「ノマド」という言葉を知ったのは、佐々木俊尚さんの『仕事するのにオフィスはいらない ノマドワーキングのすすめ』だったように思います。
「ノマド」とは日本語に訳すと「遊牧民」のこと。オフィスに固定されずに、さまざまな場所を移動する働き方は、2009年の発売当時、話題になりましたよね。
いまでは一気に進んだテレワーク化によって、もはやオフィスにも、都心にも縛られない生き方も選べるようになりました。
それでも、わたしは「ノマド」な暮らしに対して、憧れと恐れのふたつを持っていました。帰る場所を持たないが故の解放感と心許なさ。「ノマドランド」はまさにそんな空気を描いた映画でした。
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映画「ノマドランド」
https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html
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フランシス・マクドーマンド演じるファーンは、企業が倒産した影響で家を失い、車上生活を送ることになります。ひとつの企業の消失が、街の消滅につながるのは、炭鉱町を思い出させる展開です。
「持たない暮らし」といえばかっこいいけれど、現実には車一台に積めるものしか持てないのだし、モノは物々交換で手に入れるわけです。季節労働者として働く高齢者に、公的な支援はないことも感じられます。
ファーンは、なりたくて「ノマド」になったわけではない。それでも、同じような暮らしをする人びとと交流し、大自然の中で今日を生きる彼女は、徐々に誇りを取り戻していく。その映像が見入ってしまうくらい美しいです。
ちょうどCG満載の韓国ドラマにハマっていた時だったので、リアルを映した映像の奥行きというか、広がりというかの違いに驚きました。吹き渡る風の匂いまで感じられそうなんです。
出演者も、主演のフランシス・マクドーマンドと、彼女に惹かれるデビッド・ストラザーン以外は、素人のリアルノマドだそう。リアルノマドたちが語る「今日を生きる」姿勢は、フィクションとノンフィクションが融合した世界でもあります。
派手な展開はないし、物語に大きなうねりはないけれど。何もかもなくしたファーンの手に、唯一残っていたもの。その存在に、ハッとさせられます。
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