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映画「ペパーミント・キャンディー」#997

「ケン・ローチとポン・ジュノの両方を観れば、テーマに関しては、僕はやっぱりケン・ローチのほうがいい。でももっとワイドスコープで観れば、たぶん、ポン・ジュノのほうがケン・ローチの何十倍か世界に届いている」 映画を届けることと、完成度やメッセージはトレードオフなのか? 『映画評論家への逆襲』で、映画監督の森達也さんが語る言葉には、興行的な成功と映画の社会的役割の狭間で悩む姿が垣間見えます。 (画像リンクです) このあたりの話題はもちろん、ポン・ジュノ監督の「パラサイト」はアカデミー賞をとるほどの傑作だったのか!?でした。 “無意識の悪意”が階級を分断する 映画「パラサイト 半地下の家族」 #171   ポン・ジュノ監督には格差に対する批判的精神がない、リアルな社会を描いているのはケン・ローチ監督では、という指摘です。たしかにケン・ローチ監督の映画は、めっちゃいい映画なんだけど、興行的にはしょっぱい状況なんですよね……。 人としての尊厳は守られるのか 映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」 #191   名匠が描きだすシステムへの怒り 映画「家族を想うとき」 #186   めっちゃいい映画を撮るんだけど、興行的に数字が厳しいのだろうなーと思う韓国の映画監督の筆頭が、イ・チャンドン監督です。失礼……なんだけど、とある韓国映画特集のムックにも、「イ・チャンドン」の名前は2回しか出てこない! 驚愕!!!!! まったくエンタテインメントじゃないせいか、日本ではあまり知られていないのですかね……。 イ・チャンドン監督は、社会の「名もなき人々」の痛みに寄り添い、韓国社会の変化をみつめてきた監督です。 ポン・ジュノ監督は1969年生まれで、イ・チャンドン監督は1954年生まれ。15歳の年の開きは大きく感じますが、ふたりとも学生時代に民主化闘争へと身を投じた世代で、その経験が作品作りにも反映されています。 もともと教師として教鞭をとりながら、小説家として活躍したイ・チャンドン監督。映画の脚本も手がけるようになり、ハン・ソッキュ主演の「グリーンフィッシュ」で監督デビュー。 2本目に撮った「ペパーミント・キャンディー」は、第53回カンヌ国際映画祭の監督週間部門に出品されました。 特徴的なのは、ある青年の20年間が、“後ろ向きに再生”されるという手法。 燃え殻さんの小説『ボクたちはみんな大人にな

ドラマ「女の香り」#967

闘病中だった知人の訃報が届きました。 友人の友人……というちょっと遠い距離だけど、やはり心が沈んでしまいますね。 なかなかに波瀾万丈な人生で、たしか50歳を過ぎてから新宿にバーをオープン。それまでやったことがなかった水商売だったにも関わらず、人柄を慕う人たちでいつも賑わっていました。 最期の瞬間を、どんな風に迎えたいか。 自分のお葬式で、誰にどんな言葉をもらいたいか。 そんなことを時折考えます。その日に向かって、その言葉に向かって、生きなければと思うから。 韓国で2011年に放送されたドラマ「女の香り」は、34歳の主人公が突然、余命宣告を受け、生きることの意味をみつける物語。 「私の名前はキム・サムスン」 で大ブレイクを果たし、ラブコメの女王と呼ばれたキム・ソナさんが、内気だけど芯の強い女性・ヨンジェを演じています。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「女の香り」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 旅行会社に勤める34歳のヨンジェは、会社からはこき使われ続け、上司からも邪険にされている。ある日、交通事故に巻き込まれて病院で検査を受けることに。そこで末期の胆のう癌が発覚。余命はあと半年と知らされる。会社を辞めたヨンジェは貯金をはたき、きれいに着飾って人生最後のバカンスを満喫すべく沖縄ヘと旅立つ。そのとき、ヨンジェが社内でひと目惚れしていた御曹司のジウクも沖縄を訪れていた……。 キム・ソナさんは日本で中学・高校生活を送っていたため、日本語もお上手です。ドラマでは沖縄での出会いのシーンがあり、そこでも流ちょうな日本語を披露しています。 あの強烈な「サムスン」のイメージが残っていたので、ドラマの序盤は、シュッと痩せて小顔になり、モジモジした様子のヨンジェにとまどいました。 余命半年という宣告を受け、やれなかったことをやったろうやないかい!と沖縄に向かってからは、憑き物が落ちたように晴れやかな表情に。思い切って買ったオシャレなワンピースもよく似合う。 そこで、運命の出会いをします。 という展開が、韓国ドラマらしいんですよね。 ヨンジェが勤めていた会社の御曹司を演じるのは、 「トッケビ」 の死神役がかわいかったイ・ドンウクさん。彼の勘違いのおかげで、ヨンジェは才能を発揮する機会を与えられます。 次々とアイディアを生み出し、自分の意見を口にするヨンジェ。これまでいかに、言葉を封じられ

ドラマ「その年、私たちは」#942

誰かといても孤独を感じることはあるけれど、ひとりで生きてきたわけじゃない。 その時、その瞬間。 誰かがそばにいてくれたり、誰かと感情を共有したり。 そんな、人とのつながりを再確認できるようなやさしさが、「その年、私たちは」にはつまっていました。現在、Netflixで配信されています。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「その年、私たちは」 公式サイト: https://www.netflix.com/title/81486372 ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 学年1位と学年ビリを追ったドキュメンタリー番組に出演し、反発を繰り返していたウンとヨンス。10年後、広告代理店のやり手のチーム長となったヨンスに、再びウンと一緒にドキュメンタリーに出て欲しいという依頼が入る。プロモーションのために依頼しようとしていたイラストレーターがウンだと知ったヨンスは、仕方なく了承するが……。 ドラマ 「梨泰院クラス」 のイソ役で大ブレイクしたキム・ダミちゃん。 そして、映画 「パラサイト 半地下の家族」 で、半地下家族の長男役を演じたチェ・ウシク。 ふたりの高校時代、大学時代、社会人になったいまと、10年間の“くっついたり、離れたり”が描かれます。 そういえば、おふたりは映画「The Witch/魔女」で共演済みでしたね。敵対関係だったけど。 最強アサシン少女の誕生を描くバイオレンスアクション 映画「The Witch 魔女」 #493   実年齢は、チェ・ウシクが31歳、キム・ダミちゃんが26歳ですが、制服姿にぜんぜん違和感がない! みずみずしいという言葉がピッタリです。 (画像はIMDbより) 目に映るものすべて、悲しいも、うれしいも、つらいも、いらだちも、ふたりとも全力で吐き出す……タイプではないため、すれ違い、行き違い、衝突を繰り返してしまいます。 ここに、ドキュメンタリーのPDとしてやって来た、幼なじみのジウンとの三角関係が重なり、せつなさ満載。愛しさ大盛り。そして、最後には心強さも感じられるように。 それぞれ家庭の事情を抱えているため、それが自分の足首をつかんでいて、自分が自分の人生を生きていないことに気付くからです。 にしても……。 タイトルが「その“年”、私たちは」なのは、「応答せよ」シリーズへのオマージュなのかなと思っていたんですよね。 ドラマ「応答せよ1997」#941   「応答せよ」

ドラマ「応答せよ1997」#941

「韓国の追っかけは、本当に“推し”と結婚できると思ってるんですよ」 ドラマ「応答せよ1997」を観たという話をしたとき、韓国人の友人が説明してくれました。 ドラマの中で、チョン・ウンジ演じるシウォンは、H.O.T.のトニー・アンの熱烈なファンでした。コンサートに行って、倒れるくらい叫び続けるんです。 彼女も本当はトニーと結婚したかったのかな……。 H.O.T.とSechs Kiesは、90年代に絶大な人気を誇るアイドルグループで、女子高生たちは文字通り熱狂したんだそう。 (画像リンクです) ノスタルジーとコメディが融合し、ミステリー風味を加えたドラマ「応答せよ1997」。当時まだ新人だったチョン・ウンジとソ・イングクの出世作です。 ☆☆☆☆☆ ドラマ「応答せよ1997」 (画像リンクです) Amazonプライム配信:https://amzn.to/3ouUHuA ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 2012年、かつて釜山廣安高校で同級生だった仲間たちは33歳になり同窓会を開いていた。この中の誰かが今夜結婚を発表し、勉強も恋もそっちのけでアイドルの追っかけをしていたシウォンは、この中の誰かと夫婦になり現在妊娠中。シウォンの幼馴染で優等生のユンジェ、ユンジェの親友で優しいジュニ、ムードメーカーのソンジェ、ソウルからやって来た転校生のハクチャン、シウォンの親友のユジュン、さらに当時彼らの高校の教師をしていたユンジェの兄ジョンホ。果たしてこの中の誰が結婚するのか、シウォンの夫は誰なのか……。 2012年現在と、1997年の高校時代が行ったり来たりしながら進みます。制服姿のチョン・ウンジとソ・イングクが、清らかでかわいい過ぎるの。 字幕だと分かりにくいですが、舞台が釜山なので、高校時代はみんな方言で話しています。 が。 2012年の大人になったメンバーは、きれいな標準語(ソウルの言葉)を話しているんです。 それが、とてもせつない。 わたしは関西から東京に来て、東京弁を話すようになったとき、なんとなく自分の一部を失ったような気がしました。 むかしは東京弁なんて、かっこつけて気取ってるようにしか聞こえなかったのに。 まぁ、いまでも頭の中では関西弁が流れていて、外に出る言葉としては“翻訳”しているようにも思いますが。 慣れ親しんだ自分の「母語」を変えてしまう何か。それが、東京出身者と地方出身

映画「ハウス・オブ・グッチ」#936

やってくれるぜ、リドリー・スコット監督! 映画「ハウス・オブ・グッチ」を観て、思わずそう言いたくなりました。 高級ブランド「GUCCI」の創業者一族を描いた物語。キャストはレディー・ガガ、アダム・ドライバー、アル・パチーノ、ジャレッド・レトという豪華さです。 まだ劇場で上映しているところも多いので、大きなスクリーンでぜひ。 ☆☆☆☆☆ 映画「ハウス・オブ・グッチ」 公式サイト: https://house-of-gucci.jp/ ☆☆☆☆☆ 序盤は、パトリツィア・レッジャーニと、グッチ創業者の孫であるマウリツィオ・グッチのロマンスがメインに進みます。 パトリツィアはお父さんの運送業を手伝っているワーキングウーマンで、決して貧しい家庭の女性ではありません。 でも、巨大な金ぴかの肖像画=<アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像>を見て、「……ピカソ?」と言ってしまうところから、教養がないことがバレてしまう。 正解は、クリムトです。 【作品解説】グスタフ・クリムト「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I   ガッチガチにボディラインを強調したファッションから、全身「GUCCI」でまとめ、ゴージャスな女性へと変身していくパトリツィア。 (画像は映画.comより) そのマウリツィオを演じる、アダム・ドライバー。やっぱりオドオドしていて、育ちの良さと、女性経験のなさがダダ漏れの青年です。 従兄のパオロ・グッチを演じるジャレッド・レトの芸達者ぶりも見逃せない。そして、実の父に結婚を反対され、一族の中で孤立したふたりを支援したのが、伯父のアルド・グッチ。アル・パチーノの「オラオラおっさん」感が最高によかった。なんてったって、「GUCCI」を「家族割引」で売ってくれるんですよ。 (画像は映画.comより) かわいがってきたふたりに裏切られたことを知り、涙を見せるアル・パチーノ。「パパー!!」と叫びたくなってしまった。 実際、原作はあるものの、“王国の継承”という点で「ゴッドファーザー」を思わせる筋書きでもあるんですよね。 人生とは操り、操られるものであり、相手に「ノー」とは言わせず、欲しいものを手に入れる。 そして、受け継がれる「血」。 残念ながら、3代目にはデザインセンスも、経営センスもなかったようで、王国が崩壊していくのです。 そのきっかけとなったのがパトリツィアの存在、とされてい

ドラマ「密会」#921

恋はするものじゃなく、落ちるものだ。 「若手実力派俳優」と呼ばれていたユ・アインが、20歳も年上の女性と恋に落ちる役ということで注目を集めたドラマ「密会」。 ユ・アインの相手役ヘウォンを務めたのが、キム・ヒエでした。 美しくて、謙虚で、でも内に野心を秘めている。 ユ・アイン演じるピアニストのソンジェの才能に惚れ、いつしか自分も恋してしまう。成功と豊かな生活を求めていたヘウォンが、見つけたものとは? ☆☆☆☆☆ ドラマ「密会」 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> バイク便のアルバイトをしているイ・ソンジェは、蝶ネクタイを届けに音楽祭の会場へ向かう。舞台に置かれたピアノを目にし、衝動的に演奏してしまう。演奏を耳にしたカン教授に呼び出されたソンジェは、カン教授の妻であるヘウォンの指導を受けることになり……。 原作は、江國香織さんの小説『東京タワー』です。 (画像リンクです) 年齢差のあるふたりの恋愛ということで、生臭くなりそうなんだけれど、キム・ヒエの上品さが抑えになっていたように思います。 キム・ヒエが演じたヘウォンの夫役は、パク・ヒョックォン。もうこの人、気の毒なくらいに「妻」に悩まされる役ばかりなんですけど、イヤミな感じを出すのが本当にうまいんです。 (画像はJTBCより) 主人公のふたりがピアニストということもあって、バッハの重いメロディ、モーツァルトの軽やかなメロディなどなどが、効果的に使われています。パク・ジョンフンやシン・ジホら、本物のピアニストも出演。OSTがめちゃくちゃ豪華です。 (画像リンクです) オトナの事情に反発する青年と、ずっと内に秘めてきた野心と恋を天秤にかける女。 おまけに財団の不正経理といった裏事情まで出てきて、ドロッとしていきそうな展開ですが、「純愛」と呼びたくなるほど、しっとりしたストーリーです。 2014年に開催された各アワードで、脚本賞や演技賞を受賞。JTBCの歴代ドラマで最高視聴率を記録と、ユ・アインにとっても、キム・ヒエにとっても、大当たりのドラマでした。 このドラマのユ・アインは、一直線な青年でしたね。 ドラマ「密会」 JTBC  全16話(2014年) 監督:アン・パンソク 脚本:チョン・ソンジュ 出演:キム・ヒエ、ユ・アイン、パク・ヒョックォン、パク・ダミ

映画「ユンヒへ」#920

「雪が溶けたら、なんになる?」 学校の問題なら答えは「水」で、そう答えるのが合理的なのでしょうけれど。ここはやっぱり「春になる!」と答えたい。 堂々と、胸を張って。 イム・デヒョン監督の長編2作目となる「ユンヒへ」には、印象的な台詞がいくつか出てきます。 わたしがとても心に残っているのは、  「雪はいつ止むのかしら」 でした。 最初と半ばと最後に登場するこの言葉。性的マイノリティであることを、隠さずに生きられるようになった社会を象徴しているように感じました。 ☆☆☆☆☆ 映画「ユンヒへ」 https://transformer.co.jp/m/dearyunhee/ ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国の地方都市で高校生の娘と暮らすシングルマザーのユンヒの元に、小樽で暮らす友人ジュンから1通の手紙が届く。20年以上も連絡を絶っていたユンヒとジュンには、互いの家族にも明かしていない秘密があった。手紙を盗み見てしまったユンヒの娘セボムは、そこに自分の知らない母の姿を見つけ、ジュンに会うことを決意。ユンヒはセボムに強引に誘われ、小樽へと旅立つことにするが……。 ユンヒを演じたキム・ヒエさんは、ドラマ「密会」や映画「優しい嘘」に出演されている方です。 (画像リンクです) 「優しい嘘」の方は、Amazonのレンタルで配信されています。 (画像リンクです) とにかくキレイで、清楚で、おっとりしていて、ステキな女性なんですよね。「ユンヒへ」では、シングルマザーとして働きながら娘のセボムと暮らしています。 そのセボムが、ジュンからの手紙を読んでしまったことから物語は動き出します。いや、そもそも出すつもりのなかった手紙を、ジュンのおばさんが“気を利かせて”投函してしまったことから、かな。 ふたりの「おせっかい」によって、ユンヒとジュンの再会がお膳立てされるのですが。 この映画の一番よかったところは、回想シーンがなかったことかもしれない、と思うのです。過去に何があったのかは、交わされる手紙の文面で想像するしかない。 それだけでも伝わってくる、痛ましい別れの記憶。 「わたしは、この手紙を書いている自分が恥ずかしくない」と語るジュンも、自分について語らないユンヒも、20年もの間、「雪が止む」のを待っていたのかも。 雪の下に埋められ、なかったことにされてしまった想いを、掘り出すことはできるのか。

『サロメ』#915

相手の破滅を望むほどの感情を、愛と呼べるのだろうか? 原田マハさんの小説『サロメ』は、オスカー・ワイルドの戯曲と、その挿絵を描いたオーブリー・ビアズリー、そしてオーブリーの姉であるメイベルの物語です。 同性愛が「犯罪」として扱われていた時代、ワイルドは逮捕され、投獄されるのですが、その背景にいたのは誰なのかが明らかになっていきます。超・仲良しだった姉弟を襲った愛憎劇に、「愛」とはなんなのかを考えさせられました。 ☆☆☆☆☆ 『サロメ』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 上は文庫本の表紙で、単行本の方は表紙が違います。こちらが、小説にも出てくる雑誌「The Studio」の創刊号(1893年4月)に掲載された「クライマックス」という作品なのだそう。 (画像はAmazonより) オスカー・ワイルドは、アイルランド出身の詩人・劇作家で、産業革命によって経済発展を遂げた時期のイギリスに、耽美的・退廃的な作品を発表して話題になりました。 わたしが読んだことがあったのは、『幸福な王子』くらいかも。「幸福な王子」と呼ばれる像が、自分の身体に埋め込まれた宝石を貧しい人たちに分け与えた結果、みすぼらしい姿になった王子の像も捨てられてしまう、というお話です。 (画像リンクです) 1893年に発表された『サロメ』は、当初はイギリスで舞台化するつもりでしたが、聖書に登場する聖人を扱った戯曲は禁止されていたそうで、フランス語で書かれました。 その英語版を作る際、挿絵を描いたのがオーブリー・ビアズリーです。 彼のイラストについては、中野京子さんの『怖い絵』でも触れられています。 (画像リンクです) 上野で行われた「怖い絵展」ではグッズも販売されていて、わたしも買いました。思わず見入ってしまうほどの妖しさを放っていたんですよね。 『サロメ』の物語自体は、史実を基にしたフィクションですが、イラストの禍々しいほどの魅力を感じていただけに、背筋がゾワワワッとするほどの恐怖を味わいました。 病弱な弟・オーブリーのために、母の愛も、自身の幸せも、すべてを投げ出してきたメイベル。女優として活動しようとしますが、芽が出ず、くすぶっているところに出会ったのが、オスカー・ワイルドでした。 それぞれに、それぞれの形でオスカーに惹かれていく姉と弟。 「超・仲良し」の意味するところは、ほんのりと示される程度ですが、実際に

映画「雨とあなたの物語」#906

韓国で人気のある日本の映画監督のひとりが、岩井俊二監督。 1999年に公開された「Love Letter」は、140万人を動員し、昨年末に5度目のリバイバル上映が行われました。 日本映画『Love Letter』、韓国で5度目のリバイバル上映…韓国に響いた“初恋映画”3作品|スポーツソウル日本版   初恋物語が大好きという印象のある、韓国の映画ファンたち。「Love Letter」の影響もビシバシ感じる初恋物語の映画が、カン・ハヌルとチョン・ウヒの「雨とあなたの物語」でした。 ☆☆☆☆☆ 映画「雨とあなたの物語」 オフィシャルサイト https://synca.jp/ametoanata ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 2003年の韓国。ソウルで浪人生活を送るヨンホは、小学校時代の友人を思い出し、手紙を出すことに。釜山で暮らすソヒは、自分の夢を見つけられないまま、母と一緒に古い本屋を営んでいた。病気の姉ソヨンに届いたヨンホからの手紙を受け取ったソヒは、「質問しない、会いたいと言わない、会いに来ない」という条件のもと、姉に代わって返事を書くようになる。やがてヨンホは「12月31日に雨が降ったら会おう」という可能性の低い提案をするが……。 ドラマ 「椿の花咲く頃」 で、21世紀版ザ・いい人を見せてくれたカン・ハヌル。「雨とあなたの物語」では、青年ヨンホの浪人生活時代と傘職人となった時代を演じています。 (画像は映画.comより) 好青年×モジモジ男感満載のヨンホから、姉宛に送られてきた手紙を受け取るのは、釜山に暮らすソヒ。こちらはチョン・ウヒが演じているのですが。 チョン・ウヒはこれまで、アブナイ役が多かったんですよね。 「サニー 永遠の仲間たち」では、友だちにぶち切れてたし。 人生の主人公は自分! なつかしの洋楽満載の青春ストーリー 映画「サニー 永遠の仲間たち」 #404   「悪の偶像」では、ソル・ギョングにぶち切れてたし。 人生を狂わすひき逃げ事件が暴き出したもの 映画「悪の偶像」 #374   「ハン・ゴンジュ 17歳の涙」で、主演女優賞を総なめにした鬼才です。 でも、「雨とあなたの物語」では、姉思いの、とてもかわいい役柄です。いい意味で、とても“フツー”の女性を自然体で演じてるんです。それがとてもよかった。 (画像は映画.comより) ヨンホが浪人生活を送る200

『ナナ&ハチ プレミアムファンブック!』#878

ヴィヴィアン・ウエストウッドに、ブラックストーンの香り。 矢沢あいさんのマンガ『NANA』に触発され、すっかり「NANA」化していた友人がいました。 ブラックストーンは煙草の中でも香りが強いので、一緒に行ったレストランで「葉巻はご遠慮ください」と止められたことも。 ひところ夢中になって読んでいた『NANA』。 衝撃的なシーンを描いた後、2009年8月号から休載が続いています。いまも待ち続けるファンを慰めてくれるのが、『ナナ&ハチ プレミアムファンブック!』です。 ☆☆☆☆☆ 『ナナ&ハチ プレミアムファンブック!』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 大阪モード学園を中退し、マンガ家となった矢沢あいさん。敬愛する「矢沢永吉」の名前からペンネームをつけたそう。 『ご近所物語』や『Paradise Kiss』など、ファッションを学ぶ高校生が主人公のマンガもありましたよね。 (画像リンクです) (画像リンクです) とはいえ、掲載されていた雑誌「りぼん」では乙女チック路線から外れていたため、掲載順は後ろの方だったのだとか。 99年に創刊された「Cookie」で発表した新作『NANA』が大ヒット。アニメ化・映画化もされました。 ストーリーは、同じ「なな」という名前を持つ、同い年の女の子が知り合うところから始まります。 東京に住む彼氏を追いかけて新幹線に乗った小松奈々と、ミュージシャンとして成功するために東京に向かう大崎ナナ。席が隣り合わせになり、大いに盛り上がります。東京で再び出会ったふたりは同居生活をすることに。 その後、ナナのバンド仲間と仲良くなり、ナナのむかしのバンド仲間が登場し、といった感じで輪が広がっていきます。 「誰かと誰かがヤッたことに泣いて、誰かと誰かはヤッてくれないことに泣く話」 とまとめてくれた友人もいましたが、まぁ、そういうところもあったかも。 いまあらためて考えてみると、「奈々」は不思議なキャラクターだったなと思います。見事なくらいに「からっぽ」なんですよね。仲のいい友だちが行くから専門学校に進学し、友だちが東京の芸大を受けるから自分も行きたいと言い出し、彼氏が東京に行ってしまったから、自分も上京する。 ナナと知り合った後も、確固たる夢をもっているナナとは違い、「奈々」は応援するだけ。 というか、次々に恋をしているだけ。 その「からっぽ」さが、「ナナ」とい