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尻込みしないで飛び込もう『スクリーンの向こう側』 #79


映画字幕の第一人者である戸田奈津子さんは、「映画は好きだけれど、映画を見てあれこれ評論する客観性がわたしにはない」と語っています。

映画会社でアルバイトの翻訳・通訳をしていたときに「地獄の黙示録」のロケに参加。コッポラ監督の推薦で日本語字幕をつけることになったそう。

トム・クルーズが来日するときは、必ず彼女を指名することは有名ですよね。

そんなハリウッドスタートの素顔や、字幕制作時の裏話を綴った『スクリーンの向こう側』をご紹介します。

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『スクリーンの向こう側』

(画像リンクです)

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「恋におちて」のロバート・デ・ニーロ、「プリティ・ウーマン」の成功とリチャード・ギアの悪癖など、読んでいて楽しい話がいっぱいです。「未来世紀ブラジル」のテリー・ギリアム監督や、「シザーハンズ」のティム・バートン監督の話は、とてもかわいらしくておすすめ。あらたな目でもう一度、映画が観たくなってしまいます。

“わたしはどうしてもドラマの一端を担うセリフづくりに興味があり、性格的にも社交性を要求されない「一匹狼」の翻訳に向いているという自己分析があったのだ。”

こうした自分の向き不向きを冷静に見極めた結果、「映画は好きだけど、映画ライターや評論家の仕事はできない」と割り切ったのだそうです。

英語力がなかったというコンプレックスをバネに字幕の修行を続けて、降って湧いたようなチャンスにもひるまなかった戸田さん。

わたしも以前、韓国語字幕をつける仕事をいただいたときに、全然能力は足りないものの、彼女のことを思い出してチャレンジしたことがあります。いや、できないレベルが全然違ったんだけど。笑

映像字幕は基本的に、1秒4文字が原則です。横書きの字幕なら、1行に表示できるのは13~14字。「文字数」が絶対なので、かなり工夫しないと入らないことが多いんですよね。

おかげで日本語を、裏から表から、ひっくり返したり肯定したり否定したり、あらゆる形で考えられるようになったかなと思います。

「できない」とひるまず、やってみることで得るものは大きい。

時に「なっちゃん語」と揶揄されながらも、第一線を走ってきた戸田さんの軽やかな言葉にクスリとしてしまう一冊。飛び込む勇気が感じられるエッセイです。

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