相手の破滅を望むほどの感情を、愛と呼べるのだろうか?
原田マハさんの小説『サロメ』は、オスカー・ワイルドの戯曲と、その挿絵を描いたオーブリー・ビアズリー、そしてオーブリーの姉であるメイベルの物語です。
同性愛が「犯罪」として扱われていた時代、ワイルドは逮捕され、投獄されるのですが、その背景にいたのは誰なのかが明らかになっていきます。超・仲良しだった姉弟を襲った愛憎劇に、「愛」とはなんなのかを考えさせられました。
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『サロメ』
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上は文庫本の表紙で、単行本の方は表紙が違います。こちらが、小説にも出てくる雑誌「The Studio」の創刊号(1893年4月)に掲載された「クライマックス」という作品なのだそう。
オスカー・ワイルドは、アイルランド出身の詩人・劇作家で、産業革命によって経済発展を遂げた時期のイギリスに、耽美的・退廃的な作品を発表して話題になりました。
わたしが読んだことがあったのは、『幸福な王子』くらいかも。「幸福な王子」と呼ばれる像が、自分の身体に埋め込まれた宝石を貧しい人たちに分け与えた結果、みすぼらしい姿になった王子の像も捨てられてしまう、というお話です。
1893年に発表された『サロメ』は、当初はイギリスで舞台化するつもりでしたが、聖書に登場する聖人を扱った戯曲は禁止されていたそうで、フランス語で書かれました。
その英語版を作る際、挿絵を描いたのがオーブリー・ビアズリーです。
彼のイラストについては、中野京子さんの『怖い絵』でも触れられています。
上野で行われた「怖い絵展」ではグッズも販売されていて、わたしも買いました。思わず見入ってしまうほどの妖しさを放っていたんですよね。
『サロメ』の物語自体は、史実を基にしたフィクションですが、イラストの禍々しいほどの魅力を感じていただけに、背筋がゾワワワッとするほどの恐怖を味わいました。
病弱な弟・オーブリーのために、母の愛も、自身の幸せも、すべてを投げ出してきたメイベル。女優として活動しようとしますが、芽が出ず、くすぶっているところに出会ったのが、オスカー・ワイルドでした。
それぞれに、それぞれの形でオスカーに惹かれていく姉と弟。
「超・仲良し」の意味するところは、ほんのりと示される程度ですが、実際に近親相姦の噂もあったそうです。それを考えると、この愛は、誰を幸せにしたのだろうかと思わざるを得ない。
思わず震える、アート・ミステリーです。
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