「誰かの靴を履いてみる」
英語の定型表現で、「他人の立場に立ってみる」「相手の視点から眺めてみる」といった意味をもっているのだとか。
わたしは、ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』を読んで、こうした表現があることを知りました。ダイレクトで分かりやすい表現ですよね。
話は変わるようで続くのですが、この間、紹介してきた「児童書」や「絵本」のジャンルには、長く読み継がれている本が多くあります。
それだけ普遍的な内容だから、ということもありそうですが、一方でこの世代の本選びに大きな影響を持っているのがオトナであることを考えると、それは「誰にとって」良書なのか、という問題に気が付きます。
マジメで、正直で、努力して、よい結果を得る。
『アリとキリギリス』や『ウサギとカメ』、『泣いた赤鬼』に『さるかに合戦』は、本当にそんなお話なんでしょうか?
放送作家の石原健次さんによる『10歳からの 考える力が育つ20の物語』は、わたしが“主人公”だと思っていたキャラクターとは、違う立場の「靴を履いてみる」本。矢部太郎さんのイラストもかわいい、考えるための一冊なんです。
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『10歳からの 考える力が育つ20の物語 童話探偵ブルースの「ちょっとちがう」読み解き方』
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ブルースという童話探偵と、その秘書のシナモン(リス)が、「ミートバン」という乗り物に乗って、童話のすこし後の世界へと飛んでいく……というお話。
『3匹の子ブタ』なら、わらや木くずが散らばった現場。
『泣いた赤鬼』なら、青鬼の家。
「ミートバン」は、物語の名前を入力するだけで、時間も場所も飛び越えてシュンッ!と連れて行ってくれるんです。
めっちゃいいやん……。
もちろん、そんなSFな話ではありません。
たとえば『裸の王様』の回では、ふたり(?)は1300年代のスペインに向かいます。大きくて立派なお城と、つつましい庶民の暮らしのギャップを体験し、童話の読み解きに。
町に現われた詐欺師の言葉に、みんなが「見えない」と言えなくなった理由は、「空気を読んだから」と、ブルースは語ります。
『ウサギとカメ』から学ぶ、戦わないで生きる道。
『雪女』から見る、しあわせな時の心の持ち方。
などなど、新しい解釈が展開されます。とはいえ、これが正解というわけではなく、新解釈について、さらに“考えた”シナモンの日記に、またハッとさせられます。
「誰かの靴を履いてみる」ことで、世界は変わる。見える世界が広がる。副題に「10歳からの」とあるように、子どもでも読めるシンプルなエッセイです。
けれど。
自分の正義が絶対ではないことを知るのは、オトナにこそ必要な体験かも。
『大家さんと僕』の矢部太郎さんのやわらかい絵も、ステキです。エンピツの線ってぬくもりがありますね。
(画像はAmazonより)
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