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『仕事と人生に効く教養としての映画』#996

大学時代、「芸術論」の講義をとっていて、小津安二郎の映画を観てくるようにという宿題が出たことがありました。 なんの映画を観たのかは忘れてしまったけれど、翌週の講義で先生が「感想は?」と聞いたとき、見事にシーーンとしていたことは覚えています。 白黒で地味な話であり、アクロバティックな展開も、転がって笑いたくなるようなオチもない。いったい何がそんなに評価されているのか? ガックリしながら映画の見方を説明する先生。『仕事と人生に効く教養としての映画』を読んでいて、その背中を思い出しました。 ☆☆☆☆☆ 『仕事と人生に効く教養としての映画』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 著者の伊藤弘了さんは、映画研究者で批評家という方です。映画図書館で資料整理の仕事をされているそうなので、膨大なデータが頭の中にもあるのだと思われます。 そんな方が、ひとつひとつ解説してくれるのです。 「トイ・ストーリー」に込められたフロンティア精神。 「東京物語」の微妙すぎるカメラワーク。 などなど、超細かくて、10回以上見てないと気付かないんでは!?な世界です。 映画は監督が脚本に込めた想いを表現するとともに、過去の膨大な作品から数々の場面が引用され、画が作られていきます。 たとえば小津映画は、ハリウッド式のイマジナリー・ライン(2人の対話者の間を結ぶ仮想の線)を小津流にバージョンアップしました。小津としてオリジナリティを確立したから、評価を受けているわけです。 大学卒業後、わたしは演技の仕事をしていたので、ここでもアメリカ人監督から映画の見方や、演技の見方を教わりました。 でも。 これって。 ホントーーに微妙すぎて、伝わる人にしか伝わらないんでは、と感じていたのですよね、当時は。芸術論の先生の熱弁や、アメリカ人監督のこだわりが、分かってきたのは最近のことです。 微妙な演技の積み重ねと、映像のマジック、そして編集の技術が名作を生んでいるのだと。 ただ、さまざまに施される制作側の「苦労」は1mmも外から見えません。見えたら逆に、興ざめですよね。それが映画を観ることを難しくしているのかなーなんて思ったりもしつつ、もうひとつ感じたのが、「語ること」への意識でした。 自身を変えるような運命の一本に出会えることは、幸せなことと、伊藤さんは語っておられます。そして、アウトプットするなら、そうした映画の作り手たちにエ

『批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く』#994

「読書」は、高尚な趣味なのでしょうか。 以前、「オススメの本はこれ!」としたツイートが、「ビジネス書ばっかりやんか」と批判されていましたよね。気の毒……。 これは「本」というくくりが、大きすぎたのではないかと思います。 「本」とひと言でいっても、小説もあればエッセイもあるし、ミステリーもSFも恋愛ものもある。古典が好きな人もいれば、ハウツー本しか読まない人もいるでしょう。 その中で、「アレが上で、コレが下」とはいえないし、人は結局、自分が読んだことがある本に反応するのだなーと毎日書いていて感じます。 『読んでいない本について堂々と語る方法』という本では、著者のピエール・バイヤールが、「読書が高尚な行為だというのは大いなる誤解」と指摘していました。 『読んでいない本について堂々と語る方法』#992   どんな本を読んだにせよ、その本について語ることは、「書評」と呼ばれたり、「レビュー」と呼ばれたり、「感想文」と呼ばれたりしています。 こちらに関しても「どう違うねん」という気がしています。 三省堂の「ことばのコラム」によると、「評論」よりも「レビュー」と表記した方が、堅苦しくなさそうな雰囲気があるのだそう。 第18回 レビュー | 10分でわかるカタカナ語(三省堂編修所) | 三省堂 ことばのコラム   「レビュー」は、Amazonなどの「商品レビュー:使ってみての使い勝手や感想」という場で使われていることを考えると、なるほどカジュアルに書き込みやすいのかもしれません。 とはいえ、どちらも目的としては「これよかったから、ぜひ!!!」と誘うことです。まぁ、逆の場合もあるけど。 『批評の教室』の著者・北村紗衣さんは、「作品に触れて何か思考が動き、漠然とした感想以上のものが欲しい、もう少し深く作品を理解したいと思った時に、思考をまとめてくれる」ものが「批評」である、とされています。 批評のための3ステップ「精読する、分析する、書く」について解説した『批評の教室』。めちゃくちゃ勉強になりました。 ☆☆☆☆☆ 『批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 批評の役割としては、大きくふたつ。 ・解釈:作品の中からよく分からない隠れた意味を引き出す ・価値づけ:その作品の位置づけや質を判断する このふたつは、なんじゃかんじゃと言葉を尽くして

『竹内政明の「編集手帳」傑作選』#981

いまの流行と、自分の理想。そのギャップにずっと悩んできました。 「#1000日チャレンジ」を始める前、通っていたライター講座で、何度か講師の方から(参加者からも)言われた言葉がありました。 「自分が好きなライターの文章を“写経”するといいですよ」 やりました。何人ものライターさんの、何本もの記事。でもぜんぜんしっくりこない。好きなライターさんだけでなく、人気のライターさん、バズっている記事も“写経”してみましたが、やっぱり何かが腑に落ちない。 悩み続けて、やっと原因が分かりました。 ウェブで読まれるコラムと、わたしが理想とするコラムは、構造が違うことに。 「紙」で育った世代のせいか、わたしは「起承転結」のある文章が好きです。中でも「起」から「転」への角度が急であるほど、「おおっ!」という思いが強くなる。すべての流れを受ける「結」には、ジグソーパズルの最後のピースがピタッとはまるような快感がある。 読売新聞の「編集手帳」を担当された竹内政明さんのコラムは、ドンピシャでわたしの理想でした。 ☆☆☆☆☆ 『竹内政明の「編集手帳」傑作選』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 竹内さんは、読売新聞社に入社後、財政、金融などを担当して、1998年から論説委員を務められました。 新聞社などでよく見る肩書きの「論説委員」。似たものに「編集委員」がありますよね。 専門の分野のコラムや記事を書くのが「編集委員」、社説などで社の論調を書くのが「論説委員」なのだそう。 なんかすごそう……な肩書きですが、竹内さんのコラムは徹底した「下から目線」なんです。 “私の書くコラムというのはよくへそ曲がりだといわれまして、大体電報と一緒で、勝った人にそっけないんですね。負けた人に手厚い。” たとえばソチ・オリンピックの期間、「勝った」選手を取り上げたのは2回しかなかったと綴っておられます。 歌舞伎に落語、相撲や童謡など、時には町で耳にした子どもの言い間違いから話が始まり、時事問題へとつながっていく。 深い教養があるからこそ、こうした「起」を書き出せるのでしょうね。 構成の練り具合、言葉の選び方、目線のやさしさに惚れてしまい、読売新聞は読んでないけど、竹内さんのことはずっと尊敬しているという、おかしな具合になっています。 ただ、会社の後輩(20代女性)3人に『「編集手帳」傑作選』の1本を読んでもらったところ

『敬語の疑問が全て解ける本』#900

敬語の調べ物をしていて、何気なく開いた本が、狂気の本だった……。いい意味で、です。 わたしの「4月」は新人研修の日々でした。メールの書き方や、パワーポイントの使い方を教えるのは楽しいのですが、ひとつ、とても気が重い講義があります。 敬語のおけいこの時間です。 いまの時代、フラットな関係が支持されているのだから、いまさら敬語なんていらないんじゃないだろうか。 そんな思いを抱えつつ、それでも「必要な時の方が多いから」という要望を受けて研修を続けてきました。 「謙譲語」とか「尊敬語」とか、そんな分類はどうでもいい。自分の言動に使うのか、相手の言動に使うのかだけ覚えて!と、よく使うワードで練習します。 まぁ、研修ならこれでいいけど。 校正の場合は、指摘を出す際に「根拠」がいるため、いま四苦八苦しています……。 ずいぶん前に買ってあった北舘誠一郎さんの『敬語の疑問が全て解ける本』を開いてみたら、著者の経歴に、「公認会計士」とありました。 公認会計士さんが、敬語の本!? なんでも30歳にして会計士試験に挑戦し、合格。会計ソフトの開発会社に勤務していたのに、今度は50歳で日本語研究の道に進まれたそう。 年中無休、一日平均10時間以上を研究にあて、完成させた本が『敬語の疑問が全て解ける本』なのです。狂気や……。 ☆☆☆☆☆ 『敬語の疑問が全て解ける本』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「これって正しい敬語の使い方なんだっけ?」 それを確認したいとき。一番やってはいけないことは、ネット検索です。 ホントーーーーーーーーーーに、ダメ。ぜったい。 そう言いたくなるくらい、ネットの情報、特に就職関連サイトの「敬語指南」記事は当てにならなかったです。 「○○という言い方は間違っています。△△と言い換えましょう」 とある記事の、「△△」が間違ってるよ……ということが多々あります。こういうサイトを見て面接の準備をした人たちが、過剰な敬語を使っているんだな、と感じることも。 ある意味、とても残念な「広告置き場」としての記事にだまされはいけません、と言いたい。珍しく、こんなネガティブなことを言ってしまうくらい、今回の調べ物が大変だったのです……。 北舘さんの『敬語の疑問が全て解ける本』はというと、大量の関連本や国語審議会の文献を参考に、「敬語」の用法がまとめてあります。とくに、敬意の表し方に注目して

『まとまらない言葉を生きる』#797

「言葉が壊れてきた」と思う。 そんな一文から始まる荒井裕樹さんの著書『まとまらない言葉を生きる』は、言葉が軽くなり、雑に扱われ、攻撃性を帯び、壊れてしまった、いまの時代の処方薬になるかもしれません。 ☆☆☆☆☆ 『まとまらない言葉を生きる』 ☆☆☆☆☆ 荒井裕樹さんは、二松學舍大学文学部准教授で、障害者文化論を研究されている方です。本の中で紹介されているのも、障害者運動や反差別闘争に参加された“無名の”方たちの言葉。 これがズシリと響いてくるんです。 政治を巡る状況、オリンピックに関連したドタバタ、SNSに飛び交う言葉、そして昨日ご紹介した映画「パンケーキを毒見する」などなどに日々触れながら、わたしはとても傷ついていたんだなと気が付きました。 映画「パンケーキを毒見する」#796   20代の頃、ライターの先輩に言われた言葉を思い出します。 「発信するっていうことは、次の時代の文化をつくることなんだよ」 日本語を正しく使うことはもちろん、何かを発信することの責任をひしひしと感じたものでした。 現在はすべての人が発信者となることができます。 それだけ発信することが民主化されたともいえるけれど、はたしてこれは「次の時代の文化」をつくることにつながっているんだろうか。 ただおもしろければいい、PVを稼げればいいという目的で、どんどんと軽さがエスカレートしていった、ウェブメディア。再生回数目的で、愚行を撮影する動画。あからさまな憎悪を垂れ流す投稿。 言葉があまりにも軽く扱われる様が、未来にどうつながるのか、わたしにはまったく理解できなくて、だから、とてもつらかった。 荒井さんも、憎悪表現があふれるいまの時代を、「しんどい時間」と表現されています。 しんどくてネガティブな言葉が増えてしまうと、ある程度感受性のスイッチを切らないとやっていけません。いちいち全力で反応していたら体がもたない。でもそれは、考えるのを止めることなんですよね。僕たちは言葉を巡ってものすごくしんどい時間を生きているんじゃないかと思います。 「まとまらない言葉を生きる」荒井裕樹さんインタビュー 差別・人権…答えが見つからないものこそ言葉により 「まとまらない言葉を生きる」荒井裕樹さんインタビュー 差別・人権…答えが見つからないものこそ言葉に|好書好日   そんな荒井さんが駆け出しの研究者だった頃、

『エア新書―発想力と企画力が身につく“爆笑脳トレ”』#772

孫正義著『お金持ちに見られないための10の鉄則 ―なぜしょぼい感じなのか?』 こんなタイトルの本があったら、思わず買ってしまう……かもしれない。いや、わざわざ“しょぼく”見せるほど、お金持ちでもないしなーと思ってしまうかな。 でも、この本は本当に刊行されるものではありません。編集者の石黒謙吾さんが、“お遊び”がてら考えた「エア新書」のタイトルなんです。 ☆☆☆☆☆ 『エア新書―発想力と企画力が身につく“爆笑脳トレ”』 https://amzn.to/3sEqU3C ☆☆☆☆☆ 「新書」というサイズの本の出版は、1938年に岩波書店から始まったのだそうです。古典の岩波文庫に対して、書き下ろしの教養系をテーマとしていました。 その後、1961年に中公新書が、1964年に講談社現代新書が創刊され、「新書御三家」と呼ばれるように。 1998年に「文春新書」、1999年に「集英社新書」、そして2003年に「新潮新書」などが創刊され、内容もアカデミックなものからライトなものへと変化してきたそう。 “ライト”といえば、まだ聞こえはいいけど、正直に言って(うーん……)となるものもある気がしますがね。 バブル崩壊…出版不況のなかで探った「現代新書」らしい切り口とは?(現代新書編集部)   わたしは新書が好きで、よく手に取る方だと思います。新聞の調査報道のような読み応えのあるものもありますし、興味のある分野の入り口にもいい。 で、思うこと。 新書のタイトルって、とても特徴的……。 「一瞬、なに言ってるか分からない」とか、「意外なものを組み合わせている」とか。 石黒さんは、タイトルの方向性について、エポックメイキングとなった本が、公認会計士である山田真哉さんの『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』だと指摘されています。 ☆☆☆☆☆ 山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』 https://amzn.to/3gpuBoR ☆☆☆☆☆ この本がヒットした後、「○○はなぜ○○なのか?」が類型化し、「○○の品格」と「○○の壁」といったパターンも爆増。 『エア新書』は、こうした「今風の新書っぽいタイトル」をパターン化し、架空の新書タイトルを考えてみよう、という本なんです。 人物 × タイトル × サブタイトル × 帯 考えるのはこの4つ。タイトルに“爆笑脳トレ”とあるよ

『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』#711

「わかる」は「わける」と同源の言葉といわれています。 広辞苑によると…… わかる(分かる): ① きっぱりと離れる。別々になる。 ② 事の筋道がはっきりする。了解される。 ③ 明らかになる。判明する。 わける(分ける): ① まとまりに境界をくっきりとつけて、二つ以上にする。区別する。 「二つ以上のグループに仕分ける」ということは、「違いを明らかにする」ことでもあります。違いを明らかにして「わける」ことによって、「わかる=理解する」が生まれるのだといえます。 理解する意味の「わかる」を書く時、「分かる」の漢字を使う理由が、これでした。「分けて、分かる」んだなと、自分で納得できるから。 ちなみに、「解る」「判る」といった漢字を使う方もいますが、これらの漢字は漢字表にない音訓なので、新聞などでは使われない表記です。 こうした表記については『記者ハンドブック』が参考になりますよ。 ルールを決めて、“考える”に時間を振り分ける 『記者ハンドブック』 #486   で、「なんかよく分かんないわー」という時は、だいたい「わける」が足りていないのではないか。 たとえるなら、まな板の上に、ジャガイモとニンジンとタマネギとお肉とお鍋とスパイスを並べて、カレーを作ろうとしているような状態。これ、全部いっぺんにお鍋に放り込んでも、おいしいカレーにはならないんですよね。 まずは、それぞれの野菜を切らなければならない。 おまけに野菜ごとに、ちょうどいい大きさにしないといけない。 などなど、何かをしようとする時は、自分が「わかる」単位まで「わける」ことが大切。とはいえ、「わける」って、なかなかに一筋縄ではいきません。おまけに「わけた」ものを再度組み立て直して、形にしなければならないのですから。 深沢真太郎さんの『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』は、そんな「わける」の重要性をとても分かりやすく説いた本です。 ☆☆☆☆☆ 『わけるとつなぐ これ以上シンプルにできない「論理思考」の講義』 https://amzn.to/3wQVlEP ☆☆☆☆☆ 「論理思考」の講義というと、めっちゃお固い、文字が詰まった本をイメージしませんか? この本は、ちょっと違うんです。著者の深沢さんは、「ビジネス数学教育」の第一人者だそう。 え、すごい!!! 算数講座に困っているわたしの救世主!

ルールを決めて、“考える”に時間を振り分ける 『記者ハンドブック』 #486

「鶏は三歩歩くと忘れる」は、本当にそうなのでしょうか? 出典を調べても、『広辞苑』や明鏡の『ことわざ成句使い方辞典』には掲載されていません。どうやらマンガから広まった言葉のようですが、真偽のほどは分からずじまいでした。 でも、「わたしは三歩歩くと忘れる」は本当だと思う。悲しいくらいに事実だなーと思う。 先週の「#1000日チャレンジ」は辞書をいろいろ紹介していて、最後は絶対これにしよう!と思っていたのに、一冊忘れていた……。 校正の仕事でも、ライティングの仕事でも、たぶん『広辞苑』より使っています。共同通信社が出している『記者ハンドブック』。一般に「記者ハン」と呼ばれている用語集です。 ☆☆☆☆☆ 『記者ハンドブック』 https://amzn.to/3cXo8Qf ☆☆☆☆☆ いまほどインターネットが普及する前は、世の中で一番文章を書く仕事といえば「日刊紙の記者」と言われていました。毎日締め切りがあるわけですから、自然とそうなりますよね。なので、記事の書き方や記号のルールなどは、新聞社が出しているハンドブックを参考にするのが一番手っ取り早いのです。 わたしはずっと共同通信社のものを使っていますが、朝日新聞や読売新聞からも出ています。 漢字か、ひらがなか。「づ」と「ず」の使い分け。「超える」と「越える」の見分け方といった辞書的部分と、算用数字を使う場面と漢数字を使う場面、外来語で「・」が必要な場合といった、文章を書く時の基本的なルールが掲載されています。 中でも重宝しているのが、「差別語、不快用語」のページ。ここは、辞書部分とは別に、新人ライターには必ず一度目を通すようにしてもらっています。 そんなわけで、会社で新しいメディアを起ち上げた時には、「記事執筆のルールは『記者ハンドブック』をベースに」と決めてもらいました。 ルールを決めることで、ムダに「考える」を減らすのが目的です。 「 」か『 』かなんてことに迷うより、「記者ハン」にあるからこう!と決めてしまう方がラクなんです。そんなことに時間を使うより、もっと内容に神経を注いだ方がいいので。 そんな超超超超超おすすめな用語集なのですが、なぜか買った後ロッカーにしまう人が多い……。 辞書は手の届く位置に置きましょう。面倒でも、一度引いてみましょう。新しい発見、もしくは、安心安全がありますよ。 パソコンやスマホで文章を

類似点と相違点をクリアにするナビゲーター 『日本語の類義表現辞典』 #482

日本語教師をしている友人に、「一番教えにくい言葉ってなに?」と聞いたことがあります。「質問が大雑把すぎる」と文句を言われちゃったのですけれど。 漢字圏以外の学生が一番つまずくのはやっぱり「漢字」、それ以外で多いのは「助詞」とのことでした。 わたし “は” 、mameです。 わたし “が” 、mameです。 一文字違うだけで、ニュアンスが変わってしまうのが日本語。もし「わたし “が” 」だけを覚えてしまったら、とても出しゃばりな人に見えてしまうかもしれませんね。 ふだん何気なく使っている言葉でも、あらためて考えてみると混乱してくるものもあります。 「水 が 飲みたい」か「水 を 飲みたい」か。 「食欲をそそら れ る」か「食欲をそそら せ る」か。 そんな、辞書の用例だけではとらえられない、微妙な使い分けについて解説したのが『日本語の類義表現辞典』です。 ☆☆☆☆☆ 『日本語の類義表現辞典』 https://amzn.to/3iY6xLD ☆☆☆☆☆ 著者の森田良行さんは、外国人留学生への日本語教育をされていた方で、『助詞・助動詞の辞典』の著者でもあります。 日本語を使いこなすために 『助詞・助動詞の辞典』 #478   受け身・可能表現について確認したいことがあって『日本語の類義表現辞典』を買ったのですが、たぶんはるかにたくさん活用させてもらっているのは「語順の入れ替わる言い方」の章です。 ① 母だけ に 相談する。 ② 母 に だけ相談する。 どちらも相談するのは「母」オンリー。お父さんも、お姉ちゃんも、おじいちゃんも、おばさんも、ない。意味としてはそうなんですけれど。 助詞の順番が違うだけなのにちょっとニュアンスが違いませんか? 「だけ」は限定を表す言葉ですが、①の場合、「お父さん、お姉ちゃん、おじいちゃん、おばさん、その他大勢」を無関係のものとして排除し、「母」だけを取り出して限定する言い方。 一方の②は、行為の対象や範囲を限定しているのだそうです。「相談する」という行為が、他のものには当てはまらないけれど、「母」にだけ成り立つということですね。 「どこを強調したいのか?」と考えると、分かりやすいのかもしれません。 「ありがとうございます」と「ありがとうございました」といった態度を表す表現、「現代に生きる」と「現代を生きる」といった時や場所を表す言い方など、よ

いつもの表現に多彩な色を 『日本語使いさばき辞典』 #481

親戚の「おじさん」のことを、なんて呼んでいますか? 韓国語を勉強していて一番おどろくのは、「呼称」の多さです。親戚ご一同様の呼び名なんて、まったく覚えられない。父方、母方、父より年上か年下か、父の兄の奥さんは……といった感じで、どんどんと広がっていきます。 日本語は「兄弟」か「姉妹」くらいかな、と思っていたら、そんなことは全然なかったんです。『日本語使いさばき辞典』という、日常語を検索ワードとした構成の辞書には、 ・種類・様態からみた「兄弟姉妹」 ・家族の中で年長の男性をいう「兄」 ・家族の中で年長の女性をいう「姉」 ・家族の中で年下の男性をいう「弟」 ・家族の中で年下の女性をいう「妹」 ・それぞれの呼称 という見出しで言葉が並んでいます。日本語も十分多かった。 ☆☆☆☆☆ 『日本語使いさばき辞典』 https://amzn.to/2SjD5VI ☆☆☆☆☆ この辞典は一般的な辞書の感覚で引こうとすると、ちょっと分かりにくいかもしれません。巻末に「分類キーワード目次」があるので、そこをまず見るようにしています。 「川」という身近な言葉ひとつとっても、日本語の表現は多様です。 ・大小、地形などからみた「川」:河川、小川、せせらぎ、伏流 ・速さ、位置などからみた「川」:急流、早瀬、河口、御手洗川 ・様態からみた「川」:流れ、合流、古川、清流 ・種別、名称などからみた「川」:名川、鵜川、杣川、岸辺 ・季節、行事からみた「川」:秋水、川涼み、川祓え、五月川 こんな言葉があるんだなーと思いながら、いつか使ってみたいと思う言葉を発見して妄想するのも楽しい。 「秋水」なんて、文字だけ見るといまの季節にぴったりじゃないですか? ですが『広辞苑』で「秋水」を引いてみると、こんな意味も載っていました。 「秋水」 ①秋の頃の澄み渡った水の流れ。 ②秋季の洪水。 ③転じて、曇りなくとぎすました鋭利な刀。 おお、まさか洪水も指すことがあるなんて。 『日本語使いさばき辞典』には言葉の意味は載っていないので、「単語の厳密な意味を確認したい場合には、『国語辞典』あるいは『漢和辞典』を援用してください」と注意書きがあります。 どんな場面で使われるのかを確認したいなら、日本語コーパスサービスの「少納言」や『てにをは辞典」で検索するのがおすすめ。 表現をサポートしてくれる心強い相棒 『てにをは辞典』 #

図解でクリアに、判断基準が明確に 『漢字の使い分けときあかし辞典』 #480

この世に、こんな便利な辞典があるのか。 手に取って、思わず震えたのが『漢字の使い分けときあかし辞典』です。辞典ごときで大袈裟なと思われるかもしれませんが、この本ほどクリアに「同訓異字」を説明してくれているものに出会ったことがなかったです。 ☆☆☆☆☆ 『漢字の使い分けときあかし辞典』 https://amzn.to/3zKpoju ☆☆☆☆☆ 日本語のよいところは、文字としての表現が豊かなところだと思います。漢字とひらがなとカタカナによって構成されているから、幅が広いんですよね。でもその分、「同訓異字」に迷うことも増えます。 たとえば、「はかる」という言葉は、こんな名詞とくっついて使われます。 気温 重さ タイム 悪巧み 逃亡 これ、全部漢字が違うんです。 『漢字の使い分けときあかし辞典』は、「ときあかし」というだけあって、判断基準(見分け方)を教えてくれる本です。 長さや広さ、体積や重さ、時間、何かをしようとするとき、といった基本形と発展形に分けて解説が載っています。おまけにイラスト図解も。 上の例でいくと、正解はこうなります。 気温を測る 重さを量る/測る タイムを計る 悪巧みを謀る 逃亡を図る こんな複雑な用例を使いこなしている人って、ホントにすごい……。 「かげ」についての説明なんて、イラストだととてもよく分かります。 『漢字の使い分けときあかし辞典』がわたしにとってありがたかったのは、考え方と事例が豊富なので、若手のライターに説明するときに活用できた点です。 校正の仕事をする際、一番大切なことは「根拠」を持つことです。赤字の指摘を出すときにも「なんとなく」では、絶対に書きません。とはいえ、こちらも神ではないので、判断に迷うことなんて山ほどあります。 「辞書的な説明だとこうなるけど、どう思う?」 そう話しながら、一緒に原稿を練り上げていくこともありました。著者の円満字二郎さんも、「これって不思議な書き方ですよね」なんて、本の中で迷っておられます。笑 わたしは、表現力豊かな日本語の可能性とおおらかさが好きです。でも、使いこなすのは、まだまだ。だからこそ、面倒くさがらずに辞書を引こうと決めています。 書くときは手元に辞書を!

表現をサポートしてくれる心強い相棒 『てにをは辞典』 #479

文章を書いていて、混乱してしまう慣用句や助詞がありませんか? あと、「なんていうんだっけ~」と思い出せなくなる時。そんな時に重宝するのがコロケーション辞典です。コロケーションとは、言葉同士のつながりのこと。 効果「が」→上がる 効果「を」→上げる といった助詞のつながりや、形容詞や副詞など修飾語との相性を確認できる辞典です。その名も『てにをは辞典』。まとまった文章を書く人に超おすすめです。 ☆☆☆☆☆ 『てにをは辞典』 https://amzn.to/2TPjU6h ☆☆☆☆☆ たとえば「愛する」という文章を書いていて、同じ言葉が連続しちゃうなーというとき、類語辞典を引く人は多いと思います。『てにをは辞典』も同じように使えますが、より表現に即した事例が載っているんです。 愛する 心から。本気で。永遠に。極端に。真剣に。素直に。熱烈に。人波に。一方的に。こよなく。掌中の玉と。激しく。ひたすら。…… 編者の小内一さんは校正者だそうで、独力で250人の作家の作品から「結合語」を採集したとのこと。その中から60万語の事例を掲載しています。 誠に「ごいすー!」としか言いようのないお仕事です。 校正者らしいなと思ったのが、表現に違和感を覚えたときや、否定形で使うのか肯定形で使うのか、相性の合う言葉を確認するためにも使える点です。 たとえば「気配」という言葉は、後に続く助詞によって相性のいい言葉があります。 気配「が」:あふれる。色濃く残る。動く。薄れる。伝わる。 気配「を」:うかがう。受け止める。帯びる。探る。振りまく。 気配「に」:脅える。気づく。耳を澄ます。異常な~口もきけない。 ~気配:怪しげな。忙しそうな。恐ろしげな。静謐な。ひそやかな。 こんな感じで、『てにをは辞典』というタイトル通り、「てにをは」の助詞を中心に編成されています。語句から探したいよというときは、兄弟版に『てにをは連想表現辞典』というのもあります。 ☆☆☆☆☆ 『てにをは連想表現辞典』 https://amzn.to/3xvIcRy ☆☆☆☆☆ こちらは慣れないと探し方がちょっと難しいかもしれません。大分類(見出し)と用例(引き出し)に分かれています。索引を使うと便利。 見出し:繰り返す 引き出し:くどくど(文句を言う。言わずに引き退る)/何度(言ったか知れない。見ても飽きない)/蒸し返す(前のことを。

日本語を使いこなすために 『助詞・助動詞の辞典』 #478

「校正・校閲」は、「間違い探し」と思っている方が多いようで、とても残念に感じています。「間違い探し」ゲームのようなものなら、どれだけ気楽なことか! わたしが校正を教わった師匠は、「情報を正しくすること」と説明していました。資料をあたったり、日付と曜日を確認したりといった「情報」を確認し、「正しく」整えること。 その中にはもちろん、日本語の文法に合っているかどうかも含まれます。ただ、根拠のない指摘はできないんです。「なんとなく、感覚的に」とか、「わたしならこうは書かない」と思うことがあっても、根拠がなければ単なる揚げ足取りに思われてしまうから。 今の会社でわたしが校正を担当しているのは、主に企業のリリースとweb記事です。以前はインターンの学生に書いてもらった記事も読んでいたのですが、その時いちばん感じたことは。 「日本語の文法を知らない人が多すぎる!!!」 でした。 主語と述語が合わない、いわゆる「ねじれ文」を見たとき。「名詞がね~」や「受け身はね……」なんて説明をしても、「受け身ってなんですか?」から話が始まるのです。道は遠い……。というわけで、自分の勉強のために買った日本語の辞書が『助詞・助動詞の辞典』と『動詞・形容詞・副詞の事典』です。 ☆☆☆☆☆ 『助詞・助動詞の辞典』 https://amzn.to/2U7PWL1 『動詞・形容詞・副詞の事典』 https://amzn.to/3q8Nn7z ☆☆☆☆☆ (なんかビックリする値段になってるからご注意を……。定価は2800円です) この本、どちらも早稲田大学日本語研究教育センター所長の森田良行さんがまとめたものなのですが、「辞典」と「事典」なことにお気づきでしょうか。 『助詞・助動詞の辞典』の方は、「は」と「が」の違いといった解説を載せたもの。 一方の『動詞・形容詞・副詞の事典』はというと、各品詞ごとに文型や用法、類義語を集めた事例の本だからです。 特に重宝しているのは、『助詞・助動詞の辞典』にある「ので」と「から」の違いや、「に」と「へ」の違いです。ざっくり説明すると、こうなります。 「に」:場所→ 駅に行く(駅自体に用事がある) 「へ」:方向→ 駅へ行く(駅の方向に向かう) 一文字違うだけで、ニュアンスがちょっと違うんですよね。はぁ、日本語って奥深い。 日本語学者の方なら、古典の○○の頃には「を」で受けて

言葉を巡る冒険 『三省堂国語辞典のひみつ』 #477

中華といえば幸楽苑。三大庭園といえば後楽園。国語辞典といえば『広辞苑』。というわけで、校閲の仕事をするとき、一番使っているのは『広辞苑』かもしれません。 ただ辞書って不思議なもので、「あと一歩、かゆいところに手が届かない」と感じることが多いんです。 普段はCASIOの電子辞書「XD-SX20000」を使っています。収録されている国語系の辞書は、『広辞苑』『明鏡』『新明解』『日本国語大辞典』です。探し物をしながら、解説の違いを読み比べるのもおもしろいもの。 電子辞書 - 生活・ビジネス | CASIO   これには入っていませんが、ユニークだと有名な辞書が三省堂の国語辞典です。飯間浩明さんの『三省堂国語辞典のひみつ』は、その編集の裏側を綴った本。リアルに『舟を編む』の世界です。 ☆☆☆☆☆ 『三省堂国語辞典のひみつ』 https://amzn.to/2TKMHt0 ☆☆☆☆☆ 『新明解』と三省堂の国語辞典、通称『三国』は、ひとつの辞書から分かれたものなのだとか。原形を作ったのは見坊豪紀さんという方で、ほぼ独りで145万枚もの用例カードを作り、言葉の収集にあたったそうです。 ☆☆☆☆☆ 『辞書になった男 ケンボー先生と山田先生』 https://amzn.to/3zxF6hP ☆☆☆☆☆ 「w」を辞書に載せたことでも話題になった『三国』。『新明解』との違いは、にやりとさせる『新明解』か、すとんと理解できる『三国』かとのこと。『三国』は「要するに何か」が分かる説明に振り切っているため、百科事典的な要素は、あえて省いているそうです。 辞書作りの背景だけでなく、言葉の「揺れ」についての話も興味深く読みました。 たとえば、「的を射る」か、「的を得る」か。これまで校閲の際に「的を得る」を見かけたら、 一般的には「的を射る」と使います。 と青字(著者への注意喚起や確認事項を書くときは青いペンを使います。エンピツを使う人も)で書いていました。赤字にしないのは、なんぞ「思惑」があるのかもしれないと思うからです。 が、飯間さん曰く、「あながち間違いとはいえない」とのこと。例として引用されているのが新井素子さんの小説『結婚物語』で、まさしくこの小説でわたしも「あぁ、そうなのか!」と覚えたんですよね。 「的を射る」と似たような言葉に、「正鵠を得る」という表現があります。正鵠=的と考えれば、「

『言葉ダイエット』刊行記念 橋口幸生×田中泰延トークイベント #195

「僕からこの話をするとは思ってませんでした。“仮想通貨”についてです」 ホント、ま・さ・か!でした。 ついに橋口さんまでも仮想通貨の世界に足を踏み入れてしまった!? 2020年1月20日、おしゃれの街・代官山にある蔦屋書店にて、トークイベントが開催されました。橋口幸生×田中泰延というコピーライターおふたりによる“言葉”談義。 橋口さんの新著『言葉ダイエット』発売を記念したトークイベントは、予想通り、笑い笑い笑いの連続で、写真を撮るのを忘れました……。でも内容はバッチリなんとなくふんわりと覚えてます! というわけで、今日はトークイベントの様子をお伝えします。 目次: 『言葉ダイエット』とは……の前段 『言葉ダイエット』とは……の前に 『言葉ダイエット』とは……のプリクエル 『言葉ダイエット』とは、言葉をダイエットすること まとめ 『言葉ダイエット』とは……の前段 「今日は仮想通貨の話はいたしません。骨伝導の話もありません。言葉のダイエットについてお話しします」 客席からの期待と不安のまなざしを受けて、ひろのぶさんが厳かに宣言されました。そうです。今日のイベントのメインテーマ。一番大事なもの。これだけ覚えて帰ればいい。 橋口さんが2019年12月に上梓された『言葉ダイエット』です。 ☆☆☆☆☆ 『言葉ダイエット』 https://amzn.to/3fY5qtN ☆☆☆☆☆ 田中さんの本『読みたいことを、書けばいい。』は、15万部を超えるベストセラーになっています。 ☆☆☆☆☆ 『読みたいことを、書けばいい。』 https://amzn.to/34WnfmE ☆☆☆☆☆ わたしたちが毎日、書いたりしゃべったりして操っているつもりの“言葉”。そのプロであるコピーライターのおふたりです。さぞかしすんごいお話が聞けると期待が高まります。 最初の話題は、 「さえりさん」から返事が来ない件 についてでした。 「さえりさん」とは、作家の 夏生さえりさん のことです。 橋口さんとひろのぶさん、そしてさえりさんは、昨年実施されたスカパー!のコピー募集で審査員を務められているのです。 #スカパーコピー書いてみた 応募総1万超の中から、受賞コピーが決まりました!受賞者の皆さま、おめでとうございます。ツイートしていただいた全ての方、ありがとうございました!受賞コピーは、みんなで作ったスカ