「なぜ君は総理大臣になれないのか」
この問いは、会社員なら「なぜ君は社長になれないのか」でしょうか。
ドキッとするようなタイトルのドキュメンタリー映画。ひとりの政治家の選挙活動を17年間にわたって追いかけたものですが、目にしているのは「万年係長の悲哀」のようでした。
「選挙区で勝てないから党内で発言権がない」
日本を変えるための政治を目指した小川淳也さん。いわゆる、「三つのばん=地盤、看板(肩書・地位)、かばん(金銭)」を持たない小川さんは、政治を動かす以前に選挙に弱い。思わず出たグチに苦笑いしてしまう。
あまりにも実直で、あまりにも純粋。そんな衆議院議員・小川淳也さんを追った映画があまりにもおもしろくて、民主主義について考えさせられました。そして言葉が持つ力についても。
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映画「なぜ君は総理大臣になれないのか」
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2003年、元総務省の官僚だった小川さんは、当時32歳で民主党から衆議院選挙に初出馬するも、落選。2005年の選挙でようやく比例復活で初当選します。
時の総理大臣は小泉純一郎。「郵政解散」と呼ばれた総選挙でした。“刺客”候補の第一号として、兵庫県から東京へと鞍替え立候補したのが小池百合子だったんですよね。
政策論争よりも劇場型のパフォーマンスが得意な人たちに振り回されるしかない末端の(失礼)政治家。なんだか因縁を感じてしまうのは、2017年の選挙で小池知事にまたまた振り回されてしまうからです。
民進党が解党された後、「希望の党」に合流するか。無所属で戦うか。
悩みに悩む姿、町の人たちからかけられる厳しい言葉を、カメラはありのままに映しています。また、「選挙」が狂わせる家族の生活や、政治家の懐事情も。
小川議員を17年間追う中で、大島新監督は「この人は政治家に向いていないんじゃないか」と思ったのだそう。映画の冒頭のインタビューでこう問いかけます。
「なぜ小川さんは総理大臣になれないんですか?」
タイプとしては頭のいい青春ドラマの主人公のような小川議員。暑苦しく選挙を戦い、前のめりになって陳情を聞き、勉強会に参加する。
青臭いと感じるほどの姿勢で、マジメにがんばっているのに、致命的に「力」がないんですよね。
それは残酷なほどに。
まったく関係のない土地の、まったく知らない候補者の話ですが、うっかり泣きそうになるくらい、小川議員の言葉は力を持っていました。ですが、それだけでは政治の世界を渡ることはできません。
有力者と付き合ったり、メディアに出たりすることを勧められますが、パフォーマンスには本当に興味がないようです。
5月13日に、インターネットで行われた大島監督によるインタビューがパンフレットに掲載されています。
安倍さんの演説が活字コミュニケーションに近い一方で、ドイツのメルケル首相は全身全人格的コミュニケーション。自らの体験や価値観に裏打ちされた生の言葉だから胸に迫るものがあるとのこと。
言葉が軽くなってしまった社会でもがく、総理大臣を目指す野党の政治家。社会について、政策について、もっとこの人の言葉を聞いてみたいと思ったのでした。
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