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『小説の言葉尻をとらえてみた』#76


校正の仕事をしていると、間違いなのか、造語なのか、判断に迷うことがあります。それも、しょっちゅう。

若手のライターは語彙が少ないこともあって、無邪気に自由に書き綴ることが多い。それはそれでいいんだけれど、日本語としての美しさが壊れていく現場にいるような思いを抱くことも。

『三省堂国語辞典』編集委員である飯間浩明さんは、新しい言葉の使い方に出合う瞬間をとても楽しんでおられるようで、心から尊敬しました。

『小説の言葉尻をとらえてみた』は、そんな小説と新しい言葉の出合いを綴った本です。

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『小説の言葉尻をとらえてみた』
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エンタメ、ホラー、時代小説の“現場”に、飯間さん自身が潜入。登場人物の何気ないひと言を拾い上げ、解説がなされます。そのおもしろさといったら!

「ご苦労さまでした」

ビジネスマナーとしては、この言葉は「目上」の人に使えませんと教えることが多いんですよね。でも、それって本当にそうなのか? ねぎらいの言葉として使える表現はないの? そんな疑問に答えてくれます。

わたしは「真逆」という言葉に抵抗がある方なのですが、やはり歴史の浅い言葉でした。広まったのは21世紀になってから、とされています。飯間さん自身、目にしたものの、読み方がずっと分からなかったのだとか。

一方で、舞台となっている時代に存在しない言葉が登場することを、おもしろがってもおられます。

言葉は生き物です。時代や環境に合わせて変化していくものだと思います。飯間さんは辞書の編集委員として、新しい語、新しい使い方に興味津々で、(それって単なる誤字では……)と思うような言葉も、ドーーーンと受け止める。

ああ、なんて懐の深い方なんだろう。

小説の楽しみ方のひとつとして、言葉の森を行く手引きとして、何度も味わえる探検物語なのです。


飯間さんの本では、『ことばから誤解が生まれる 「伝わらない日本語」見本帳』もおすすめです。


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