子どものころから慣れ親しんできた昔話。いまではCMキャラクターにもなっている昔話の世界。
それが、ミステリーになってしまったら?
青柳碧人さんの『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、「浦島太郎」や「鶴の恩返し」といった昔話を、ミステリーの定型にあてはめて再解釈した小説です。
いやー、こわいおもしろいだわ。この世界。
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『むかしむかしあるところに、死体がありました。』
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新井久幸さんの『書きたい人のためのミステリ入門』には、「三種の神器」について紹介されています。
・伏線
・論理的解決
この「三種の神器」を駆使して、フーダニット(犯人は誰か)、ハウダニット(どうして・どうやって)、ホワイダニット(なぜそんなことをしたのか)の小説が紡がれていくわけです。
これを踏襲している『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は、ほのぼのした昔話の世界を、ゾワッと血の臭いがする舞台に変えてしまう。
たとえば、「鶴の恩返し」。本では「つるの倒叙がえし」というタイトルになっています。
この「倒叙」とは、物語の出だしで犯人や犯行の様子が明かされ、時間的な流れをさかのぼって記述すること。
「つるの倒叙がえし」の場合、冒頭で“庄屋さん殺人事件”が発生します。その裏側が明かされていくのですが、途中までは「鶴の恩返し」とほぼ同様。モラハラでDVな弥兵衛と、つうの生活が描かれます。
機を織っているときは、決してのぞかないでくださいと言う、つう。
これに対して機織り部屋の奥にある襖を、決して開けてはいけないと言う、弥兵衛。
この先がまさかの展開で、ミステリーらしい復讐劇になっています。
ちなみに、石原健次さんによる『10歳からの 考える力が育つ20の物語』でも、童話探偵ブルースが「鶴の恩返し」の読み解きをしています。
ブルースによると、「鶴の恩返し」はハッピーエンドなのだそう!
“みんな知ってる”世界だからこそ、こうしていろいろ遊べるのかも。それを受け入れる昔話って、奥が深いですね。
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