川越の活版印刷所「三日月堂」を舞台にした物語の第3弾。
物語の最初のころ、運送店のハルさんがハブとなっていた印刷依頼は、徐々に、制作した印刷物がきっかけになっていきます。今回は、いまの境遇がコンプレックスという男性から始まって、弓子の母の友人、そして盛岡の印刷所との出会いのお話です。
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『活版印刷三日月堂 庭のアルバム』
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収録されているのは4編。
・チケットと昆布巻き
・カナコの歌
・庭のアルバム
・川の合流する場所で
「チケットと昆布巻き」は、小さな出版社で旅行雑誌を作っている竹野が主人公。同級生の結婚式に出席して、大企業の会社員である友人と自分を比較して落ち込む……という、あるあるな悩みを抱えています。
2巻の最終話「我らの西部劇 」で制作された本をきっかけに、「三日月堂」と弓子を知ることに。活版印刷の味わいや、それに引かれる人たちの気持ちは分かると言いつつ、なんだかもやもやしちゃうわけです。
現実にも、活版印刷はちょっとしたブームになっていますが、ビジネスとして成り立つのかは別の問題ですよね。オフセット印刷よりも手間も値も張るので、ショップカードや結婚式の招待状など、「特別な逸品」に使われているという状況を踏まえて、「もっと儲けたい」という思いはないのかと悩むのです。
竹野の実家はかまぼこ屋さんで、兄が継いでいます。結婚のお祝いに渡したのも、実家で作っている昆布巻き。こんな古くさいものを作り続けるなんて……という、兄への不満、友人への嫉妬、コンプレックスでぐちゃぐちゃ。
そんなこともあって、弓子の“活版印刷への”熱意に違和感をもってしまうのです。そこに、先輩がひと言。
自分の生き方はこれでいいのか。
この選択は間違っていないのか。
ふとした瞬間に自分を飲み込もうとする黒い塊は、わたしの中にもあります。もがいて、あがいて、迷って、悩んで、いまの自分の役目を受け入れるしかないとも思う。でも。
わたしは、こちらでよかったのかな、と悩むより、「自分の選択を正解にする」生き方をしたいと思うのです。 それを選んだ時の自分を否定したくはないから。
この巻では、学校生活になじめないイラストレーター・楓との出会い、そして盛岡の印刷所とのご縁が始まります。
ずっと校正機という事務机サイズの印刷機で仕事をしていた弓子に、「平台」という大型印刷機を動かすチャンスが到来。それは、祖父との思い出の機械であり、亡くなった母の過去を知る出会いでもありました。
次の巻につながるこの出会いは、弓子自身を変える転機となります。
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