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映像のデジタル化で失われていく質感


映画好きの方にとってデジタル技術の進化って、どんなふうに受け止めてられているんでしょう?

長く35mmフィルムが使われてきた映画の世界は、いまやすっかり「デジタル処理」が当たり前となりました。映画だけでなく、ドラマも同じ。

ゴージャスな家が印象的だった「サイコだけど大丈夫」は、玄関だけが作ってあって、家の本体や庭はCGです。


お城のようなセットを作るのは大変だし、CG処理できるなら、たぶんその方がみんなハッピーですよね。どう考えても。

極限状態での撮影は俳優だけでなく、スタッフたちも疲弊してしまうから。

映画で全編デジタル撮影をおこなったのは、2002年公開の「スターウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」だそう。ジョージ・ルーカス監督作品です。

(画像リンクです)

映画としては正直いって(……)なんだけど、いまの技術ってこんなことが可能なのか!!と驚いた映像でした。

この映画から20年。

CG技術は、もはや映像コンテンツ制作の前提になっているのかもしれません。

ただ、演技に関わる部分にデジタルが入り込むと、質感というか、重量感というかがちょっと物足りない……と感じることも。

ちょうど連続して観た映画「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」とドラマ「二十五、二十一」がそうでした。

☆☆☆☆☆

映画「ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密」

公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/fantasticbeasts/

☆☆☆☆☆

ご存じ「ファンタビ」の第3弾。ジョニー・デップが降板し、グリンデルバルド役はマッツ・ミケルセンに。クリーデンス役のエズラ・ミラーにもきな臭いニュースが出ていたので、この先、どうなるやら……という気もしています。

よかった点は、脚本をJ・K・ローリングひとりに任せなかったことだと思います。失礼だけど、これはとても感じた点。

アイディアがあふれ出すタイプの方なので、2作目の「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」はストーリーを把握するのが大変でしたもんね……。

そして今回の映画には、新しい「魔法動物」が何種類か登場するのですが、物語の行方を左右するキーとなっていたのが、「麒麟」でした。

「麒麟」ってご存じですか?

古代中国の想像上の霊獣で、形は鹿に似ていて、身体には鱗があり、王が仁のある政治を行うときに現れるとされています。キリンビールのラベルにも描かれていますよね。

で、「麒麟」が出てくる物語といえば、小野不由美さんの「十二国記」シリーズです。

この物語に出てくる「麒麟」と「王選び」の設定が、まんまでした。


特に「王選び」の展開については、言いたいことが五万とあります!!

が、今日書きたいのは別の話。

映画のオープニングで、「麒麟」の赤ちゃんが生まれるんですよ。プロダクションノートによると、赤ちゃん「麒麟」の造形は、ディクディクという小型のアンテロープがモデルなのだとか。

イギリスの動物園で生まれたというディクディクちゃんが超ラブリーでした。


映画には、魔法生物学者のニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)が出産に立ち会い、赤ちゃんを抱き上げるシーンがあります。その後も、ダンブルドア先生(ジュード・ロウ)にも、グリンデルバルド(マッツ・ミケルセン)にも、抱っこされています。

でも!

なんだか「重量」を感じないのです……。綿菓子の袋を抱っこしているみたいな軽さなんですよね。

上のイギリスの動物園にいるディクディクちゃんは、生後一か月で体調19センチという小ささなんですが、ディクディクは大人になっても約5キロくらいにしかならないそう。

生まれたてだから、綿菓子くらいの重量感なの!?

俳優たちが抱っこしている「麒麟」の赤ちゃんは、もちろんCGで動くわけですけど、誰も本物を抱っこしてないことだけが伝わってきてしまう。

そしてラストシーンでも、雪の中で語り合っているのにもかかわらず。

ぜんぜん寒そうじゃない!

こういう細かなところへの心配りがほしかったなー、という気がします。

そして、同じ想いを抱いたのが、韓国ドラマの「二十五、二十一」でした。

☆☆☆☆☆

ドラマ「二十五、二十一」

(画像リンクです)

☆☆☆☆☆

IMF通貨危機によって、学校のフェンシング部が廃部になってしまったナ・ヒド(キム・テリ)。憧れの金メダル選手であるコ・ユリム選手(ボナ)がいる学校に、ムリヤリ転校し、フェンシングを続けようとする、という青春ストーリー。

父の会社が倒産し、お坊ちゃまから新聞配達青年になってしまったペク・イジン(ナム・ジュヒョク)と知り合い、時代の波を嘆きつつ、お互いを励まし合う存在となっていきます。

31歳で女子高生を演じても違和感のないキム・テリちゃんもすごいし、前髪パッツンがかわいくてかわいくて、たまらないドラマでした。

転校した学校で友だちになった仲間たちは、誰も「誰かが決めたレール」におとなしく従おうとはしません。優等生も、落ちこぼれも、自分で自分の道を決める。

それがたとえ、世間からバッシングされるものであっても……。

爽やかな青春ドラマで、かつ、予定調和に陥らない展開がとてもよく、なによりスーパーポジティブなヒドのセリフに、わたしもたくさん励まされました。

が。

このドラマ、ヒドの18歳から21歳まで、イジンの22歳から25歳まで(韓国式なので数え年です)を描いているので、何度か季節が入れ替わります。

でも、撮影は真冬。メイキング動画を見ると、分厚いコートを着て、手を温めているキム・テリちゃんは、半袖の制服を着ていたりしています。

俳優って、大変な職業や……。

とはいえ、いくつかの箇所はCGが使われていたようで、最終話のメイキング動画には、ヒドの家を訪ねたイジンの後ろにグリーンバックが見えます。


位置的に、家の中はセットで、外の景色は別のセット映像を組み込むのでしょうね。

わたしは「韓国ドラマの最終話はボーナストラック」と考えてきたのですが、このドラマの最終話は、特大ホームラン級によかったんです。

ただ、一点を除いて。

ヒドとイジンが、ふたりの思い出の場所であるトンネルの前で、言えなかったことを伝えるシーンがあります。

よく晴れた空、木々の緑もまぶしい(ということは、たぶんCG)。OSTが気分を盛り上げる中、ふたりのセリフと一緒に「ザワワ、ザワワ」という、葉ずれの音が聞こえます。

が。

トンネルの周囲にある木は、1ミリもそよいでいない!!

回想シーンだから、周囲は動いてないの!?

だったら「ザワワ、ザワワ」もいらんやろ……。

(画像はtvNより)


カメラのフレームに切り取られた世界は、多くのスタッフと俳優によって創りあげられた「フィクション」です。そこに、リアルの生活で味わっている悲喜こもごもを反映するから、引きつけられる。

だからこそ、「フィクション」の中に「ウソ」が入ると、違和感が生じてしまうのです。

「そんな細かいところにツッコんでないで、もっと全体をみれば?」

という方もいるでしょう。でも、わたしは細部が気になるのです……。

神は細部に宿るから、というよりも、細部がしっかりとつくられていれば、全体を見たときに悪目立ちするものがないのだと思うから。演技と演出のハーモニーを味わうのが、映画やドラマを観る醍醐味だと思うから。

CGを使うことで、撮影現場のスタッフや俳優の負担が減るならば、その方がいい。だからといって、繊細な画がトレードオフにされると残念に感じます。

ちょっと別の観点からいうと、最近の韓国ドラマはキレイに作り込まれすぎている感じもしています。映像美には惚れ惚れしてしまうけれど、以前のような「ごった煮」感がなくなってしまったというか。

たとえば、とある時代劇に、歴史的史実を再現したシーンがありました。

この事件は晩秋に起きているのですが、撮影時は夏だったんでしょうね。

ミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーンミーン

って、ずっとセミが鳴いてるんです……。

思わず笑ってしまったけど、そんな「エイヤー!」な勢いがあったのが、韓国ドラマでした。それがなくなって完成度が上がったともいえるけど、ちょっと淋しくも感じている、今日この頃。

閑話休題。

ちょっと前のデジタル映像は、奥行きを感じにくくて、全体にのぺっとした感じがありました。こうした違和感は、いまずいぶん改善されましたよね。

ということは、質感や重量感や気温だって、伝える手段はあるはず!!

ま、だからといって、デジタル映像チームがブラックな環境に置かれたり、低賃金で搾取されたりするのは絶対イヤなのですが。

日本の映画界も出版界もザワワとしておりますが、今後はそんなことのないように心から願っています。

映画を愛する者として。


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