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『批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く』#994


「読書」は、高尚な趣味なのでしょうか。

以前、「オススメの本はこれ!」としたツイートが、「ビジネス書ばっかりやんか」と批判されていましたよね。気の毒……。

これは「本」というくくりが、大きすぎたのではないかと思います。

「本」とひと言でいっても、小説もあればエッセイもあるし、ミステリーもSFも恋愛ものもある。古典が好きな人もいれば、ハウツー本しか読まない人もいるでしょう。

その中で、「アレが上で、コレが下」とはいえないし、人は結局、自分が読んだことがある本に反応するのだなーと毎日書いていて感じます。

『読んでいない本について堂々と語る方法』という本では、著者のピエール・バイヤールが、「読書が高尚な行為だというのは大いなる誤解」と指摘していました。


どんな本を読んだにせよ、その本について語ることは、「書評」と呼ばれたり、「レビュー」と呼ばれたり、「感想文」と呼ばれたりしています。

こちらに関しても「どう違うねん」という気がしています。

三省堂の「ことばのコラム」によると、「評論」よりも「レビュー」と表記した方が、堅苦しくなさそうな雰囲気があるのだそう。


「レビュー」は、Amazonなどの「商品レビュー:使ってみての使い勝手や感想」という場で使われていることを考えると、なるほどカジュアルに書き込みやすいのかもしれません。

とはいえ、どちらも目的としては「これよかったから、ぜひ!!!」と誘うことです。まぁ、逆の場合もあるけど。

『批評の教室』の著者・北村紗衣さんは、「作品に触れて何か思考が動き、漠然とした感想以上のものが欲しい、もう少し深く作品を理解したいと思った時に、思考をまとめてくれる」ものが「批評」である、とされています。

批評のための3ステップ「精読する、分析する、書く」について解説した『批評の教室』。めちゃくちゃ勉強になりました。

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『批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く』

(画像リンクです)

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批評の役割としては、大きくふたつ。

・解釈:作品の中からよく分からない隠れた意味を引き出す

・価値づけ:その作品の位置づけや質を判断する

このふたつは、なんじゃかんじゃと言葉を尽くして「読んだふり」をし、「立ち位置」の大切さを語っていた『読んでいない本について堂々と語る方法』にも、重要ポイントとして挙げられていました。

「批評」には、このどちらもが必要で、そのためには精読するのが大事よ、というのが『批評の教室』でのお話。

映画にしても、小説にしても、「○○な人が△△したら、こういう展開が待っている」といったセオリーみたいなものがあります。

たとえば、大学生が夏休みにキャンプに行ったら、ゾンビかジェイソンに出会ってしまうようなもんですね。

精読から分析へのステップとは、そのセオリーについて知り、作品内に散りばめられている意味を拾い上げることといえます。


この本に出会えたおかげで、いろんな迷いが吹っ切れました。

いまの段階で「書評」を書こうと悩むのは止めようと思ったんです。それよりも、本や映画について書く行為は「1000本分の地図を作っている過程だ」と考えて、ここから作品の「立ち位置」について俯瞰し、「価値づけ」について、再度振り返ればいいんじゃないか。

サブタイトルにあるように、チョウのように軽快な語り口で、ハチの一刺しのように鋭い指摘が披露される本書。わたしのバイブルになりました。願わくば、もっと早く会いたかったよ……。

北村さんの専門はシェイクスピアだそうですが、本には映画と小説の両方について話が出てくるので、なにか文章を書きたいと思っている方に、特におすすめです!


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