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自分に負荷をかけよう『言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力』#75


昨日、ある韓国映画を観ていたら、ゴージャスなワインセラーの裏側に隠し部屋があって…というシーンがありました。しかも、扉を開けるカギは、高級ワインを棚から抜くことなんです。

「ワインボトルは揺らしてはいけない」と思っていたので、斬新な設定だなと笑ってしまいました。

わたしはお酒を飲まないのでワインの味はよく分からないのですが、ソムリエの方がめちゃくちゃ細かくワインの味を表現されているのは聞いたことがあって、素直に感動しました。記憶力と表現力にです。

日本のワインブームを作り出したソムリエといえば、田崎真也さん。テレビの食レポなどでカンタンに使われる言葉に「待った!」をかけた本が『言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力』です。

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『言葉にして伝える技術――ソムリエの表現力』

(画像リンクです)

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1983年、第3回全国ソムリエ最高技術賞コンクールで優勝。

1995年、第8回世界最優秀ソムリエコンクールで、日本人として初優勝。

輝かしい経歴を支えたのは「表現する技術」です。たとえば、揚げたてのコロッケを表現する例として、「こんがりしたきつね色がおいしそうですね~」というセリフは、実はなんの“味”も伝えていません。

“きつね色がおいしいわけではないのに、きつね色がおいしさのバロメーターと勘違いしているのです。極端にいうと、高温で揚げれば、中に火が入っていようと、いまいと、表面はすぐきつね色に揚がりますから。”


「視覚」しか使っていないから、見た目を伝えることしかできないわけです。こんな食レポがあふれておる!という怒りの声が聞こえてきそうな本文です。笑

ソムリエとしてそれでは仕事にならないので、田崎さんが実践しているのが、五感すべてを使う「湖トレーニング」です。

まず、「きれいな湖」が目の前にあると考えてください。

・視覚:湖畔を見渡すと、どんな景色が見えるか。湖面に映るものは何か。

・聴覚:鳥のさえずりや風の音など、耳に入ってくる音を聴いてみる。

・臭覚:花や植物、土や空気など、それぞれがどんな香りを放っているか。

・触感:肌に触れる水や風の感触はどんなものか。周囲の木々や湖の水に触れてみる。

・味覚:湖にすむ魚や、近くの山で採れるキノコはどんな味がするか。

こうして五感を総動員してものごとを表現する練習をすることで、記憶にも残りますし、誰かに説明するときもイメージをもって伝えることができます。

名前は「湖トレーニング」ですが、これは日常でもできるはず。そう思って友人とやっていたのが、三食すべてを記録する「食事メモ」です。

いや、もう、マジ大変。

「肉汁がじゅわっと広がってきますね」

「思ったよりもクセがなくて、食べやすいですね」

「秘伝のタレを使っているから、おいしいですね」

こうしたよく聞く表現のなんと便利なことか!

こうした地道なトレーニングをコツコツできる人だからこそ、第一人者となれるのでしょう。

そして、自分に負荷をかける大切さも、おおいに感じたのでした。

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