「皮むけた唇に血がにじんでも あきらめたくはないやいやい」
17歳のとき、女子高生歌人としてデビューした加藤千恵さんの歌です(『ハッピーアイスクリーム』所収)。
「BLACKPINK」の来し方を追ったドキュメンタリー映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」を観ながら、加藤さんの歌を思い出していました。JKの全能感と焦燥感は、「BLACKPINK」にピタリと合うのです。
(加藤千恵『ハッピーアイスクリーム』所収)
歌手になりたくてオーディションを受けた日から始まった、夢への道。レディー・ガガとコラボした新曲が、世界57ヶ国のiTunesチャートで1位になったり、1stシングルの動画の再生回数が、ギネス世界記録に認定されたり、彼女たちの夢はもうべつの何かになっているのではないかと思っていたのだけれど。
ああ、いまはまだ夢の途中なのだとも思う。
生い立ちから練習生時代のこと、オフタイムやトレーニングしながら、時に涙を流しながら語られる言葉のひとつひとつに、パワーの源泉が感じられました。現在、Netflixで配信されています。
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映画「BLACKPINK ライトアップ・ザ・スカイ」
https://www.netflix.com/title/81106901
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「BLACKPINK」とは、2016年8月8日にシングルアルバム『SQUARE ONE』でデビューした4人組のグループです。
現在活躍しているガールズグループのTWICEやNiziUは9人、IZ*ONEなんて12人もいることを考えると、4人という構成は少ないなという気もします。BTSだって7人もいますし。
でもこの4人の音楽は、人数構成を上回るパワーを感じさせます。女優としても活動するオム・ジョンファは、90年代後半に「セクシークイーン」として君臨し、「韓国のマドンナ」と呼ばれていました。「BLACKPINK」は、オム・ジョンファが切り開いた「かっこいい女」路線を受け継いでいるといえます。
ジス、ジェニー、ロゼ、リサのメンバー4人は、YGエンターテインメントの練習生として知り合い、激しいトレーニングと厳しい評価に耐え抜いてきた「仲間」でもあるのだそう。グループシャッフルによって組まされたとき、ピタッと合う感じがしたのだとか。
その感覚は制作側にも伝わったようで、4人でのデビューが決まります。
まっピンクの道を走り出したメンバーたち。オフィシャルサイトによると、グループ名の「BLACKPINK」には、
・美しいものが全てではない
・スペシャルな女性グループ
という意味が込められています。
メンバーのキャラクターも多様ですが、背景もバラバラなんですね。韓国生まれ・韓国育ちなのはジス(右上)だけ。ジェニー(左上)は生まれたのは韓国ですが、ニュージーランドへの留学経験がある。そのニュージーランド生まれのロゼ(右下)は、オーストラリアで育っています。タイで行われたオーディションにただひとり合格して、韓国にやって来たのがリサ(左下)。
(画像は映画.comより)
歌が好き、ダンスが得意といったスキルはもちろん、言葉の壁、文化の違いを、お互いに協力して乗り越えてきた4人。ミーティング中の会話は、一番共通して話せる言語である英語でした。
そして、グループの中で「センターをめぐる争い」はまったくないのだそう。誰かひとりが目立つよりも、グループとしての「調和」を目指しているから。
常に人目にさらされ、高いレベルのパフォーマンスを期待されるアーティストとして、「調和」がテーマにあるのはおもしろい点だと思います。
こうしたあり方には、日本のアイドルグループとの違いを感じてしまうんですよね。CDの購入で投票権をゲットし、センターを選ぶというシステムは、観客を巻き込んだ盛り上がりをつくることはできるでしょう。でも、当の本人にとって、これ以上傷つくイベントもないと思うんです。
ちょうど宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』を読んだ後だったので、よけいにそう感じてしまった。
「BLACKPINK」の4人から感じたのが、まさに個性の強さ。だけどお互いの個性を認め、違いを尊重しているから、自分のカラーで塗り込めようとすることがないのだと思われます。
でも、いつまでも4人で歌い踊ることはないのかもしれないという予感もあって。
映画の冒頭で、プロデューサーのTEDDYが問いかけます。
「K-POPってなんだろう?」
「アイドル」と「ガールズグループ」の呪縛から解き放たれ、K-POPの新境地を開いた「BLACKPINK」が、ひとつの答えなのかもしれません。K-POPとかあんまり知らないという方の方が楽しめそうな映画です。
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