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9月, 2019の投稿を表示しています

日常を変えるユーモア『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』 #80

「世界は誰かの仕事でできている。」 この缶コーヒーのコピーを見たとき、ジ~ンとしたんですよね。大きい金額が動く仕事、実現が難しい仕事、身体を酷使する仕事、ひとりではできない仕事……。 世の中にはいろんな仕事があって、内容は本当にさまざまで、そのどれかひとつが欠けたら世界は今の形になっていないかもしれない。 こういうモノの見方をしたいなーと感じたのです。 このコピーを書いたのは、梅田悟司さん。ご自身にお子さんが生まれたことで4か月の育児休暇を取得。その際に「名もなき家事多すぎ」というツイートをされていました。 育休を4ヶ月取得して感じたこと ・授乳以外は男性もできる ・子ども慣れしてないは甘え ・子育ては2人でやってちょうどいい ・名もなき家事多すぎ ・育児での凡ミスは死に直結 ・24時間、緊張状態が続く ・会話できる大人は命綱 ・職場の方が落ち着く ・仕事の方が楽 ・仕事の方が楽 ・仕事の方が楽 — 梅田悟司/『名もなき家事に名前をつけた』9/17発売! (@3104_umeda) April 11, 2019 そんな限りなく多い「名もなき家事」に梅田さんが命名され、一冊の本にまとめられたのが、『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』です。長い。笑 ☆☆☆☆☆ 『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ あ、それも家事なんだというささいな用事に、「タッパー神経衰弱」とか、「突然の濡れ場」など、思わずニヤリとしてしまうコピーが付いています。 「ティッシュ格差」や「鍵レーダー」には、(わたしだけじゃなかった!!)という安心感をもらいました。実は、これでいつもダンナに怒られているんです。 ほとんどのものは、3~5分で終わるような、小さな家事。でも、「あぁ、これが面倒だったんです!」という気持ちをすくい上げてもらうだけで、こんなに気持ちが晴れるなんて。ありがとうございます……という気持ちです。 ちなみに、各家事へのワンポイントアドバイスもあります。これがかなりお役立ちですよ。 この本は「家の中のこと」を扱っていますが、たとえば会社の中にもいっぱい「名もなきタスク」はありそうです。コピー用紙を補充したら、包み紙を捨てるとか、ね。 新たな「名もなき家事」も募集されているそうな

尻込みしないで飛び込もう『スクリーンの向こう側』 #79

映画字幕の第一人者である戸田奈津子さんは、「映画は好きだけれど、映画を見てあれこれ評論する客観性がわたしにはない」と語っています。 映画会社でアルバイトの翻訳・通訳をしていたときに「地獄の黙示録」のロケに参加。コッポラ監督の推薦で日本語字幕をつけることになったそう。 トム・クルーズが来日するときは、必ず彼女を指名することは有名ですよね。 そんなハリウッドスタートの素顔や、字幕制作時の裏話を綴った『スクリーンの向こう側』をご紹介します。 ☆☆☆☆☆ 『スクリーンの向こう側』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「恋におちて」のロバート・デ・ニーロ、「プリティ・ウーマン」の成功とリチャード・ギアの悪癖など、読んでいて楽しい話がいっぱいです。「未来世紀ブラジル」のテリー・ギリアム監督や、「シザーハンズ」のティム・バートン監督の話は、とてもかわいらしくておすすめ。あらたな目でもう一度、映画が観たくなってしまいます。 “わたしはどうしてもドラマの一端を担うセリフづくりに興味があり、性格的にも社交性を要求されない「一匹狼」の翻訳に向いているという自己分析があったのだ。” こうした自分の向き不向きを冷静に見極めた結果、「映画は好きだけど、映画ライターや評論家の仕事はできない」と割り切ったのだそうです。 英語力がなかったというコンプレックスをバネに字幕の修行を続けて、降って湧いたようなチャンスにもひるまなかった戸田さん。 わたしも以前、韓国語字幕をつける仕事をいただいたときに、全然能力は足りないものの、彼女のことを思い出してチャレンジしたことがあります。いや、できないレベルが全然違ったんだけど。笑 映像字幕は基本的に、1秒4文字が原則です。横書きの字幕なら、1行に表示できるのは13~14字。「文字数」が絶対なので、かなり工夫しないと入らないことが多いんですよね。 おかげで日本語を、裏から表から、ひっくり返したり肯定したり否定したり、あらゆる形で考えられるようになったかなと思います。 「できない」とひるまず、やってみることで得るものは大きい。 時に「なっちゃん語」と揶揄されながらも、第一線を走ってきた戸田さんの軽やかな言葉にクスリとしてしまう一冊。飛び込む勇気が感じられるエッセイです。

『小説の言葉尻をとらえてみた』#76

校正の仕事をしていると、間違いなのか、造語なのか、判断に迷うことがあります。それも、しょっちゅう。 若手のライターは語彙が少ないこともあって、無邪気に自由に書き綴ることが多い。それはそれでいいんだけれど、日本語としての美しさが壊れていく現場にいるような思いを抱くことも。 『三省堂国語辞典』編集委員である飯間浩明さんは、新しい言葉の使い方に出合う瞬間をとても楽しんでおられるようで、心から尊敬しました。 『小説の言葉尻をとらえてみた』は、そんな小説と新しい言葉の出合いを綴った本です。 ☆☆☆☆☆ 『小説の言葉尻をとらえてみた』 https://amzn.to/2RTvhty ☆☆☆☆☆ エンタメ、ホラー、時代小説の“現場”に、飯間さん自身が潜入。登場人物の何気ないひと言を拾い上げ、解説がなされます。そのおもしろさといったら! 「ご苦労さまでした」 ビジネスマナーとしては、この言葉は「目上」の人に使えませんと教えることが多いんですよね。でも、それって本当にそうなのか? ねぎらいの言葉として使える表現はないの? そんな疑問に答えてくれます。 わたしは「真逆」という言葉に抵抗がある方なのですが、やはり歴史の浅い言葉でした。広まったのは21世紀になってから、とされています。飯間さん自身、目にしたものの、読み方がずっと分からなかったのだとか。 一方で、舞台となっている時代に存在しない言葉が登場することを、おもしろがってもおられます。 言葉は生き物です。時代や環境に合わせて変化していくものだと思います。飯間さんは辞書の編集委員として、新しい語、新しい使い方に興味津々で、(それって単なる誤字では……)と思うような言葉も、ドーーーンと受け止める。 ああ、なんて懐の深い方なんだろう。 小説の楽しみ方のひとつとして、言葉の森を行く手引きとして、何度も味わえる探検物語なのです。 飯間さんの本では、『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』もおすすめです。 『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』#6  

自分に負荷をかけよう『言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力』#75

昨日、ある韓国映画を観ていたら、ゴージャスなワインセラーの裏側に隠し部屋があって…というシーンがありました。しかも、扉を開けるカギは、高級ワインを棚から抜くことなんです。 「ワインボトルは揺らしてはいけない」と思っていたので、斬新な設定だなと笑ってしまいました。 わたしはお酒を飲まないのでワインの味はよく分からないのですが、ソムリエの方がめちゃくちゃ細かくワインの味を表現されているのは聞いたことがあって、素直に感動しました。記憶力と表現力にです。 日本のワインブームを作り出したソムリエといえば、田崎真也さん。テレビの食レポなどでカンタンに使われる言葉に「待った!」をかけた本が『言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力』です。 ☆☆☆☆☆ 『言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 1983年、第3回全国ソムリエ最高技術賞コンクールで優勝。 1995年、第8回世界最優秀ソムリエコンクールで、日本人として初優勝。 輝かしい経歴を支えたのは「表現する技術」です。たとえば、揚げたてのコロッケを表現する例として、「こんがりしたきつね色がおいしそうですね~」というセリフは、実はなんの“味”も伝えていません。 “きつね色がおいしいわけではないのに、きつね色がおいしさのバロメーターと勘違いしているのです。極端にいうと、高温で揚げれば、中に火が入っていようと、いまいと、表面はすぐきつね色に揚がりますから。” 「視覚」しか使っていないから、見た目を伝えることしかできないわけです。こんな食レポがあふれておる!という怒りの声が聞こえてきそうな本文です。笑 ソムリエとしてそれでは仕事にならないので、田崎さんが実践しているのが、五感すべてを使う「湖トレーニング」です。 まず、「きれいな湖」が目の前にあると考えてください。 ・視覚:湖畔を見渡すと、どんな景色が見えるか。湖面に映るものは何か。 ・聴覚:鳥のさえずりや風の音など、耳に入ってくる音を聴いてみる。 ・臭覚:花や植物、土や空気など、それぞれがどんな香りを放っているか。 ・触感:肌に触れる水や風の感触はどんなものか。周囲の木々や湖の水に触れてみる。 ・味覚:湖にすむ魚や、近くの山で採れるキノコはどんな味がするか。 こうして五感を総動員してものごとを表現する練習をすることで、記憶にも残りますし、誰かに説明する

『転んでもただでは起きるな! - 定本・安藤百福』 #69

世界中で「ミスターヌードル」と呼ばれた安藤百福さん。チキンラーメンをはじめとするインスタントラーメンを開発した、発明家であり、事業家です。NHK連続テレビ小説「まんぷく」としてドラマ化もされていますよね。 ☆☆☆☆☆ (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「何か人の役に立つことはないか」「世の中を明るくする仕事はないか」という信念のもと、メリヤスやバラック住宅の販売など、数々の事業を立ち上げています。そして失敗もいっぱい。 戦争を経験している方ですから、「食べ物がないことの悲惨さ」が身に染みている。幾度もの事業の失敗を経て、「食」に専念する決意を固めます。 「食足世平」=食足りて世は平らか この言葉が信条だった安藤さんの生い立ちと名言を集めた本が『転んでもただでは起きるな! - 定本・安藤百福』です。 ☆☆☆☆☆ 『転んでもただでは起きるな! - 定本・安藤百福』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「インスタントラーメンの人」というイメージしかなかったのですが、22歳にして事業を起こしているんですよね。 何度も失敗しても、「失ったのは財産だけ。その分、経験が血と肉になった」と考えるところは、根っからの起業家だったのだと思います。 やはり、チキンラーメンの研究開発時代の話がおもしろかったです。 新築の家の床の間を吹っ飛ばすほどの事故とか、失敗は笑い話になるくらい大きくした方がいいんですね。家族はたまったもんじゃないかもしれませんが。 ・世の中には「敬」と「愛」しかない ・失敗して投げ出すのは、泥棒に追い銭をやるのと同じだ ・知識よりも知恵を出せ 本には、現代でも通じるこうした名言がたくさん収録されているのですが、わたしが好きな言葉はこれです。 “即席めんの発明にたどりつくには、やはり48年間の人生が必要だった。” 「年齢が……」とか、「忙しくて時間が……」とか、言い訳しがちだなという自覚のある方は、ぜひ一読してみてください。このバイタリティーにあてられてしまいますよ。

夢中がつくる自分の形 『線は、僕を描く』 #62

チャン・イーモウ監督の新作「SHADOW 影武者」を観てきました。カラー映画なのに白黒の水墨画のような景色で、墨の色の奥深さを感じる映画でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「SHADOW 影武者」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 黒澤明監督のもとでカメラマンを務めた宮川一夫さんも「白黒映画は単純に言えば、白と黒の2階調ですが、鼠色には無限の色がある」と語っています。 スクリーンいっぱいに広がる映画だからこそ、その「無限」を感じられたのですが、小説となると話は別。アートをテーマにした物語は、読む方も知識が必要で大変だと思っていました。 でも、砥上裕將さんの『線は、僕を描く』は違いました。読みながら、目の前に筆の走りが見えたのです。 ☆☆☆☆☆ 『線は、僕を描く』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 両親を交通事故で失い、生きる気力を失った大学生の青山霜介は、アルバイト先の展覧会場で水墨画の巨匠・篠田湖山と出会う。湖山に気に入られ、内弟子となるが、湖山の孫・千瑛は、反発。翌年の「湖山賞」をかけて霜介と勝負すると宣言する。 英才教育を受けたはずの千瑛との勝負なんて目に見えてるよ、もしくは、大逆転劇がテーマの物語なんでしょ、と思った方。 この小説の中に広がる世界は、そんなちっぽけな予想をはるかに超えていく熱量と重さを持っています。 気分は高揚するのに、深く沈んでいくような、そんな印象。 水墨画家であり、小説家でもあるという砥上さんだからこそ、組み立てられた世界なのかもしれません。 初めて筆を手にした霜介は、紙に置いた瞬間の色と、にじみと、定着した後の違いに興奮します。 “「できることが目的じゃないよ。やってみることが目的なんだ」” 篠田湖山にそう諭され、ひたすら紙と筆で遊ぶ時間。何度も失敗し、おもしろいと感じるまで続けたこと。この、初めての出会いが、霜介を現実の世界につなぎとめてくれるのです。 両親を失ってひとりぼっちになったことで、食べることにも、学校に通うことにも、興味をなくしてしまった霜介の内面が、徐々に満たされていく様子に、震えるような感動を覚えました。 水墨画とは、筆先から生みだされる「線」の芸術。 描くのは「命」。 水墨画は、油絵などのように下書きをせず、真っ白な紙に一気に筆を走らせて完成させるのだ

がんばることをためらわない『勝負論 ウメハラの流儀』 #58

15歳で日本一に、17歳で世界大会優勝を果たしたプロゲーマーの梅原大吾さん。「世界で最も長く賞金を稼ぎ続けているプロ・ゲーマー」としてギネスにも認定されているそうです。 そんな方の「勝負論」といえば、さぞかし「勝ちにこだわれ!」な話なのかと思いきや、全然違うじゃん!となったのが、『勝ち続ける意志力』でした。この本が見当たらない(笑)ので、2冊目のご著書である『勝負論 ウメハラの流儀』を紹介したいと思います。 ☆☆☆☆☆ 『勝負論 ウメハラの流儀』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ この本の目的は、勝ち続ける方法と、そういう自分の作り方を考えること。梅原さんの方法は、効率やセオリーを無視した、とことん地道に自分で納得するまでやる体験式なんです。 よくある自己啓発系の本には「好きなこと・得意なことを伸ばせ」とありますが、梅原さんのやり方は違います。 その世界やゲームで定石やセオリーとされているものを、「なぜそうなのか?」と疑い、いちゃもんをつけまくり、時には崩し、時には体験し、セオリーの意味を自分で再発見するまで基礎をガッツリ固めるのだろう。 いわゆる「序破急」では、序の段階は「まねる」ことを推奨されます。梅原さんの場合は、ただまねるのではなく、まねる理由を探りまくるのですね。師匠の側からするとめんどくせー生徒かもしれません。でも、基礎段階であらゆることを体験しておくので、破の段階に進んだときに爆発的に進化するのかも。 一方で、ゲームの世界が一般には評価されないことから見切りをつけ、麻雀の世界に飛び込み、ここも違うとなって介護施設で1年半働いた経験についても語っています。 “チャレンジする分野には何も直接的な関係がなかったとしても、かつて悩んだこと、体験したこと、自分なりに得た結論は、不思議に有意義な形で結びついていく。” だから、「頑張ることにためらいを持たない」こと、自分が変化・成長しているかどうかを基準にすることを勧めています。 梅原さんは一度ゲームの世界を離れたものの、やっぱり麻雀という「勝負」の世界に身をおきます。それくらい「勝つ」ことにこだわっていた。それが、目先の勝負を手放して「勝ち続ける」ことに切り替えてから、逆に勝てるようになったのだそう。 一度の敗戦からでも教訓を集めて、自分の成長につなげているからです。 ご専門はもちろんストリートファイター系のゲーム