「才能」があることは、幸せなことなのか、迫害の理由となるのか。
恩田陸さんの小説「常野物語」シリーズには、「常野(とこの)」から来たという不思議な力を持った一族が登場します。
膨大な書物を暗記するちからや、遠くの出来事を知るちからを持ち、一人でいてもお互いにつながりを感じることができるのだそう。
生まれ持った能力でもあるし、そこに磨きをかけた才能ともいえるちからは、でも、持たざる者にとっては畏怖の対象です。
シリーズ第1作目の『光の帝国 常野物語』は、幼いきょうだいや会社員たちが登場。バラバラの場所で生きる人々の“ちから”の正体が、徐々に明らかになっていく……という連作短編集です。
☆☆☆☆☆
『光の帝国 常野物語』
☆☆☆☆☆
恩田陸さんの小説は、青春×ホラーな気がしているのですけれど、「常野物語」シリーズもやはりその系譜にあります。
ただ、タイトルが「光」で「帝国」なんですよ。
「スター・ウォーズ」か、『銀河英雄伝説』かってくらいの壮大さ。実際には、もっと日本土着の香りがする物語でした。
常野一族は、総じて穏やかで知的な人々です。ただし、一族特有の能力を受け入れられるかどうかは別の話。迫害や軍部に狙われた過去から、一族の歴史が「平和」なものではなかったことが分かってきます。
それでも。
常野の人は、自分が“ひとり”じゃないことを知っている。
このあたりが、恩田さんが14年も書き続けてきたという『愚かな薔薇』とのつながりを感じさせました。
「ひとりじゃない」って、とても勇気づけられるものです。だから優しくいられるのかもしれません。周囲の人にも、自分にも。
不穏な空気を感じさせつつ、とても心温まる物語です。
シリーズ2作目は『蒲公英草紙』。
そして常野一族最強と呼ばれたちからを持つ父の影を追う、第3弾が『エンド・ゲーム』。
わたしは長編小説が好きなので、実は『エンド・ゲーム』が一番読み応えがありました。「光」から始まったシリーズは、ここへ来て「己」との闘いへと変わっていきます。そのダークさが好みでした。
映画「マトリックス」を彷彿させる(混乱させられる?)世界観。続きは……いつになるんだろう。
コメント
コメントを投稿