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クソみたいな世界に鳴り響く愛の歌 『滅びの前のシャングリラ』 #576


予期せぬ時にやって来て、強制的にすべての作業をストップさせてしまう、アレ。

急いでいる時や、忙しい時にかぎってやって来る、アレ。

「Windows Update」は、なぜかコンピュータの自己都合で始まり、延々と終わらないことがあります。こちらは、待つことしかできません。保存していないファイルがあったときなんかは、「あぁぁぁぁぁ!」となる。

強制的にすべてを終了させられてしまう状況には、悪意さえ感じてしまうのですが。神さまが創ったはずのこの世界が、強制的に終了するとしたら。どんな最後を迎えたいと思うだろう。

一か月後に小惑星が地球に衝突し、人類は滅亡する。

そんなニュースが流れ、人生が、生活が、恋が、栄光が、すべてが強制終了させられてしまうことに。

凪良ゆうさんの小説『滅びの前のシャングリラ』は、ディストピアに放り込まれた少年と、その家族の物語です。

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『滅びの前のシャングリラ』

(画像リンクです)

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<あらすじ>
学校でいじめを受ける友樹、その母・静香、クラスメイトの藤森さん、人を殺したヤクザの信士。地球滅亡のニュースを聞いても「Loco」のライブに行きたいと言う藤森さんと一緒に、友樹は東京に向かうことに。荒廃していく世界の中で、四人は生きる意味を、いまわのきわまでに見つけられるのか。


凪良ゆうさんは、前作『流浪の月』で2020年の本屋大賞を受賞されています。

受賞後の第一作目が、この『滅びの前のシャングリラ』。佐賀県にある書店のほんまさんからは、「ほんま賞」が贈られています。


いや、もう、ホントにしびれる小説です。「マッドマックス」や『北斗の拳』は、世界最終戦争の後の、荒廃した、暴力が支配する世界が舞台でした。

でも、『滅びの前のシャングリラ』は、“前”なんです。というか、現在進行形で社会が壊れていくのです。法も、警察も、倫理も、道徳も消え去った社会。

“江那友樹、十七歳、クラスメイトを殺した。 死んでもまったく悲しくないやつだったが、自分の手で殺すことになるとは思わなかった。額や鼻の頭に汗が噴き出てくる。なんて未来だ。すごい世の中だ。もうなんでもありだ。”

そんな乾いた告白から始まるのですが、いじめられっ子の友樹は毎日のように「こんなクソみたいな世界なんて滅びちゃえばいいのに」と願っていました。それが、本当に滅びることになってしまうのです。おまけに密かに恋していた藤森さんを守ることになって。

ずっと死にたいと思っていたのに、強制的に死ぬことになってからは、もう少し生きていたいと願ってしまう。

友樹はもちろん、藤森さんも、ヒットマンとして使い捨てにされた信士も、恋人から逃げ出してシングルマザーとなった母の静香も、そして大人気アーティストの「Loco」も、“上手”には生きられなかった人たちです。

神さまが創った世界で叶わなかった夢。

それを、神さまが壊そうとしているいま、実現させることができるのか。

この小説を、花粉症のお薬をもらいにいった病院の待合室で読み始めました。こんな状況の中でも診察してくれるところがあることに感謝しつつ、視界に入る人すべてがマスク姿なことに違和感もなくなっていて。

小説世界に没頭して、ふと顔を上げた時、ディストピアな世界がオーバーラップしてきてめまいを起こしました。

最後の最後に、生きた意味を見つけたいともがく人びとの中に、わたしもいるんですよね。作家の想像力にしびれ、ますます小説が好きになった一冊でした。


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