朝から快晴の東京です。「お日柄もよく」という言葉にぴったりの空だったので、原田マハさんの小説『本日は、お日柄もよく』について書こうと思います。
☆☆☆☆☆
『本日は、お日柄もよく』
https://amzn.to/2UczBoW
☆☆☆☆☆
老舗お菓子会社に勤める二ノ宮こと葉は、幼なじみの結婚式で感動的なスピーチをする女性に出会います。彼女は伝説のスピーチライター久遠久美。空気を一変させる言葉に魅せられ、弟子入りすることを決意します。久美の教えを受けながら、初めて抜擢された仕事は、「政権交代」を叫ぶ野党候補者のスピーチライター。こと葉は、有権者の心を動かすスピーチを書くことができるのか!?
スピーチライターという仕事は、ジョン・F・ケネディ大統領の就任演説を書いたセオドア・C・ソレンセンの活躍で有名になったそう。近年、注目された人としては、オバマの大統領就任演説を執筆したジョン・ファブローがいます。
(スパイダーマンやアベンジャーズシリーズで俳優としても監督としても活躍しているファブローおじさんとは別人)
古くからヨーロッパでは、政治家には、スピーチが必須の教養と考えられていました。さまざまな立場、人種、そして不満を抱えている人たちを前に、自分の考えを話す必要があるからです。
でも苦手な王だっています。
スピーチに苦しんだ王を描いた映画が「英国王のスピーチ」です。
☆☆☆☆☆
映画「英国王のスピーチ」
https://amzn.to/3lT0cTb
☆☆☆☆☆
お兄ちゃんが王位より恋を選んでしまったために、英国王になってしまったジョージ6世の物語。彼は吃音に悩んでいて、スピーチが大の苦手。
この映画のいいところは、吃音を「治す」のではなく、「付き合い方」を身につけるところなんですよね。
映画は「話し方」に焦点をあてていますが、『本日は、お日柄もよく』の方は、これに加えて「言葉の選び方」を描いています。
けっこうお気楽なOL生活から一転、スピーチライターの修業をすることになったこと葉のライバルとなるのが、大手広告代理店のコピーライター・ワダカマです。
「言葉は操るものだ」が信条の男。
彼が「師匠」と仰ぐ人物は、「リスニングボランティア」をしている北原正子という人物です。
書く人でもなく、話す人でもなく、「聞く」人なんです。
黙って人の話を聞く、という行為は、その人をまるごと否定せずに受け止めるということ。たぶん話すよりもエネルギーが必要です。でも、「聞く」ことができなければ、コミュニケーションは成立しません。
この小説は、言葉をつむぐという業界のお仕事小説ですが、ドタバタ・アタフタしている主人公に求められるのは「聞く」ことと、「感じる」ことです。
「感動的なスピーチ」を構成する言葉は、聞いて、感じて、すべてを受け止めたお腹の底から生まれてくるのかもしれません。そんな中身の詰まった言葉こそ、人の心を打つのですよね。
誰かが書いた作文を読み上げる政治家。強いだけのフレーズを連呼するコメンテーター。ウケ狙いの品がなくて安っぽいジョーク。わたしの周りには、いかに薄っぺらな言葉があふれているか。あらめてゾッとしました。
最後に大好きなフレーズを。
こと葉と一緒に失恋し、言葉に打たれ、再出発する、さわやかな物語。読むときは、ティッシュを片手にどうぞ。
コメント
コメントを投稿