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ドラマ「ヴィンチェンツォ」#667



ファッショナブルな復讐ドラマで、かっこおもしろい「ヴィンチェンツォ」。もしかしたら、今後の韓国ドラマを変えてしまうかもしれないと感じます。

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Netflixで配信中
https://www.netflix.com/title/81365087

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「悪には悪党のやり方で」立ち向かうソン・ジュンギ演じるヴィンチェンツォ・カサノ。冷徹なイタリアマフィアのコンシリエーレ(顧問弁護士)という設定で、イタリア製スーツを着てカプチーノを飲む姿が決まっています。


製作費200億ウォン(約20億円)をかけたダークヒーロー誕生!という前宣伝のとおり、ファッション誌のグラビアようなドヤ場面もいっぱい。


ソン・ジュンギが出演した「トキメキ☆成均館スキャンダル」のオマージュや、「愛の不時着」ピョ・チス役で大ブレイクしたヤン・ギョンウォンのギャグなど、韓国ドラマ好きならクスッとなるセリフもいっぱい。


ただ、このドラマは、今後の韓国ドラマの行方を左右するのかもしれないと気になるところもありました。


1. 第1話とそれ以降のギャップ

2. 分かりやすい説明セリフ

3. オーバーアクションな演技

4. 残虐シーンの多さ

5. 雑に扱われるマイノリティキャラ


5つのポイントすべてに関わっているのが、「このドラマはコメディなのか?」という点です。


シドニー・シェルダンの小説『私は別人』に、コメディとコントの違いについて、説明するシーンがあります。 


<おもしろいドアを開けるのがコントで、おもしろくドアを開けるのがコメディ>


本が手元にないのでうろ覚えですが、こんな内容でした。つまり、「演技によって笑わせる」のがコメディなのです。


この説明がとても分かりやすかったので、それ以来、コメディを観るときの基準になりました。「演技によって笑わせる」ということは、ストーリーの中での必然性が必要です。単に「コミカルに動いている」だけでは、コメディではない。だってドラマはコントじゃないからです。


「ヴィンチェンツォ」は、悪徳財閥、権力者の横暴、出生の秘密、親子の確執などなど、韓国ドラマお決まりのテーマを盛り込み、時にはシリアスに、時には激しいアクションで魅せてくれるドラマではあるのですけれど。そこに挟み込まれるコミカルな演技が、どうにも浮いてしまっているのです。ストーリーに関係なく、キャラクターだけが“おふざけ”をしているように見えるんですよね。そのせいで没入感が途切れてしまうのが、とても残念でした。


ダークヒーローのヴィンチェンツォが「いい人」になってしまうのかと思いきや、「悪には悪党のやり方で」に立ち戻っていく展開。映画ならばレイティングがありますが、ドラマにはそうした表示がありません。コミカルに突き進んだ中で繰り広げられる、残虐な復讐にはさすがに疑問を感じます。


メイキング動画では、悪徳弁護士のチェ・ミョンヒを演じたキム・ヨジンが、若いメンバーを励ましてくれたことが紹介されていました。


「ヨジン先輩が“好きにやっていい。私が全部カバーするから”と言ってくれたおかげで、のびのびと演技することができました」


超ベテランの演技派キム・ヨジンのぶっ飛んだワル感が、他のワルたちを支えています。いま注目のチョン・ヨビン、2PMのメンバーであるオク・テギョンの切れっぷりもみどころです。


第1話でテンポよく始まめて引きつけるスタイルが「Netflix基準」になってしまうなら。それはドラマのあり方を変えてしまうのではないかと思います。魂を売ることにならなければいいのですけれど。

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