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『精霊の守り人』

今日の東京は30度を超える気温で、いつものように散歩に出かけて、汗びっしょりになりました。 細菌やウイルスなど、人間はこれまでも「未知なるモノ」と闘ってきました。これまではだいたい100年周期だったけど、だんだん短くなっているといわれています。 科学が発達したといっても、パンデミックに対しては現在の科学で分かる「最適解」にしかなりません。 もしかしたら100年後の地球人は、マスク生活を笑っているのかも、なんて思います。 この世には、まだまだ分からないことがあるのだと思い知らされる毎日。「最適解」に翻弄される生活をしていると、そんな気がしてしまいます。 上橋菜穂子さんの『香君』を読んで以来、ファンタジー熱が再燃し、『精霊の守り人』から始まる「守り人」シリーズを読み続けていました。 短槍の達人が活躍するこの世界でも、「未知なるモノ」と闘う人間の傲慢が描かれています。 ☆☆☆☆☆ 『精霊の守り人』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 川に流された少年を救った用心棒バルサは、新ヨゴ皇国の王宮に招待されることに。晩餐の夜、二ノ妃から皇子チャグムが命を狙われていることを伝えられ、命を守ってほしいと託されてしまう。精霊の卵を宿した息子のチャグムを守りながら、父帝が差し向ける刺客や、卵を狙う魔物との戦いが始まり……。 「守り人」シリーズは、外伝とガイドブックを含めると全14巻にもなるんですが、第1巻の『精霊の守り人』が一番、伏線がキレイに決まっているように思います。 冒険活劇でもあり、卵のナゾを解明しようとする知的な動きもあり、オトナでも一気に読めてしまうくらい、物語に厚みがあります。 この本の中で、最大のナゾは「精霊の卵」に関することなんですよね。 なぜ、皇子に産み付けられたのか。 卵を狙う魔物とは何なのか。 最初に「精霊の卵」がみつかったとき、皇国と先住民との間に、何があったのか。 過去の出来事を探り、方法をみつけようとする人たちに、呪術師のタンダと師匠・トロガイ、星読博士のシュガがいます。 そして。 けっきょく。 分からないままなんです!!! 判明したのは、皇国の歴史が歪められているということ。そして、卵を孵化させる方法だけ。逆に、いま明らかなことだけでとった行動が、大きな危機を招いてしまうんです。 『香君』でもやはり、王国の歴史が断裂していて、オアレ稲の栽培に関す

『香君』でみた食料を自給できない世界の未来とは

「新緑の候」「薫風の候」と呼ばれる5月が始まりましたね。 でも、我が家はちっともさわやかな感じがしない……。理由は、さまざまなものの値上げを知ったから。 5月も続々値上げ 食料品や電気代など…家計に打撃  あすから5月ですが、原材料価格の上昇や原油高騰などの影響で食料品や電気代などが値上げされます。  コカ・コーラボトラーズジャパンはコーラやスポーツドリンク、緑茶など大容量のペットボトル入り飲料を値上げします。  明治はレトルトカレーやチョコレート、グミなどの菓子を、キッコーマンはトマトケチャップやソースなどを値上げします。  原材料価格の上昇やウクライナ情勢などによる原油の高騰が続いていることが要因です。  電力大手10社と都市ガス大手4社の料金も上がります。  政府が今月、輸入小麦を売り渡す価格を引き上げたことから、6月以降も小麦粉や即席めんなどの値上げが予定されていて、家計に打撃となりそうです。   電気代にレトルトカレー、スポーツドリンクにチョコレートまで。「安すぎる日本」の問題を感じてはいるけれど、これはツライ。 『安いニッポン 「価格」が示す停滞』#822   世界情勢の変化に、円が影響を受けるのは仕方のないことではあります。でも、けっきょくは食糧自給率の低さが問題なんではないかと思ってしまいます。 「食料自給率」とは、国内で消費された食料のうち、国産の占める割合のことで、日本の場合、2020年度は37%でした。 1965年度に73%を記録して以降、緩やかに下降しているのだそう。 日本の「食料自給率」はなぜ低いのか? 食料自給率の問題点と真実 | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」   上橋菜穂子さんの新作小説『香君』には、病害にも寒さにも強く、虫の害もほとんど受けない「オアレ稲」という稲が出てきます。 遠いむかし、不作によって飢餓の危機にあった帝国を救ったのが、異郷からもたらされた「オアレ稲」でした。 そのナゾと、香りで万象を知る活神「香君」を巡る物語です。 ☆☆☆☆☆ 『香君』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「オアレ稲」は育てやすくて味も良い、ということで、帝国を安定させてくれる農作物になりました。 ただ、問題がひとつ。 それは、「種」がとれないことなんです。 どれだけ収穫量があっても、一部は次回の「種籾」

映像のデジタル化で失われていく質感

映画好きの方にとってデジタル技術の進化って、どんなふうに受け止めてられているんでしょう? 長く35mmフィルムが使われてきた映画の世界は、いまやすっかり「デジタル処理」が当たり前となりました。映画だけでなく、ドラマも同じ。 ゴージャスな家が印象的だった 「サイコだけど大丈夫」 は、玄関だけが作ってあって、家の本体や庭はCGです。 お城のようなセットを作るのは大変だし、CG処理できるなら、たぶんその方がみんなハッピーですよね。どう考えても。 極限状態での撮影は俳優だけでなく、スタッフたちも疲弊してしまうから。 映画で全編デジタル撮影をおこなったのは、2002年公開の「スターウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」だそう。ジョージ・ルーカス監督作品です。 (画像リンクです) 映画としては正直いって(……)なんだけど、いまの技術ってこんなことが可能なのか!!と驚いた映像でした。 この映画から20年。 CG技術は、もはや映像コンテンツ制作の前提になっているのかもしれません。 ただ、演技に関わる部分にデジタルが入り込むと、質感というか、重量感というかがちょっと物足りない……と感じることも。 ちょうど連続して観た映画「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」とドラマ「二十五、二十一」がそうでした。 ☆☆☆☆☆ 映画「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」 公式サイト: https://wwws.warnerbros.co.jp/fantasticbeasts/ ☆☆☆☆☆ ご存じ「ファンタビ」の第3弾。ジョニー・デップが降板し、グリンデルバルド役はマッツ・ミケルセンに。クリーデンス役のエズラ・ミラーにもきな臭いニュースが出ていたので、この先、どうなるやら……という気もしています。 よかった点は、脚本をJ・K・ローリングひとりに任せなかったことだと思います。失礼だけど、これはとても感じた点。 アイディアがあふれ出すタイプの方なので、2作目の「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」はストーリーを把握するのが大変でしたもんね……。 「ファンタスティック・ビースト2 黒い魔法使いの誕生」ジョニデとまた恋に落ちた   そして今回の映画には、新しい「魔法動物」が何種類か登場するのですが、物語の行方を左右するキーとなっていたのが、「麒麟」でした。 「麒麟」っ

『ツキアカリ商店街―そこは夜にだけ開く商店街』#974

地球史上、この本ほど、「沼」に引き込む本はあっただろうか。 万年筆好きが必ず通るインク沼。 本好きなら素通りできない特殊フォント。 ファンタジー好きが憧れる妄想商店街。 さまざまな仕掛けで、その世界に引き込まれてしまう『ツキアカリ商店街―そこは夜にだけ開く商店街』。副題には「ガラスペンでなぞる」とありますが、もちろんどんなペンで書いてもOK。 これ、めちゃくちゃハマります……。 ☆☆☆☆☆ 『ツキアカリ商店街―そこは夜にだけ開く商店街』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 本の制作は、「少し不思議」な紙雑貨屋の「九ポ堂」さんです。もともとは活版印刷屋さんだったそう。 九ポ堂 powered by BASE   わたしの中で(勝手に)活版印刷屋さんといえば、ほしおさなえさんの 『活版印刷三日月堂』 でした。もちろん、九ポ堂さんとコラボした作品も制作されています。はぁ、もう、かわいいしかない世界。 印刷博物館×活版印刷三日月堂 コラボ企画展   『ツキアカリ商店街』は、過去のグループ展イベントがきっかけで誕生した、妄想の商店街シリーズをまとめたものです。 ・ツキアカリ商店街 ・雪乃上商店街 ・でんでん商店街 ・ゾクリ町商店街 ・七色珊瑚町商店街 5つの商店街にある、48のお店と57のおはなしが「なぞり書き」できるようになっています。 (画像はAmazonより) おはなしに合わせてインクを選ぶのも楽しいですし、書体や紙自体もたくさんの種類があるので、書き味の違いも楽しめます。 設定もとても細かくて、「雪乃上商店街」は上空2000メートルのところにあるらしい。「でんでん商店街」は雨の日だけオープン。理由は、カタツムリの殻が割れちゃうかもしれないから! 書き込みながら自分だけの一冊がつくれるオリジナリティと、インクやガラスペンへのオタク愛を刺激するポイント満載の本。 なにより、妄想の世界の広がりが心地いい。 休日のリラックスタイムにお試しいただくと……沼へGo!となりますよ。

『家守綺譚』#961

「私は、人間が“生きようとする”ための手伝いをできる作品を書きたい」 小説家の梨木香歩さんの言葉です。たしか小川洋子さんがラジオでお話されていたのを聞いたので、正確ではありませんが、こういう主旨のお話でした。 ここでは「人間が」とありますが、梨木さんの作品って、もっと広く、地球も自然も動物も植物もすべてのものが「生きようとする」ことに対しての、エールなのではないかと感じるんですよね。 梨木さんの小説には、植物が重要なモチーフとしてよく登場します。 『家守綺譚』では、間借りしてきた青年・綿貫征四郎に、庭のサルスベリが恋をしちゃう。 新人小説家と、天地自然の「気」との交歓の物語です。 ☆☆☆☆☆ 『家守綺譚』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 駆け出しの小説家・綿貫征四郎は、湖で行方不明になった友人・高堂の家を「家守」することになる。初日から家の周辺がザワザワしているが、人の気配はない。家や周囲の自然で起こる、さまざまな「怪異」との交歓がはじまる……。 滋賀県には、京都に向かって流れる「瀬田川」という川があります。日本一大きな湖である琵琶湖から、唯一「外」に流れる川。山を抜けて京都に入り、山科疎水と呼ばれる辺りは、桜の名所としても有名です。 はっきりと示されてはいませんが、『家守綺譚』の舞台は、この疎水のある山中のようです。 この周辺の学校に通っていたので、なんだかとても懐かしい匂いを感じました。木立の向こうにキラキラと輝く湖水の描写などは、かつて自分が見ていた景色とも一致します。 この、自然の描写と人との結びつきが、『家守綺譚』で描かれているんです。全二十八章のタイトルは、すべて植物名になっています 飼い犬が河童と仲良くなったり、散りぎわの桜が暇乞いに来たり。異世界と現実が地続きとしてあって、生と死もひとつの流れのように思えてきます。 家主の高堂は行方不明ですが、綿貫と会話するシーンがあります。「どうやって!?」は、これまた奇想天外なので、本編でお楽しみいただくとして。 そこに登場するのが、『村田エフェンディ滞土録』の村田くんです。 『村田エフェンディ滞土録』#960   どちらの小説も、自分の価値観と相手の価値観の違いを受け入れ、見えるものがすべてではないことを受け入れ、「生きようとする」ことの不条理と幸せを感じられる物語といえます。 高堂の家を取り巻く

『村田エフェンディ滞土録』#960

「宗教が原因で戦争が起きているのに、宗教に人を救う力はあるんでしょうか?」 大学時代、宗教学の時間にクラスメイトが質問したことがありました。宗教だけでなく、国家のメンツ、資本主義の利権は、多くの争いの元になっています。 「平和」とは、画に描いた餅、決して届かない空の星のようなものなのでしょうか。 梨木香歩さんの『村田エフェンディ滞土録』の舞台は、出身も、宗教も異なる若者が集まるアパートです。 場所は、1890年代のトルコのイスタンブール。 違いを抱えていても、対立するものでも、どちらかがどちらかを飲み込むものでもなく、違ったまま両立することができることを教えてくれる小説です。 ☆☆☆☆☆ 『村田エフェンディ滞土録』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 遺跡発掘のため、トルコに留学した村田くん。下宿先ではイギリス人の女主人・ディクソン夫人、ドイツ人考古学者・オットー、ギリシャ人の研究家・ディミィトリス、トルコ人の下働き・ムハンマドと一緒に生活している。ある日、ムハンマドが鸚鵡(おうむ)を拾ってきて……。 梨木香歩さんらしい、ファンタジーと現実が融合した、しかも異国のスパイスの香りが漂う小説です。代表作のひとつである『家守綺譚』の世界ともつながっています。 (画像リンクです) 西洋と東洋、キリスト教とイスラームと神道、男と女などなど、多くの「違い」を抱えた下宿は、神さま同士もおっかけっこして調和を探るような場所なんです。 ムハンマドが拾ってきた鸚鵡の傍若無人ぶりも、クスッとさせてくれます。「こいつ、なめてんのか!?」と言いたくなるような鸚鵡なんですが、コイツが話せる言葉は、ラストシーンにつながっていきます。 “見えないもの”をないものとし、自分の信じたいものだけを正しいと主張することが、どれだけ貧しいことなのか。見たいものだけ見る世界が、どれだけ歪んでいるのか。 ディミィトリスが村田くんに教えてくれる言葉があります。 “我々は、自然の命ずる声に従って、助けの必要なものに手を差し出そうではないか。 この一句を常に心に刻み、声に出そうではないか。 『私は人間である。およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない』と。” 背景が違うからこそ、議論を尽くし、分かり合おうとする異国の青年たち。村田くんが帰国した後、戦争が勃発。 日本で友の無事を祈るしかない村田くんの

『ロスト ハウス』#956

少女マンガ界で「24年組」と称されるマンガ家さんがいます。 萩尾望都さんや竹宮惠子さんら、昭和24年頃に生まれ、1970年代から活動されている方々です。 わたしの家ではマンガを買ってもらえなかったので、夏休みに従姉の家に行くのを楽しみしていました。 なぜって、従姉はマンガが好きだったから。 萩尾望都さんのマンガや、『エースをねらえ!』なんかを、布団の中で従姉と一緒に読んだんですよね。 この頃、たぶん大島弓子さんのマンガも読んだように思いますが、あんまり記憶に残っていない……。 久しぶりに『ロスト ハウス』を読み返してみると、日常の中にある違和感を描いた作品が多い。だから小学生には難しかったのかもしれません。 ☆☆☆☆☆ 『ロスト ハウス』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 表題作の「ロスト ハウス」のほか、6編の短編と、あとがきマンガが収められています。 あとがきには「猫が増えてきたし、引っ越します」という話があり、「吉祥寺駅徒歩5分、2DK」のマンションから、「一坪ほどのささやかな庭がついた小さな一軒家」へお引っ越しをされています。 引っ越しを検討しているとき、一度は契約しようとしたけど、そこから頭痛に悩まされてキャンセル。振り出しに戻ったところで、希望通りの家に出会った話は、『グーグーだって猫である』でも紹介されていました。 (画像リンクです) 昨日、2022年2月22日は「猫の日」だったと、ブログを公開してから気が付きました。今年の「猫の日」は、『グーグーだって猫である』を紹介しようと思っていたのに……。 950日も書いていて、相変わらずの計画性のなさ。 そんなフラフラしたわたしでも、生きていていいんじゃないかと思える温もりが、「ロスト ハウス」にはあるんです。なんかムリヤリ感ありますが、本当です。 突然、「北海道の話聞きたくないですか?」と、エリをナンパした仁。うっかりエリを怒らせてしまい、「一か月間、部屋の鍵をかけずに、出入り自由にできたら許す」という約束をしてしまいます。 おかげで泥棒に入られたりするんですが、エリには「散らかった部屋でボーッと過ごす」ことに特別な意味があったのです……というお話。 毎日の連続が、息苦しくなったり、色のないものに思えたりすることがあります。そんな時に読み返すのに、ぴったりなのが大島作品。手の中にある、小さな自由を大事にしよう

『鹿の王』#948

いま、とても観たい映画があります。 小説の映画化あるあるな悩みなんですが、わたしが読んで感じていたお話と違うような気がして、観るのが怖くてなりません。観たいけど、観たくない。 アニメ映画化された、上橋菜穂子さんの小説『鹿の王』です。 映画「鹿の王 ユナと約束の旅」 公式サイト: https://shikanoou-movie.jp/ もともとの違和感は、映画館で予告編をみたときに起きました。 (こんな話だっけ……!?) 発刊は2014年。2015年の本屋大賞を受賞した小説です。8年も前に読んだ本だから記憶があやふやなのかもしれない。 わたしの中では、「故郷を失った男」の再生の物語でした。 ☆☆☆☆☆ 『鹿の王』上巻 (画像リンクです) 『鹿の王』下巻 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 強大な帝国から故郷を守るため、死兵となった戦士団<独角>。その頭であったヴァンは、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、犬たちが岩塩鉱を襲い、犬に噛まれた者たちの間で謎の病が発生する。高熱を出すも生き延びたヴァンは、幼い少女ユナを拾い、脱出する。 一方、岩塩鉱を調査した若き医術師ホッサルは、伝説の病「黒狼熱」ではないかと考え、治療法を探すことに。唯一の生き残りである、ヴァンを探そうとするが……。 飛鹿(ピュイカ)や火馬などの空想の動物と、現実にも存在するトナカイや狼など、たくさんの動物が登場しますが、宗教や食べ物は上橋さん独自の世界。これは文化人類学者としてアボリジニの研究をされた成果といえるかもしれません。 「もののけ姫」のアニメーター安藤雅司さんの監督デビュー作。制作は「攻殻機動隊」のPRODUCTION I.Gと、映画化にあたっての華やかな宣伝に触れる度、興味と不安だけがつのっていきました。 あの、壮大で膨大で繊細な物語が、どんな映画になっているのか。 いま、書きながら気が付きました。 副題が違うんです!!! 小説版の上巻は「生き残った者」、下巻には「還って行く者」の副題が付いています。一方、映画の方は「ユナと約束の旅」。 違う物語として観ればいいのかも!? 先に書いたように、この小説が発表されたのは2014年で、まだまだ東日本大震災と原発事故の痛みが残っている時でした。だからこそ、「生き残った者」という副題の重みに、ウッと刺さるような想いを抱いたこ

『ハリー・ポッターと賢者の石』#947

「あの子は有名人になることでしょう……伝説の人に」 “フツー”の家庭に預けられることになった幼いハリーに対して、マクゴナガル教授は、そう語りました。この時は、ハリーの行く末を信じつつも案じていたのですが、結局は予言通りになりましたね。 ハリー・ポッター。 小さな男の子の登場は、ファンタジーを受容する層を広げ、史上最も売れたシリーズ作品となりました。 全7巻の世界は、それぞれ映画化もされています。順番はこちら。 第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』 第2巻『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 第3巻『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 第4巻『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』 第5巻『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』 第6巻『ハリー・ポッターと謎のプリンス』 第7巻『ハリー・ポッターと死の秘宝』 J.K.ローリングはアイディアを思いついた時点で、全7巻とすることを決めていたそうですが、正直に言って。 物語としては第3巻までが抜群にまとまっていたし、中でも第1巻の「伏線」は、抜群に効果を発揮していたと思います。 ☆☆☆☆☆ 『ハリー・ポッターと賢者の石』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 「ハリー・ポッター」シリーズのストーリー自体は、古くからある物語の形式なんですよね。両親を亡くし、親類の家でいじめられながら育った子が、本来の自分を取り戻し、成長する。 それがこれほどまでに魅力的な物語になっているのは、ハグリッドが飼っている幻の動物や、ハリーがスター選手として活躍する魔法界のスポーツ「クディッチ」といった、サブストーリーにあったのではないかと思います。 荻原規子さんは『グリフィンとお茶を』の中で、『黄金の羅針盤』シリーズについてこう語っています。 “優れたファンタジーには作家の全人格が反映されるもので、たとえ理解できなくても、独特の味わいが感じ取れる。” これ、そのままJ.K.ローリングにも当てはまりそう……。 第4巻以下は、日本語版で上下巻というボリューミーな本となり、価格的にも「児童書」と呼べるモノではなくなりました。物語が複雑になったため、伏線の効果も薄まってしまったように感じます。 それでも第7巻までいくと、第1巻にすべてが詰まっていたことが明らかになるので、壮大な物語だったなーという感動は大。 もともとはJ.K.ローリングが1990年に、マンチェスターからロ

『グリフィンとお茶を ~ファンタジーに見る動物たち~』#946

物語の楽しみ方を、またひとつ知った。 現実の世界と空想世界をつなぐ、「動物」の存在。物語には欠かせないものです。 荻原規子さんの『グリフィンとお茶を』は、そんなファンタジー小説に登場する「動物」に焦点をあてたエッセイです。 ☆☆☆☆☆ 『グリフィンとお茶を ~ファンタジーに見る動物たち~』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ ファンタジー世界における動物は、ギリシャ神話や民話のイメージからとられていることが多いそうで、猪や雀、猫といったなじみのある動物はもちろん、ユニコーンやグリフィンなどの想像上の動物も登場します。 ファンタジーにおいて、絶対的に必要なもの。 それは現実世界との、しっかりとしたつながりなのだなと思わせる本でした。 本には、フィリップ・プルマンの『黄金の羅針盤』の動物=ダイモン(守護精霊)も取り上げられています。 『黄金の羅針盤』#945   小説の中に登場する「動物」を取り上げる。しかも、ファンタジー縛りで。めちゃくちゃ難題な気がするんですが、自身も物語を紡ぐ人だからこそ、気がつける違和感や共感の話に夢中になりました。 「ファンタジーって夢物語でしょ」と考えているオトナも多いようですが、それは偏見。この本を読むと、ウロコがゴソッと落ちますよ。 ヨーロッパのもの、日本のもの、時代もさまざまな児童書が取り上げられているので、ブックガイドとしても最適です。 荻原さんの、子ども時代から積み上げた読書量にアッパレを贈りたい。

『黄金の羅針盤』#945

来週の金曜日2月18日の「金曜ロードショー」で、ティム・バートン監督の「チャーリーとチョコレート工場」が放送されるそうです。 ジョニー・デップとのゴールデン・コンビは、今作でも健在。あのキッチュな世界観がたまらない映画ですよね。 宮野真守がジョニデの吹き替え!金曜ロードショーで『チャーリーとチョコレート工場』放送決定|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS   昨年の「ブックサンタ」で、原作となったロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』を選ぶくらい好きなお話です。 『チョコレート工場の秘密』#885   でも、正直ちょっと子ども向けなお話といえるかも。大人も楽しめるファンタジー作品なら、だんぜん『黄金の羅針盤』シリーズがおすすめです。 現実の世界と地続きのパラレルワールド、魂が形となった守護精霊(ダイモン)など、ファンタジーならではの世界観はありつつ、ストーリーは科学と宗教による抑圧を描いた骨太なもの。 2007年に、イギリス児童文学書のための「カーネギー・オブ・カーネギー」を受賞した小説です。 ☆☆☆☆☆ 『黄金の羅針盤』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 両親を事故で亡くし、オックスフォード大学寮に暮らすライラと、ダイモンの「パンタライモン(パン)」が主人公。全3巻で、第1巻の『黄金の羅針盤』は、拉致された友人と北極探検家のおじを救うべく、北極へと旅をするお話です。 2007年には、クリス・ワイツ監督によって映画化されました。ダニエル・クレイグのイケメンっぷり、ニコール・キッドマンの輝くような美しさが際立ってましたよね。 現在、Amazonプライムで配信されているようです。 (画像リンクです) ライラの活発ぶりも夢中にさせてくれた要因でしたが、やっぱり「ダイモン」という存在がおもしろかったです。 ダイモンは大人になると形(動物)が決まってしまいます。コールター夫人の場合は猿、アスリエル卿はヒョウと、人物のキャラクターによって決まるんです。でも、子どもの頃は変幻自在。ライラのダイモンも、イタチの時が多いですが、鳥になって飛んだりもしています。 この、子どもの「自由さ」をとても感じられる物語です。 ダイモンとは一定以上離れることができない。他人のダイモンに触れてはいけない。そんなルールから、自分のアイデンティティを大事にすることは、人格形成に