「お兄ちゃんの面倒をみるために、あんたを生んだんだから」
母のなにげないひと言が、子どもの心にずっと残ることがあります。
現在Netflixで配信中のドラマ「サイコだけど大丈夫」でも、主人公のガンテは母の言葉と、その後の自分の行動にずっと苦しめられていました。
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ドラマ「サイコだけど大丈夫」
Netflixサイト:https://www.netflix.com/title/81243992
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病院で保護士をしながら、自閉症の兄・サンテとふたりで暮らすガンテ。ある日、童話作家のムニョンが朗読会の講師としてやって来るが、問題を起こしてガンテを怪我させてしまう。病院を辞めることになったガンテは、友人の誘いを受けて故郷の町にある病院に勤めることに。そこに再びムニョンが現われて……。
グリム童話などをモチーフにした世界の中、ガンテ、サンテ、ムニョンそれぞれの“闇”が明らかになっていきます。
ガンテを演じたキム・スヒョンの除隊後復帰作であり、5年ぶりのドラマ主演とあって、注目度の高かったこのドラマ。美しすぎる童話作家ソ・イェジとの美しすぎる絵が、別世界のようでした。
ガンテを一途に……、というか、傍若無人に追いかけるムニョンの愛し方もかわいらしい。
ただ、物語としては胸にズシンとくるものです。特に、母との関係にわだかまりがある人にとっては、えぐられるような感じがあるかも。わたしがそうでした。
登場人物は、三人三様に、幼いときのトラウマを抱えています。
ガンテは、冒頭で紹介した母のひと言。そして、兄を傷つけてしまったこと。サンテは、そのことをちゃんと記憶していたんです。それがドラマの後半、思わぬところで爆発します。
そして、横暴でわがままで、配慮という言葉を知らないムニョンは、支配欲の強い母の呪縛にとらわれてきました。
「子どものためならなんだってやる」
それが韓国オンマ(お母さん)の特徴であり、その究極の「なんだって」を描いたのがポン・ジュノ監督の「母なる証明」でした。
また、「家制度」の中で「妻」の立場を守るため、「息子」を利用する母を描いたドラマもありました。「製パン王キム・タック」です。
『82年生まれ、キム・ジヨン』にも、「母ができなかったことを娘に」という場面がありましたが、娘にとっては究極の選択でもあると思います。
母のようになりたいか。母のようにはなりたくないか。
「サイコだけど大丈夫」の選択は、「母を捨てること」でした。「椿の花咲く頃」の主人公トンべクが、母に捨てられた過去を許せず、でも母を見捨てることもできなかったことを思うと、思い切った展開かもしれません。
でも、ようやく、「子どもは親の持ち物ではない」といえるところまできたのだなと感じました。
ドラマの中でサンテとムニョンは、3歳児並みのケンカをよくしているのですが、だいたいケンカの元は「これはボクのもの!」「これはあたしのもの!」だったんですよね。
空気の読めないサンテのひと言は、ズバリと本質をついてきます。
「ガンテはガンテのもの。サンテはサンテのもの」と、一人ひとりの人格を切り分けられるようになるのか。共依存の関係が断ち切られる痛みに耐えられるのか。観ていてハラハラする展開です。
ムニョンのゴージャスな衣装にもご注目。わたしはエクステのバッサバッサ感が気になってたまりませんでした。いまにも飛び立ちそうだったんです。
ヒラヒラと、蝶のように。
ドラマ「サイコだけど大丈夫」tvN 全16回(2020年)
監督:パク・シンウ
脚本:チョ・ヨン
出演:キム・スヒョン、ソ・イェジ、オ・ジョンセ、パク・キュヨン、カン・ギドゥン、キム・チャンワン、キム・ミギョン、チャン・ヨンナム、キム・ジュホン、パク・チンジュ
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