この小説はヤバい。久しぶりに興奮するくらいヤバい小説に出会ってしまった。
「2021年のベスト○○」が話題になる時期ですが、わたしの中でキム・ドンシクさんの『世界でいちばん弱い妖怪』は、間違いなく「2021年の神7」に入れたい。
小説を読んだことがないという、“無学”の小説家によるショートショート集です。
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『世界でいちばん弱い妖怪』
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あとがきによると、1985年生まれのキム・ドンシクさんは、中学をドロップアウトした後、鋳物工場に勤務。偶然のぞいたネット掲示版の投稿を見て、自分にもできるんでは、と小説を投稿するようになったとのこと。
これがおもしろいと話題になり、出版されることになるのですが。
もともとのキム・ドンシクさんの文章は、綴りなどの間違いがたくさんあったのだそうです。
これを有志が集まって修正し、そのフィードバックを受けてキム・ドンシクさん自身も学習。どんどん上達したというんだから、「集合知」のパワーを感じさせますね。
『世界でいちばん弱い妖怪』に収録されているのは、18編のショートショートです。
表題作のように、「ぼく、ほんとに弱いの。殺したりしないでね」という妖怪や、「人間でとった出汁が人気だからお鍋に入ってくれる人、募集!」という妖怪なんかが登場します。
クスッと笑える展開もありつつ、韓国の社会が抱える暗部もみえるオチが待っています。
家長の重責。
外見至上主義。
自分の先入観を映し出すような小説に、ちょっとしんみりもしました。
星新一さんのショートショートが好きな方は、この魅力が分かるかも。
韓国では全10巻の作品集が刊行されているそうですが、日本ではこれが初めての邦訳。もっと読みたい!というか、わたしが訳したい!と思ったけど。
吉川凪さんの自然な翻訳文がステキだったので、おとなしく待つことにします……。
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