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『読んでいない本について堂々と語る方法』#992


こうして毎日ブログを書いていて、一度はやってみたかったことがありました。

読んでない本について書いてみたい!!

たとえば清水義範さんは『主な登場人物』で、チャンドラーの『さらば愛しき女よ』の登場人物だけでストーリーを想像する……という短編を残しておられます。


こういう「芸」のあるものを書いてみたかったなー。もちろんピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』を読んだから、狙っていたんです。

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『読んでいない本について堂々と語る方法』

(画像リンクです)

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ピエール・バイヤールは精神分析家の大学教授です。大学の講義の中で名作本について触れることもあれば、自身が書く論文に引用することもある。メディアにコメントを求められることだってあります。

こうした「文化人」枠の人たちは、はたして本当に本をすべて読んでいるのでしょうか?

バイヤールの答えは、「non」!

『読んでいない本について堂々と語る方法』の中でとりあげる本については、

<未>ぜんぜん読んだことのない本
<流>ざっと読んだことがある本
<聞>人から聞いたことがある本
<忘>読んだことはあるが忘れてしまった本

の4分類で記号が付けてあるんです。つまり、どの本もうろ覚え状態。バイヤールは他の文化人も大して変わらず、「読んだふり」してるんですぜ……と指摘しています。

では、なぜこうした人たちは、正々堂々と語れるのか。

ひとつには、文学や歴史の大きな地図の中で、その作品の立ち位置が分かっているからだ、とのこと。

“教養があるとは、しかじかの本を読んだことがあるということではない。(中略)全体のなかで自分がどの位置にいるかが分かっているということ、すなわち、諸々の本はひとつの全体を形づくっているということを知っており、その各要素を他の要素との関係で位置づけることができるということである。”

さすが教授。読んでない本について語るためには、その本のページ数の100倍は教養が必要なのだと教えてくれました……。


いまではもう割り切ってマイペースで書くようになったけれど、「#1000日チャレンジ」を始めた当初は、いったいどうすれば「書評」や「映画評」と呼ばれるものになるのだろうと、試行錯誤して、書評の本も読みました。

ある方は、書評するために最低でも3回は読むと仰るし、ある方は、目次をパラッとめくって、よさげなページだけ読むと仰っています。

どっちもムリや……というわけで、我が道をいくことになったわけです。教養なんてすぐにつくものでもないし。フン。

どれだけ読書が好きな人でも、世界には「読んでない本」の方が多いといえます。その荒野の広さを感じるのが、わたしは好きだったりするのですよね。

『読んでいない本について堂々と語る方法』は、タイトルからはハウツー本に見えますが、実は文学の歴史を紐解く名作ガイドブックでもあります。

その本を読まずに何を書くか……という話を読みながら、めっちゃその本が読みたくなってしまう。

バイヤールは「パラドックスの名手」と呼ばれているそう。なるほど、さすが!な世界でした。

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