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映画「名付けようのない踊り」#953

「彼の歩き方は、“ダンサー”じゃないんです! 彼こそ“俳優”の歩き方ができる人なんです!!」 2002年に公開された山田洋次監督初の時代劇「たそがれ清兵衛」を観て、当時師事していたアメリカ人映画監督が叫びまくっていました。感動の叫びですよ、念のため。 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信: https://amzn.to/3IiVKpv “彼”とは、映画の中で清兵衛が討ちに行く相手・余吾善右衛門を演じた田中泯さんです。 狭い家の中で斬り合い、倒れる善右衛門。 この時、なんの音もしないんです。静かに、ゆっくりと倒れていく。 これは、絶対的に全身の筋肉をコントロールできる人だけができる演技とのこと。 (画像はIMDbより) ドラマ「太陽にほえろ!」などでは、亡くなるシーンの時、いかに派手に、個性的に、華々しく散るかを考えたそうです。ジーパン刑事(松田優作)の 「なんじゃあこりゃああ!!!!!」 が有名ですよね。 でも、田中泯さんが見せてくれたのは、およそ正反対の極にある死に様でした。 その姿はいまでも強烈に残っています。 クラッシックバレエとモダンダンスを学び、土方巽氏に師事した田中泯さん。その踊りと生き様を追ったドキュメンタリー「名付けようのない踊り」が公開されています。 ☆☆☆☆☆ 映画「名付けようのない踊り」 公式サイト: https://happinet-phantom.com/unnameable-dance/ ☆☆☆☆☆ 映画は、ポルトガルの街角で、ひとりの男がしゃがみこんでいるところから始まります。 ホームレスのような風貌(すいません)、モソモソと超スローモーションで伸びていく腕、ゴソゴソと超スローモーションで動きだす足。 これが、田中泯さんの“踊り”です。 わたしの貧弱な知識の中で「ダンス」といえば、音とリズムに合わせて手足を動かすもの、でした。軽やかで、ウキウキするような、“ハレ”の気配を感じるもの。 映画「スウィング・キッズ」なんて、マジで重力を感じさせない「ダンス」でした。 K-POPアイドルグループ「EXO」のド・ギョンスくんと、ブロードウェイミュージカルの最優秀ダンサーの称号をもつジャレッド・グライムスのダンス対決シーンは、しびれるほどのかっこよさです。 タップのリズムで結ばれた絆の行方 映画「スウィング・キッズ」 #227  

映画「中島みゆき 劇場版 ライヴ・ヒストリー 2007-2016 歌旅~縁会~一会」#930

わたしには、こんなにも「恩人」と呼べる人がいたんだ……。 この方たちに、もっともっと、ちゃんと感謝を届けたい。 中島みゆきさんのライブツアーを集めた「劇場版 ライヴ・ヒストリー 2007-2016 歌旅~縁会~一会」を観ながら、ずっとそんなことを考えていました。 現在、劇場公開されています。 ☆☆☆☆☆ 映画「中島みゆき 劇場版 ライヴ・ヒストリー 2007-2016 歌旅~縁会~一会」 公式サイト: https://miyukimovie.jp/ ☆☆☆☆☆ 10年間のライブ映像を再構成した劇場版。「空と君のあいだに」や「地上の星」など、テレビ番組の主題歌になった曲、「糸」や「時代」といった懐かしい曲まで、名曲15曲を5.1chサラウンドで味わうという贅沢な時間でした。 もー、初っ端からボロボロ泣きっぱなし。 その曲に初めて会った時のこと、“打ちのめされて”いた時にラジオから歌が流れてきた時のこと、“くじけないで”と言われた時のこと、などなどが思い出され、そして感じたのです。 わたしはこれまで、周囲の人にとても恵まれていた、と。 そんな「恩人」たちに、どれだけ感謝を伝えてきただろう。 セットリストを見ていても、今回の劇場版は「人とのつながりと感謝」がテーマだったのではと思えてきます。それは、いまの時代に一番求められているものなのかもしれません。 <セットリスト> 糸 宙船(そらふね) ファイト! 誕生 地上の星 空と君のあいだに 時代 倒木の敗者復活戦 世情 ヘッドライト・テールライト 旅人のうた 命の別名 麦の唄 浅い眠り ジョークにしないか 変わりゆく社会を定点観測するように、時代時代を歌詞にしてきた、みゆきさん。「夜会」の劇場版が公開された時は、「街角のクリエイティブ」でコラムを書かせてもらいました。 「夜会工場」言葉の魔術師・中島みゆきの声に心が震える   このコラムにも書きましたが、わたしは10代のころから、みゆきさんのファンです。ツアーの時は京都会館や大阪城ホールに通い、高校生の時は学校をサボって東京まで来たこともありました。 “東には東の正しさ”があると知った、上京したてのころのわたし。 “世の中はいつも臆病”だから、人生は自分の“手で漕いで”生きていくしかないと悟ったころのわたし。 “どこへ帰るのかも”分からなくなって、“伝えない言葉”を選ぶように

ドキュメンタリー映画「あなた、その川を渡らないで」#863

今日11月22日は、「いい夫婦の日」です。 この日には必ず、「あなた、その川を渡らないで」という韓国のドキュメンタリー映画を思い出します。 結婚76年目の老夫婦の日常を追った映像で、98歳のおじいちゃんと89歳のおばあちゃんのラブラブぶりに、すっかりあてられてしまうのですけれど。 生きとしいけるものには寿命がある。 最高のパートナーといえども、いつか別れの時がくる。 激動の時代を生き抜いたふたりの、穏やかな愛の形に涙が止まりませんでした。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー映画「あなた、その川を渡らないで」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ おふたりが住んでいるのは、雪深い江原道の山奥。子どもたちは皆、都会に出て仕事をしていて、お互いだけが頼りです。というと、寂しい侘しい貧しい暮らしが思い浮かぶと思うのですが、印象はまったく逆です。 ♪ ふ~たりのため~ せ~かいはあるの~ ホントにこんな風に暮らしている夫婦がいるんだ……と思うくらいのラブラブ生活。 春は野花を摘んでお互いの髪に飾り、夏は水遊び、秋は落ち葉でいたずら、冬は雪合戦。これがドラマなら、「いまどき、10代でもこんなベタな恋愛しないよ」なんてレビューが付いてしまいそうなくらい微笑ましい光景です。 これは撮影用の「演出」なのかという疑問も上がったそうですが、ガチでずーーーっと一緒なんだそう。 お茶目でロマンチストで、気遣いにあふれているおじいちゃんは、おばあちゃんのことが大好き。この家のトイレは外にあるため、夜に用を足す時は、おばあちゃんが怖くないように歌をうたってあげたりなんかもしてます。 落ち着けない気もする……。 老夫婦はずっとおそろいの韓服を着ていて、これは子どもたちが誕生日ごとに贈ってくれたものだそう。いっぱいあるので、日々着ることにしたとのこと。これもかわいいしかない。 (画像は映画.comより) 映画は、雪の中で泣き続けるおばあちゃんの姿から始まります。大きな土まんじゅうには草も生えておらず、雪も積もっていない。つまり、作られたばかりの「お墓」の前なんです。 人生最高で最愛のパートナーといえる人に出会うことは、幸せなことだといえるでしょう。でも、出会ったご縁を育てることこそ、人生の一大事業といえるのかも。 「いい夫婦」について、「心地よい関係」につい

ドキュメンタリー「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」#836

30代後半のアラフォーであるにも関わらず、「25歳の就活生」を演じても違和感のないハン・ジミンさん。透明感のある肌と、クルクルした瞳、泣き顔まで美しい俳優です。 (画像はAmazonより) ドラマ「オールイン」で主人公ソン・ヘギョの子ども時代を演じ、時代劇ドラマの巨匠イ・ビョンフン監督の 「宮廷女官チャングムの誓い」 でイ・ヨンエの親友役を、 「イ・サン」 ではヒロイン役を熱演。一躍トップ俳優に上りつめました。 清純でかわいらしいイメージがありますが、実は酒豪としても有名なのだとか。ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」のクランクアップのお祝いに花束を贈られた際、真ん中に焼酎の瓶が刺さっていたくらいです。 ドラマ「まぶしくて ―私たちの輝く時間―」#835   料理研究家のペク・ジョンウォンさんが、毎回異なるゲストを招くトーク番組「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」に出演した時も、クイクイクイクイクイクイと焼酎を飲んでいました。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」 https://www.netflix.com/title/81299230 ☆☆☆☆☆ 毎回のゲスト一覧はこちら。 エピソード1 :絶望の時ソジュがあった   ゲスト:ラッパーのパク・ジェボムとロコ エピソード2 :人と人をつなぐソジュ   ゲスト:俳優のハン・ジミン エピソード3 :はじめまして伝統酒   ゲスト:俳優のイ・ジュンギ エピソード4 :熟していくこと   ゲスト:テレビプロデューサーのナ・ヨンソク エピソード5 :違いがあるからいいんだ!   ゲスト:バレーボール選手のキム・ヨンギョン エピソード6 :あなただけの色を見せて   ゲスト:俳優のキム・ヒエ ペク・ジョンウォンさんは、韓国で最も有名な料理研究家であり、自分でレストランを経営する実業家でもあります。韓国では「愛されおじさん」のひとりなのだとか。 冷麺の歴史を探り、各地の冷麺を食べまくる「冷麺賛歌」もおすすめです。 ドキュメンタリー「冷麺賛歌」#784   「ペク・ジョンウォンの呑んで、食べて、語って」は、キム・ヒエさんが好きなので見始めたのですけど、おとなのしっとりした飲みっぷりに見惚れてしまいました。 ハン・ジミンさんがゲストの回は、釜山にあるオープンテラスのお店でカンパ

ドキュメンタリー「ボクらを作った映画たち」#818

「あの時は、カメラのこっち側の方がドラマチックだったよねー」 むかーしのこと。俳優の中村敦夫さんにインタビューをした時、とある映画の制作について、ドタバタしすぎて、大変だった……という話の中でこう仰っていました。 映画には大勢の人間が関係するので、ドタバタは織り込み済みなのかもしれないけど、現場にいたらヒヤヒヤです。ハリウッドの大型スタジオだって、それは同じ。 いまでは「名作」といわれる映画だって、“カメラのこっち側”は大変なのですよね。 Netflixで配信されている「ボクらを作った映画たち」は、そんな大ヒット映画の製作秘話をまとめたドキュメンタリーです。現在、シーズン2まで配信されています。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー「ボクらを作った映画たち」 https://www.netflix.com/title/80990849 ☆☆☆☆☆ <シーズン1> 「ダーティ・ダンシング」 「ホーム・アローン」 「ゴーストバスターズ」 「ダイ・ハード」   <シーズン2> 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」 「プリティ・ウーマン」 「ジュラシック・パーク」 「フォレスト・ガンプ 一期一会」 どれも1時間足らずにまとまっているので、お気に入りの映画から観るのがおすすめです。わたしは大好きな「プリティ・ウーマン」から観ました。 ☆☆☆☆☆ 映画「プリティ・ウーマン」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 言わずと知れた、ジュリア・ロバーツの出世作。この映画を観た時、口に手を当てず、グワッハッハと笑えるようになりたいなーと思ったものでした。泡がいっぱいのお風呂とか、マネした人も多いのでは。 実際、この画像のように泡泡泡泡泡にするのは超重労働で、掃除も大変なので、一度で懲りました。 (画像はIMDbより) 「プリティ・ウーマン」には複数の脚本があったといわれていますが、番組では、なぜそんな事態になったのかが詳しく紹介されています。 この頃、まだ売れない俳優だったジュリア・ロバーツは、映画の主役に抜擢されたことを母に知らせたのですが、「どんな役なの?」と聞かれて、返事に困ったのだとか。“娼婦の役”とは言えず、「ディズニー映画よ!」と答えたと、雑誌のインタビューで語っているのを読んだことがあります。 キャスティングはジュリア・ロバーツが先に

トークショー「ユ・ビョンジェの言いたいことが言えない」#814

インターネットで誹謗中傷をくりかえす人のことを、英語で「インターネット・トロール」と呼ぶそうです。 トロールとは、「妖怪=少数者」のこと。日本では「ネット民=民衆」扱いですが、英語圏では「特殊な少数者」と認識されているのだとか。 この違いは大きいな。 劇作家で演出家の鴻上尚史さんと、評論家の佐藤直樹さんの対談本『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』で紹介されていました。 ☆☆☆☆☆ 『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 会話の成立しない「インターネット・トロール」の言動は、日本でもニュースになったりしていますが、状況は韓国も同じ。“匿名”の影に隠れて、有名人に対して言いたい放題なことが起きています。 でも、総務省の調査によると、Twitterの匿名利用は、日本がダントツに多くて75.1%。アメリカや韓国は30%台でした。 出典:総務省「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」(平成26年) あることないこと言われっぱなしになるのは気の毒だなーと思っていたら、誹謗中傷の言葉を逆手にとって、トークショーをおこなったコメディアンがいました。 韓国のコメディアンであるユ・ビョンジェは、トークショー「ユ・ビョンジェの言いたいことが言えない」で、自分に対する批判と、今の韓国社会が抱える問題を、見事に笑いに変えています。 ☆☆☆☆☆ トークショー「ユ・ビョンジェの言いたいことが言えない」 https://www.netflix.com/title/80223582 ☆☆☆☆☆ わたしが知っている韓国のコメディアンといえば、キム・ジェドンでした。わたしの好きなロック歌手ユン・ドヒョンの親友だからです。 (左がキム・ジェドン、右がユン・ドヒョン。画像はMBCニュースより) キム・ジェドンは政治の圧力があった時代にも、果敢に政治ネタを取り上げたり、盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領の追悼式で司会をしたりして、番組を降板させられていました。 「韓国の芸能人は政治ネタを避けない」と言われていますが、保守政権に対する激しいツッコミは、風当たりも強かったんです。 政治ネタをジョークにしているユ・ビョンジェも、トークの中で「キム・ジェドンのマネしやがって」と、悪口を書かれたと語っています。 「小説『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んだ」といった

映画「パンケーキを毒見する」#796

第4の権力と呼ばれたジャーナリズムは死んだのか。 学生時代、元朝日新聞記者の本多勝一さんの著書に傾倒していたわたしにとって、観たいけど、観たくない映画がありました。 これ以上、現実に絶望したくないから。 そんな想いを抱えつつ、観に行った「パンケーキを毒見する」。やっぱり行くんかい!なんですけど、やっぱり絶望してしまいました……。 でも、目を背けてはいられないと思うのです。この現実を。 ☆☆☆☆☆ 映画「パンケーキを毒見する」 https://www.pancake-movie.com/ ☆☆☆☆☆ 2019年に公開され、ダブル主演を務めたシム・ウンギョンと松坂桃李が、第43回日本アカデミー賞で最優秀主演男優賞と最優秀主演女優賞を受賞。そして最優秀作品賞にも輝いた映画「新聞記者」。 日本ではあまりなかった社会派劇映画でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「新聞記者」 DVD Amazonプライム配信 ☆☆☆☆☆ 「パンケーキを毒見する」は、「新聞記者」のプロデューサーである河村光庸さんが、企画・製作・エグゼクティブプロデューサーを務めた映画です。第99代内閣総理大臣・菅義偉の素顔に迫った「政治ドキュメンタリー」映画。 って、映画.comなどでは「政治ドキュメンタリー」と紹介されていますが、どちらかというとパンフレットにあるように「政治バラエティ映画」だと思います。 その点が、もしかしたら好き嫌いの分かれるところかも。 わたしは「ドキュメンタリー」映画が好きなので、正直に言って、微妙に感じるところもありました。たぶん、恣意的にみえるからでしょう……。 石破茂さんや、江田憲司さんら代議士、元官僚の古賀茂明さん、元朝日新聞記者の鮫島浩さんらのインタビューのほか、実際の国会での“議論”の様子を、上西充子教授が解説されています。 特に、国会での“議論”。 ここで露わにされるのは、言葉がないがしろにされていく様子です。 総理が質問に答えない、というニュースは見たことがあったものの、実際の映像は見たことがなかったんですよね。映画では20分もの国会映像を見ることができます。 そんな長いものを? と思いますよね。でも、上西教授がツッコミながら解説してくれるので、思わず笑ってしまう。 いや、笑ってる場合じゃないんだけど。国会は「言論の府」だと習ったはずが、会話がまったく成立しない

ドキュメンタリー「豚バラ賛歌」#785

とにかくおいしそうなのですよ。肉の焼けるジュージューという音も、脂の垂れる様子も、かたまり肉も、すべてが胃袋を刺激する。モワーッとした煙に包まれたくなってしまう。 Netflixで配信中のドキュメンタリー「豚バラ賛歌」は、夜中に観てはいけない番組です。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー「豚バラ賛歌」 https://www.netflix.com/title/81347666 ☆☆☆☆☆ 「冷麺賛歌」と同じく、案内人はペク・ジョンウォンという料理研究家です。BTSの番組がきっかけでペク先生にハマったという方もいるのだそう。いまの時代、海外の文化と出会う入り口が、いっぱいあっていいですよね。 ドキュメンタリー「冷麺賛歌」#784   「豚バラ」は、韓国語で「サムギョプサル」と呼びます。日本でいう「三枚肉」のことなんですが、むかしは冷凍肉を薄く切って出すことが多かったように思います。それが「生サムギョプサル」が登場し、「ワインサムギョプサル」などの“凝った”食べ方も増えてきました。 こうした流れは、肉の保存法や調理器具の発展があったそうです。 卓上のカセットコンロが普及したことで、広まった「サムギョプサル」文化。日本語に「同じ釜の飯を食う」という言葉がありますが、韓国語だと「同じ鉄板の肉を食う」になるのかなと思うくらい、コミュニケーションの弾む料理なのです。 「賢い医師生活」のシーズン2で、ソンファの誕生日にイクジュンがプレゼントしていたのが、サムギョプサルの鉄板。あれはプレーンなものでしたが、テニスのラケット型なんてものもあるそう。 2016年には、韓国国内の豚の生産量が米を上回ったとのこと。どんだけ豚が好きやねんと思いますが、たしかに、日本なら牛肉、韓国なら豚肉の方がおいしいなーと思います。もしかして、今はチキンの方が多いかもしれないですね……。 ただ、ペク先生は「おいしいのはバラ肉だけじゃない!」と、他の部位の魅力についても語っておられて、豚バラだけが消費される現状に警鐘を鳴らす番組にもなっています。 韓国に留学していた頃、下宿のアジュンマ(おばさん)がよく山に連れて行ってくれました。畑の真ん中で「サムギョプサル」を焼くんです。すごーく良く言えば、キャンプみたいなもの。ただし、ホントの山の中で、なぜそんなとこまで行くのかは、よく分からなかったのですが。 この「サムギョ

ドキュメンタリー「冷麺賛歌」#784

ただいまNetflixで配信中の「冷麺賛歌」が、ヤバいくらいにスイッチを押してきます。 今日のランチは冷麺の一択!!! シズル感たっぷりの映像と、各地の冷麺、作り方の歴史などを紹介するドキュメンタリー。冷麺ってこんなに種類があったのね……。 ☆☆☆☆☆ ドキュメンタリー「冷麺賛歌」 https://www.netflix.com/title/81473619 ☆☆☆☆☆ 案内人となるのは、ペク・ジョンウォンという料理研究家です。この方が、バクバク、ズルズル、グビグビと、たくさんの冷麺を食べまくるんです。 女優ソ・ユジン、夫ペク・ジョンウォンとの“交際時代”の写真を公開!   冷麺が好きという歌手のソン・シギョン、ドラマ「ホント無理だから」で偏屈な留学生を演じていたヨア・キムも出演しています。 ドラマ「ホント無理だから」#738   韓国の冷麺は、日本で食べる冷やし中華や冷たい麺類とはちょっと性格が違っていて、基本的に冬に食べる食べ物だったんです。 なぜなら、めちゃくちゃ手がかかる重労働だから。 日本の蕎麦は包丁でカットしますよね。でも冷麺の麺は、ところてんみたいに生地を押し出して作るんです。お坊さんがふたりがかりで押し出しているシーンもありました。 農繁期を終えた冬は、時間があります。だから村人たちが集まって作業できた、ということだそう。 蕎麦を栽培していたのが北の方だったため、まずは北部で発達した料理だったようです。インタビューの中で「失郷民」といわれているのが、朝鮮戦争の時、南の方に逃げてきた避難民のこと。避難先で「故郷の味」として親しまれ、定着していったわけです。 麺は大きく分けると2種類です。 ○ 平壌(ピョンヤン)冷麺:そば粉と緑豆粉が主原料で、太くて黒っぽい麺 ○ 咸興(ハムフン)冷麺:そば粉とトウモロコシなどのデンプンが主原料で、細くて白っぽい麺 スープはさらに多彩。牛肉、魚などありますが、冷麺の発展を支えたのは「水キムチ」だった、という話でした。 わたしは平壌冷麺の麺の方が好きなのですが、これがゴムみたいにコシのある麺なんです。ドラマではよくお箸に巻き付けて食べているので、挑戦してみたけど、上手にできなかった……。 食いしん坊の胃袋直撃な刺激大のドキュメンタリーです。

映画「SNS-少女たちの10日間」#669

モテる人の第一条件として、よく言われるのが「相手の話を聞く」ことです。相手が気分よく話せるようにしてくれるから、別れた後も「楽しかったー」という記憶が残る。そしてまた会いたくなるのです。 反対に、「自分の話しかしない」人は、まず、絶対に、たぶん、モテない。だって、自分が気持ちいいだけなんだもん。じゃあ、ひとりでしゃべってろよ、わたしの時間を奪うんじゃない!と思ってしまうのです。 「SNS-少女たちの10日間」は、衝撃的なドキュメンタリーで、観ている間も気持ち悪くて仕方なかったのですが、目が離せないんです。こんなにも危ない世界があったなんてと戦慄してしまいました。 ☆☆☆☆☆ 公式サイト http://www.hark3.com/sns-10days/ ☆☆☆☆☆ 「12歳の少女に扮した童顔の大人の女優3人が、スタジオ内のリアルに作りこまれた3つの子供部屋で10日間、12歳の偽アカウントでSNSを使うと、どのようなことが起こるのか」という実験のようなリアリティーショー。もともとは、チェコの通信会社が依頼した動画制作を請け負ったことでした。 「12歳の少女・ティンカ」という情報だけで、80人を超える成人男性がコンタクトをしてくるという内容でした。ここから、長編ドキュメンタリーの制作を決めたのだそう。 3人の少女役は12歳にしか見えませんが、成人した女性たちで、それぞれに12歳の役作りをして臨んでいます。最後に「いまでも悪夢を見る」と語っていた人がいましたけれど、なかなかこのショックからは抜け出せない気がする。 それくらい、衝撃的なんです。男の身勝手な欲望が。 「自分の話しかしない」上に、自分の欲求を突きつけ、怒り、脅し、心を支配していく。アクセスしてきた人の中には、結婚している人も、子ども相手の仕事をしている人も登場します。スタッフのひとりが「この人は知り合いかも!?」と言い出したときは、膝が震えました。 スカイプに映る人の顔には(男性たちが見せたがる男性器にも)モザイクがかかっているのですが、目と口元だけはナマの状態になっています。これが、超マヌケに見えて……。やっていることのグロテスクさと相まって、滑稽度が爆上がりしていました。 インターネットのない時代に戻ることは考えられない以上、今までとは違う、もっと踏み込んだリテラシーが必要なのだと思います。 監督のひとり、ク

映画「ブックセラーズ」#668

  “紙”の本を愛する人々による、本を愛する人々へのラブレターのような映画です。 ☆☆☆☆☆ 「ブックセラーズ」公式サイト http://moviola.jp/booksellers/ ☆☆☆☆☆ 「NO BOOK, NO LIFE」で「NO CINEMA, NO LIFE」なので、ドンピシャでキター!!となりました。映画館にも本屋さんにも行けない生活は地獄のようです。美術館も、劇場も、ライブハウスだってそう。 一年以上もの間、経済的な打撃を受けていることを考えると、5年後、10年後の文化への影響は計り知れないと思われます。だって、作り続けていないと経験が積み重なっていかないですから……。 中でも出版業界は、長引く不況でオワコン扱いされていましたが、下げ止まりがあるという予想もありました。電子書籍やオーディオブックという形がある以上、“本”自体は生き残るのではないかといわれています。 【2021最新】出版業界の今後はどうなる?市場規模データから紐解いてみた https://booktrip-japan.com/media/publishing-industry/ それでもわたしは“紙”で本を読みたい派で、本屋さんで本を買いたい派です。積ん読本が部屋を占拠していても、新しい本が欲しくなる。好きな作家の新刊はもちろん、誰かがおすすめしていた本、表紙に一目惚れした本などなど、新刊書店にも古本屋にも、せっせと通う方でした。 映画「ブックセラーズ」に登場するのは、わたしのような素人の本好きではなく、ガチのブックセラーたち。ニューヨークブックフェアを舞台に、そこに集う人々にインタビューしたドキュメンタリーです。 本に魅せられ、本を愛した人たちが語る、「終わってたまるか!」という強い矜持に惚れ惚れします。“本オタク”たちの言葉にとてつもない愛が感じられる。本の上にグラスを置いたら、どんな罰が待っているのか、思わず吹き出してしまうコメントも。 新作映画を紹介するのに気が引けるなんて、つらすぎる。「NO BOOK, NO LIFE」で「NO CINEMA, NO LIFE」な生活への想いを込めて。

「ザ・シェフ・ショー」#661

アメリカ版「男子ごはん」なノリノリトークが楽しい「ザ・シェフ・ショー」。映画「シェフ」で共闘したジョン・ファヴロー(俳優・監督)とロイ・チョイ(シェフ)によるお料理番組です。観てるだけでお腹が空いちゃう。 ☆☆☆☆☆ 「ザ・シェフ・ショー」Netflixで配信中 https://www.netflix.com/title/81028317 ☆☆☆☆☆ 毎回ゲストを招いてふたりが料理をしたり、有名レストランの厨房を訪問したり。料理ってこんなに楽しいものなんだと、ウキウキしてきます。 映画監督ならではだなと思うのが、ジョン・ファヴローが「なぜなぜ坊や」なこと。 シェフがガスの火加減を調整していたら、すかさず「なぜ?」と聞く。あるレストランのキッチンでロイが「すげー!」とつぶやいた時も、すかさず「何がすごいの?」と質問。 シェフの小さな動きを見逃さず、素人目線で「なぜ?」を深掘りしていきます。日本のお料理トーク番組だと、「おいしそー」とか「いい香り~」くらいしか聞いたことがない気がしますがね。ふたりのイメージの豊富さに、見入ってしまうのです。 韓国系アメリカ人のロイ・チョイは、フードトラックブームの火付け役として知られる人物。映画研究者・三浦哲哉さんのエッセイ『LAフード・ダイアリー』にも、彼の店「コギ」の話が出てきます。 ☆☆☆☆☆ 三浦哲哉『LAフード・ダイアリー』 https://okusama149.blogspot.com/2021/05/la662.html ☆☆☆☆☆ ロイ・チョイの生き方にインスパイアされ、「シェフ」として映画化する際、ジョンに言ったそうです。 「ウソはダメだよ。プロが見ればすぐに分かるから」 実際にはジョンの料理の腕はプロ級で、指導するのも楽しかったそう。 知りたがり屋で、トライしたがり屋のファブローはよく「May I?」と言っています。 「焼いてみてもいい?」 「切ってみてもいい?」 「味見してもいい?」 料理人の流儀を説明するロイと一緒に、バクバク食べて、ニッコリ笑う。おいしすぎて時々、踊ってもいます。シェフ同士のリスペクトも見ていて気持ちいい番組なのです。

映画「ノマドランド」#644

「ノマド」という言葉を知ったのは、佐々木俊尚さんの『仕事するのにオフィスはいらない ノマドワーキングのすすめ』だったように思います。 「ノマド」とは日本語に訳すと「遊牧民」のこと。オフィスに固定されずに、さまざまな場所を移動する働き方は、2009年の発売当時、話題になりましたよね。 いまでは一気に進んだテレワーク化によって、もはやオフィスにも、都心にも縛られない生き方も選べるようになりました。 それでも、わたしは「ノマド」な暮らしに対して、憧れと恐れのふたつを持っていました。帰る場所を持たないが故の解放感と心許なさ。「ノマドランド」はまさにそんな空気を描いた映画でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「ノマドランド」 https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html ☆☆☆☆☆ フランシス・マクドーマンド演じるファーンは、企業が倒産した影響で家を失い、車上生活を送ることになります。ひとつの企業の消失が、街の消滅につながるのは、炭鉱町を思い出させる展開です。 「持たない暮らし」といえばかっこいいけれど、現実には車一台に積めるものしか持てないのだし、モノは物々交換で手に入れるわけです。季節労働者として働く高齢者に、公的な支援はないことも感じられます。 ファーンは、なりたくて「ノマド」になったわけではない。それでも、同じような暮らしをする人びとと交流し、大自然の中で今日を生きる彼女は、徐々に誇りを取り戻していく。その映像が見入ってしまうくらい美しいです。 ちょうどCG満載の韓国ドラマにハマっていた時だったので、リアルを映した映像の奥行きというか、広がりというかの違いに驚きました。吹き渡る風の匂いまで感じられそうなんです。 出演者も、主演のフランシス・マクドーマンドと、彼女に惹かれるデビッド・ストラザーン以外は、素人のリアルノマドだそう。リアルノマドたちが語る「今日を生きる」姿勢は、フィクションとノンフィクションが融合した世界でもあります。 派手な展開はないし、物語に大きなうねりはないけれど。何もかもなくしたファーンの手に、唯一残っていたもの。その存在に、ハッとさせられます。

BLACKPINK入門編はK-POPってなんだという問い 映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」 #591

「皮むけた唇に血がにじんでも あきらめたくはないやいやい」 17歳のとき、女子高生歌人としてデビューした加藤千恵さんの歌です(『ハッピーアイスクリーム』所収)。 「BLACKPINK」の来し方を追ったドキュメンタリー映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」を観ながら、加藤さんの歌を思い出していました。JKの全能感と焦燥感は、「BLACKPINK」にピタリと合うのです。 “永遠に醒めない夢はそれはもう夢ではなくてべつの何かだ”  (加藤千恵『ハッピーアイスクリーム』所収) 歌手になりたくてオーディションを受けた日から始まった、夢への道。レディー・ガガとコラボした新曲が、世界57ヶ国のiTunesチャートで1位になったり、1stシングルの動画の再生回数が、ギネス世界記録に認定されたり、彼女たちの夢はもうべつの何かになっているのではないかと思っていたのだけれど。 ああ、いまはまだ夢の途中なのだとも思う。 生い立ちから練習生時代のこと、オフタイムやトレーニングしながら、時に涙を流しながら語られる言葉のひとつひとつに、パワーの源泉が感じられました。現在、Netflixで配信されています。 ☆☆☆☆☆ 映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」  https://www.netflix.com/title/81106901 ☆☆☆☆☆ 「BLACKPINK」とは、2016年8月8日にシングルアルバム『SQUARE ONE』でデビューした4人組のグループです。 現在活躍しているガールズグループのTWICEやNiziUは9人、IZ*ONEなんて12人もいることを考えると、4人という構成は少ないなという気もします。BTSだって7人もいますし。 でもこの4人の音楽は、人数構成を上回るパワーを感じさせます。女優としても活動するオム・ジョンファは、90年代後半に「セクシークイーン」として君臨し、「韓国のマドンナ」と呼ばれていました。「BLACKPINK」は、オム・ジョンファが切り開いた「かっこいい女」路線を受け継いでいるといえます。 初の海外旅行がハイジャック! 映画「ノンストップ」 #590   ジス、ジェニー、ロゼ、リサのメンバー4人は、YGエンターテインメントの練習生として知り合い、激しいトレーニングと厳しい評価に耐え抜いてきた「仲間」でもあるのだそう。グループ

冷静と情熱のあいだで揺れる政治家の青臭さを誰が笑えるのか 映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」 #377

「なぜ君は総理大臣になれないのか」 この問いは、会社員なら「なぜ君は社長になれないのか」でしょうか。 ドキッとするようなタイトルのドキュメンタリー映画。ひとりの政治家の選挙活動を17年間にわたって追いかけたものですが、目にしているのは「万年係長の悲哀」のようでした。 「選挙区で勝てないから党内で発言権がない」 日本を変えるための政治を目指した小川淳也さん。いわゆる、「三つのばん=地盤、看板(肩書・地位)、かばん(金銭)」を持たない小川さんは、政治を動かす以前に選挙に弱い。思わず出たグチに苦笑いしてしまう。 あまりにも実直で、あまりにも純粋。そんな衆議院議員・小川淳也さんを追った映画があまりにもおもしろくて、民主主義について考えさせられました。そして言葉が持つ力についても。 ☆☆☆☆☆ 映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」 公式サイト http://www.nazekimi.com/ Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 2003年、元総務省の官僚だった小川さんは、当時32歳で民主党から衆議院選挙に初出馬するも、落選。2005年の選挙でようやく比例復活で初当選します。 時の総理大臣は小泉純一郎。「郵政解散」と呼ばれた総選挙でした。“刺客”候補の第一号として、兵庫県から東京へと鞍替え立候補したのが小池百合子だったんですよね。 政策論争よりも劇場型のパフォーマンスが得意な人たちに振り回されるしかない末端の(失礼)政治家。なんだか因縁を感じてしまうのは、2017年の選挙で小池知事にまたまた振り回されてしまうからです。 民進党が解党された後、「希望の党」に合流するか。無所属で戦うか。 悩みに悩む姿、町の人たちからかけられる厳しい言葉を、カメラはありのままに映しています。また、「選挙」が狂わせる家族の生活や、政治家の懐事情も。 小川議員を17年間追う中で、大島新監督は「この人は政治家に向いていないんじゃないか」と思ったのだそう。映画の冒頭のインタビューでこう問いかけます。 「なぜ小川さんは総理大臣になれないんですか?」 タイプとしては頭のいい青春ドラマの主人公のような小川議員。暑苦しく選挙を戦い、前のめりになって陳情を聞き、勉強会に参加する。 青臭いと感じるほどの姿勢で、マジメにがんばっているのに、致命的に「力」がないんですよね。 それは残酷なほどに。 ま