なんとなく、芸術家は政治に無関心なのだと思っていました。
原田マハさんの『暗幕のゲルニカ』を読むまでは。
崇高な精神を表すアートと、世知辛い世の中を映す政治にギャップがあったせいかもしれません。
でも。
芸術家こそ、自分の想いを形にして、政治にもの申すことができるんですよね。
『暗幕のゲルニカ』は、ピカソの名画「ゲルニカ」を巡り、過去と現在が交差するミステリーで、一気読み必至。そして、あらためて芸術の影響力を感じました。
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『暗幕のゲルニカ』
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物語の主人公は、MoMAのキュレーター八神瑶子。ということは、原田さん自身の経歴とも重なります。エスカレーターの描写や、コーヒーショップのエピソードなど、「ニューヨーカー」のリアリティを感じました。
もうひとりの主人公は、1937年のパリで暮らす、ピカソの恋人で写真家のドラ・マール。ピカソの愛情をひとり占めしていることへの自信と、傲慢さが見え隠れするような人物です。
ふたりの住む世界が交互に描かれ、物語は進行していきます。
内戦に苦しむ母国・スペインを支援したいと悩むピカソと、ゲルニカへの空爆。
そして、ニューヨークで起きた同時多発テロと、イラクへの空爆。
いくつもの戦争と恋の結末が、「ゲルニカ」の絵へとつながっていく。
「ゲルニカは私たちのものだ」
何度も登場するこの言葉は、ラストシーンの強烈さに結びついていて、忘れられない。
アートに詳しくなくても楽しめるのが、原田さんの小説のよいところかも。
実は「ゲルニカ」のレプリカが、東京にあります。丸の内のオアゾ1階にある広場の壁に展示されているんです。セラミックとはいえ、原寸大。迫力あります。
本の表紙にも描かれてはいますが、この大きさにピカソの絶望を感じてしまう。
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