スキップしてメイン コンテンツに移動

『エア新書―発想力と企画力が身につく“爆笑脳トレ”』#772


孫正義著『お金持ちに見られないための10の鉄則 ―なぜしょぼい感じなのか?』


こんなタイトルの本があったら、思わず買ってしまう……かもしれない。いや、わざわざ“しょぼく”見せるほど、お金持ちでもないしなーと思ってしまうかな。

でも、この本は本当に刊行されるものではありません。編集者の石黒謙吾さんが、“お遊び”がてら考えた「エア新書」のタイトルなんです。

☆☆☆☆☆

『エア新書―発想力と企画力が身につく“爆笑脳トレ”』
https://amzn.to/3sEqU3C

☆☆☆☆☆


「新書」というサイズの本の出版は、1938年に岩波書店から始まったのだそうです。古典の岩波文庫に対して、書き下ろしの教養系をテーマとしていました。

その後、1961年に中公新書が、1964年に講談社現代新書が創刊され、「新書御三家」と呼ばれるように。

1998年に「文春新書」、1999年に「集英社新書」、そして2003年に「新潮新書」などが創刊され、内容もアカデミックなものからライトなものへと変化してきたそう。

“ライト”といえば、まだ聞こえはいいけど、正直に言って(うーん……)となるものもある気がしますがね。


わたしは新書が好きで、よく手に取る方だと思います。新聞の調査報道のような読み応えのあるものもありますし、興味のある分野の入り口にもいい。

で、思うこと。

新書のタイトルって、とても特徴的……。

「一瞬、なに言ってるか分からない」とか、「意外なものを組み合わせている」とか。

石黒さんは、タイトルの方向性について、エポックメイキングとなった本が、公認会計士である山田真哉さんの『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』だと指摘されています。

☆☆☆☆☆

山田真哉『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』
https://amzn.to/3gpuBoR

☆☆☆☆☆

この本がヒットした後、「○○はなぜ○○なのか?」が類型化し、「○○の品格」と「○○の壁」といったパターンも爆増。

『エア新書』は、こうした「今風の新書っぽいタイトル」をパターン化し、架空の新書タイトルを考えてみよう、という本なんです。

人物 × タイトル × サブタイトル × 帯

考えるのはこの4つ。タイトルに“爆笑脳トレ”とあるように、本に収録されているフォーマットやチャートを参考にして、実際に作ってみるのも楽しい。

石黒さんが考えた100のタイトルをながめて、ニヤつくのもよし。冒頭でご紹介した孫社長の他にも、たとえば、こんなのがあります。

羽生善治著『先を読む人はなぜ寝癖がつくのか?』
岡田武史著『地味でも勝てる』

この本を基に、会社の研修でも「エア新書」のタイトル作りをやってみたことがあります。優秀賞には賞品をだすよーと言って、競ってもらったことも。

第1回目の優勝作品は、これ。

○○社長著『実は、付き合ってませんでした!』

この頃、ある人気俳優に熱愛が発覚して大騒ぎに。お相手は某IT企業の社長ということで、このタイトルは男性陣の希望も反映されているよね……と大受けでした。


これまでに200冊以上の本を編集してこられた、石黒さんならではのアイディア本。2009年と、ちょっと時間の経った本な分、懐かしい!と思える名前も載っています。

ニヤッとさせるアイディアの基本って、観察なのだなと思います。


コメント

このブログの人気の投稿

映画「新しき世界」#293

「アメリカに“ハリウッド”があるように、韓国には“忠武路”という町があります」 第92回アカデミー賞で 「パラサイト 半地下の家族」 が脚本賞を受賞した時、ポン・ジュノ監督と共同で脚本にあたったハン・ジュヌォンは、そう挨拶していました。「この栄光を“忠武路”(チュンムノ)の仲間たちと分かち合いたい」。泣けるなー! ハン・ジュヌォンのスピーチ(1:50くらいから) アメリカにハリウッドがあるように、韓国には忠武路というところがあります。わたしはこの栄光を忠武路の仲間たちと分かち合いたいと思います。ありがとう! #アカデミー賞 https://t.co/LLK7rUPTDI — mame3@韓国映画ファン (@yymame33) February 10, 2020 1955年に「大韓劇場」という大規模映画館ができたことをきっかけに、映画会社が多く集まり、“忠武路”(チュンムノ)は映画の町と呼ばれるようになりました。 一夜にしてスターに躍り出る人や、その浮き沈みも見つめてきた町です。 リュ・スンワン監督×ファン・ジョンミンの映画「生き残るための3つの取引」での脚本が評価されたパク・フンジョン。韓国最大の映画の祭典で、最も権威のある映画賞である「青龍映画賞」で、彼自身は脚本賞を受賞。映画も作品賞を受賞し、一躍“忠武路”の注目を浴びることに。 そうして、自らメガホンを取った作品が「新しき世界」です。 ☆☆☆☆☆ 映画「新しき世界」 Amazonプライム配信 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ <あらすじ> 韓国最大の犯罪組織のトップが事故死し、跡目争いに突入。組織のナンバー2であるチョン・チョンは、部下のジャソンに全幅の信頼を寄せていますが、彼は組織に潜入した警察官でした。この機会にスパイ生活を止めたいと願い出ますが、上司のカン課長の返事はNO。組織壊滅を狙った「新世界」作戦を命じられ……。 あらすじを読んでお分かりのように、思いっきり「ゴッドファーザー」と「インファナル・アフェア」のミックスジュース特盛り「仁義なき戦い」スパイス風味入りです。 無節操といえばそうですけれど、名作のオマージュはヘタをすると二番煎じの域を出なくなっちゃうと思うんです。よいところが薄まっちゃうというか。人気作の続編が、「あれれ?」となるのもそうですよね。ですが。 名作と名作を合わせたら、一大名作が...

『JAGAE 織田信長伝奇行』#725

歴史に「if」はないというけれど。 現代にまで伝わっている逸話と逸話の間を、想像の力で埋めるのは、歴史小説の醍醐味かもしれません。 『陰陽師』 の夢枕獏さんの新刊『JAGAE 織田信長伝奇行』は、主人公が織田信長です。 旧臣が残した『信長公記』や、宣教師の書いた『日本史』などから、人間・信長の姿を形にした小説。もちろん、闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”も登場。夢枕版信長という人物の求心力に、虜になりました。 ☆☆☆☆☆ 『JAGAE 織田信長伝奇行』 https://amzn.to/2SNz4ZI ☆☆☆☆☆ 信長といえば、気性が荒く、残忍で、情け容赦ないイメージがありました。眞邊明人さんの『もしも徳川家康が総理大臣になったら』には、経済産業大臣として織田信長が登場します。首相である家康を牽制しつつ、イノベーターらしい発想で万博を企画したりなんかしていました。 『もしも徳川家康が総理大臣になったら』#687   『JAGAE』は、信長が14歳の少年時代から始まります。不思議な術をつかう男・飛び加藤との出会いのシーンが、また鮮烈なんです。人質としてやって来た徳川家康をイジる様子、子分となった秀吉との出会いなどなど。 信長のもとに常に漂う、血の臭い……。 これに引きつけられるのは、蚊だけではないのかも。 おもしろいのは、一度も合戦シーンが出てこないことです。信長のとった戦術・戦略は、実は極めてオーソドックスなものだったそう。そこで戦よりも、合理主義者としての人物像を描いているのではないか、と思います。 小説の基になっている『信長公記』は、旧臣の太田牛一が書いた信長の一代記です。相撲大会を好んで開催していたことなどが残っているそうで、史料としての信頼も高いと評価されているもの。 そんな逸話の間を想像で埋めていくのです。なんといっても、夢枕獏さんの小説だから。闇が闇としてあった時代の“妖しいもの”が楽しみなんです。 タイトルになっている「JAGAE」とは、「蛇替え」と書き、池の水をかき出して蛇を捕えることを指しています。 なんだかテレビ番組になりそうな話なんですけど、実際に領民が「大蛇を見た~」と騒いでいたことを耳にした信長が、当の池に出張っていって捜索したという記録が残っているのです。 民衆を安心させるための行動ともいえますが、それよりも「未知なるもの」への...

『コロナ時代の選挙漫遊記』#839

学生時代、選挙カーに乗っていました。 もちろん、なにかの「候補者」として立候補したわけではありません。「ウグイス嬢」のアルバイトをしていたんです。候補者による街頭演説は、午前8時から午後8時までと決まっているため、選挙事務所から離れた地域で演説をスタートする日は、朝の6時くらいに出発することもあり、なかなかのハードワークでした。 選挙の現場なんて、見るのも初めて。派遣される党によって、お弁当の“豪華さ”が違うんだなーとか、候補者の年齢によって休憩時間が違うんだなーとか、分かりやすい部分で差を感じていました。 それでも、情勢のニュースが出た翌日なんかは事務所の中がピリピリしていることもあり、真剣勝負の怖さを感じたものでした。 「猿は木から落ちても猿だが、代議士は選挙に落ちれば“ただの人”だ」とは、大野伴睦の言葉だそうですが、誰だって“ただの人”にはなりたくないですもんね……。 そんな代議士を選ぶ第49回衆議院議員総選挙の投票日が、今週末10月31日に迫っています。   与党で過半数を獲得できるのかが注目されていますが、わたしが毎回気になっているのは投票率です。今回は、どれくらい“上がる”のかを、いつも期待して見ているのですが、なかなか爆上がりはしませんね……。 ちなみに、2017年10月に行われた第48回衆議院議員総選挙の投票率は、53.68%でした。 『コロナ時代の選挙漫遊記』の著者であり、フリーライターの畠山理仁さんは、選挙に行かないことに対して、こう語っています。 “選挙に行かないことは、決して格好いいことではない。” 全国15の選挙を取材したルポルタージュ『コロナ時代の選挙漫遊記』を読むと、なるほど、こんなエキサイティングな「大会」に積極的に参加しないのはもったいないことがよく分かります。 ☆☆☆☆☆ 『コロナ時代の選挙漫遊記』 (画像リンクです) ☆☆☆☆☆ 昨年行われた東京都知事選で、「スーパークレイジー君」という党があったのをご存じでしょうか? またオモシロ系が出てきたのかしら……と、スルーしてしまったのですけれど、本を読んで、とても真剣に勝負していたことを知りました。300万円もの供託金を払ってまで挑戦するんですもん。そりゃそうですよね。 この方の演説を、生で見てみたかった。もったいないことをしてしまった。 こんな風に後悔しないで済むように、畠...