校閲者のお仕事本シリーズ。本日は飯間浩明さんの『ことばから誤解が生まれる - 「伝わらない日本語」見本帳』です。
著者の飯間さんは国語辞典編纂者です。最初に「言葉によって誤解が生まれる事態は避けられない」とキッパリ宣言。でも誤解されないようにすることはできるはず。だから言葉を上手に扱いましょうと、音声・文法・語義など7テーマに分けて言葉を分析・解説しています。
日本語は同音異義語が多いので、ちょっと使い方を間違うと一気に関係を壊してしまいそう。でも、これをポジティブに考えると、「誤解が生まれる元を知っておけば、気持ちのいいコミュニケーションがとれる」ということ。
なかでも、何気ない使い分けでニュアンスが大きく変わってしまう助詞の項目がおすすめです。
a「グラスに酒が半分はある」
b「グラスに酒が半分もある」
c「グラスに酒が半分しかない」
d「グラスに酒が半分だけある」
b「グラスに酒が半分もある」
c「グラスに酒が半分しかない」
d「グラスに酒が半分だけある」
事実はひとつなのに、心象を反映してニュアンスが変わっていますよね。変えているのは、助詞です。
よく冗談で言われる「今日はきれいね」も同じです。「は」は他のものと区別するニュアンスを持つので、「(いつもと違って)今日はきれいね」と聞こえてしまう。いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないんですよーと弁解する前に、「(いつもきれいだけど)今日もきれいね」と、意識して助詞を選択できるようになりたいですね。
言葉には多義性があるので、この言い方は間違い、この使い方はNGと切り捨てないのが飯間さんのスタンスです。
飯間さんのこういう姿勢がわたしは好きなんです。
“あることばを、自分がいくら「正しい」意味で使おうとしても、相手も同様にその意味で使っているとは限りません。(中略)「これが正しい意味だ」と、みんなが納得できる規範は、結局、どこにもありません。”
「口は災いの元(門)」「もの言へば唇寒し秋の風」などなど、日本は言葉にしないことをよしとしてきたようですが、いまの時代、そんなわけにはいきません。おまけに「沈黙」していたって誤解は生じます。
「誤解」とは、「情報処理の誤り」です。この本にあるような知識があれば、思い込みで人を断罪するような解釈はなくなるのかなと感じます。一歩立ち止まって相手が使っている意味を考えることができるから。
そんなやさしさと余裕があってもいいんじゃない?
飯間さんの本では、小説の言葉を集めて、その背景を解説した『小説の言葉尻をとらえてみた』もおすすめです。
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