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12月, 2019の投稿を表示しています

少年の学校生活を通して知る“他者への想像力” 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 #175

「ニコニコしながら歩くな」 十年ほど前、初めてスコットランドに行く時に、日本人だけどシンガポールとイギリスで育った友人がくれたアドバイスです。 いま考えてもひっどいなー。 でも、そうでなくてもボンヤリのわたしが、厳しい生存競争を戦っている人たちの中を歩いたらどうなるか。彼女には分かっていたのだと思います。 あれから何度もイギリス(イングランドとスコットランド)に行きましたが、いずれも合気道の海外セミナーに参加していたので、滞在中のほとんどの時間は体育館で過ごしました。それでもちょこっと町歩きをしたり、ショッピングに出かけたりくらいの時間はある。 どんな顔をして歩いたらいいんだろう。 いつも彼女のアドバイスが頭にあって、かえって悩みました。とはいえ、わたしが外出する時は、現地の合気道仲間ががっちりと周りを固めてくれるので怖い思いをすることはなかったんですけれど。 ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んで、合気道仲間について、イギリスという国について、わたしは本当にほんの一面しか見ていなかったのだと気がつきました。そして冒頭でご紹介した友人のアドバイスの真意についても。 ☆☆☆☆☆ 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、イギリスの南端にあるブライトンで保育士として働くみかこさんの息子くんが通う、「元・底辺中学校」での一年半を綴ったノンフィクションです。 イギリスという階級社会における格差について知ることができる上、複数のアイデンティティを持つひとりの少年の物語としても、子どもに育てられる親の物語としても読むことができます。 子育て中の方、外国人とふれ合うことがある人、多様性について知りたい人、アイデンティティに迷っている人に絶賛おすすめ。ポイントを紹介していきます。 ちょっとブルーが通う中学校とは カトリックの名門小学校から、家の近くにある公立中学校に通うことになった息子くん。そこは数年前まで「底辺中学校」と呼ばれていた学校でした。 息子くんが通う頃には学校ランキングで真ん中辺りまで上がったため「元」が付いているのです。 ピーター・ラビットが出てきそうな上品なミドルクラスの小学校から、盗んだバイクで走り出すなんてかわいい!と思ってしまうくらいの

“無意識の悪意”が階級を分断する 映画「パラサイト 半地下の家族」 #171

韓国映画で初めてカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した「パラサイト 半地下の家族」を観てきました! 映画の内容、特に後半については「ネタバレ禁止でよろしく!」と監督がパンフレットに書くくらい、一切口外できないストーリーです。言えるのは 「マジで激ヤバい!!!!!」 くらい。 ☆☆☆☆☆ 映画「パラサイト 半地下の家族」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送るキム一家。ある日、長男のギウは友人の紹介で家庭教師をすることになります。相手はIT企業のCEOであるパク家の長女。かび臭く、湿っぽい半地下の家から、超豪華な邸宅に向かうギウには「計画」があったようで……。 12月27日の特別上映会では、ポン・ジュノ監督と、主演のソン・ガンホが舞台挨拶を行いました。覚えている範囲になりますが、そこでのトークをご紹介します。 ポン監督 :日本での公開初日にこうしてお会いできて光栄です。変な映画ですよ(笑)。予想もつかない展開なので、心のシートベルトをしっかり締めておいてください。それから、後半のネタバレはしないようにお願いしますね。 ソン・ガンホ :たくさんの方にお越しいただいてありがたいです。実は長男役のチェ・ウシクの方が、わたしよりちょっとだけ登場シーンが多いんです。だから彼は「主演は僕だ!」って言ってるんですけど、映画をご覧になれば、主演がわたしだということがお分かりになると思います。だから映画を観た後は、「この映画の主演はソン・ガンホだ」と噂してくださいね。 (左の男性がチェ・ウシク。四浪してますが、家庭教師に) (画像はKMDbより) Q:映画が話題となっている状況についてどう感じていますか? ソン・ガンホ :アメリカでも、ヨーロッパでも大騒ぎになってますね。日本の皆さんも一緒になってください。 Q:最初からソン・ガンホさんを念頭に脚本を書いたそうですね? ポン監督 :当然ですよ。ライオンに「なんで肉食なの?」って尋ねるようなものですよ。粗悪なたとえでごめんなさい(笑)。でもソン・ガンホさん以外に、A・B・C案はなかったです。 2015年に、一緒に食事をしながら「お金持ちと貧乏人の家族が出てくる映画を撮るんだ」という話をして、その場で出演OKをもらいました。 ソン

空気の読めない男が閉塞感をぶち壊す 映画「守護教師」#162

身長178cm、体重100kg、元ボディビルダーという体格を生かした演技で、武闘派のイメージが強い俳優マ・ドンソク。近年は、役柄の幅も広がっていますが、今年日本で公開された映画はほとんどが“腕力系”。 すべてをなぎ倒す勢いが楽しいのですけれど。 武力だけでなく、優男な部分を融合させた役柄もできるようになったんだなと感じた映画が「守護教師」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「守護教師」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> ボクシングの元チャンピオンだったギチョルは、暴力沙汰でコーチの職を失ってしまいます。妹の紹介で得た仕事は、なんと女子高の体育教師! 必死に学校になじもうとするも、失敗ばかり。そこで不登校の同級生を探すユジンを手伝うことにしますが、警察も他の教師もまともにとり合おうとしない様子に、不信感を抱きます。そんな中、ユジンが何者かに襲われてしまい……。 正義感が強く、その分、世渡り下手。体育教師と同時に学費の未納分を取り立てる仕事も請け負っています。こんなの家に来ちゃったら怖いよ……。 (画像はKMDbより) 姓のマと、ラブリーを組み合わせ、“マブリー”の愛称で親しまれているマ・ドンソクは、彼自身がひとつのジャンルと呼べるくらい“大運動会”な映画が続いています。 「守護教師」は先日ご紹介した「無双の鉄拳」よりも犯罪・スリラー要素の強い映画ですが、それでもやっぱりすべてを解決してくれるのは、マブリーの腕力。木製の扉なんて、なんの役にも立たずに吹っ飛ぶんですから。それなのに女子高生にはやり込められる、かわいい姿が拝めます。 ユーモアの差し込み方が、ホントにうまいんですよ。 ちなみに、女子高生を演じるのは「アジョシ」の名子役キム・セロンです。大きくなっちゃって!!!という感じなのですが、マブリーと並ぶと遠近感が分からなくなっちゃう。笑 それにしても、これだけ“大運動会”系映画が量産されると、マブリーが消費されて終わってしまうのではないかと不安でした。 が、先に書いたように、優男な部分を融合させたり、脳みそまで筋肉でできてんじゃないのかと感じる男が社会性を身につけて成長したりと、複雑な人間味を出す演技の深みは増しているように感じます。 特にこの映画で描かれているのは、韓国の伝統的な「父権主義」です。あっさりと犯人

ゾンビがかわいそう!? 映画「新 感染 ファイナル・エクスプレス」 #161

2002年に映画のオーディションを受け、デビューした“マブリー”こと、マ・ドンソク。ちょい役、わりと早い段階で殺されちゃう役、主要メンバーの外側にいる役、まぁまぁわき役などでキャリアを積んできました。 三白眼・コワモテ・マッチョという、恐怖の三拍子がそろった外見を活かして大ブレイクした映画が「新 感染 ファイナル・エクスプレス」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新 感染 ファイナル・エクスプレス」 https://amzn.to/36ki6oR ☆☆☆☆☆ <あらすじ> ソウルでファンドマネージャーとして働くソグは、プサンにいる母に会いたいという娘の願いを叶えるため、ソウル駅からプサン駅に向かう高速鉄道KTXに乗り込みます。発車直前、駅周辺では謎のウィルスによる騒ぎが発生。2人の乗った電車にも、ウィルスに感染したひとりの女が。ソグ親子、妊婦と夫、野球部の高校生、年老いた姉妹らが生き残りをかけて決死の戦いに挑む! 韓国映画初の大型ゾンビ映画となった「新 感染」は、カンヌ国際映画祭のミッドナイト・スクリーニング部門でも上映され、世界中で話題となりました。 多くのゾンビ映画は、 ゾンビから逃げる ↓ ゾンビをどこかに閉じ込める or 自分が安全圏に脱出 というラストを迎えます。が、「新 感染」の場合は、始めから“移動状態”なんです。特急列車の中で逃げる→閉じこめるが繰り返されるという、密室ホラーな設定に、かなり緊迫感がありました。 映画を監督したヨン・サンホは、もともと社会批判的なアニメーション映画を作っていました。「新 感染」の前日譚ともいえる映画が「ソウル・ステーション パンデミック」です。こちらは父と娘の物語。主人公の声を演じているのは、今年日本映画デビューを果たしたシム・ウンギョンです。 ☆☆☆☆☆ 映画「ソウル・ステーション パンデミック」 https://www.netflix.com/title/80133764 ☆☆☆☆☆ 監督のインタビューによると、もともと「ソウル・ステーション」を実写映画化しようという提案があったそう。でもすでにアニメの制作に入ってた……。そんなわけで、続編にあたる「新 感染」は実写で撮ることになったと語っています。 制作に入ったのが2014年9月。この年の4月には、韓国社会を揺るがす事故が起きています。 セウォル号沈没事件です。 あまりにも

“マブリー”の人間味に惚れる 映画「犯罪都市」 #160

“マブリー”の愛称で親しまれている俳優のマ・ドンソク。出世作といえば、2016年に公開された「新感染 ファイナル・エクスプレス」です。 ゾンビがかわいそう!? 映画「新 感染 ファイナル・エクスプレス」 #161   ソウルからプサンに向かう特急電車で発生したゾンビによる大パニックから身重の妻を守る夫を熱演し、大ブレイクしました。 三白眼・コワモテ・マッチョという、恐怖の三拍子を備えた外見を活かし、ドラマや映画での活躍が続いています。 彼の魅力は、不愛想でぶっきらぼうで武闘派な印象なのに、弱き者にはとことん優しい姿を見せてくれるところだと思います。だから姓のマ+ラブリーをミックスして、“マブリー”なんて呼ばれちゃうんですね。 警察と地元ヤクザ、中国マフィアが繰り広げる三つ巴の仁義なき戦いを描いた映画「犯罪都市」では、頼れる先輩を演じていました。 ☆☆☆☆☆ 映画「犯罪都市」Amazon https://amzn.to/3xgQb5q 公式サイト http://www.finefilms.co.jp/outlaws/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 舞台はソウル南部のチャイナタウン。勢力を二分し、対立する毒蛇組とイス組ですが、マ・ソクトには頭が上がりません。人柄と腕っ節の強さで商店街の人々にも親しまれている刑事です。 そこへ中国の犯罪集団「黒竜組」が進出。パワーバランスが崩れ、ヤクザ同士の抗争が始まります。マ・ソクト率いる警察の強力班は一掃を試みますが、若手刑事が大けがを負う事態に。この争いを止めることはできるのか……。 包丁を振り回してわめくヤクザを 一撃で 黙らせ、取り調べに応じない容疑者を 一撃で その気にさせ、相撲取りのような見張り役を 一撃で 気絶させる。なのに、商店街の屋台で働く少年には支援を欠かさない。 そんな“コワモテマッチョだけど根は優しい”=マ・ドンソク像を確固たるものにした映画といえるかなと思います。 この映画は実際に韓国・ソウルの九老区で起きたマフィアの抗争をベースにしているそうです。地図で見ると、明洞やカロスキルのある江南といくらも離れていないのが分かりますよね。この辺りは現在、デジタル産業団地になっているそう。 中国北東部から韓国に移住してきた朝鮮族は、平和に事業を営む者たちがいる一方で、腕力に頼る者たちも出てきてしまいます。その時代を描いている

なめたらあかん! アップデートされた妻を守る方法 映画「無双の鉄拳」 #159

現実社会では「アンガーマネジメント」が注目されていますが、フィクションの世界なら話は別。弱気でダメダメでモジモジしたキャラクターが怒りを爆発させるシーンはカタルシスを感じさせてくれます。  「新感染 ファイナル・エクスプレス」のヒットで日本でも知られるようになったマブリーことマ・ドンソクは、2017年は1本、2018年には4本、2019年には5本とこの数年で一気に出演作が増加(日本での公開)。 おまけにドラマにも出演し続けているんだからすごい。ハリウッドへの進出も決まっている、いま注目の俳優です。 (画像はKMDbより) マブリーの特徴は、なんといっても体格です。身長178cm、体重100kg。もともとボディビルダーだったので、スーツを着ていても胸の筋肉が盛り上がっているのが分かります。腕回りは50センチあるそう。 武闘派のイメージがありますが、「神と共に 第二章:因と縁」では“屋敷神”の役だったので、人間に対して暴力を振るえない、正反対のイメージのキャラクターを演じていました。 「神と共に 第二章:因と縁」に隠された、地味に深い暗号   そうした演技の幅の広さが、制作陣からも信頼を集める理由なのでしょうね。 映画「無双の鉄拳」は、「妻、命!」という人の好いおっちゃんから一気に武闘派に変わる男でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「無双の鉄拳」 DVD (画像リンクです) Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 愛する妻と、仕事仲間と共に穏やかに暮らしているドンチョル。妻の誕生日に、カニ漁船に投資したことを話し、怒らせてしまいます。帰宅すると、部屋が荒らされ、妻は消えていました。家出か? 誘拐か? そこにかかってきた電話の主は、金を渡すから妻のことは忘れろと提案。話の通じない犯人にも、動きのにぶい警察にもキレたドンチョルは自ら妻を探そうと動き出し……。 普段は妻に頭が上がらず、魚市場のボスにもペコペコしているドンチョル(マ・ドンソク)ですが、かつては裏社会で名を知られた存在でした。一度キレたら最後、誰にも止めることできない「雄牛」としてです。映画の原題「성난황소」とは、「怒れる雄牛」のこと。 「なめてんじゃねえぞ!」とばかりに怒れるマブリーへとスイッチが切り替わってしまえば、もうそこは独壇場です。 ボクシングと柔道とプロレスを組み合わせたような武

どんでん返しが楽しみなコンゲーム ドラマ「元カレは天才詐欺師♡~38師機動隊~」#149

外国の映画や小説をみていて、「なぜこのタイトルなんだろう?」と思うこと、ありませんか? たとえばジェフリー・アーチャーの小説『誇りと復讐』は、貧しい生まれの主人公が上流階級の人物になりすまし、復讐を遂げる物語です。 (画像リンクです) この本を読んだ時、「誇りというより、“生まれ”はいかに人生を縛ってしまうのかの話だなー。出自の奴隷って感じ?」と思って原題を見たら「A Prisoner of Birth」でした。笑 もちろん、原題通りにしたら日本では訳が分からん!ということにもなりかねません。この塩梅は、出版社も映画配給会社も難しいでしょうね。 タイトルなんでやねん!問題。ドラマなら、街角のクリエイティブのライター・加藤広大さん(@SMI2LE)に教えてもらった「元カレは天才詐欺師♡~38師機動隊~」が意味不明でした。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「元カレは天才詐欺師♡~38師機動隊~」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ とある地方都市の税金徴収課に勤める、うだつの上がらない課長を演じるのは、マ・ドンソク。ブリブリの筋肉と強面を生かした武闘派のイメージがありますが、このドラマでは妻の尻にしかれつつ、ほどほどに仕事して年金をもらう年まで耐えよう、という男です。 この都市は市長と癒着している大金持ちがいて、彼らは税金を滞納しているんです。逆に、取り立てにきた市庁の職員に収賄の疑いをかけて追い詰めちゃう。 そこで詐欺師の力を借りてでも税金を取り立てるぜ…というドラマです。 あらすじを見てお分かりのように、“元カレ”は全然関係ない! タイトルにハートマークまで付いてるのに! マ・ドンソクと組むことになる詐欺師(ソ・イングク)と、部下の職員(スヨン)が元恋人同士なんですが、本筋にはあんまり関連がなく……。 原題は、日本語タイトルの副題になっている「38師機動隊」です。まー、これだとなんのドラマなのか分からないですね。 税金を取り立てるため、かなり作りこんだガチのコンゲームが繰り広げられます。詐欺師がいかに人の心をつかむのかはもちろん、政治家と企業との癒着や、正社員と契約社員との格差など、社会問題を感じさせるシーンも。 現在、Amazonプライムで配信されています。 https://amzn.to/3rtlPMs 韓国ドラマの脚本の特徴は、早い段階で「犯人を知らせる」ことだそうです。主人公