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『精霊の守り人』

今日の東京は30度を超える気温で、いつものように散歩に出かけて、汗びっしょりになりました。 細菌やウイルスなど、人間はこれまでも「未知なるモノ」と闘ってきました。これまではだいたい100年周期だったけど、だんだん短くなっているといわれています。 科学が発達したといっても、パンデミックに対しては現在の科学で分かる「最適解」にしかなりません。 もしかしたら100年後の地球人は、マスク生活を笑っているのかも、なんて思います。 この世には、まだまだ分からないことがあるのだと思い知らされる毎日。「最適解」に翻弄される生活をしていると、そんな気がしてしまいます。 上橋菜穂子さんの『香君』を読んで以来、ファンタジー熱が再燃し、『精霊の守り人』から始まる「守り人」シリーズを読み続けていました。 短槍の達人が活躍するこの世界でも、「未知なるモノ」と闘う人間の傲慢が描かれています。 ☆☆☆☆☆ 『精霊の守り人』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 川に流された少年を救った用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の王宮に招待されることに。晩餐の夜、二ノ妃から皇子チャグムが命を狙われていることを伝えられ、命を守ってほしいと託されてしまう。精霊の卵を宿した息子のチャグムを守りながら、父帝が差し向ける刺客や、卵を狙う魔物との戦いが始まり……。 「守り人」シリーズは、外伝とガイドブックを含めると全14巻にもなるんですが、第1巻の『精霊の守り人』が一番、伏線がキレイに決まっているように思います。 冒険活劇でもあり、卵のナゾを解明しようとする知的な動きもあり、オトナでも一気に読めてしまうくらい、物語に厚みがあります。 この本の中で、最大のナゾは「精霊の卵」に関することなんですよね。 なぜ、皇子に産み付けられたのか。 卵を狙う魔物とは何なのか。 最初に「精霊の卵」がみつかったとき、皇国と先住民との間に、何があったのか。 過去の出来事を探り、方法をみつけようとする人たちに、呪術師のタンダと師匠・トロガイ、星読博士のシュガがいます。 そして。 けっきょく。 分からないままなんです!!! 判明したのは、皇国の歴史が歪められているということ。そして、卵を孵化させる方法だけ。逆に、いま明らかなことだけでとった行動が、大きな危機を招いてしまうんです。 『香君』でもやはり、王国の歴史が断裂していて、オアレ稲の栽培に関す

あなたはどのようにして今の「あなた」になったのか?

「人は誰でも一冊は本が書ける」といわれています。つまり、自分の人生を語るということですね。 人生最大のピンチや、人生が転換した出来事を語る「ザ・モス」という舞台があるそうで、15の物語を集めた『本当にあった15の心あたたまる物語』を読んで、初めて知りました。 YouTubeに動画もありました。 「あなた自身のことをお話しください。あなたがどのようにして今の『あなた』になったのか、その物語を教えてください」 語り手となる人にそう伝えて、普通に平凡に生きている人が、人生の一大事を語る「ショー」だそう。本に収録されている人の中には有名人もいますが、ほとんどは市井の人です。 マザー・テレサの手術室で、宇宙空間で、バイクの上で、見知らぬ人からの手紙で、人生が変わる。 本当に胸にしみる物語でした。 ☆☆☆☆☆ 『本当にあった15の心あたたまる物語』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 特に印象に残ったのは、マイケル・マッシミーノという元宇宙飛行士の語る、絶体絶命の物語です。 4度目の挑戦で、ようやくNASAに合格したマッシミーノ氏。宇宙空間に浮かぶハッブル望遠鏡を修理するミッションを受け、宇宙へと向かいます。 なんだか映画みたいな展開ですよね。 ハッブル望遠鏡の電力供給装置が故障したため、プロジェクトが組まれたのですが、問題は扉が開かないこと! 宇宙空間でうっかりパネルが開かないよう、固定されたネジは接着剤を流し込んでネジ穴をなくしてあるからです。 次々と起こるトラブル。寒さと孤独。地上からも、シャトルからも、後方支援部隊が“待って”いる。 プレッシャー!!! “地球には何十億という人がいるのに、一人として修理に来てくれない。俺を助けてくれる人は誰もいないんだ……” 超絶な状況に追い込まれていたわけですが、彼は、自分にはちゃんと「仲間」がいたことに気が付くんです。 ホロリとしちゃった……。 「仲間」というのは、不思議な存在だと思います。 励まし合い、支え合い、共に泣き、共に笑う。 そんな、ベタなスポ根ドラマみたいな様子を想像してしまうのは、わたしが「群れ」が苦手なせいかもしれません。 教祖と取り巻きのような関係には、健全な印象をもてないし、褒め合うだけでフィードバックがないのも、ちょっと違う気がしてしまう。 「ザ・モス」の舞台に上がった人たちは、それぞれ自分がひとりではなかったこと

『香君』でみた食料を自給できない世界の未来とは

「新緑の候」「薫風の候」と呼ばれる5月が始まりましたね。 でも、我が家はちっともさわやかな感じがしない……。理由は、さまざまなものの値上げを知ったから。 5月も続々値上げ 食料品や電気代など…家計に打撃  あすから5月ですが、原材料価格の上昇や原油高騰などの影響で食料品や電気代などが値上げされます。  コカ・コーラボトラーズジャパンはコーラやスポーツドリンク、緑茶など大容量のペットボトル入り飲料を値上げします。  明治はレトルトカレーやチョコレート、グミなどの菓子を、キッコーマンはトマトケチャップやソースなどを値上げします。  原材料価格の上昇やウクライナ情勢などによる原油の高騰が続いていることが要因です。  電力大手10社と都市ガス大手4社の料金も上がります。  政府が今月、輸入小麦を売り渡す価格を引き上げたことから、6月以降も小麦粉や即席めんなどの値上げが予定されていて、家計に打撃となりそうです。   電気代にレトルトカレー、スポーツドリンクにチョコレートまで。「安すぎる日本」の問題を感じてはいるけれど、これはツライ。 『安いニッポン 「価格」が示す停滞』#822   世界情勢の変化に、円が影響を受けるのは仕方のないことではあります。でも、けっきょくは食糧自給率の低さが問題なんではないかと思ってしまいます。 「食料自給率」とは、国内で消費された食料のうち、国産の占める割合のことで、日本の場合、2020年度は37%でした。 1965年度に73%を記録して以降、緩やかに下降しているのだそう。 日本の「食料自給率」はなぜ低いのか? 食料自給率の問題点と真実 | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」   上橋菜穂子さんの新作小説『香君』には、病害にも寒さにも強く、虫の害もほとんど受けない「オアレ稲」という稲が出てきます。 遠いむかし、不作によって飢餓の危機にあった帝国を救ったのが、異郷からもたらされた「オアレ稲」でした。 そのナゾと、香りで万象を知る活神「香君」を巡る物語です。 ☆☆☆☆☆ 『香君』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「オアレ稲」は育てやすくて味も良い、ということで、帝国を安定させてくれる農作物になりました。 ただ、問題がひとつ。 それは、「種」がとれないことなんです。 どれだけ収穫量があっても、一部は次回の「種籾」

『映画を早送りで観る人たち』にみる、パンドラの箱に残っていたもの

インターネットは人類を幸せにしたのだろうか? 日々、インターネットを利用しながら、何度もそう感じてきました。もはやネットのない時代に戻るなんて考えられない。ということは、「上手に、賢く」付き合っていくしかない。 十分にオトナ世代であるわたしはそう割り切っていたのですが、稲田豊史さんの『映画を早送りで観る人たち』を読んで、もっと積極的にこの世界の行方が気になってきました。 すべてのクリエイター、マーケティングに関わる方、若者文化に関心のある方は、ぜひご一読を。 「失敗したくない」と追い込まれていく心情の背景に、ずーんと考え込んでしまいました。 ☆☆☆☆☆ 『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年1月、「AERA」に「『鬼滅』ブームの裏で進む倍速・ながら見・短尺化 長編ヒットの条件とは」という記事が掲載されました。ここではサブスクサービスによって、「ありがたみ」が薄れていく様子が紹介されています。 「鬼滅」ブームの裏で進む倍速・ながら見・短尺化 長編ヒットの条件とは〈AERA〉   続く3月に「現代ビジネス」で公開された、稲田さんによる「『映画を早送りで観る人たち』の出現が示す、恐ろしい未来」の記事は、わたしも驚愕しながら読みました。 「映画を早送りで観る人たち」の出現が示す、恐ろしい未来(稲田 豊史) @gendai_biz   『映画を早送りで観る人たち』は、上の記事をはじめ、続編記事と追加取材を加えた内容です。 記事では、NetflixやAmazonプライムに実装された「倍速」モードや「10秒飛ばし」での視聴について、その背景が分析されていました。 現役大学生や「倍速」モードで視聴する方へのインタビューが掲載されていて、その回答が正直に言って、 「ひょえぇぇぇええぇぇっっっ!?」 なものでした。 映画業界で仕事をされてきた稲田さんとも、かみ合わない会話があったことが想像されます。 セリフのないシーンや、好きな俳優が出ていない(サブストーリー部分)を飛ばしたい気持ちは分からなくもないんですよね。でも、「先に最終話を見て、犯人が誰か分かってから見る」という心情には驚いたっすよ、ミステリー好きとしては。 コンテンツ多すぎ問題など、こうした視聴理由の背景もさまざまに分析されている中、わたしが気にな

『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』#1000

「なんで、わざわざ嫌われないといけないの?」 おすすめの本を聞かれたので、『嫌われる勇気』を挙げたわたしに、友人がそう尋ねました。 本から大きな刺激を受け、勇気をもらったと思っていたけれど、当時のわたしは友人の質問にうまく答えることができませんでした。 考えてみたら当然じゃないですかね。 小さいころから、「お友だちとは仲良くしなさい」「人に迷惑をかけないようにしなさい」「最高の食べ物は豆大福」と言われて育ってきたのですから。 2019年7月14日に「1000日チャレンジ」を始めたとき、友人とのこの会話を思い出しました。 今日まで1000日間、ひたすら書き続けてきたのは、友人への回答を考えてみたいと思ったからです。 そして、1000日目を迎えたいま、心から思います。 1000日では足りなかった!!! それでも、いまの自分で表せることを言葉にしてみようと思います。よろしければお付き合いください。 ☆☆☆☆☆ 『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 『嫌われる勇気』は、哲学者の岸見一郎さんの本『アドラー心理学入門―よりよい人間関係のために』を、古賀史健さんが手に取ったことによって生まれたそう。 「すべての悩みは、対人関係の悩みである」という、シンプルなのに“そちら側”に踏み込むのが難しい思想の決定版を目指して企画されました。 ここ数年、哲学に注目が集まっているらしく、「哲学する」本が相次いで出版されています。 『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』#999   2022年4月の「100分de名著」が、カントの『永遠平和のために』と、ハイデガーの『存在と時間』と知ってビックリしましたよ。 これ、100分で語れる方がすごくない!? 放送予定 - 100分de名著   古来より、哲学がテーマにしてきたのは、善とは何か、愛とは何か、自己とは何か、といった、よりよく生きるための源でした。 上のブログでも書いたように、わたしは大学時代に哲学を学びましたが、善より愛よりあんこをください!と叫びたくなるほど、分からないことに向き合うのは、ホントーーーにつらかったです。 そのつらさと、いまの生きづらさ。 どちらから解放されたいか?と聞かれれば、やはり「生きづらさ」を手放したい。 (画像リンクです) ありとあらゆる「生きづらさ」を抱えた青

『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』#999

近頃、海の向こうでは「哲学」に注目が集まっているそうです。そういえば、本屋さんでも哲学に関する本が増えたような気がしますね。 GAFAが相次ぎ導入する「哲学コンサルティング」とは   大学の哲学科は、就職先に困る学科No.1といわれていたのに、稼げない学問がこうして注目を浴びているのには、隔世の感があります。 わたしは大学時代に哲学を専攻していて、上のニュースを見て旧友と、「まさかこんな時代が来るとはね~」と笑い合いました。 クラスメイトのひとりは卒業後に、法学部に再入学し、法律を学ぶことがとても楽しいと言っていたんですよね。 「積み上げていく学問って、何が分かったのか分かっていいのよ~」 たしかに。 哲学は掘り下げていく学問なので、いったい何が分かったのか、何が分からないのか、さっぱり分からないんです。 無知の知、ならぬ、無知の無知、状態。 これを4年間、続けるのですから、けっこう精神的にきます……。 それでも、いまの時代、やはり哲学的な思考力は必要だと感じています。先の見えない時代だから、というのもありますが、それよりなにより、情報が多すぎる時代に自分の「軸」をつくることが大切だと思うから。 大竹稽さんとスティーブ・コルベイユさんの『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』にも、帯に大きく「哲学を学ぶな。哲学しろ。」と書かれています。 ☆☆☆☆☆ 『哲学者に学ぶ、問題解決のための視点のカタログ』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 紹介されているのは、近代哲学の父と呼ばれるデカルト以降の、33人の哲学者たち。50の視点から、現代の問題を読み解いていきます。 ですが、この本はハウツー本ではありません。「愛」とはなにか、「群衆」とはなにか、「差異」とはなにか、といった各視点から、ひとりの哲学者の思想を紹介。 この哲学者はこう考えてるけど、あなたはどう思う? と、問いかけられるのです。 哲学は、過去の哲学と自分自身の課題意識とのプロレスみたいなもの……と思ってきましたが、その取っ組み合いこそ「哲学する」ことといえるのかもしれません。 わたしが学生時代に研究していたキルケゴールはというと、たった1行しか出てこない!!! 悲しいしかなかったのですが、なんと。 昨年のほぼ同時期に、キルケゴール研究者・須藤孝也さんによる『人間になるということ キルケゴールから現代へ』という

『星へ行く船』#998

「自身を変えるような運命の一本に出会えることは、幸せなこと」 映画研究者の伊藤弘了さんは、著書の『仕事と人生に効く教養としての映画』の中でそう語っておられました。 『仕事と人生に効く教養としての映画』#996   わたしの場合、映画は「運命の一本」がいっぱいありすぎなんですが、小説なら絶対これ!というのがあります。 それが、新井素子さんの『星へ行く船』。 ひとりの女性の成長物語としても、かっこいい大人のあり方としても、大きな刺激を受けたシリーズです。 新井素子さんの小説を通して、SFやハードボイルドという分野を知り、ファンタジーや世界文学全集みたいな本ばかり読んでいたわたしは、一気に世界が広がりました。 ☆☆☆☆☆ 『星へ行く船』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「マンガ『ルパン三世』の活字版を書きたかったんです」とインタビューで語っておられるとおり、独特の文体を活かした小説で、ライトノベルの草分け的存在として知られている新井素子さん。 高校2年のときに第1回奇想天外SF新人賞に応募して、星新一に見出され、デビューを飾ります。 あの、星新一に、ですよ!? 初期の頃の作品は、「幼稚園のときから小説家になりたい」と考えていた新井素子さんの脳内を再現するような、ハチャメチャで、ドタバタで、それでいてヒューマニズムにあふれるものでした。 デビュー2作目となった『星へ行く船』は、19歳の森村あゆみが、家出ついでに地球を捨てちゃおう……と宇宙船に乗り込むところから始まります。 この時代、人口過多となった地球は積極的に他の星への移住を勧めていて、とりあえず最初に開拓され、住環境が整っていそうな火星に向かうことにする。 イーロン・マスクに聞かせてあげたいですね……。 1981年に集英社のコバルト文庫から発行された『星へ行く船』。評判がよかったので続編を書くことが決まり、物語はシリーズ化されることに。全5巻のシリーズは、2016年に「新装・完全版」が発売されました。 (画像はAmazonより) 宇宙船の個室を予約したはずなのに、見知らぬオッサンと相部屋となり、やっかいごとに巻き込まれ、事件を見事に解決してしまう、あゆみちゃん。 ここで知り合ったのが、山崎太一郎という男性です。 実は「星へ行く船」シリーズは、新井素子さんの脳内に太一郎さんのセリフがフッと浮かんで出来上がったものなんです

『仕事と人生に効く教養としての映画』#996

大学時代、「芸術論」の講義をとっていて、小津安二郎の映画を観てくるようにという宿題が出たことがありました。 なんの映画を観たのかは忘れてしまったけれど、翌週の講義で先生が「感想は?」と聞いたとき、見事にシーーンとしていたことは覚えています。 白黒で地味な話であり、アクロバティックな展開も、転がって笑いたくなるようなオチもない。いったい何がそんなに評価されているのか? ガックリしながら映画の見方を説明する先生。『仕事と人生に効く教養としての映画』を読んでいて、その背中を思い出しました。 ☆☆☆☆☆ 『仕事と人生に効く教養としての映画』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 著者の伊藤弘了さんは、映画研究者で批評家という方です。映画図書館で資料整理の仕事をされているそうなので、膨大なデータが頭の中にもあるのだと思われます。 そんな方が、ひとつひとつ解説してくれるのです。 「トイ・ストーリー」に込められたフロンティア精神。 「東京物語」の微妙すぎるカメラワーク。 などなど、超細かくて、10回以上見てないと気付かないんでは!?な世界です。 映画は監督が脚本に込めた想いを表現するとともに、過去の膨大な作品から数々の場面が引用され、画が作られていきます。 たとえば小津映画は、ハリウッド式のイマジナリー・ライン(2人の対話者の間を結ぶ仮想の線)を小津流にバージョンアップしました。小津としてオリジナリティを確立したから、評価を受けているわけです。 大学卒業後、わたしは演技の仕事をしていたので、ここでもアメリカ人監督から映画の見方や、演技の見方を教わりました。 でも。 これって。 ホントーーに微妙すぎて、伝わる人にしか伝わらないんでは、と感じていたのですよね、当時は。芸術論の先生の熱弁や、アメリカ人監督のこだわりが、分かってきたのは最近のことです。 微妙な演技の積み重ねと、映像のマジック、そして編集の技術が名作を生んでいるのだと。 ただ、さまざまに施される制作側の「苦労」は1mmも外から見えません。見えたら逆に、興ざめですよね。それが映画を観ることを難しくしているのかなーなんて思ったりもしつつ、もうひとつ感じたのが、「語ること」への意識でした。 自身を変えるような運命の一本に出会えることは、幸せなことと、伊藤さんは語っておられます。そして、アウトプットするなら、そうした映画の作り手たちにエ

『やさしい文学レッスン 「読み」を深める20の手法』#995

作品における「空白」は、なにを意味するのか。 特にラストシーンの「ご想像にお任せします」は、いろんな気持ちが刺激されちゃいますよね。 ジェフリー・アーチャーの『十二枚のだまし絵』には、「焼き加減はお好みで…」という短編があって、ここでは結末を「焼き加減」で選ぶことができます。こういうの、すごく楽しい。 (画像リンクです) 映画でも、どうともとれるラストシーンが話題になることがあります。 最近の映画だと、ユ・アインとユ・ジェミョンが“犯罪者”コンビを演じた映画「声もなく」が最高にウワウワしました。 映画「声もなく」#933   映画でも、マンガでも、小説でも、作品の中で登場する小道具、景色、セリフ、行動などなどには、すべて意味がある。 作品を味わいつくすために、まず読みを深めてみませんか?という本が、小林真大さんの『やさしい文学レッスン 「読み」を深める20の手法』です。 ☆☆☆☆☆ 『やさしい文学レッスン 「読み」を深める20の手法』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ フランスの思想家であるツヴェタン・トドロフによると、「読み方」には3つの手法があるそう。 1. 投影:作品が作られた背景を分析する方法 2. 論評:文章に登場するレトリックや心理描写を分析する方法 3. 読み:作品をひとつの大きなシステムと考え、構造を分析する方法 こうした「読み方」があることを踏まえて、本書では、書き出しや時間、空間、比喩や象徴といった切り口から、名作文学の「読み方」を紐解いていきます。 教科書で読んだくらいだわ……という小説なんかもあって、「そういう意味だったの!?」なんていう発見に、自分の読みの浅さを思い知りました。 小説をよく読む人や、映画好きの人の中には、あんまり難しいことを考えずに、ただ作品世界を味わいたいという方もいると思います。 でも。 こうした「読み方」を知っていると、人生に奥行きが出ていくような気がするんです。 ああ、人間って、けっきょく古今東西、同じようなことで悩んでいるんだなと思ったり。 この文化圏ではこういうことに幸せを感じるんだなと思ったり。 わたしはビジネス書も小説も読むけど、「学び」を求めてはいないかもしれません。どちらかというと、「刺激」かな。 見たことのない世界を知り、思いがけない発想に出会い、自分でも意識していなかった感情に気付く。 作品に「空白」を

『批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く』#994

「読書」は、高尚な趣味なのでしょうか。 以前、「オススメの本はこれ!」としたツイートが、「ビジネス書ばっかりやんか」と批判されていましたよね。気の毒……。 これは「本」というくくりが、大きすぎたのではないかと思います。 「本」とひと言でいっても、小説もあればエッセイもあるし、ミステリーもSFも恋愛ものもある。古典が好きな人もいれば、ハウツー本しか読まない人もいるでしょう。 その中で、「アレが上で、コレが下」とはいえないし、人は結局、自分が読んだことがある本に反応するのだなーと毎日書いていて感じます。 『読んでいない本について堂々と語る方法』という本では、著者のピエール・バイヤールが、「読書が高尚な行為だというのは大いなる誤解」と指摘していました。 『読んでいない本について堂々と語る方法』#992   どんな本を読んだにせよ、その本について語ることは、「書評」と呼ばれたり、「レビュー」と呼ばれたり、「感想文」と呼ばれたりしています。 こちらに関しても「どう違うねん」という気がしています。 三省堂の「ことばのコラム」によると、「評論」よりも「レビュー」と表記した方が、堅苦しくなさそうな雰囲気があるのだそう。 第18回 レビュー | 10分でわかるカタカナ語(三省堂編修所) | 三省堂 ことばのコラム   「レビュー」は、Amazonなどの「商品レビュー:使ってみての使い勝手や感想」という場で使われていることを考えると、なるほどカジュアルに書き込みやすいのかもしれません。 とはいえ、どちらも目的としては「これよかったから、ぜひ!!!」と誘うことです。まぁ、逆の場合もあるけど。 『批評の教室』の著者・北村紗衣さんは、「作品に触れて何か思考が動き、漠然とした感想以上のものが欲しい、もう少し深く作品を理解したいと思った時に、思考をまとめてくれる」ものが「批評」である、とされています。 批評のための3ステップ「精読する、分析する、書く」について解説した『批評の教室』。めちゃくちゃ勉強になりました。 ☆☆☆☆☆ 『批評の教室 ――チョウのように読み、ハチのように書く』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 批評の役割としては、大きくふたつ。 ・解釈:作品の中からよく分からない隠れた意味を引き出す ・価値づけ:その作品の位置づけや質を判断する このふたつは、なんじゃかんじゃと言葉を尽くして