NiziUの「Make you happy」は、“推し”を歌ったものだったのか!
第164回芥川賞受賞作、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』を読みながら、そんな想いを抱きました。
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『推し、燃ゆ』
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高校生のあかりは、アイドルグループ「まざま座」のメンバー真幸のファン。ある日、真幸がファンを殴ったというニュースが入り、炎上。ファン投票でも最下位になってしまう。“推し”が燃えたことで、あかりの日常生活にも影響が出始め……。
昨年11月に発表された”JCJK調査隊”による「2020年の流行語大賞」には、「ホーム画面アレンジ」や「◯◯しか勝たん」といった“推し”関連のワードがランクインしていました。
もともとオタク用語だった“推し”という言葉が、一般にも使われるようになったのは、2019年頃だったのではないかと思います。「推しメン」「箱推し」「推し変」という言葉も生まれ、「推し活グッズ」などのアイドル市場は2550億円に達するという予想も。
で、それって、「ファン」とどう違うの?
オトナの気持ちとしては、そうなんではないでしょうか。古くは橋幸夫・舟木一夫・西郷輝彦の『御三家』、郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎の『新御三家』。「たのきんトリオ」や光GENJIに熱狂していた人もいたし。わたしはあまりそういう道を通らないできてしまったので、よく分からない世界でもありました。
『推し、燃ゆ』の中で、“推し”は“背骨”にたとえられています。
“推し”が笑ってくれるなら、CDの大量購入もするし、そのためのバイトもがんばれる。日常生活を送るのも難しそうな「あかり」なのに、“推し”のためなら全身全霊で打ち込めるのです。
そんな「あかり」の姿は、NiziUの「Make you happy」そのものでは。
“推し”の笑顔のために、自分の全部を差し出せる。利他的な行動を感じさせる歌詞は、“推し”のために生きるファンの姿を映しているようですよね。
「あかり」は子どものころ、“推し”の真幸が出演したピーターパンの舞台を見て、「大人になりたくない」というセリフに反応します。でも、“推し”を続けるためには、働いてお金を稼がなければならない。仕事をするためには、大人にならざるを得ない。
大いなる矛盾を乗り越えるなんて、難しいですよ。“推し”が燃えたことで、「あかり」の生活も壊れていきます。
「推し活」という、見返りのない一方通行の熱狂の、幸福感と絶望に打ちのめされました。大人のための、“推し”入門小説です。
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