小型犬の中でも人気のジャックラッセルテリアは、思考能力が抜群にいいそうです。「テリア」は気性が強いものの、勇気と忠誠心に富んだ犬種。ジム・キャリー主演のコメディ「マスク」や、第84回アカデミー賞で作品賞・監督賞を受賞した「アーティスト」など、主人公の相棒として映画にもよく登場しています。
愛らしい外見と頭の良さがフルに発揮された映画がキム・ソンホ監督の「犬どろぼう完全計画」です。
事業に失敗した父が失踪し、母と弟と共に車中生活を送る小学生のジソ。母の生活能力のなさにうんざりしたり、友だちの裕福マウンティングにウソをついたり。なんとか家族で暮らせる家を手に入れたいと願っていた時、街で犬の捜索願のチラシを見かけます。これにヒントを得て、クラスメイトと弟と一緒に「犬どろぼう完全計画」を練り上げるのです。レストランオーナーのマダムがかわいがっている愛犬を盗み出し、見つけたフリをして謝礼500万ウォンをいただいちゃおう!というお話。
原作は、アメリカでペアレンツチョイス賞などを受賞したバーバラ・オコナーのベストセラー小説。韓国で欧米の小説が実写映画化されるのは、これが初めてだそうです。
この映画で盗みのターゲットにされる愛犬「ウォーリー」が、2歳のジャックラッセルテリアなのですが、まー頭がいい! CGを使わずにすべての撮影をこなしたのだとか。とにかくこの子がかわいくて、観ていてとても楽しい映画です。
プランを記したノートや車での生活の様子など、背景がとてもていねいに作り込まれていて、ちょっとマネしたくなりました。
映画は、イソップ童話の『ウサギとカエル』の話から始まります。
人間や犬に常に狙われて、自分たちはいつもビクビクして暮らしている。毎日こんなに恐ろしい思いをするくらいなら、死んじゃったほうがいいんじゃないか。
そんな話し合いを経て、池に向かって走って行くウサギたち。その足音を聞いて、池のそばにいたカエルたちは一斉に逃げ出しました。
「おや? 俺たちよりももっと弱虫がいるじゃん」と気づいて、池に飛び込むのをやめちゃった。
不幸な人は、自分よりも不幸な人を見ると安心するものだという教えだそうです。
映画の主人公ジソは、父の不在、母の無力、貧乏に胸を痛めています。でも、裕福な家のクラスメイトは、習い事ばかりで自由時間がない。盗みを手伝ってくれるホームレスのおじさんには、当然家がなく、家族にも会えない状態。
そんなみじめな境遇を嘆いていても状況は変わりません。下を見て安心することにも意味はない。ジソは、お金持ちのマダムにも心の傷があることに気づき、すこーし成長します。
とにかく一所懸命なジソを演じるのは、イ・レ。「ソウォン/願い」では、北京国際映画祭で助演女優賞を受賞しています。撮影当時7歳ですよ! 将来が楽しみです。
「ソウォン/願い」
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韓国映画には、父の不在によって家族の絆が試される場面が多いように思います。孤独なマダムを演じるキム・ヘジャの前作「母なる証明」も、息子のためにひとりで戦っていました。
「母なる証明」
https://note.com/33_33/n/na46547c7724e
キム・ソンホ監督は、最新作「お料理帖 息子に遺す記憶のレシピ」でも、家族のあり方を撮っています。まだ上映館もありますし、主演のイ・ジュシルを迎えての舞台挨拶もあるようですよ。こちらも、ぜひ。
「お料理帖 息子に遺す記憶のレシピ」は、わたしが街角のクリエイティブでコラムを書いた映画でもあります。ジワジワとしみてくる母の愛がとってもあたたかい映画です。
「犬どろぼう完全計画」に話を戻すと、家があっても、家族がいても、そこに愛情がなければ「家族」とは呼べないのかもしれません。さまざまな生き方を選んだ登場人物は、みな愉快で痛快。
でも。
ウサギがカメを見て安心するように、家族のために「善良な少女」が働く「悪事」は、許されるのでしょうか? その答えもまた、粋でした!
映画情報「犬どろぼう完全計画」109分(韓国:2014年)
監督:キム・ソンホ
原作:バーバラ・オコーナー
出演:キム・ヘジャ、イ・レ、チェ・ミンス、カン・ヘジョン、イ・チョニ、イ・ホンギ
脚本:キム・ソンホ、シンヨンシク
撮影:キム・ヒョンジュ
音楽:カン・ミングク、パク・インヨン
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