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“無意識の悪意”が階級を分断する 映画「パラサイト 半地下の家族」 #171


韓国映画で初めてカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した「パラサイト 半地下の家族」を観てきました!

映画の内容、特に後半については「ネタバレ禁止でよろしく!」と監督がパンフレットに書くくらい、一切口外できないストーリーです。言えるのは「マジで激ヤバい!!!!!」くらい。

☆☆☆☆☆

映画「パラサイト 半地下の家族」

DVD

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<あらすじ>
家族全員が失業中で、その日暮らしの貧しい生活を送るキム一家。ある日、長男のギウは友人の紹介で家庭教師をすることになります。相手はIT企業のCEOであるパク家の長女。かび臭く、湿っぽい半地下の家から、超豪華な邸宅に向かうギウには「計画」があったようで……。


12月27日の特別上映会では、ポン・ジュノ監督と、主演のソン・ガンホが舞台挨拶を行いました。覚えている範囲になりますが、そこでのトークをご紹介します。


ポン監督:日本での公開初日にこうしてお会いできて光栄です。変な映画ですよ(笑)。予想もつかない展開なので、心のシートベルトをしっかり締めておいてください。それから、後半のネタバレはしないようにお願いしますね。

ソン・ガンホ:たくさんの方にお越しいただいてありがたいです。実は長男役のチェ・ウシクの方が、わたしよりちょっとだけ登場シーンが多いんです。だから彼は「主演は僕だ!」って言ってるんですけど、映画をご覧になれば、主演がわたしだということがお分かりになると思います。だから映画を観た後は、「この映画の主演はソン・ガンホだ」と噂してくださいね。

(左の男性がチェ・ウシク。四浪してますが、家庭教師に)

(画像はKMDbより)

Q:映画が話題となっている状況についてどう感じていますか?

ソン・ガンホ:アメリカでも、ヨーロッパでも大騒ぎになってますね。日本の皆さんも一緒になってください。


Q:最初からソン・ガンホさんを念頭に脚本を書いたそうですね?

ポン監督:当然ですよ。ライオンに「なんで肉食なの?」って尋ねるようなものですよ。粗悪なたとえでごめんなさい(笑)。でもソン・ガンホさん以外に、A・B・C案はなかったです。

2015年に、一緒に食事をしながら「お金持ちと貧乏人の家族が出てくる映画を撮るんだ」という話をして、その場で出演OKをもらいました。

ソン・ガンホ:僕は当然、「お金持ちの役」だと思ってたんですよ。なのに「貧乏人の役」の方だったんですよね。この映画を観たら、いろいろ考えちゃうと思いますよ。


Q:演じるにあたって意識したことはありますか?

ソン・ガンホ:特別な人というよりも、こうして生きていくしかなかった人なんだと考えました。隣にいる人かもしれないし、自分自身かもしれないし。とても自然で、悪い人・いい人という言葉で片付けられない人物だと思います。


Q:俳優ソン・ガンホの魅力は?

ポン監督:常に予測できない演技を見せてくれるところです。カメラの横で、世界で一番早くその瞬間を見られるという特権を持っているんです、監督は。そのすばらしい瞬間を、今日こうして皆さんと共有できるので、うれしいです。

(画像はKMDbより)


Q:何度もタッグを組んで来られて、お互いに変わったなと感じることはありますか?

ソン・ガンホ:20年間、一緒に映画を作ってきたので、たくさん会話するんだろうと思われるんですが、そうでもないんです。会話しなくても監督の想いやコンディションは分かるようになりましたしね。コンディションがいいかどうかは体重を見れば分かります。今日はかなりいいですよ! ストレスがあると身体がふくらんでいくんですよ。その時は僕も逃げます(笑)。

ポン監督:(ジャケットでお腹を隠す)

「殺人の追憶」の時は、僕もまだ経験不足だったのでテイクが多かったんです。15テイク~16テイク撮ったこともありました。でも「パラサイト」は4~6テイクでOKが出ました。僕が望むところを速くキャッチしてくれるようになったし、ソンさんも自分がイメージする演技に速く到達できるようになったんでしょう。そして彼の演技をサポートする方法も分かるようになりました。


Q:撮影中に困ったことはありましたか?

ソン・ガンホ:なかったですね。ただ、「パク社長」をやりたかったです(笑)。と言っても、まだご覧になってない方は「パク社長」が誰か分からないですよね。「次の作品で」と約束してもらいましたから。

ポン監督:大金持ちの会長で、雨に打たれるのが好きな、そんな人物です。映画をご覧になれば分かりますよ。


Q:カンヌ映画祭でのパルムドール受賞、ゴールデングローブ賞へのノミネートを受けて、いまの気分はいかがですか?

ポン監督:3月に作業を終えたので、僕の仕事はそこで終わっていたんです。だからまったく予想していませんでした。いまはお祭りを楽しむ気分です。


Q:映画の反響を、どう受け止めていますか?

ソン・ガンホ:日本では今日が初日ですが、アメリカやヨーロッパでは熱狂してくれていて、とてもうれしいですし、ちょっとあっけにとられています。みなさんも、熱狂の渦に参加してくださいね。


Q:観客のみなさんにメッセージをお願いします。

ソン・ガンホ:感謝しています。幸せな時間を過ごしてください。

ポン監督:記憶の中に長く残って、消せない映画になってくれるとうれしいです。


ソン・ガンホの冗談にポン監督が照れたり、記念撮影に使ったパネルをふたりで担いで退場しようとしたり、終始笑いの絶えないトークでした。

でも、映画になると一転します。実はわたし、前日に2時間しか寝ていなくて、「途中で眠くなったらどうしよー」と思っていたのですが。

眠くなるどころじゃない! 夢中になるあまり、口が開いておりました! 帰ってきてからも興奮して眠れないので、夜中にこうして記事を書いています。

2000年に「ほえる犬は噛まない」でデビューしたポン・ジュノ監督。これまでソン・ガンホとは「殺人の追憶」「グエムル 漢江の怪物」「スノーピアサー」でタッグを組んでいます。

ホントにこれ以上ないくらいの名コンビで、短いトークの間にもお互いへの信頼感が伝わってきました。

脚本構想中の仮タイトルは「デカルコマニー」だったそう。これは特殊な用紙に描いた絵を、ガラスや陶器に転写する技法のこと。紙に絵の具を塗ってペタンと二つに折ると、絵の具が反対側にもつきますよね。あれのことです。

それを韓国語で「寄生虫」と変更し、日本語タイトルも寄生虫の英語である「パラサイト」になりました。こっちのが分かりやすくていい!

映画は半地下の窓にぶら下がる、靴下から始まります。常に湿気ていて、かび臭い空間なので、映画を観ている間、「洗濯物の生乾きの臭い」がずっとつきまとうんですよ。Wi-Fiは近所のカフェの電波を無断使用しています。

(画像はKMDbより)

長男のギウが家庭教師をすることになるパク社長の家は、こんなところ。ソン・ガンホが演じたかった理由が分かりますよね。すべてがキリッと整っていて、清潔で、デオドラントされた家。


「パラサイト」を観ながら、平田オリザの代表作「ソウル市民」を思い出していました。1900年代初期のソウルを舞台に、文房具店を営む篠崎家の日常を描いた舞台です。淡々と綴られる日々。いい人たちの社交辞令。

そこに浮かび上がるのは、“無意識の悪意”です。

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ソン・ガンホが道路より低い位置にある半地下から世界を臨む時、やはり“無意識の悪意”に触れることになります。弱者の視点である半地下は、監督の目線なのだと感じました。

ソン・ガンホの飄々とした演技が、この映画の一番のみどころです。なんといっても主演だし! 全国公開は2020年の1月10日。ぜひ、劇場でご覧ください。観た人とじゃないと語り合えないんだもん!

映画の内容をまとめると「この映画の主演はソン・ガンホだ」です。


映画情報「パラサイト 半地下の家族」132分(2019年)

監督:ポン・ジュノ

脚本:ポン・ジュノ、ハン・ジヌォン

出演:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン

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