「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせである」
アメリカの実業家ジェームス・ヤングはそう言ったそうですが、何と何を組み合わせるか、組み合わせた後にどう見せるかを考えると、ちょっと果てしなく気が遠くなってしまう。
天才・清水義範さんの試した創作方法は、名作小説の扉に書かれている「登場人物」の紹介からストーリーを想像してみることでした。チャンドラー好きの夫が悶絶した短編集『主な登場人物』をご紹介します。
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『主な登場人物』
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チャンドラーの作品をひとつも読んだことがないという清水さん。フィリップ・マーロウの物語が「ハードボイルド・ミステリーである」という程度の知識で、名作『さらば愛しき女よ』の清水版を書き上げています。
フィリップ・マーロウ。ご存じでしょうか?
「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」
という決めセリフが有名な、ひたすらかっこつけている私立探偵です(こんな書き方したら、ファンに怒られるな)。
『さらば愛しき女よ』は、マーロウシリーズの長編2作目にあたる作品。我が家にあるハヤカワ文庫の1976年初版 1988年32刷の本にある「登場人物」はこんな感じです。
これだけをヒントに物語を組み立てていくわけですが。
清水さんが一番ツッコんでいるのは、下から2行目の「ゾンダボーグ」の説明です。「怪しい医師」なんて書いちゃったら台無しじゃん!
でも、「怪しい」と見られている人物が犯人なことはあり得ない。ということは、コイツは事件解明のヒントをくれる人間なのではないかと推理するのです。
こんな感じで推理小説を推理しつつ、想像でのストーリーが展開していきます。
これがまぁ、近いというか、遠いというか、そもそもが……というか。原作を知らなくても、ちゃんと楽しめるようになっているところがいいんですよね。
もうひとつ、「註釈物語」という短編を紹介すると、こちらは一冊の「註釈集」を手に入れた清水さんが中身を紹介してくれるというお話。
一〇五7[あのまま波立てていたのね]何のことを言っているのか不明。
一〇六12[あれが終わってしまっただろ]何のことを言っているのか不明。”
こうして註釈だけが並んでいます。[ ]の部分が本文の抜き書きと思われる。あぁ、本体の方を読んでみたいなぁという話なのですが、この最後の註釈が、まいった!というものです。
どれも短いお話ですが、「既存の要素」の組み合わせによるアイデアにあふれた小説です。やっぱり笑いたい時は清水義範ですよ。
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