「イタリアンの料理人にとって、パスタはカップ麺を作るようなもんらしいですよ!」
知り合いの韓国人が、「息子がイタリアンレストランを開くんですよー」と言ったので、「いつでもおいしいパスタが食べられそうですね」と答えたら、そう諭されました。知らなかったよ、すんません。
まさか「カップ麺」てことはないんじゃないかと思いますが、わたしがイメージできる「イタリア料理」って、実はいろんな文化をミックスして出来上がっているらしいのです。
ファブリツィオ・グラッセッリさんの『ねじ曲げられた「イタリア料理」』は、そんなイメージとしての「イタリア料理」の誤解を解く本です。
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『ねじ曲げられた「イタリア料理」』
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著者のファブリツィオ・グラッセッリさんは、イタリア出身の建築家です。日本の大手ゼネコンで仕事をするために来日し、「イタリア風」と表記される「イタリアもどき」な料理に胸を痛めていたのだそう。
建築家としての仕事はもちろん、大学では西洋美術史の講座を持ち、ピアニスト志望だったためクラシック音楽への造詣も深く、ワインにも料理にも詳しい。
なんだかすごい経歴なのですが、読み始めてすぐのころは、「オーガニック絶対主義者!?」かと思った……。
トマト缶に保存料が入っているなんて!
ピッツァに焦げなんてとんでもない!
と、日本式イタリア料理に怒ること怒ること……。
とはいえ、料理とは、その土地の環境や、食材の保存技術によって進化を遂げてきたものです。「イタリア料理」に欠かせない食材と思われている「トマト」の歴史が、日本の歴史に沿った形で分かりやすく紹介されています。
「オリーブオイル」の歴史も刺激的でした。
以前、「バージンじゃないオリーブオイルを探してるんだけど、近所のスーパーになくてさー」という話をしたら、友人が「バージンじゃないオリーブオイルってなに?」と言っていました。「エクストラ・バージン・オイル」って、もう商品名として認知されているんですね。
「エクストラ・バージン・オイル」とは、いわゆる「一番搾り」のオイルです。風味があるけれど、加熱すると失われやすい成分が入っているので、生で使うのがおすすめだそう。我が家では加熱調理にオリーブオイルを使うことがあるので、「バージンじゃないオリーブオイル」が欲しかったのでした。
ところが、イタリアでは。
バージン・オイルの風味が強すぎて、嫌われていたのだそう。そして、混ぜ物をする業者が多かったため、バージンかどうかより、信頼できる生産者を選んで買うことの方が重要だったのです。
日本の食事情は豊かかもしれないけれど、わたしは無知でした。
「伝統○○」という地域の特産品が、まったくトラディショナルな製法から外れていたり、季節外れに芸術的な美しさをもつ果物が並んでいたりする姿は、持続可能性の視点から見てどうなのか。
「おいしい」「きれい」「正しい」というスローフードのモットーは、空虚なものになってはいないか。
ファブリツィオ・グラッセッリさんの叫びと嘆きは、本を飛び越えて迫ってくるようでした。たしかに、健康的な食べ物が「特権階級」しか手の届かないものなのだとしたら、そんな社会に幸せはないのではないかと思えます。
かくも愛すべきイタリア料理が「ねじ曲げられた」のは、なぜなのか。鋭い指摘にハッとさせられること多数。そして、「ねじ曲げられた」のはイタリア料理だけではないことにも気が付きました。
息抜きコラムには、「ファブ流」自家製ケチャップの作り方や、アーリオ・オリオ・ペペロンチーノの作り方も紹介されています。
イタリア庶民の食べ物を知りたい方は、ヤマザキマリさんの『パスタぎらい』もおすすめです。
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