「吸血鬼ってなんなんだろう」
作家・恩田陸さんが子どものころから持っていたという疑問が、美しくも哀しく、妖しくも爽やかに結実しているのが『愚かな薔薇』でした。
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『愚かな薔薇』
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よく分からないまま、キャンプに参加するために「磐座(いわくら)」へとやって来た、14歳の少女・高田奈智を中心に話は進んでいきます。
キャンプは「虚ろ舟乗り」になれるかどうかを見極めるためのもので、身体の変質を促す謎の磁場がある「磐座」で開催されるのです。
「虚ろ舟乗り」は、みんなが憧れる職業なのに、蔑みの対象でもあるという、矛盾を抱えていました。その理由は。
変質が進むと、他人の血を求めるようになるから。
「虚ろ舟乗り」になることは、名誉なのか、獣に落ちることなのか。亡くなった両親のこと、キャンプの正体など、何も知らずに放り込まれた奈智は、当然、激しく抵抗します。でも、変質の進む身体は同じくらい激しく血を求めてしまう。
「血」がモチーフになっていることから、初潮や性交のイメージも重なってきます。大人への扉を開くイニシエーションを拒否する奈智の葛藤と、暴走する身体。SFミステリーという恩田ワールド全開な展開です。
近未来の地球が舞台なんですが、説明は少なめなので、いきなりドボンと物語の世界に引きずり込まれてしまいました。磐座は「虚ろ舟の聖地」ということで、「虚ろ舟乗り」は真っ暗な「外海」を長い時間旅する人である、くらい。
変質が進んで「虚ろ舟乗り」になると、感情がなくなり、意識もフラットになって他の人とつながってしまう……という世界観は、いま流行のメタバースな世界か!?と思わされました。
恩田陸さんの他のシリーズである『光の帝国 常野物語』の、アナザーワールドといえるかも。
完成までに14年もかかったというこの小説。3月までの期間限定で萩尾望都さんが描いたカバーが並んでいます。もう「トワ」のイメージはこれしかない。
これまで、永遠に枯れない=愚かな花として、悲劇性が描かれてきた吸血鬼。でも、『愚かな薔薇』の中の、妖しく、哀しい吸血シーンには、思わずウルウルしました。
思い切って開いてみると、可能性が見えるものなのかもね。大人への扉って。
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