「自身を変えるような運命の一本に出会えることは、幸せなこと」 映画研究者の伊藤弘了さんは、著書の『仕事と人生に効く教養としての映画』の中でそう語っておられました。 『仕事と人生に効く教養としての映画』#996 わたしの場合、映画は「運命の一本」がいっぱいありすぎなんですが、小説なら絶対これ!というのがあります。 それが、新井素子さんの『星へ行く船』。 ひとりの女性の成長物語としても、かっこいい大人のあり方としても、大きな刺激を受けたシリーズです。 新井素子さんの小説を通して、SFやハードボイルドという分野を知り、ファンタジーや世界文学全集みたいな本ばかり読んでいたわたしは、一気に世界が広がりました。 ☆☆☆☆☆ 『星へ行く船』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「マンガ『ルパン三世』の活字版を書きたかったんです」とインタビューで語っておられるとおり、独特の文体を活かした小説で、ライトノベルの草分け的存在として知られている新井素子さん。 高校2年のときに第1回奇想天外SF新人賞に応募して、星新一に見出され、デビューを飾ります。 あの、星新一に、ですよ!? 初期の頃の作品は、「幼稚園のときから小説家になりたい」と考えていた新井素子さんの脳内を再現するような、ハチャメチャで、ドタバタで、それでいてヒューマニズムにあふれるものでした。 デビュー2作目となった『星へ行く船』は、19歳の森村あゆみが、家出ついでに地球を捨てちゃおう……と宇宙船に乗り込むところから始まります。 この時代、人口過多となった地球は積極的に他の星への移住を勧めていて、とりあえず最初に開拓され、住環境が整っていそうな火星に向かうことにする。 イーロン・マスクに聞かせてあげたいですね……。 1981年に集英社のコバルト文庫から発行された『星へ行く船』。評判がよかったので続編を書くことが決まり、物語はシリーズ化されることに。全5巻のシリーズは、2016年に「新装・完全版」が発売されました。 (画像はAmazonより) 宇宙船の個室を予約したはずなのに、見知らぬオッサンと相部屋となり、やっかいごとに巻き込まれ、事件を見事に解決してしまう、あゆみちゃん。 ここで知り合ったのが、山崎太一郎という男性です。 実は「星へ行く船」シリーズは、新井素子さんの脳内に太一郎さんのセリフがフッと浮かんで出来上がったものなんです