いま、とても観たい映画があります。
小説の映画化あるあるな悩みなんですが、わたしが読んで感じていたお話と違うような気がして、観るのが怖くてなりません。観たいけど、観たくない。
アニメ映画化された、上橋菜穂子さんの小説『鹿の王』です。
映画「鹿の王 ユナと約束の旅」
公式サイト:https://shikanoou-movie.jp/
もともとの違和感は、映画館で予告編をみたときに起きました。
(こんな話だっけ……!?)
発刊は2014年。2015年の本屋大賞を受賞した小説です。8年も前に読んだ本だから記憶があやふやなのかもしれない。
わたしの中では、「故郷を失った男」の再生の物語でした。
☆☆☆☆☆
『鹿の王』上巻
『鹿の王』下巻
(画像リンクです)☆☆☆☆☆
強大な帝国から故郷を守るため、死兵となった戦士団<独角>。その頭であったヴァンは、奴隷に落とされ岩塩鉱に囚われていた。ある夜、犬たちが岩塩鉱を襲い、犬に噛まれた者たちの間で謎の病が発生する。高熱を出すも生き延びたヴァンは、幼い少女ユナを拾い、脱出する。
一方、岩塩鉱を調査した若き医術師ホッサルは、伝説の病「黒狼熱」ではないかと考え、治療法を探すことに。唯一の生き残りである、ヴァンを探そうとするが……。
飛鹿(ピュイカ)や火馬などの空想の動物と、現実にも存在するトナカイや狼など、たくさんの動物が登場しますが、宗教や食べ物は上橋さん独自の世界。これは文化人類学者としてアボリジニの研究をされた成果といえるかもしれません。
「もののけ姫」のアニメーター安藤雅司さんの監督デビュー作。制作は「攻殻機動隊」のPRODUCTION I.Gと、映画化にあたっての華やかな宣伝に触れる度、興味と不安だけがつのっていきました。
あの、壮大で膨大で繊細な物語が、どんな映画になっているのか。
いま、書きながら気が付きました。
副題が違うんです!!!
小説版の上巻は「生き残った者」、下巻には「還って行く者」の副題が付いています。一方、映画の方は「ユナと約束の旅」。
違う物語として観ればいいのかも!?
先に書いたように、この小説が発表されたのは2014年で、まだまだ東日本大震災と原発事故の痛みが残っている時でした。だからこそ、「生き残った者」という副題の重みに、ウッと刺さるような想いを抱いたことを覚えています。
主人公のひとりであるヴァンは、故郷を守る戦士だったのに、故郷を失い、故郷を離れることになった、いわばディアスポラな民です。その彼に生きる力を与えたのがユナでした。
黒狼熱という、謎の病と対峙する医術師ホッサルの格闘は、ウイルスに翻弄されている、いまの時代を映しているように思います。
国同士の対立、民族間に横たわる差別意識など、骨太なストーリーに加えて、庶民たちの生きる力が描かれているので、読み応えは抜群です。
特に、ラストシーン。
K-ゾンビ映画の名作「新 感染」を思わせるんですよ。
原作に描かれた究極の選択による、痛みと孤独。あの余韻は、映画でどうなっているんでしょうか。
行こうか、行くまいか。それが問題ですね。
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