韓国旅行に行った友人が、「むかしの日本みたいだねー」と語っていたことがありました。台湾旅行に行った友人もやはり、「むかしの日本みたいだねー」と語っておりました。これは時間差の経済発展によるノスタルジーなのでしょうかね。
そういうわたしも、東山彰良さんの『小さな場所』を読んで、懐かしさを感じていました。台北に住む9歳の少年・小武が、ずるくて、のんびりしていて、がさつで、やさぐれた大人たちの中で成長していく物語です。
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『小さな場所』
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東山彰良さんは、台湾で生まれた後、日本と台北を行ったり来たりしながら育ったそうです。小説の舞台となっている西門町は、台北の西にある繁華街。紋身街と呼ばれる刺青通りの住人たちを描いた6作の連作短編です。
「紋身街」の名のとおり、刺青ショップが多く、彫り師たちがランチを食べにやってくるのが、小武の両親がやっている食堂。タピオカドリンク屋のおっちゃん、少数民族のラッパー、あやしげな探偵など、「ああいうふうになったらおしまい」のお手本のような人たちに囲まれている小武。彼らと共に、町で起こる事件をのぞいていきます。「解決する」わけじゃないところが、かわいいんです。
中でも笑ってしまったが、「家出する神さま」です。
「土地公廟」という、お百姓さんたちが勝手につくった廟があって、そこには土地公という道教の神さまが祀られているそう。神さまの機嫌を損ねないように、奥さんを娶らせたり、お妾さんをあてがったりするのですが。
実体は木彫りの人形! 衣装が派手!
小説を通して、庶民の風俗が垣間見られていいですよ。
そして、独自の哲学を持つ彫り師のニン姐さんは、東山さんの従妹がモデルなのだそうです。これまでにも、彼女が持っている数々の武勇伝を小説に使ったそうで、ニン姐さんを仰ぎ見る少年に、恐れつつも敬う感じがあるのは、そういうわけだったのかと納得しました。
東山彰良のTurn! Turn! Turn! #12 台北・紋身街 愛すべき従妹の小さな刺青店
https://book.asahi.com/article/13257036
9歳の目に映る世界なんて、まだとても狭い「小さな場所」でしかありません。でも、その中には、人間の生き様すべてが詰まっています。
少年は、ニン姐さんから「空の深さを知る」という言葉を教わります。いつか、ここじゃない場所から故郷を眺めたとき。自分のいた場所の広さと深さを実感するのでしょう。
実際の西門町は、新宿歌舞伎町のような、渋谷のような町だそう。湿気混じりの熱い風と、香辛料の匂いが漂ってきそうな物語は、子どものころに見た大人のズルさを思い出させます。
その大人に、いま自分がなっているのだけど。
子どもの目は、大人が思うよりもたくさんのことに気付いていることを、忘れないようにしないと。
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