甘い×しょっぱいは、無限ループにはまる禁断の組み合わせかもしれません。
ポテチ×チョコ×ポテチとか。
あんこ×バター×あんことか。
そんな禁断の組み合わせを映画で実現したのが映画「悪の偶像」です。
ハン・ソッキュ×ソル・ギョングという、トップスターふたりによる競演に、期待しかない映画を観に行って、期待通りのサスペンスな展開にゾクゾク。そこにオリャーっと切り込んできたチョン・ウヒの迫力。
俳優たちの際だった演技をまとめるイ・スジン監督の演出力に、また新しい才能が来たなー!と感じました。
☆☆☆☆☆
映画「悪の偶像」
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息子のヨハンが飲酒運転で人をひき殺してしまったことを知った政治家のミョンヒは、事件をもみ消そうとする。被害者の父親であるジュンシクは、被害者の新妻であるリョナが行方不明であることに不信を持つ。リョナの行方を追ううちに彼女が妊娠していることを知り、なんとかして捜し出そうとするのだが……。
2000年に公開されてヒットした「シュリ」は、日本での韓流ブームを開くきっかけになった映画といわれています。
その映画に主演し、日本でも人気スターとなったハン・ソッキュ。ヤクザな男から情報員まで、幅広い役柄を演じつつ、一貫して「善人」であろうとしていたように感じます。
そしてソル・ギョング。イ・チャンドン監督の社会派ドラマ「ペパーミント・キャンディー」で注目され、そのイ・チャンドン監督が第59回ベネチア国際映画祭で監督賞などを受賞した「オアシス」、「シルミド」などで演技派俳優としての地位を確立しました。
「殺人者の記憶法」もそうでしたが、「社会の落後者」がとても似合う俳優です。そんな言い方あるかよと思いますけど、実際そんな役ばかり演じています。
「善人」ハン・ソッキュを追い詰める、「社会の落後者」ソル・ギョング。ふたりは加害者の父と被害者の父として対立します。
ソル・ギョング演じるジュンシクの息子は精神障害を持っていて、父親がひとりで面倒を見ていました。息子の望むものはなんでも叶えてあげようとする父親なんですよね。
彼が風俗店で働くリョナを気に入ったため、結婚させたり。思春期の頃の、ちょっと衝撃的な親子関係について語る演説が映画の冒頭に流れ、のっけから持っていかれてしまいました。
意思疎通の不在と断絶が繰り返し描かれる中、登場人物たちの執着があぶり出されます。
ハン・ソッキュ演じるミョンフェにとっては、政治家としての「名誉」。
ソル・ギョング演じるジュンシクにとっては、「血筋」。
そしてチョン・ウヒ演じる息子の妻リョナにとっては、「生存」。
それぞれの執着が、この映画の原題である「偶像」という言葉につながっていきます。ラストの演説シーンで使われる言葉は、あえて「正体不明の言語」にしているそう。
韓国にとって一番の英雄であるイ・スンシン将軍の銅像が壊されたことには怒りの声が上がるのに、個人の尊厳はいとも簡単に踏みにじられる。移民への目線、権力者の横暴など、現代社会の格差をアイロニカルに映し出す映画です。
信じるもののために、自らの魂を差し出せるか?
そう問われているような気がしました。
盲目的信頼の対象でしかない「偶像」のために。
闇が闇を呼び、悪がさらなる悪へと引きずり込む。映画としてはちょっと分かりにくいストーリーなこともあって、一度観ただけでは全体がつかめないんですよね。
甘い×しょっぱいの無限ループにはまるように、何度も観たくなってしまう映画です。
映画「悪の偶像」 144分(2019年)
監督:イ・スジン
脚本:イ・スジン
出演:ハン・ソッキュ、ソル・ギョング、チョン・ウヒ、ユ・スンモク、チョ・ビョンギュ、キム・ジェファ
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