://www.netflix.com/title/80987095 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> ソンウン地方警察の刑事ジニョクは、妻が殺される直前、112通報センターに助けを求めていたことを知る。容疑者が逮捕されるが、通報センターのグォンジュが声が違うと証言したため、釈放されてしまう。しかしグォンジュの父もまた、同じ日に殺されていた……。 シーズン1は、112通報センターに「ゴールデンタイム」チームが作られるところから始まります。「112番」は、日本の「110番」にあたります。 韓国に旅行する際、覚えておくといい電話番号はふたつ。 119番:消防と救急 112番:警察署 「110番」は現在、虐待相談に使われているのだそう。 イタズラ電話も多い通報センターが舞台とは、斬新というか、地味目の設定かと思いきや、バリバリの血みどろでした……。 残虐な方法で妻を殺され、自暴自棄になった刑事ジニョクを、チャン・ヒョクが演じています。 (画像はNetflixより) “初めての”刑事役という紹介を読んで、そうだっけ?と思ったくらい、なにかを「探っている」役柄が多かったように思います。 「根の深い木」は、時代劇だから“刑事”にカウントされないのかしら。 ハングル創製をめぐるミステリー ドラマ「根の深い木」 #424   ゴールデンタイムチームを立ち上げ、112申告センターを組織する司令塔カ

映画「潜入」#724

韓国版「仁義なき戦い」は、激しく仁義がなかった! 日本未公開映画だったファン・ジョンミンとリュ・スンボム主演の映画「潜入」が公開されました。韓国では2006年に上映されていて、172万人の観客を動員。この年の興行収入でも13位につけています。 ☆☆☆☆☆ 映画「潜入」 https://amzn.to/3AwfphV ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 1998年、IMF経済危機によって大きな打撃をうけた釜山で、麻薬密売人サンドは記録的な利益を上げていた。一方、麻薬捜査を担当する刑事ジングァンは、4年前に相棒が麻薬王チャン・チョルに殺されたことから「釜山から麻薬を一掃する」と執念を燃やしていた。サンドの弱みを握ったジングァンは、サンドを組織のトップに接触させようとする。しかしサンドもまた、その状況を利用して麻薬密売の頂点に立とうと企み……。 1997年に韓国を飲み込んだアジアの通貨危機。経済が落ち込んだ韓国では、自殺率が急上昇しました。2004年にはOECD加盟国で1位となり、以降も高水準となっているそう。 映画は、そんな破れかぶれでどん底状態だった、1998年の釜山が舞台です。 ある程度の年齢以上の人にとって、釜山と聞けばチョー・ヨンピルの「釜山港へ帰れ」が思い浮かぶはず。映画の挿入歌としても使われています。 歌だけだとあんまりピンとこないかもしれませんが、釜山の方言って、とても難しいのです……。わたしはソウルの大学で韓国語を学んだので、釜山や慶州に行った時はヒアリングさえできずに苦労したんですよね。ある意味、ショックでもありました。まだまだやな……と思って。 クァク・キョンテク監督の「友へ チング」は、まさに釜山が舞台の青春映画です。日本で公開された際、とても苦労したと字幕翻訳を手がけた根本理恵さんが語っておられました。やっぱ、プロでも難しいのかと思ったのですけれど。 そんな、釜山が舞台のチンピラ映画です。 チェ・ホ監督は、深作欣二監督のファンなのです。 東映やくざ映画路線の大爆走!!! (画像は映画.comより) やさぐれた刑事を演じるファン・ジョンミンは、まだプリッと若いし、チンピラの麻薬密売人を演じるリュ・スンボムなんて、もっとプリッと若い。 ちょっと間延びしたように聞こえる釜山訛りを駆使して、激戦を繰り広げています。 釜山にも近い馬山出身のファン・ジョンミンが、釜山

最強アサシン少女の誕生を描くバイオレンスアクション 映画「The Witch 魔女」 #493

東京の新宿と、大阪の心斎橋にある映画館「シネマート」では、劇場発信型映画祭「のむらコレクション」が定期的に開催されています。番組編成担当・野村さんがセレクトした映画ということで、タイトルはこれ。通称「のむコレ」です。 ドラマ「梨泰院クラス」を観た時、この子、だれだっけ~?と思ったのが、イスを演じたキム・ダミでした。2年前の「のむコレ」で観た映画「The Witch 魔女」の主演の女性か!!!と気づいたのは、しばらく経ってから。それくらい、全然印象が違いました。「のむコレ」は「これから」の俳優を見つけるのにもぴったりかもしれません。 ☆☆☆☆☆ 映画「The Witch 魔女」 https://amzn.to/3z37JTG ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 特殊な施設で育てられ、8歳の時に逃げ出したジャユン。記憶を失った彼女は、助けてくれた酪農家の娘として暮らすことに。10数年後、頭に異変を感じるようになったジャユンは、手術費用と経済状況の厳しい養父母のため、賞金目当てでオーディションを受けることを決意。しかしテレビ番組であるマジックを披露したことから、謎の男たちに追われる身となってしまう。 最強アサシン少女の戦いを描き、韓国で大ヒットを記録したバイオレンスアクション映画です。 「LUCY/ルーシー」や「ニキータ」にも引けを取らないほどの激しいアクションをこなしたのは、キム・ダミ。「梨泰院クラス」では一途な女性を演じていましたが、こちらでは普通の女子高生役。だけど、まったく表情を変えずにバスバスと敵を打ち倒していくんです。スクリーンデビュー2作目で主演、そして大ヒットと、ついてる役者ですね。 (画像はKMDbより) パク・フンジョン監督は、「映画を漫画のように演出すること」が目標なのだそう。ファン・ジョンミン主演の「新しき世界」で監督デビューする前は、リュ・スンワン監督のもとで「生き残るための3つの取引」の脚本を書いたりしていました。 映画「新しき世界」#293   非エリートの悲哀を描いたサスペンス 映画「生き残るための3つの取引」 #269   人間の内面にある悪を、拳で打開していくところが作品の特徴といえるかもしれません。でもご本人のインタビューによると、「平和主義者なので、血を見るのは好きじゃない」とのこと。ほんまかいな。 「The Witch 魔女」は3部作とし

人生を狂わすひき逃げ事件が暴き出したもの 映画「悪の偶像」 #374

甘い×しょっぱいは、無限ループにはまる禁断の組み合わせかもしれません。 ポテチ×チョコ×ポテチとか。 あんこ×バター×あんことか。 そんな禁断の組み合わせを映画で実現したのが映画「悪の偶像」です。 ハン・ソッキュ×ソル・ギョングという、トップスターふたりによる競演に、期待しかない映画を観に行って、期待通りのサスペンスな展開にゾクゾク。そこにオリャーっと切り込んできたチョン・ウヒの迫力。 俳優たちの際だった演技をまとめるイ・スジン監督の演出力に、また新しい才能が来たなー!と感じました。 ☆☆☆☆☆ 映画「悪の偶像」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 息子のヨハンが飲酒運転で人をひき殺してしまったことを知った政治家のミョンヒは、事件をもみ消そうとする。被害者の父親であるジュンシクは、被害者の新妻であるリョナが行方不明であることに不信を持つ。リョナの行方を追ううちに彼女が妊娠していることを知り、なんとかして捜し出そうとするのだが……。 2000年に公開されてヒットした「シュリ」は、日本での韓流ブームを開くきっかけになった映画といわれています。 その映画に主演し、日本でも人気スターとなったハン・ソッキュ。ヤクザな男から情報員まで、幅広い役柄を演じつつ、一貫して「善人」であろうとしていたように感じます。 そしてソル・ギョング。イ・チャンドン監督の社会派ドラマ「ペパーミント・キャンディー」で注目され、そのイ・チャンドン監督が第59回ベネチア国際映画祭で監督賞などを受賞した「オアシス」、「シルミド」などで演技派俳優としての地位を確立しました。 「殺人者の記憶法」もそうでしたが、「社会の落後者」がとても似合う俳優です。そんな言い方あるかよと思いますけど、実際そんな役ばかり演じています。 「善人」ハン・ソッキュを追い詰める、「社会の落後者」ソル・ギョング。ふたりは加害者の父と被害者の父として対立します。 ソル・ギョング演じるジュンシクの息子は精神障害を持っていて、父親がひとりで面倒を見ていました。息子の望むものはなんでも叶えてあげようとする父親なんですよね。 彼が風俗店で働くリョナを気に入ったため、結婚させたり。思春期の頃の、ちょっと衝撃的な親子関係について語る演説が映画の冒頭に流れ、のっけから持っていかれてしまいまし

血と暴力のノワール劇 映画「チェイサー」 #334

ひとりの監督と、ひとりの俳優との出会いが、運命を変える。 そんな映画に出会うと、震えちゃいます。 映画「チェイサー」は、ナ・ホンジン監督にとっては長編デビュー作、キム・ユンソクにとっては初の主演作です。韓国のアカデミー賞と呼ばれる大鐘賞で最優秀作品賞などを受賞。キム・ユンソクも主演男優賞に輝き、ふたりともに、その後の映画人生が大きく変わる、「運命の映画」となりました。 ☆☆☆☆☆ 映画「チェイサー」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 元刑事のジュンホが経営するデリヘル店から、女たちが相次いで失踪を遂げる。やがて店の客だった青年ヨンミンが容疑者として逮捕されるが、証拠不十分で釈放されてしまい……。 「ユ・ヨンチョル連続殺人事件」と呼ばれている事件を元に映画化。韓国映画らしい、血と暴力のノワール劇です。 ナ・ホンジン監督は漫画を読むのも描くのも好きらしく、映画をつくるようになったきっかけは「頭の中に漫画的なイメージが浮かんで、それを形にした」と語っています。 そのせいか、映画制作において、コンテ作業と編集に異様な執着を見せることで知られています。一説には、韓国の商業監督の中で、編集とリズム感に対する感覚が最も優れた監督の中のひとりと言われているそうです。 元刑事のジュンホを演じているのが、キム・ユンソク。風邪気味だから休みたいと言っている女性をムリに働かせるあたり、前半は血も涙もない冷酷な経営者に見えるんですよね。でも、元刑事の勘から様子がおかしことに気づいてからは、女性たちを取り戻すため、執拗に犯人を追います。 容疑者となったヨンミンを演じるのは、ハ・ジョンウ。これまでの「好青年」感を活かした演技から一転、後半では限りなく残虐なサイコパスの顔に変貌します。コワイ。 (画像はKMDbより) 刑事を辞めてデリヘルの会社をやっている時点で、キム・ユンソク演じるジュンホは、かなりの転落人生を歩んでいる人物。その、モサッとした、人生に疲れている感じがぴったりなんですよね。 一方で、犯人を追う目つきの鋭さには震え上がります。 (画像はKMDbより) 人生終わったかのようなくたびれた中年。いかにも誠実そうでおとなしそうな好青年。キム・ユンソクとハ・ジョンウというキャスティングを最大限に活かした演出だなと感じました。 これまでそれほど大きな役を演

嘘つき男×粘着刑事の史上最高にムカつく対決 映画「暗数殺人」 #333

最近の韓国映画は「当たり」が多い。その中でも、ど真ん中におもしろかった映画がキム・ユンソク×チュ・ジフンの「暗数殺人」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「暗数殺人」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 実際に起きた連続殺人事件をモチーフにした刑事ものです。とはいえ、ドンパチシーンはなく、刑事と容疑者の対話劇なんです。 「刑事」といえば、粘着質。 そう考えてしまうくらい、映画やドラマに登場する刑事はあきらめることを知りません。でも、2パターンあるかなと思うんです。 アメリカのドラマ「刑事コロンボ」や、イギリスのドラマ「SHERLOCK」、三谷幸喜が脚本を担当した「古畑任三郎」などでは、犯人逮捕よりも、謎を解くこと自体が目的に見えますよね。これは刑事の名前がタイトルとなるドラマの特徴かもしれません。 一方で、暴走特急タイプもいます。映画「逃亡者」で超が付くほどの粘着質な捜査官を演じたトミー・リー・ジョーンズは、この役でアカデミー助演男優賞を受賞しています。こちらの方が、「刑事ドラマを観た!」という満足感は高い気がするんですよね。 よれよれのトレンチコートを翻して、妻のグチを言いながらハンバーガーを頬張る刑事。 これがわたしの中のイメージでした。 でも、こうした刑事ドラマの類型にあてはめられないんです。「暗数殺人」でキム・ユンソクが演じるキム・ヒョンミン刑事は。粘着質の暴走特急タイプではありますが、なんと、「お金持ち」なんです! <あらすじ> 恋人を殺害して逮捕されたカン・テオから「全部で7人殺した」と告白された刑事キム・ヒョンミン。証拠はなく、「嘘つき野郎」で知られるテオの言葉を信じる者はいません。キム刑事だけがテオの言葉を信じ、捜査を進めると、証言通りの場所で遺体を発見することに。しかし、テオは証言を覆し……。 映画のタイトルにある「暗数」とは、統計学の用語で、実際の数量と、統計上の数量の差を示す言葉だそうです。映画では、行方不明になった人の数と、実際に発見された遺体の差を表しています。 この差を埋めるのが、テオの言葉なのではないかと疑うのです。 ジャンキーのたれ込み屋に、テオと会うようにセッティングされたキム刑事。その直後、テオが逮捕されてしまったので、ふたりが会うのは拘置所の中になります。 情報を小出しにしつつ、かっこいいサングラスをねだるテオ。 「情

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が

非エリートの悲哀を描いたサスペンス 映画「生き残るための3つの取引」 #269

「お前は今から犯人になるんだ」 そんな信じられない言葉で犯人にされてしまうなんて。でっち上げの逮捕は検察と警察の対立を生み、血みどろの対決に発展していくという映画「生き残るための3つの取引」。 善良で誠実で正直な人間がまったく出てこないピカレスク映画です。韓国では2010年に公開され、その年の青龍映画賞で最優秀作品賞を受賞しました。青龍映画賞とは、韓国最大の映画祭で、最も権威のある映画賞なんだそう。 ☆☆☆☆☆ 映画「生き残るための3つの取引」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 度重なる失態で世間から批判を浴びていた警察。そこに連続殺人事件が発生します。大統領から今回こそ事件を解決するよう厳命されますが、有力容疑者を誤って射殺してしまいます。上層部からこの事実のもみ消しを命じられたのは、万年班長の刑事チョルギ。ヤクザに証拠づくりを頼み、偽の容疑者を仕立てあげますが……。 映画を監督したリュ・スンワン作品といえば、「アクション」がキーワードでした。でも、この映画ではほとんどアクションシーンはなし。よく練られた脚本と、俳優の好演で話を引っ張っていきます。 主人公のチョルギを演じているのがファン・ジョンミン。主演映画に外れなしと言われています。シリアスからお笑いまで、演じる役柄が幅広いんですよね。 (画像は映画.comより) ひょうきん者にも、はにかみ屋さんにもなれるし、凄みを利かせたり、軽やかにステップを踏んだり。出演作ごとに違うファン・ジョンミン。「生き残るための3つの取引」では、口数は少ないけれど、チームの仲間を大切にしている刑事です。 怒った時ほど笑う顔が怖い。 上司が自分を「捨て駒」にしようとしていることにも気づいている。でも、ヤクザに足下を見られちゃって、身動きがとれなくなってしまう。 この映画は非エリートの悲哀を描いたサスペンスなんです。 上司の行動に不信感を抱いて、助けようと奔走するのがマ・ドンソク。この頃は二回りくらい痩せて見えますね。 (画像は映画.comより) ほかにも、リュ・スンボム、ユ・へジンら、芸達者な役者がそろっています。 ファン・ジョンミン演じるチョルギは警察大出身ではないため、組織の中で後ろ盾を持っていません。だからこそ、失敗したら切り捨てることができる「シッポ」要因として