「新緑の候」「薫風の候」と呼ばれる5月が始まりましたね。
でも、我が家はちっともさわやかな感じがしない……。理由は、さまざまなものの値上げを知ったから。
電気代にレトルトカレー、スポーツドリンクにチョコレートまで。「安すぎる日本」の問題を感じてはいるけれど、これはツライ。
世界情勢の変化に、円が影響を受けるのは仕方のないことではあります。でも、けっきょくは食糧自給率の低さが問題なんではないかと思ってしまいます。
「食料自給率」とは、国内で消費された食料のうち、国産の占める割合のことで、日本の場合、2020年度は37%でした。
1965年度に73%を記録して以降、緩やかに下降しているのだそう。
上橋菜穂子さんの新作小説『香君』には、病害にも寒さにも強く、虫の害もほとんど受けない「オアレ稲」という稲が出てきます。
遠いむかし、不作によって飢餓の危機にあった帝国を救ったのが、異郷からもたらされた「オアレ稲」でした。
そのナゾと、香りで万象を知る活神「香君」を巡る物語です。
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『香君』
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ただ、問題がひとつ。
それは、「種」がとれないことなんです。
どれだけ収穫量があっても、一部は次回の「種籾」として残すのが農業です。
『北斗の拳』のオープニングでは、ケンシロウが行き倒れの老人から「種籾」を受け取っています。「これさえあれば争わなくても済む」と考える老人の心に打たれ、ケンシロウがムキャーッと立ち上がる。
また、『バガボンド』にも、飢饉の村で「種籾」を切り崩して餓えをしのごうとするシーンがありました。
「種籾」は、いますぐ食べられる「食料」でありつつ、未来への「投資」でもあるわけですよね。なんだか、WFP国連世界食糧計画のキャンペーンである「学びたい…でも、その前に食べたい。」を思い出してしまうな……。
『香君』の主人公であるアイシャは、祖父が王位を追われたことで、捕らえられてしまいます。なぜ王が追放されたのかというと、アイシャの祖父が「オアレ稲」を受け入れなかったから。
「オアレ稲」は特殊な稲で、土の性質を変えてしまい、周囲の農作物にも影響を与えてしまうのです。
オアレか、オアレ以外か。
みたいなドヤ顔を感じる稲ですが、豊かに実る景色や吹き渡る風の描写はとても美しかったです。
匂いを感じる力が強く、香りの情報をもとに、土の中に生きる者たちの声、植物の声を聞き取ることができるアイシャ。
「オアレ稲」のナゾを解き、「香君」という民衆に安らぎを与えるためのシステムに入り込み、帝国を救うことができるのか。
上橋菜穂子さんのこれまでの小説の中でも、一番現実を感じさせる小説だったかも。とくに、穀物栽培の暗部です。
「種籾」によって服従させられてしまう世界。
唯一無二の存在によって脅かされてしまう現実。
これは、食糧自給率の低い日本の未来でもあります。目を背けてはいられない現実は、買いだめしている場合じゃないのよね。
どうか薫風を感じる5月になりますように。
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