「韓国の男性に、サッカーと兵役時代の話は聞かない方がいいよ」
友人にそう忠告されたことがあります。どちらも、聞くとめんどくさくなるからだそう。
兵役は、韓国の成人男性に課されている“義務”ですが、20代の溌剌とした時間を閉鎖的な組織で過ごすことになるのですから、そりゃー言いたいこともあるでしょう。
スポーツ選手や芸能人にとっては、どのタイミングで入隊するかだって重要です。
ドラマ「青春の記録」で、パク・ボゴム演じる売れない俳優は、兵役について「やり残した宿題みたいなものだ」と語っていました。
そんな青春を捧げなくてはいけない兵役生活をリアルに描いているのが、「D.P.―脱走兵追跡官―」です。現在、Netflixで配信されています。
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ドラマ「D.P.―脱走兵追跡官―」
https://www.netflix.com/title/81280917
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兵役義務により入隊したアン・ジュンホ。壮絶なイジメを行う先輩もいれば、かばってくれる先輩もいる中で、「D.P.」と呼ばれる軍部離脱者逮捕部隊に配属されることに。最初の任務に派遣されるが、先輩はクラブで酒を飲むばかり。追っていた脱走者が自殺してしまい……。
原作は、2015年にWeb出版されたキム・ボトンの漫画『D.P.犬の日 』です。
(全編韓国語です)
「D.P.」とは、“義務”である兵役から逃げ出した人を追う係のこと。韓国のお笑い芸人であるユン・ヒョンビンは、実際に兵役時代D.P.をしていたそうで、ドラマの考証がうまいと語っています。動画は韓国語ですが、日本語の字幕が設定できます。
常に誠実で“キレイ”な役を演じることの多かったチョン・へインが、この脱走兵を追跡する係を演じています。
「どうして彼らは脱走兵になったのか」とドラマは問うのですが、痛みを持って迫ってくるのが“傍観者”であったことの罪と罰。特に、チョ・ソクポン一等兵のエピソードは、涙なしに観られない。
演じるチョ・ヒョンチョルは、「自分にできるだろうか?」と不安を感じたそう。ドラマを演出したハン・ジュニ監督は、映画「コインロッカーの女」でも難しい役柄にチョ・ヒョンチョルを起用していて、信頼も厚かったのだろうなと思われます。
ちなみに、チョン・へイン自身は俳優デビュー前に兵役を終えています。高い競争率を勝ち抜いて、師団長の運転手をしていたそう。だから軍隊が、ロマンや使命感とはかけ離れた場所だということは、分かっていたでしょうね……。
ドラマは作者であるキム・ボトンさんの、実際の軍隊生活を基にしているそう。これは逃げたくもなるよ……と思ってしまうけど。
連れ戻されたところで、さらなるイジメが待っているでしょうし、「義務」を果たしていないということは、今後の生活にも影響が出てきます。
韓国では年齢による上下関係が重視されますが、軍隊では「何期生」なのかの方が、はるかに重要。年下の先輩にも絶対服従だし、職業軍人たちは自分たちのメンツを守ること優先。
そんな組織を、ひと言で表すようなセリフがありました。
「いまだに、韓国戦争の時の水筒を使っている」
組織が1ミリも変わっていない中、壮絶なイジメは見て見ぬふりをされ、“傍観者”であることを強いられる世界。
これこそ、社会の縮図でしかない。
ドラマは好評ですが、ついには、軍の報道官が記者会見でコメントを求められるまでになっています。
いや、でもさ。
軍隊を改革するより、軍隊がいらない世界を作る方がいいんではないかと思ってしまうんですよね……。暴力的に誰かを支配し、異論を許さない。その連鎖は、現実の社会や家庭に及んでいるのだから。
ドラマ「D.P.―脱走兵追跡官―」全6話(2021年)
監督:ハン・ジュニ
脚本:ハン・ジュニ、キム・ボトン
原作:キム・ボトンWebコミック『D.P:犬の日』
出演:チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギョン、ソン・ソック、チョ・ヒョンチョル、シン・スンホ
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