最近の韓国映画は「当たり」が多い。その中でも、ど真ん中におもしろかった映画がキム・ユンソク×チュ・ジフンの「暗数殺人」です。
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映画「暗数殺人」
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実際に起きた連続殺人事件をモチーフにした刑事ものです。とはいえ、ドンパチシーンはなく、刑事と容疑者の対話劇なんです。
「刑事」といえば、粘着質。
そう考えてしまうくらい、映画やドラマに登場する刑事はあきらめることを知りません。でも、2パターンあるかなと思うんです。
アメリカのドラマ「刑事コロンボ」や、イギリスのドラマ「SHERLOCK」、三谷幸喜が脚本を担当した「古畑任三郎」などでは、犯人逮捕よりも、謎を解くこと自体が目的に見えますよね。これは刑事の名前がタイトルとなるドラマの特徴かもしれません。
一方で、暴走特急タイプもいます。映画「逃亡者」で超が付くほどの粘着質な捜査官を演じたトミー・リー・ジョーンズは、この役でアカデミー助演男優賞を受賞しています。こちらの方が、「刑事ドラマを観た!」という満足感は高い気がするんですよね。
よれよれのトレンチコートを翻して、妻のグチを言いながらハンバーガーを頬張る刑事。
これがわたしの中のイメージでした。
でも、こうした刑事ドラマの類型にあてはめられないんです。「暗数殺人」でキム・ユンソクが演じるキム・ヒョンミン刑事は。粘着質の暴走特急タイプではありますが、なんと、「お金持ち」なんです!
恋人を殺害して逮捕されたカン・テオから「全部で7人殺した」と告白された刑事キム・ヒョンミン。証拠はなく、「嘘つき野郎」で知られるテオの言葉を信じる者はいません。キム刑事だけがテオの言葉を信じ、捜査を進めると、証言通りの場所で遺体を発見することに。しかし、テオは証言を覆し……。
映画のタイトルにある「暗数」とは、統計学の用語で、実際の数量と、統計上の数量の差を示す言葉だそうです。映画では、行方不明になった人の数と、実際に発見された遺体の差を表しています。
この差を埋めるのが、テオの言葉なのではないかと疑うのです。
ジャンキーのたれ込み屋に、テオと会うようにセッティングされたキム刑事。その直後、テオが逮捕されてしまったので、ふたりが会うのは拘置所の中になります。
情報を小出しにしつつ、かっこいいサングラスをねだるテオ。
「情報がほしけりゃ、コレよこせ」だなんて、キャバクラか!といった感じで、キム刑事はテオにお金をむしりとられていくのです。実家が事業家でお金に余裕があるとのことで、乗っている車も高級車。
こんな刑事ありか!?と思いました。
狡猾で、嘘つきで、とにかく「ムカつく」以外の言葉が浮かんでこないテオを演じるのは、チュ・ジフン。
「神と共に」シリーズの悲しい過去を持つ死に神とも、「キングダム」でたったひとり権力とゾンビに立ち向かう王子とも違う。「工作」で見せた冷徹さが、人をもてあそぶ道具となって膨れ上がっているかのような姿なんです。
とにかく天才的に人をムカつかせるんです、この男。
テオの目的はなんなのか。はたして彼は本当に「殺人犯」なのか。観ていて混乱するくらい、テオの変貌が激しいです。
お金持ちの刑事に吸い付く、寄生虫みたい。これだけの演技をやりきったチュ・ジフン。以前はどうしても「王子様キャラ」でしたが、成長したんだなーと、ちょっと感激しました。
一方、テオに翻弄されっぱなしのキム刑事は、もちろん犯人を逮捕したいと思っているのでしょうけれど、ちょっと違う印象も受けるんですよね。彼には生きる目的も、刑事としての熱意も見当たらないから。
ひき逃げ事件で妻を失って以来、淡々と生きてきたキム刑事。それがおいしそうな「謎」をぶら下げられて、止まれなくなってしまったかのよう。その姿は、「謎」を前にうれしそうになるコロンボ刑事や古畑任三郎とも、ちょっと違うのです。
危なっかしいのに、せつない。
この先にあるのは破滅かもしれない。それでも謎を追究していく。目指すのは、犯人逮捕なのか、自身の後悔から抜け出すことなのか。
キム刑事を演じるキム・ユンソクを10倍楽しむ方法としておすすめなのが、映画「チェイサー」を観ておくことです。
こちらの映画ではデリヘル会社を経営する元刑事を演じています。女たちが相次いで失踪したことから、犯人を執拗に追う役柄です。なぜキム刑事は生きる力を失っているのか、「暗数殺人」の前日譚のように感じました。
近年の韓国映画らしい、どんどん引き込まれてしまう脚本、二大スターの対決に目が離せなくなりますよ。
先週からぼちぼちと映画館の営業が始まり、「暗数殺人」の上映も再開しました。ムカつく男・テオを演じるチュ・ジフンの怪演、キム刑事を演じるキム・ユンソクの粘着ぶりを、ぜひ。
また、キム・ユンソクが監督デビューを果たした映画「未成年」も公開が始まりました。こちらは近日中に観に行く予定!
映画「暗数殺人」 110分(2019年)
監督:キム・テギュン
脚本:キム・テギュン、クァク・キョンテク
出演:キム・ユンソク、チュ・ジフン、チン・ソンギュ、チョン・ジョンジュン、ホ・ジン
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